分断されるアメリカ (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087607307

作品紹介・あらすじ

失われたアメリカ人のアイデンティティを取り戻すには? 世界的国際政治学者が2004年に予見したアメリカのこれから。その主張にはトランプ次期大統領と重なるものがあった!? アメリカを知る必読書。

感想・レビュー・書評

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  • 自分は一体なにものか、という問い。
    若者ならずとも、問うのではないでしょうか。
    そうしたアイデンティティ、これが俺だ私だ、という「何か」。人はそれを名前に求めたり、国籍に求めたり、肌の色だったり、所属する会社だったり、職業だったり、色々なわけです。

    ・・・
    類似の事が国にも当てはまりましょう。アメリカ人ってなに?アメリカ人らしいってどういうことか? アメリカという国の、そのエッセンスは一体何か、と問う意欲作です。

    ・・・
    誤解を恐れずにまとめます。
    アメリカとは、

    「a)国教会を除くプロテスタント系キリスト教をベースに持った、b)自由や平等等を理念にもった、c)揺れながらもアイデンティティを流転させてゆく国」

    と先生おっしゃってる気がします。

    ・・・
    a)の部分は本作前半程度までの大部をしめます。移民の国・人種のるつぼ等の言い方もあります。南北戦争など、カルチャーの違いもある。またユダヤ系、スラブ系キリスト教徒などサブ・アイデンティティに留まるグループもいる。結局、「米国」という一つのブレンド・まじりあいがなされない、所謂「サラダボウル」の議論。ただし、それでもやはりウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義』にあるような、宗教と勤勉=成功の公式が通底しているというものです。その理由付けは・・・すみません、忘れました。プロテスタントの人口割合だったかな。

    b)は、911を経たアメリカが、共産主義のように理念で国家をまとめられるか、という議論がありました。対立軸に対する『正義の味方』という役割は、一種のアイデンティティであった。こうしたものはグローバリゼーション以降、そして911以降の対立軸を失ったいま、アイデンティティになりえないのではないかという疑問。ハンチントン先生は理念=アイデンティティという考えに否定的だったように思います。

    そしてc)なのですが、ここは米国で激増するヒスパニック系のこと(本作では8-10章)を言っております。移民であるものの、英語が喋れない、かつアイデンティティとしてヒスパニックであることを誇る。そうした人たちが自分の言葉を喋る権利を叫び、住民から政治家が選ばれ、結果としてスペイン語教育が可能になる(ちなみに選挙討論もスペイン語でやる地域もあるそう)。また一部の移民は引き続きメキシコの選挙権を保持し、米国籍でありながら米国・メキシコ両国で投票ができる。これはアイデンティティの問題のみならず、国家や経済のボーダーが徐々に不明瞭になりつつある様を表していると思います。
    私の目には教授からのソリューションは発見できず、こうした事態を憂う様子を察知しました。

    とは言え巻末はそこまで暗くもなく、宗教への回帰のトレンド等が語られて終わってしまいました。

    ・・・
    ということで、米国政治学者による米国アイデンティティ論、アイデンティティの歴史についての本でありました。

    教授の作品、今回はお初でした。米国史をたどりつつ、結局アメリカとは何か、ということには断言・確言はせずに終わったと思います。アメリカ(人・国)というアイデンティティを色々な切り口で説明してくれる知的好奇心あふれる作品でした。

    個人的には思いますよ。アメリカはいつも不安定というわけでもなく、むしろ変動のダイナミズムこそがこの国の強さか、と。時にその変動に人生そのものを翻弄されてしまうこともあろうかとは思いますが、そうした個々の犠牲を糧として国家全体でバラバラに成長する国、それがアメリカか、とかそんなことを考えながら読了しました。

    本作、米国政治、米国史、アイデンティティ、移民、ヒスパニック文化、中南米、こうした辺りに興味がある方にはお勧めできると思います。
    これはまた時間をおいて再読したい作品です。

  • 日経新聞2021724掲載

  •  「文明の衝突」で冷戦後の世界を見通したハンティントン博士が、アメリカが抱える苦悩を分析。この本もまた、後のトランプ・ヒラリー大統領選の争点を予言していたといえる。
     その原因はアメリカ国民にとっては周知の事実だと思われるが、国外の人とっては大変興味深い。特に移民を議論している日本にとっては特に示唆に富んでいる。
     一例として、日本で手に入る情報では、「多元主義」を推し進める先進国と映るアメリカが、その成り立ちよりアングロサクソン系のキリスト教に根ざした「自由の国」であり、さらに今でも多くの国民がそれを信奉していると博士は丁寧に解説している。この価値観が非アングロサクソン系(特にヒスパニック系)の流入によって脅かされていることがトランプ大統領誕生の一因なのであろう。
     
     余談だが、博士の支持政党が民主党であったことに驚きを覚えた。タカ派的論調からてっきり共和党支持だと思っていた。

  • この本を読むと、アメリカにとってメキシコがいかに脅威であるかがよくわかる

  • トランプ時代を的確に予測している。また、アメリカにおけるヒスパニック化は「アメリカ人」にとっては我々が思っているよりも深刻な課題として認識されていて、壁を作ろうというのが日本人から思うほど突飛な発想ではないこともわかる。

  • 今のアメリカの病巣がどこにあるかがわかる。カルフォルニアのスペイン語圏化がこれほど進んでいるとは。

  • 長い(厚い)本だった。中身も重量級の重い内容であり、読むのに二週間ほどかかってしまいました。

    さて、トランプさんがアメリカ大統領になって一月ほど経ちました。選挙戦の最中からアメリカを分断するような言動が垣間見られましたが、大統領になってからもそれは変わりません。大統領と言う立場がついてしまったので、より一層分断を加速するような気もします。

    ただ、これを読んでわかったのは、アメリカ社会の変質、分断は昨日今日に始まったわけではなく、ずっと以前から始まっていたと言う事。トランプさんが4年の任期を全う出来るか分かりませんが、いづれにしてもアメリカは、もう元には戻れないのではないかと思います。

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