トラウマ恋愛映画入門

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087715224

作品紹介・あらすじ

激しい愛、ヒドい愛、みにくい愛、恥ずかしい愛。そして素晴らしい愛。人生で経験するすべての愛がここにある。心に爪痕を残す、決して忘れることのできない恋愛映画の極意を、貴方だけに伝授します。

感想・レビュー・書評

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  •  前の『トラウマ映画館』がすごく面白かったので、今回は発売と同時に購入。
     『小説すばる』連載の単行本化。1回につき1本の恋愛映画を取り上げたシネ・エッセイである。

     恋愛映画といっても、『愛のコリーダ』『赤い影』『アイズ・ワイド・シャット』などが取り上げられていることが示すように、甘々の恋愛映画は皆無に等しい。苦い恋愛映画、激辛の恋愛映画、果ては「えっ、これを恋愛映画に入れるわけ?」と驚くような作品が多く取り上げられているのだ。まさに「トラウマ恋愛映画」揃い。

     序文「恋愛オンチのために」からして、感動的な名文だ。そこにはこんな一節がある。

    《大部分の人にとって、本当に深い恋愛経験は人生に二、三回だろう。たしかに何十もの恋愛経験を重ねる人もいるが、その場合、その人の人生も、相手の人生も傷つけずにはいない。そもそも、恋愛において、そんなに数をこなすのは何も学んでいない証拠だ。トルストイもこう言っている。
    「多くの女性を愛した人間よりも、たった一人の女性だけを愛した人間のほうが、はるかに深く女性というものを知っている」
     恋愛経験はなるべく少ない方がいい。でも、練習できないなんて厳しすぎる?
     だから人は小説を読み、映画を観る。予行演習として。
     もちろん、映画や小説には、恋愛のロマンティックな部分だけを見せるエンターテインメントもある。それは甘いだけのお菓子と同じで栄養がない。たまにはいいけどね。
     そういうロマンスの最大の問題は、好きになった同士が紆余曲折の後、結ばれたところで「めでたしめでたし」で終わってしまう点だ。本当はそこからが恋愛の始まりなのに、そこからが大変なのに、それを教えてくれる映画は少ない。
     この本に集めた映画は、甘くない。ほとんどが苦い失敗例だ。》

     本書は優れた映画ガイドであると同時に、含蓄深い恋愛論でもある。
     エッセイ各編のサブタイトルが、格調高い箴言のようでシビれる。たとえば――。

    《女たらしは愛を知らない点で童貞と同じである

    不倫とは過ぎ去る青春にしがみつくことである

    セックスとは二人以外の世界を忘れることである

    愛は勝ってはいけない諜報戦である》

     これらの言葉に「ピンときた」人なら、本書は読むに値すると思う。
     観たことのない映画についてのエッセイでも十分愉しめる内容なので、映画マニアならずともオススメ。

  • 22本の恋愛映画について、ストーリーと共に著者の方の
    解説と洞察がまとめられた本です。

    この本を読んで、紹介されている映画のDVDをかなり
    購入してしまいました(笑)

    映画の解説も素晴らしいのですけど、「恋愛オンチのために」
    という初めに書かれている著者の方の人生観に共感しました。


    小さい男の子は、ミニカーや銀玉鉄砲や、怪獣やロボット、
    野球のバットやサッカーボールで頭が一杯だ。
    それは成長すると、本物の自動車やバイクや、スポーツや
    博打や、宇宙探険や戦争へとスケールアップするが、
    本質的には大して変わらない。
    彼女から「それって、私をほっとく価値があるの?」と
    呆れられるものばかりだ。


    大部分の人にとって、本当に深い恋愛経験は人生に2,3回だろう。
    たしかに何十もの恋愛経験を重ねる人もいるが、その場合、
    その人の人生も、相手の人生も、傷つけずにはいない。 
    そもそも恋愛において、そんなに数をこなすのは何も学んで
    いない証拠だ。
    トルストイもこう言っている。
    「多くの女性を愛した人間よりも、たった一人の
     女性だけを愛した人間のほうが、はるかに深く女性と
     いうものを知っている。」
    恋愛経験はなるべく少ない方がいい。 
    でも、練習できないないなんて厳しすぎる?
    だから人は小説を読み、映画を観る。 予行演習として。


    僕が映画を好きな理由がちょっと理解できました。
    でも恋愛映画は苦手ですけど・・・(笑)

  • ハッピーエンドじゃない、ひと味違った恋愛映画を選んでいるのがいいね。

  • 何しろ序文が素晴らしいじゃないですか!
    印象に残るフレーズのオンパレード。例えば、

    --------------------------------------------------------------------
    恋愛経験はなるべく少ない方がいい。でも、練習できないなんて厳しすぎる?
    だから人は小説を読み、映画を観る。予行演習として。
    --------------------------------------------------------------------

    あぁ、この一文だけで打ちのめされます。
    そう、私たちは映画を通して恋愛を疑似体験しているはずなんです。
    色んな恋愛パターンを知り、色んな女性を知る。

    でもね、本の中でも言っていますけど、結局「男はみんな恋愛のアマチュア」なんですよ。どんなに偉大な巨匠も恋愛になると、からっきしダメ(どんなにダメかはこの本を読めば分かる…)。ましてや、一般ピープルの我々が女心を理解できるわけもない。

    結局は男と女はトライアンドエラーの繰り返し。その間に映画や小説の存在価値がある。あくまで参考ケースとして。
    一般ウケする映画はハッピーエンドで終わるものがほとんどだけど、この本に登場する映画は、監督自身の恋愛体験を包み隠すことなくさらけ出している。巨匠が巨匠たるゆえんは私的なストーリーをあっけらかんとさらけ出すことだ、とも書かれている。だからこそ、この本を読んでいて面白いし、実際に映画を観て、身につまされる思いがする。

    町山氏のチョイスは毎度見事で、一つ一つのエピソードが膨大な知識の上に築き上げられているので、読み物として非常に面白い。
    ストーリー解説から俳優や監督の私的なエピソードに飛び、またストーリー解説に戻ってくるという手法なので、始めは読みづらい部分もあるが、次第に慣れてくるので心配無用。諦めずに最後まで読むのをオススメする。

    最後に、個人的には短いあとがきが非常にツボだった。

    --------------------------------------------------------------------
    ここで紹介した映画のダメ男たちはみんな、少しずつ自分だと思います。本当にすいません。
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    そう、男なら本当に身につまされる話なのだ。何となく言いたくなる。
    僕からもすいません。

  • ディープな解説

  • トラウマ〜

  • 『<映画の見方>がわかる本』、『ブレードランナーの未来世紀』、『トラウマ映画館』に続く、町山さんの映画解説本。 今回は恋愛映画編。

    22本の作品について語られていて、どの映画もとても一筋縄ではいかないヘヴィーな内容ばかり。よく町山さんの本は、「映画を観るより面白い」と言われるが、本当にそうだと思う。

    『チェイシング・エイミー』、『ラスト、コーション』、『アイズ・ワイド・シャット』、『ブルー・バレンタイン』と大好きな作品たちについての解説も嬉しい。

    特に表紙にもなっている『ブルー・バレンタイン』がすごかった。主演の2人にほとんどアドリブで演技をさせ、結婚後の不仲な部分を撮影するために、実際3週間一緒に生活させていがみ合わせる。監督もおかしいけど、それに付き合う主演の2人もすごすぎる。

    映画ファンにはたまらない名著です。

  • 2020/11/3購入
    2021/8/16読了

  • ラストコーション
    赤い影
    パッシヨン・ダモーレ
    日の残り
    隣の女
    リトル・チルドレン
    ことの終わり
    降伏
    アウェイ・フロム・ハー
    アイズワイドシャット

    ラストタンゴインパリ
    愛のコリーダ
    めまい
    観客に語り掛ける「アルフィー」
    逢引き
    アルフェィー
    エターナル・サンシャイン
    「めまい」「ジェラシー」「ブルーバレンタイン」
    恋愛は大変だ
    夫の浮気に妻の認知症

    オクテのオタク男はサセ子の過去を許せるか?『チェイシング・エイミー』Chasing Amy
    ウディ・アレンは自分を愛しすぎて愛を失った『アニー・ホール』Annie Hall
    忘却装置で辛い恋を忘れたら幸福か?『エターナル・サンシャイン』Eternal Sunshine of The Spotless Mind
    愛を隠して世界を救いそこなった執事『日の名残り』The Remains of The Day
    女たらしは愛を知らない点で童貞と同じである『アルフィー』Alfie
    恋するグレアム・グリーンは神をも畏れぬ『ことの終わり』The End of The Affair
    ヒッチコックはなぜ金髪美女を殺すのか?『めまい』Vertigo
    愛は本当に美醜を超えるか?『パッション・ダモーレ』Passione d’Amore
    嫉妬は恋から生まれ、愛を殺す『ジェラシー』Bad Timing
    トリュフォーも恋愛のアマチュアだった『隣の女』La Femme d’`a C^ot´e〔ほか〕

  • 取り上げられている映画を見直して、一々読み返したいですね。

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著者プロフィール

1962年生まれ。映画評論家。1995年に雑誌『映画秘宝』を創刊した後、渡米。現在はカリフォルニア州バークレーに在住。近著に『トランピストはマスクをしない コロナとデモでカオスのアメリカ現地報告』(文藝春秋)、『映画には「動機」がある「最前線の映画」を読む Vol.2』(集英社インターナショナル)、『最も危険なアメリカ映画』(集英社文庫)、『町山智浩のシネマトーク 怖い映画』『町山智浩の「アメリカ流れ者」』(スモール出版)などがある。

「2021年 『町山智浩のシネマトーク 恋する映画』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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