- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087712766
感想・レビュー・書評
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第21回 小説すばる新人賞受賞作
デンキも無い、澱んだ水の臭いがする孤島。
その孤島には、かつて政府によって造られた、一大遊郭があった。
その島に住む、美貌の姉弟・白亜とスケキヨは、幼い頃に、定食屋の婆に拾われ育てられた。
二人は「互いの瞳の中に互いの感情をみる」そんな関係であった。
やがて、婆によって、スケキヨは男娼として、白亜は廓へと売られて行く。
離れ離れになった二人の魂は、惹きあい、心の底から求め合い、そしてそれゆえに避ける。
艶めかしく、重く暗く、不思議な魅力の作品。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
離島の遊郭が舞台の作品…登場する姉弟は美しく成長し、姉の白亜は遊女に、弟のスケキヨは陰間(男娼)として売られてしまう…。白亜は島随一の遊女になり、そんな中スケキヨが謎の薬問屋として暗躍していることを知る…。以前スケキヨに命を助けてもらい恩義を感じている蓼原、遊女の新笠、スケキヨを追う蓮沼…惹かれ合いそれでいて拒絶しあう姉弟に大きく関わりながら物語が展開してく…。
やっぱり千早茜先生の作品って凄い!ここまでいい意味で陰湿なねっとりとした世界を作中から読み手に感じさせるテクニック…それでいてあやしくそれでいて艶やかな雰囲気をも感じ、引き込まれるように読み込みました。私は、スケキヨより蓮沼が好きだなぁ(*^^*) -
千早さん独特の表現力と世界観にすっかり引き込まれて後半は一気読み。
この島を取り巻く生臭くどろっとした水質の河口と月経の描写がリンクしているような感覚になった。
中盤の蓮沼が乗り込んできたシーンがとにかく怖くてたまらなかった。と同時に本当はこんな事したくないのではないかと蓮沼の本心を慮って、せつなくなりました。
他にもスケキヨがずっとどんな暮らしをしてきたのか、御伽噺と実は接点(生まれ変わりとか?)があるのか、など消化不良なところが多々残りましたが、全ての答え合わせをしない余白といつまでも残る余韻がこの作品の良さなのかなと思いました。
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図書館本。新年1冊目。
あとで、文庫版を見つけたら買おうかと考えるくらい良かった。
舞台は、存在するのかしないのかわからない遊女のいる廓がひしめく島の話。本土と呼ばれる島からきた人間が、遊んでは帰っていく。腐臭が漂い島に生きている人間は夢をみないという島。
時代は、デンキが出てきている時代だが、舞台の島にはデンキが通ってなく前時代的な暮らしをしていた。このあるんだかないんだかわからない感じや、電気は知っているけどどういうもの?的な話をしているのがファンタジー要素を感じさせつつ、完全なファンタジーでもなく。その加減が絶妙で。
なんだかキラキラときれいな文章で、話は決して明るい話ではなく、むしろ暗く救いが無いような話だが、読んでいてとても心地よかった。 -
『魚神』千早茜
宇野亜喜良さんの表紙が素晴らしい。このイラストが、内容の雰囲気を語り尽しているとまで思う。
「恐ろしさと美しさを兼ね備えているものにしか価値は無いよ。」スケキヨのこの言葉が、いつまでも脳裏に響く。
ねっとりとした空気、どろりとした手触り。島を取り巻く水の匂い、苔や植物の匂い、遊女達の匂い。
夢食いの貘や雷魚伝説が伝わる島に捨てられた美貌の姉弟。伝説の遊女の名を継ぐ姉・白亜と弟スケキヨ。互いだけに気を許し、分かち難く生きてきた二人。しかし、スケキヨは、その美貌ゆえ、悪評高い裏華町に売られてしまう 。離れ離れになり動揺した二人は、ある晩の出来事を境に仲違いする。成長した白亜もまた遊郭へ売られ、やがて島一番の美しい遊女となるが、スケキヨを失って、感覚を失った人形の様に身をひさぐ白亜。が、彼女は遊郭の女郎や裏華町の男達を通じて徐々にスケキヨへと近づいて行く。一卵性の双子の様に惹かれ合いながら、拒絶を恐れ近づけない姉弟。二人が再び巡り会うとき、島に何が起きるのか…。
妖しく、おどろおどろしい物語であるはずなのに、全く嫌悪を感じない。何故、この作家は、こんなにも妖艶に、暗闇から濃厚な香りが漂う様な文が書けるのだろう。
美しいけれど見てはいけない物に魅入られてしまった様な、この後ろめたい感覚は何だろう。この本は、自分だけがこっそりと読んでいたい、あらすじを追っても意味が無いと言う気がして来る。
たちこめる、様々な香りに酔っても、現に戻る術を用意してから読まないと、心の中の隠しておきたいもう一人の自分が、神隠しに会う、そんな感じの本だった。 -
私の初読み作家=千早茜さんのデビュー作であり、泉鏡花文学賞受賞作。
地方は不明。時代も明確ではないが、電気が出てくるので大正頃か。
河口にある遊郭だけの島。そこで育てられた美しい姉と弟。そして魅力的なその他の登場人物達。
付いて行けない描写も有るが幻想的で耽美な世界が広がる。濃密で湿度が高く薄暗い。そしてどこか儚く気怠い。
そんな著者の世界にどっぷり漬かった読後感でした。 -
表紙の怪しげな美しさに惹かれて読み始めました。
千早茜さんの小説はアンソロジーで読んだ短編が初めてでそれに次いでこちらが2作目です。淀みのない水の流れのような文章に引き込まれました。はじめのほうは幻想的なファンタジーかと思いきや、描き出される人間像が生生しくリアルで歴史小説のような雰囲気を感じました。白亜とスケキヨの姉弟の間にあるものは兄弟愛とか恋愛感情とか単純に名前を付けて呼ぶことのできないもので、ゆえに二人の愛がどこにたどり着くのか予想できなくて、どんどん物語を読み進めました。独特の世界観に浸れてとてもよかったです。