真ん中の子どもたち

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087711226

作品紹介・あらすじ

“四歳の私は、世界には二つのことばがあると思っていた。
ひとつは、おうちの中だけで喋ることば。
もうひとつが、おうちの外でも通じることば。"

台湾人の母と日本人の父の間に生まれ、幼いころから日本で育った琴子は、大学生になって、中国語(普通語)を勉強するため留学を決意する。そして上海の語学学校で、同じく台湾×日本のハーフである嘉玲、両親ともに中国人で日本で生まれ育った舜哉と出会う。
「母語」とはなにか、「国境」とはなにか、三人はそれぞれ悩みながら友情を深めていくが――。
日本、台湾、中国という三つの国の間で、自らのアイデンティティを探し求める若者たちの姿を鮮やかに描き出す青春小説。第157回芥川龍之介賞候補作。

感想・レビュー・書評

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  • 日本語の中に、台湾語、中国語(北京語、上海語)が混じり、ピンインがあり、カタカナ表記がある。最初は面食らうのだが、あれ?こんな経験をどこかでしたぞ?と思いだす。学生時代、中華街の広東料理屋でアルバイトをしていた時だ。雇用主は華僑、厨房は香港人、お運びの日本人。毎日、複数の中華系の言葉と日本語で、まくしたてられた。まだ注文は手書きの頃だったので、繁体字で書き取りし、だんだん面倒になってきて簡体字の存在を知り、愕然としたのを覚えている。人間関係もいろいろあったが、学生で人生経験が浅かったこともあり、当時のことは非常によく覚えている。

    日本はいろんなルーツを持つ人たちの吹き溜りという意味で極東である。しかしながら、政治や歴史の、その時々の都合によって事実が広く知られることは少ない。このような文学に出会えて、四半世紀抱えていたつかえが取れた。

  • 主人公と何も共通するところがないのに共感するのは何故だろう。歴史や国籍の問題で生き方を問い直すテーマが甘くやさしく物語られている。

  • 芥川賞の一件で見聞きして気になっていた本。
    台湾人の母と日本人の父を持つ少女が、中国、台湾、日本のことばの狭間でアイデンティティーのゆらぎを感じながら、自分を確立していくお話。おそらく作者自身の生涯のテーマ。少なくとも私は対岸の火事とは思わず興味深く読み進めた。
    先日、シンガポールと日本人のハーフの小さな男の子がぺらぺらの鳥取弁を話していて驚いた。驚くのはこっちの勝手で、彼にしてみればふつうのこと。
    「台湾人の母を持つわりには中国語はへただね」とか、「見かけは日本人ではないのに日本語を喋れるなんてすごい」とか。何気なく私たちが普段口にしかねない「ふつう」を基準にした物言いが、当人達にとっては大きな傷になり得る場合もある。こういう小説を読んででも、自分の知らない環境を知り、思いを馳せることが大切。
    ———————————————
    ナニジンだから何語を喋らなきゃならないとか、縛られる必要はない。両親が日本人じゃなくても日本語を喋っていいし、母親が台湾人だけれど中国語を喋らなきゃいけないってこともない。言語と個人の関係は、もっと自由なはずなんだよ。

  • 日本人の父と台湾人の母を持つ主人公が、母の言葉である「中国語」を学びに上海に留学。
    日本人に見えるけれど中国語を話せる、とか、母が台湾人ならもっと上手く中国語が話せるのではないかとか、帰化した中国人の両親を持つ子どもの母語は日本語が、とか…ナニジンでナニゴが喋れるかという絶妙なややこしさを軽やかに描き出して見せているなと思った。
    日本人の母と台湾人の父を持ち、日本語を話すように育てられたリーリーや、正確な?中国語を「普通語」として教えようとしている上海の漢語学校教師、関西弁と中国語を話すシュンヤ。
    シュンヤが「言語と個人の関係は、もっと自由なはず」と言う、これがテーマかな。

  • YAとして中高生から読むといい本だなと思う。帰属と母語をめぐって揺れる青春の物語。越境する子どもたちの悩みはますます普遍的になる時代なので、各学校図書館に一冊あるといいな。
    作中「台湾語」と台湾の歴史について説明が少ないのが気になる。明治の日本統治以前は福建などからの移住が多かった、台湾の半分は清の手が入らず原住民の言葉が話されていた、中華民国政府が共産党に追われて来てから北京語を話す人達が優位になった……とわたしは認識しているのだが、そのあたり簡単にでも説明が欲しかった。
    主人公は歴史にまったく疎い19歳という設定なんだろうけど、こんなに「台湾語」で悩むなら台湾語とは何かを調べる場面があるはずだと思う。


  • 母国語とアイデンティティの問題は、日本に生まれて日本語しか話さない人にとっても「対岸の火事」なんかじゃない。
    外国語を学ぶとき、日本国内でも遠い地方に行ったとき、自分の中の日本語が揺らいだりしないのかなぁ。
    (芥川賞の選評読んだ)

    私はむしろこのように、外国にもルーツがある日本語話者が日本語をより豊かにしてくれていることが嬉しいし、誰もが自由に何語を話してもいいなんて、とても気持ちいいことだと思います。こういうお話もっと読みたい。

    • seiiti1968さん
      今は対岸のことでも5年後とかもっと早くに状況は変わる気がします。かつての笑いのネタの保毛田とかも今は炎上の対象ですから。私は現在中国人研修生...
      今は対岸のことでも5年後とかもっと早くに状況は変わる気がします。かつての笑いのネタの保毛田とかも今は炎上の対象ですから。私は現在中国人研修生と仕事している立場からかつて自分の中にあった中国人のイメージが全く無くなりました。知らない人にとっては対岸のことでしょうけど。
      2017/11/08
    • yurinippoさん
      seiiti1968さん、コメントありがとうございます。
      やはり実際に親しく関わって初めてわかることもありますよね。
      あまり日本語以外の...
      seiiti1968さん、コメントありがとうございます。
      やはり実際に親しく関わって初めてわかることもありますよね。
      あまり日本語以外の言語に接点のない人が「対岸の火事」と思うことは仕方がないのでしょうか。
      2017/11/10
    • seiiti1968さん
      所詮は自分の半径何メートルかを越えれば対岸であり他人事なのかと思います。それはそれでその人の生きやすさを担保しているでしょう。
      所詮は自分の半径何メートルかを越えれば対岸であり他人事なのかと思います。それはそれでその人の生きやすさを担保しているでしょう。
      2018/04/05
  • 作者の温さんと重なった。
    本当に繊細で、他者の言葉に振り回されてしまい苦しむ少女が、たくましく成長したラストにはにこにこを通り越してにやにやしてしまった。
    真ん中の子どもたちが今後もっともっと元気に生きられる風通しのよい世界になりますように。
    そんな世界はきっとすべての人々を笑顔にすることになるでしょう。

  • 「そのことばは、私たちのような子どもを侮蔑するためにある。でも、そのことがどうして私たちを貶めることになるの?」というフレーズにじーんとする。
    言語と個人の関係性はもっと自由でいい、というのにもあかるくひらけた気持ち。
    温又柔さんの本を読むと、自分の中の「○○人」の解像度がまた一つ上がる。

  • 複数の国の親を持つ子どもたち(といっても主人公が20歳頃の話が中心だが)が、留学先で同じような境遇の仲間と出会い、自分のアイデンティティに対峙する物語。「真ん中の子どもたち」というタイトルは「子どもが真ん中」という意味合いかと思って読み始めたが、そうではなかった。「国境のこっち・あっち」ではなく、自分を「真ん中」に据えた子どもというニュアンスだろう。
    上海を舞台にした話で、要所要所に出てくる「におい」が印象的だった。

  • アイデンティティと言語の問題、について考える。
    日本人の父と台湾人の母をもつ琴子、台湾人の父と日本人の母をもつ嘉玲、日本に帰化した中国人の両親をもつ舜哉。日本で暮らし、中国語を学ぶために上海の語学学校に短期留学する3人の一ヶ月。
    アイデンティティにも思考言語にも葛藤をおぼえず生きてきたので、こういう複雑さが興味深かったし、葛藤そのものが青春だな…と懐かしい感じもしたし。
    で、そもそも、日本人とは、何をもって日本人というのだろう?

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著者プロフィール

1980年、台湾・台北市生まれ。3歳より東京在住。2009年、「好去好来歌」で第33回すばる文学賞佳作を受賞。両親はともに台湾人。創作は日本語で行う。著作に『真ん中の子どもたち』(集英社、2017年、芥川賞候補)、『台湾生まれ 日本語育ち』(白水社、2015年、日本エッセイスト・クラブ賞受賞、2018年に増補版刊行)、『空港時光』(河出書房新社、2018年)、『「国語」から旅立って』(新曜社、2019年)、『魯肉飯(ロバプン)のさえずり』(中央公論新社、2020年)など。

「2020年 『私とあなたのあいだ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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