追想五断章

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087713046

作品紹介・あらすじ

古書店アルバイトの大学生・菅生芳光は、報酬に惹かれてある依頼を請け負う。依頼人・北里可南子は、亡くなった父が生前に書いた、結末の伏せられた五つの小説を探していた。調査を続けるうち芳光は、未解決のままに終わった事件"アントワープの銃声"の存在を知る。二十二年前のその夜何があったのか?幾重にも隠された真相は?米澤穂信が初めて「青春去りし後の人間」を描く最新長編。

感想・レビュー・書評

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  • 古めかしい雰囲気がなんとも黴臭く陰鬱です。
    1990年代前半て、もう20年も前なのか…そのことがすでにホラーだな。
    全体的にアナログな感じがよかったです。

    バブルがはじけたころの東京で、叔父の経営する古本屋に居候している芳光が、
    北里可南子に依頼されて彼女の父である叶黒白の5篇の小説を探すこととなり、
    それらを見つけ出す過程で、過去の「アントワープの銃声」の謎が明らかになっていきます。

    5篇の小説は謎の答えが示されないリドルストーリーで、その最後の一文が別に保管されていたのですが、これらの断章がそれぞれ深読みできてぞっとする。
    この本自体はリドルストーリーではなく、ちゃんと結末が描かれていますが、
    そんな気はしたものの苦いラストでした。

    芳光がよく分からないキャラで、結局実家に帰ってどうしたいのか分からなかったけど、
    ミステリーとしては面白かった。

  • 探偵パート、小説パートに分かれていてメリハリついて読みやすい。
    最後の一文は別のに変えても成立するのでは…と気づいたけど、雪の華だけは違うのでどうなのかと思いつつ…。
    飽きさせない展開だけど、ヒロインが淡白で悟り切っているので人間味を感じず、あっさり終幕。

  • 伯父が経営する古書店でアルバイトをしている休学中の大学生、菅生芳光。
    ある日、父親が生前に書いた五編のリドル・ストーリーを探しているという女性が店を訪れる。
    高額の報酬に惹かれ、依頼を引き受けることになった芳光は、やがて女性の両親が当事者である事件を知る。
    はたして、二十二年前のその夜、何が起こったのか?

    リドル・ストーリーとは、結末をあえて書かずに読者の想像にまかせる小説のことなのですが、これらを主人公が探し出し、結末を読み解くことで事件の真相が浮かび上がるという凝ったつくりとなっています。
    この作中作のリドル・ストーリーもひねりが効いていて、いろんなお話が楽しめる醍醐味を味わうことができました。

    米澤さんの作品は、今まで青春の鬱屈を描いた作品が多かったと思いますが、今回は青春期を過ぎつつある主人公の苦い諦めと煩悶を枯淡でくるんだ感じの話なので、いつもにも増して暗い雰囲気のお話となっています。
    好みが分かれるかもしれませんが、私はこの溢れんばかりの暗さが結構クセになってます…。

    常に自らのハードルを越える作品を描かれているので、先が楽しみな作家さんです。
    この暗さが、この先どんな境地まで到達するのか、見逃せません。

  • 小説が遺言に
    「リドルストーリー」(結末を読者の想像に委ねる)短編小説に託した可南子の父は、世に遺したのは謎を秘めた真実だった。密室事件にありがちな当事者しか知らない真実を娘にも告白せず半永久に残る小説に託したのだ。読者の想像、予測に委ねた作品は「消化不良」となりがちで、「後味」が悪い。だが、今後「我が人生」としてそういった内容も遺書をネット上に残す人も増えてくる気がする。それは今までずっと秘めていたことを告白し、気持ちを軽くして逝きたい人が増えると感じる。

  • 亡くなった父が書いた5つの短編を探す女と、モラトリアムの中にいる古本屋の若者の小説。その過程の中で、過去のアントワープの銃声と呼ばれた事件の真相に出会う。全編を通して気怠く、退廃的な雰囲気の小説。
    5つの短編はそれぞれリドルストーリーになっており、結末だけが父の残されたメモに書いてあるというのが鍵。
    それぞれの短編が救いのない寓話で引き込まれる。そして、その上で明かされる真相もまた救いがない。昔読んだアゴタ・クリストフの悪童日記からの三部作を思い出したのは、寓話の舞台が皆海外だからかな。
    プロットは既視感があり、ミステリとして絶賛できるかというとクエスチョンだが、雰囲気と描写が良いので、純文学のような感じ。

  • とある事情から、大学を休学した芳光は
    伯父の営む古書店に居候をしていた。

    出口の見えない、
    閉塞した日々を過ごす芳光だったが、
    5編の短編を探しているという女性が
    店を訪れるが…

    序章は夢のような、空想のような、
    作文のようなお話が載っているのですが、
    あまりに意味がわからず、
    少々出鼻をくじかれました。

    読み進めていくと、もちろん序章の内容は
    大事な伏線になっているのですが、
    それがわかるのは物語後半です。

    序章を乗り越えた先の壁は、「言葉」です。
    少しずつ5編の断章(断章とは詩や文章の一部分のこと)が発掘されていきますが、

    その中に登場する言葉たちは
    古めかしく、読み方すらわからないものも
    登場します。
    5断章を読みすすめるには、
    漢和辞典と国語辞典が必須です。
    言葉の勉強にはなります。

    小説全体の空気感はよどんでいて、
    特に断章が難解なことから
    前半で挫折しそうになります。

    主人公の芳光が抱える苦悩も、
    はじめは読み手にすら隠されていて、
    やや近寄りがたい雰囲気があります。

    ここまでの☆は2つでしたが、
    後半にさしかかると
    雪が少しずつ溶けるように
    じわじわと謎も解けていったため
    最終的に☆3つにしました。

    5編の断章は
    「リドルストーリー」になっています。

    わたしはこの作品ではじめて
    「リドルストーリー」という言葉と意味を
    知りました。

    リドルとは英語でriddleと書き、
    「謎かけ」という意味です。

    リドルストーリーの意味は
    作中で説明されていますので、
    安心してくださいね。

  • 好きなくくり。同じ著者の「儚い羊たちの祝宴」をまた読みたくなりました。
    古書店を営む伯父のもとで、ただ時間が過ぎるだけの居候生活を続ける芳光。ある日、突然現れた女性に「亡父が書いた小説を探して欲しい。」と依頼をされる。
    見ず知らずの男の過去を知るうちに、光芳の心も変化してゆく。

    わりと早い段階で「どんでん返しくるな」と思ったので、結末を伸ばしたくてゆっくり読みました。笑
    キーワードは〝リドルストーリー〟結末が曖昧で謎を残す物語。
    「亡父が残した遺作を知りたい。」
    親を思う娘ならば自然なこと。報酬にひかれ、軽い気持ちで依頼を受けた光芳は、物語の裏に隠された事件に行き当たり、引き込まれて行く。
    依頼者可南子の父参吾は、リドルストーリーを通じて、誰にも言わないと決めたはずのある真実を伝えようとしていた。
    誰かを守るためについた嘘は、自らを窮地に追いやる。哀しい物語。
    ただ…結末は「…かな?」と思ったとおり。
    読後感は、少々まどろっこしさを残しました。

    2016.04.30
    今年の13冊目

  • 米澤さんの小説を読むのは2冊目ですが、これが彼の作風なのでしょうか。なんだか背筋が寒くなって後味が悪いというか…。あ、でもこの後味の悪さはいい意味ですけどね、私は好きですこういうの。

    北里可南子の亡き父が書いていた小説5篇。彼は生前にその小説を手離しており、その小説の存在を知った可南子がなんとか手元に戻そうと探している所から話しは始まります。
    最初の1篇を探して辿り着いた古本屋で、そこの居候である菅生芳光に、残りも探して欲しいと依頼する。

    その後は芳光が小説探しに動いていく訳ですが、この小説は結末がないリドルストーリーという作りになっていて、ラストは読み手に委ねられているというもの。この内容のテーマがまた重い…。
    最終的には二者択一となっているが、どちらを選んでもなんとも言えない読後感になってしまう。

    一見、可南子の父の追想かと思いきや物語は意外な方向へ。

    そして、本作品自体がリドルストーリーなのでは?という作りはすごい!前に読んだ『儚い羊たちの祝宴』の時にも感じたけど、米澤さんは芸術性が高いというか品が良いですね。

  • 結末を読者に委ねるリドルストーリーの趣向を、巧みに組み込んだプロットはユニーク。
    章をおうごとに作中作に対する読者の捉え方を変化させ、最後まで読んで“序章”がボディーブローのように効いてくる構成。上手い。

    残念だったのは、組み込まれた五つの作中作がとかく読みにくいこと。仕掛けがわかったところで、2回目を読もうとは思わなかった。

    週刊文春ミステリーベスト10 5位
    このミステリーがすごい! 4位
    本格ミステリ・ベスト10 4位
    ミステリが読みたい! 3位

  • 古書店や蕎麦屋、最後の祭りなどドラマの背景にある景色が豊かに感じた。
    主人公が事実を追っていくにつれて短編のどこに目をつけるのかが変わってきて面白かった。
    終章雪の華は明確な事実の説明ではなく比喩のようになっているが筆者は北里になっており、他の短編よりも北里自身をなぞらえた話になっているように感じた。また、話の終わり方として明確に説明するのではなく小説から想像しながら全貌を把握するのがとても情緒的だった。
    ただ、母親を死に追いやろうとした娘がいてそれを拳銃で止める父親という構図はなかなか想像し辛いところではあった。(作中で咄嗟の判断で合理性を欠くことは肯定されている)

    リドルストーリー(結末が書かれていない物語)という言葉をはじめて知った。

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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

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