北斗 ある殺人者の回心

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087714647

作品紹介・あらすじ

幼少時から両親に激しい暴力を受けて育った端爪北斗。誰にも愛されず、誰も愛せない彼は、父が病死した高校一年生の時、母に暴力を振るってしまう。児童福祉司の勧めで里親の近藤綾子と暮らし始め、北斗は初めて心身ともに安定した日々を過ごし、大学入学を果たすものの、綾子が末期癌であることが判明、綾子の里子の一人である明日実とともに懸命な看病を続ける。治癒への望みを託し、癌の治療に効くという高額な飲料水を購入していたが、医学的根拠のない詐欺であったことがわかり、綾子は失意のうちに亡くなる。飲料水の開発者への復讐を決意しそのオフィスへ向かった北斗は、開発者ではなく女性スタッフ二人を殺めてしまう。逮捕され極刑を望む北斗に、明日実は生きてほしいと涙ながらに訴えるが、北斗の心は冷え切ったままだった。事件から一年、ついに裁判が開廷する-。

感想・レビュー・書評

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  • 幼少期から両親に激しい暴力を受けて育った
    端爪北斗。誰にも愛されず、誰も愛せない彼は
    父が病死した高校1年生の時、母に暴力を振る
    ってしまい児童福祉司の勧めで里親の近藤綾子
    と暮らし始めます。北斗は初めて心身とも安定
    した日々を過ごし大学入学を果たすものの綾子
    が末期癌であることが判明します。綾子の里子
    の一人である明日実とともに懸命な看病を続け
    治癒への望みを託し、高額な飲料水を購入して
    いたが、医学的根拠のない詐欺だとわかり綾子
    は失意のうちに亡くなります。飲料水の開発者
    への復讐を決意しそのオフィスへ向った北斗は
    開発者ではなく女性スタッフ二人を殺めてしま
    います。逮捕され極刑を望む北斗に明日実は生
    きてほしいと訴えるが、北斗の心は冷え切った
    ままで、事件から1年後についに裁判が開廷し
    ます。結局北斗は無期懲役になりますが色々と
    考えされられた衝撃的な作品でした。

  • 虐待の場面があまりにも酷くて読むのを諦めようと思ったけれど最後まで読んで良かった。
    愛されたい人から暴力を受け、我慢するのみ。本当の自分をさらけ出すなんてもってのほか。
    信用できる里親に巡り会えたと思ったら……。
    そんなに不幸ばかり続かなくてもいいのに。
    思い込んだら一直線。
    まっすぐな人間だったんだと思う、北斗。
    進んだ道は間違っていたけれど。

  • ──泣けた。泣いた。
    まず、無償の愛を多くの少年少女たちに捧げてきた女性が、何故こんなにも早く天に召されなければないのか。
    その理不尽さに泣いた。
    人を騙し、人を傷つけ、悪事を働くたくさんの輩がのうのうと生きながらえていくというのに。
    そして、主人公北斗を翻弄した、悲しいまでの運命のいたずらに泣いた。

    重要なのは殺人を犯したという事実なのか、それとも殺人を犯さねばならなかった動機なのか。
    裁判を迎えても、純粋な北斗はその事実だけが問題なのだと考え、情状酌量しなくてよいと言い張る。
    弁護人は、幼児期に受けた虐待と愛するものを失った哀しみが北斗の動機を形成したのだから、情状酌量の余地があると考える。

    もちろん、殺人という行為は決して許されるものではない。
    ただし、これほど幼児期から誤った教えや虐待を受ければ、到底まっとうな感覚を持つ人間には育たない。
    “自分はこの世に生まれてくるべき人間ではなかった。”
    そのように両親から気付かされた少年。
    少年北斗が、自分を理解してくれるこの世でたった一人の人間の存在によって、ようやく人並みの幸せを感じ始めた時に、その人がこの世から去る。
    しかも自らを犠牲にしても彼女を助けようとした行為は、詐欺によってもたらされたものだったのだ。
    その時の無念さと憎悪の情が北斗に殺人を決意させる。
    裁判を行う中で北斗の心情は揺れ動き、最後に本当の自分の気持ちに気付いた時、彼は初めて本当の人間の世界というものを知るのだ。

    読み出したときは、どうにも虐待の描写が凄まじく、読後感の悪そうな内容で、ページをめくる手が重かった。
    だが、その感覚はすぐに変わった。
    DVから解放され、主人公北斗の純粋さや優しさが描写される部分には目頭が熱くなった。
    だが、その幸せな時期も長く続かず、再び人間不信へ。
    いや、彼の場合は人間不信ではなく、小さい頃からの誤った躾ゆえの、大人に抱く本心だった。

    人が人を裁くことの難しさ。
    悔い改めて生きていくことを許さず、生を封殺し死刑を宣告するのが正しいのか。
    自らの過ちを後悔し、改悛の情を抱かせ、一生涯行き続けさせることが正しいのか。
    深く考えさせられる物語であり、久々に、涙なしには読めない感動作だった。

    ぼくは石田衣良という作家を見くびっていたかもしれない。
    直木賞作家ではあるが、これほど骨太なしっかりとした作品を書ける作家だとは思ってもいなかった。
    「コンカツ?」や「ラブソファにひとり」などの近刊を読んだかぎりでは、時代に乗っかった軽い作品を小奇麗に書く作家だと思っていたのだ。
    その先入観を改めさせてくれる一冊だった。

  • 重い話だなぁ、と最初はその凄惨さにページをめくるのがしんどかったけど、気がついたら一日中読みふけってあっという間だった。普段聞き流し読み流してきているニュースの裏側には、その事件のどれにもこんな事実があるのだろうと改めて思った。涙は被害者遺族のものであり、被告が流すなど許されないという北斗の気持ち、裁判なんか信じていない、出来るならこの法定に北斗と自分だけにして欲しいと訴える被害者の息子の気持ち、虐待し続けねば壊れてしまう父と母の気持ち、解ると簡単には言えないけど、考えさせられた。

  • 石田衣良からしばらく離れていたけれど、人から勧められ、しかも衣良初心者からのモーレツお勧めにあい読んでみることに。

    この作家さんはストーリーテーラーだということに改めて気づくと共に読みやすい上に泣かせ上手だし、社会派でもあり人情にも熱く、ビジュアルも狙ってきてるということ。久々にやられた。

    勧められた点は泣けるということだったけど、法廷モノとしても面白かった。

  • 壮絶な虐待を受け続けた子どもが成長して殺人者になる話です。
    虐待を受けた子どもがみんな人を殺すわけじゃない。
    人を殺す人間がみんな愛を知らずに育ったわけじゃない。
    じゃあその分岐は一体なんなのか。
    北斗の場合は虐待のみが起因ではなく、本当の愛情を知ってしまったがゆえともいえる。

    後半の裁判もひとつひとつのやり取りに引き込まれます。バックグラウンドを読んできただけに、傍聴人になったような臨場感を味わいました。
    被害者遺族と加害者。
    加害者は北斗ひとりですが、被害者遺族は複数いて、ひとりひとりがそれぞれの思いを吐露してゆく。
    それが加害者である北斗のなかに広がり染み込む。
    そしてクライマックスである、北斗自身の最後の意見陳述。

    私は忙しくて数日に渡って読んでしまいましたが、裁判に入ってからは一気読みをオススメします。

  • 幼少時より両親に虐待されて育った端爪北斗。父親の死をきっかけに母親とも別れ、里親となった近藤綾子と暮らし始めることで、北斗は人に心を許せるようになる。しかし綾子は末期癌により亡くなってしまう。入院中、一縷の望みをかけ、生活費や学費を取り崩して買い続けた高価な「波洞水」は何の効能も無いものだった。北斗は医療詐欺師に復讐しようとするが。。。
    殺人者のバックグラウンドは、被害者には関係が無い。まさにそれはその通りであるのだが、裁判などでは人となりを知る上で、大切なことなのだと考えさせられる。読んでいる最中に、切なくなる本。

  • 罪のない女性2人を無惨にも殺めてしまう殺人者の生い立ちから裁判の判決までの物語。
    今までの自分の考えの中に、どんな事情があろうとも人を
    殺めてしまった加害者は許してはいけないという思いがあった。
    この物語を読み終えて、その考えが変わった訳ではないが
    人が人を裁く事の難しさを考えさせられた。
    犯罪を犯す過程で、育った環境、少しの歯車の違いがあればこの犯罪に結びつく事がなかったのではないかと思うと防げる犯罪というのはもしかしたら私達全ての人の前に転がっている問題なのかも知れない。
    ハードな内容でしたが、非常に読み応えのある作品でした。

  • 小さい頃から両親に虐待を受けて育った北斗。養護施設に入り、その後素敵な里親に出会います。今まで人を信用してこなかった北斗に初めて愛情を注いでくれた里親の綾子。その幸せも長くは続かず、綾子は癌になってしまいます。大好きな人を失ったとき、生きる理由は復讐だけになります。
    本当の話かと思うほど、心理描写などが細かいです。殺人を犯していい理由にはなりませんが、北斗に同情するシーンも数多く登場します。本当の正解はどういう判決だったのでしょうか?考えさせられます。裁判の中での被害者の家族のシーンは心打たれます。

  • 両親からひどい虐待を受けて育った主人公北斗。
    父の死後、養護施設を経て、心優しい養母と出会い、幸せな数年を送るが、詐欺事件に巻き込まれ、復讐をとげるために、殺人を犯すこととなる。

    壮絶でした。
    長きにわたる虐待の事実、心を閉ざした少年の様子に、胸が詰まりました。

    ただ、殺人から裁判、結審までには、あまり引き込まれるものがなかったです。
    ちょっと長かったかな。
    北斗の立場で書かれているためなのかもしれないです。

    生い立ちの不遇には同情しますが、遺族の立場に立てば気持ちは180度変わるし、後味はあまりよろしくなかったです。

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著者プロフィール

1960年東京生まれ。成蹊大学卒業。代理店勤務、フリーのコピーライターなどを経て97年「池袋ウエストゲートパーク」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。2003年『4TEEN フォーティーン』で直木賞、06年『眠れぬ真珠』で島清恋愛文学賞、13年 『北斗 ある殺人者の回心』で中央公論文芸賞を受賞。他著書多数。

「2022年 『心心 東京の星、上海の月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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