エデンの園 (集英社文庫)

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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087601947

作品紹介・あらすじ

南フランスの小さな町、作家のデイヴィッドと富裕な女キャスリンのボーン夫妻は新婚旅行で滞在中、マリータという美女と出会う。3人の間に愛と不安がはぐくまれ、奇妙な三角関係が生まれた。異性愛と同性愛、男と女の性の逆転が秘められ、エロティシズムに満ちた倒錯的な日々が始まる……。文豪ヘミングウェイが新たな地平を切り拓こうと試みた最後の作品で、死後発見され、衝撃を呼んだ話題の書、ついに文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 作者歿後の再編集、とのこと。男らしい代表のヘミングウェイの裏側を知れるということで評価が分かれるそうだが、比較的平均的に思った。

  • 相手を求めるたびに
    孤独の意味を知る
    砂浜に書く文字のように
    むなしく消える

    編集の手が入ったとはいえ、まるで原色をベタぬりしたような、そういう印象。置いては消して、置きなおして、スペクトラムのように連続体であるのに、決して混じりあわない、不断の原色の数々。簡潔な文体なのに、あれやこれやがたくさん詰め込まれているようで、煩雑。
    男女の性が溶け、現実と物語(虚構)が溶けているにもかかわらず、何もなくならない。溶かそうとするたびに、溶けようのない、男女の、現実と物語の意味を突き付けられてしまう。求めるたびに、拒絶される。そうとは知っているのに、求めずにはいられない。それを愛だなんて一言で片づけられてしまうのは、本当にもどかしい。
    キャスリンが離れて再びマリータとはじまり、原稿もよみがえるが、キャスリンが燃やさなくても、自分かあるいは他人の手で、また燃やされてしまい、それでも書き続ける。途方もない繰り返し。そうしてデイヴィットは父という途方もない存在へと近づいていく。すばらしく書けていたからこそ、キャスリンは燃やしてしまったのではないか。そして、自分との旅行記が燃やせないのは、燃やせない程度しか与えることができなかったからではないか。彼女は彼女の他に何にもなれなかった。出版に踏み切るのは、彼女自身の敗北を宣言する苦しい決断のように感じられる。
    立ち向かうのが難しいと知りながらも、書かずにはおれない欲望が、ただひたすらに物語を動かす。楽園の園で得た幸福は失わざるを得なくても、ひとは楽園の幸福を再び見出せてしまう。果てない徒労に終わりは与えられるというのか。
    可能性は可能性である限り、すべてが可能であると同時に、現実ではない。未完というひとつの完結を、そういうものとして受け取るより他ない。ヘミングウェイは、カミュのように、無限と有限の間で実存として反抗できず、引き裂かれたまま戻れなかった。自堕落(ロスト)というのはそういうところか。
    そんな中にあって、海は引き裂かれた孤独を埋める慰めのようにあってまぶしい。

  • ヘミングウェイが亡くなった後、奥さんが持っていた書きかけの原稿を相談を受けた編集者がつなぎ合わせた所素晴らしい作品になったため発表したといういわく付きの作品。フランス スペインなどを自転車で新婚旅行中の夫婦が織りなす人間ドラマ。あまりにも個性的で魅力的な2人は火花を散らすように愛し合い、諍う。そこへ現れた妻とは正反対の女。ヨーロッパの美しい自然描写の中で3人の愛の形がもつれ合い千切れていく。当然書きかけなのでラストは尻切れとんぼ状態。一体この先はどう話が展開する予定だったのか……。読んだ当時は気になって眠れなかった。

  • 難しいわー全く良さが分からない。

  • 印象深い本の一つ。
    ヘミングウェイの遺作にあたるが、推敲は編集者が行ったため、作品の出来については賛否両論ある。

    新婚夫婦の甘くも、どこか噛み合わない自由な日々。
    一人の美女との出会いから3人の倒錯した三角関係が始まる―。


    はじめから終わりまで、妻キャサリンの狂気が目につく。
    まるでこれは私ではないか?

    キャサリンの狂気の元凶は「喪失への恐怖」だ。
    若さや幸せな日々や新鮮なセックス。
    毎日毎時間、いや一瞬毎に失われていく「自分自身」への執着、そして喪失。
    そして彼女は夫に対しては「完全なる同化」を求めた。
    自分と寝た女を犯す夫に、彼女はどこか満足感を覚えたに違いない。
    それが彼女の中の何かを「喪失」させるということに、彼女は気づいていたであろうに。

    それは夫への愛だろうか?
    ただの狂気の沙汰だろうか?

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著者プロフィール

Ernest Hemingway
1899年、シカゴ近郊オークパークで生まれる。高校で執筆活動に勤しみ、学内新聞に多くの記事を書き、学内文芸誌には3本の短編小説が掲載された。卒業後に職を得た新聞社を退職し、傷病兵運搬車の運転手として赴いたイタリア戦線で被弾し、肉体だけでなく精神にも深い傷を負って、生の向こうに常に死を意識するようになる。新聞記者として文章鍛錬を受けたため、文体は基本的には単文で短く簡潔なのを特徴とする。希土戦争、スペインでの闘牛見物、アフリカでのサファリ体験、スペイン内戦、第二次世界大戦、彼が好んで出かけたところには絶えず激烈な死があった。長編小説、『日はまた昇る』、『武器よさらば』、『誰がために鐘は鳴る』といった傑作も、背後に不穏な死の気配が漂っている。彼の才能は、長編より短編小説でこそ発揮されたと評価する向きがある。とくにアフリカとスペイン内戦を舞台にした1930年代に発表した中・短編小説は、死を扱う短編作家として円熟の域にまで達しており、読み応えがある。1945年度のノーベル文学賞の受賞対象になった『老人と海』では死は遠ざけられ、人間の究極的な生き方そのものに焦点が当てられ、ヘミングウェイの作品群のなかでは異色の作品といえる。1961年7月2日、ケチャムの自宅で猟銃による非業の最期を遂げた。

「2023年 『挿し絵入り版 老人と海』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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