ハコブネ

著者 :
  • 集英社
2.90
  • (9)
  • (21)
  • (66)
  • (24)
  • (14)
本棚登録 : 370
感想 : 65
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087714289

作品紹介・あらすじ

セックスが辛く、もしかしたら自分は男なのではと思い、男装をするフリーターの里帆。そんな曖昧な里帆を責める椿は、暗闇でも日焼け止めを欠かさず肉体を丁寧にケアする。二人の感覚すら共有できない知佳子は、生身の男性と寝ても人間としての肉体感覚が持てないでいた-。十九歳の里帆と二人の"アラサー"女性。三人が乗る「ハコブネ」は、セクシャリティーという海を漂流する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • それぞれ違った感覚を持ちそれぞれに思い悩む3人の女性たちの物語。
    19歳の里帆は男性とのセックスが辛い。自分の性に自信が持てない彼女は、第二次性徴をやり直そうと、男装をして知り合いの少なそうな“自習室”に通い始める。
    そこで出会ったのは、女であることに固執する31歳の椿と、生身の男性と寝ても実感が持てない知佳子だった。
    それぞれに悩みを抱える3人は、衝突しあいながらも、自らの性と生き方を模索していく。

    “自習室”と言うのは、私のイメージとしてはネットカフェに近いようなところで(実際にあるものなのかは分からないけれど)、月々決まったお金を払って会員になると入れる、名前通りそれぞれの自習をするための施設。
    里帆のように人目を避けて特殊なことを学ぶために通う人もいれば、椿のように資格用の勉強をするために行く人もいれば、知佳子のようにただその雰囲気が好きで通う一風変わった人もいる。
    物語は里帆目線と知佳子目線の章が交互に続いていくつくりなのだけど、その中心には椿という女を全開に出した実際美人の女性がいて、里帆と知佳子は椿を通して自分を確かめ知っていく。

    自分はこの3人の誰に近いか考えてみたけれど、誰にも似ていないという結論が出た。それぞれのことを理解出来る面もあるし、全然分からない面もある。
    歳を重ねても女であることからは逃れられないことを知っていて、尚且つ美人だからそれを保っていかなければいけない自覚が強すぎる椿がもしかしたら一番痛々しいかもしれない。
    里帆の悩みは歳を重ねることで変化していくかもしれないし、知佳子は悩みというよりも既にそれを受け入れて半分諦めているような兆しが見えるから。

    自分の性に悩むことは思春期ならばきっとよくある話で、望まずとも変化していく自分の心や身体をどうやって受け入れていったのだろうと思い返してみたりしたけど、はっきりと思い出せないところを見ればそういうのは多分理屈じゃないんだろうと思う。

    個人的に面白いのは知佳子だった。
    人と付き合ってもセックスをしても、その人そのものと触れあっている感覚が持てず、宇宙と触れあっている感覚にしかならない、という悩み。
    自分は星の一部なのだという強い感覚。
    ずっと手応えがないままで、本当に好きな人が出来てもやはりその感覚が消えない。
    望みを持っては諦め、を繰り返す知佳子が一番切なく、浮世離れしていて、そして強い。

    村田沙耶香さんの作品は、やっぱり不思議で面白い。生々しくもあるけれど、どこかにふわふわした要素もあって。
    人の感情を巻き込んで読ませるものを書く作家さんだな、というイメージ。

  • 主人公の里帆の戸惑いがとても身近に感じられて読み始めたのだが、読み進むうちに苦しくなってきた。なぜ、どうしてそこまでセックスにこだわるのだろう。「性別のないセックス」という概念そのものが大きな矛盾をはらんでいると思うのだが。
    知佳子の感覚もまた不可解だった。彼女のもつ「物体感覚」はとても興味深かったけれども、人間だけが生物というわけではないのだ。
    作者は、椿という女性をもっと普通の典型的な女性として描いたと語っているが、普通の典型的な女性ってこんなに底が浅いものなんだろうか。
    自分の性に真摯に向き合う姿勢はきっとすばらしいものなんだろうけど、妥協せず、折り合いもつけられないということそのものが、すでに性にとらわれ固執してしまっているということはないのだろうか。そんなことを考えさせられる小説だった。

  • 面白かったと思う。自分の性に疑問を持っているのではないのに、身体を重ねることが苦しくて、それに悩む里帆。女を磨きながら、それでも女の辛さを感じている椿。椿は里帆が自分が何者なのか、悩んでいる姿を見て、みんな悩んでいて乗り越えていると伝える。それでも悩み、自分なりの性を見つけ出そうとする里帆に苛立っていく。この2人の話は、人間の話として分かるなぁというか、やっぱり女って辛いんだなぁ。と思ったり。
    自分を星のかけらだと思い、すべてのことはみんな循環して地球に帰っていくと考え、人間の世界の生活に溶け込むことができない知佳子。
    でも、そんな知佳子に安心を覚える里帆と椿。
    なぜ、評価が低いのか分からないが好きな話だった。確かに没入感が薄い感じはするが、3人の女性の性の話が深く描かれていて、感じるものがあったと思う。

  • 体の性は女なのに、性に違和感を感じる里帆。
    太陽のことを「ソル」って言う知佳子。
    その2人の視点が交互に話が進んでいく。
    間には2人の知り合いである女性らしい椿がいる。

    セクシャリティーな話だった。
    いわゆるLGBTQ…とかに当てはまらない、
    その人だけの「性」について。
    そんな部分に視点を当ててたよ。

    正直、里帆も知佳子も言ってる意味は
    分からんかった。
    もぅ、独特すぎるからー笑
    でも、そういう性があってもいいとは思えたなぁー。

    ハコブネってタイトルは、「ノアの方舟」から
    きてるっぽい。
    まぁー、独特!! さすが村田沙耶香って感じー(*´艸`*)

  • 自分の性に疑問を持つ女性と性別を受け入れつつ生き方を探る女性たちの物語。ルールに従う人、本能に従う人、いろいろな感じ方があっていいと思う。ジェンダーレスの認知が広まった今だから理解できたのかな。

  • 里帆、椿、千佳子という3人の女性。
    里帆と千佳子は交互に語るのだが、椿の主観だけが登場しない。この意味するところは何だろう?
    里帆と千佳子は結局のところこの社会/アースとひとつになりたい欲望を抱えているが、椿はどうか。日焼け止めやファッションで“女”という鎧を身につけ武装しているかと思いきや、彼女が最も解放されたがっているようにも思う。
    終盤、里帆は千佳子の見ている世界を垣間見るが、きっと椿にその瞬間は訪れないんだろうと感じた。
    この「方舟」に、椿は乗ることができない。

  • 私的には、「星が吸う水」とテーマが似ているように感じました。どちらも、性の悩みを通しての、私は、こういう存在なんだ、ということを、探している感じ。村田先生の作品に、独特なタイプの登場人物が多いのは、先生自身が、人間とは、私とは、なんだろうみたいなのをテーマにしているからだとも、思えてくる。ただ、今回は、共感できる感じが、少なかった。

    また、内容と、ちょっとずれるのですが、自分自身で思っている自分のイメージと、周りの人から見た自分のイメージは、異なるのだなということを、この作品を読んで、再認識しました。さすがに、知佳子の特性を当てるのは、難しいでしょう。

  • 里帆にとって、夜でも日焼け止めを欠かさず塗る椿が理解できないように、また、椿にとって、ストッキングの伝染を気にしない里帆が理解できないように、知佳子にとっては、世の中の人間たちが自ら作り上げたルールの中で生活していることが理解できない。全部同じようなことなのに、大げさに驚いたり、きずついたり、ぶつかりあってしまうんですよね。里帆が、セックスの辛さをこの先何年も行き場のない欲望を抱えて生きていかなきゃならないことと結びつけて考えていたのが印象的でした。全体的に、特に知佳子の視点は、共感しづらいけど、共感しようとすること自体がおかしいんだよなあ。里帆と椿のふたりも、まさに感覚を共有しようとしたところで、決裂してしまう。

  • 自分の生きやすい世界を。
    普通ではないと感じたからこそ必死に探し求めて、その状態に名前を付けて安心したかったのだろうな。
    いくら議論したところで妥協点すら見つからないのは、互いに強い意思をもっていたからだろうな。

  • 流石、クレージーさやか、よ~~判らん(笑)。
    彼氏とのセックスに嫌悪感を感じ自分の性所属を疑う19歳の里帆。如何にも大人の女性と言った雰囲気を持つ31歳の椿、椿の同級生で人間世界をままごと遊びの様な架空現実としか捉えられない千佳子の3人の女性が主人公。
    読んでる途中は(主人公が女性だという事もあって)なかなか感情移入も難しかったのですが、読み終わって頭を整理すると、「女性」を言う枠にどっぷり帰属している椿と、何とか自分が帰属する性認識枠を見つけようとする里帆と、淡い期待はするものの帰属に拘らない千佳子という帰属意識の異なる3人を描いた物語と捉えると、何となくすっきりしました。
    村田さん、これが良いよと結論を押し付ける訳でもなく、まあ、色々あるよね~と言っているようです。

全65件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

村田沙耶香の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×