櫛挽道守

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著者 : 木内昇
  • 集英社 (2013年12月5日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087715446

櫛挽道守の感想・レビュー・書評

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  • 読み終わって胸がいっぱいになった。
    ああ、なんていい小説だったんだろう。
    文句なしの傑作。

    木内さんの小説を読破したのは2冊目。
    実はこのほかに数冊チャレンジするも途中で投げ出してしまった。
    もう少し辛抱強く読んだらきっと入っていけただろうけれど。
    この小説は正直言ってとっても地味。
    舞台は木曽路、主人公は櫛職人を目指す少女。
    新聞書評などに多く取り上げられてはいるもののいかんせん華がないので躊躇っていた。
    また挫折してしまったらどうしようと。

    いやいや、そんな不安は全く杞憂だった。
    木内さんの腕にかかれば、山深い木曽路も櫛を挽く殺風景な板の間もがらりと魅力的なものへと変わる。
    今にも櫛引の音が聞こえてくるような錯覚に陥る。
    静かな感動で満たされ、知らず知らずに涙を誘う。
    木内さんらしく書き込みすぎていない文章が潔くてきりりと光る。
    このあたりの采配は絶妙というしかない。
    何気ない台詞に何度やられてしまったことか。

    頑固なまでに自分を貫く主人公の登勢、朴訥な職人気質の父、利己的な母、幸せを追い求めた妹。
    そして登勢を取り囲む男達。
    一筋縄ではいかない面々が難儀な人生を歩んでいく姿はみな愛おしい。
    それが良しにつけ悪しきにつけ。

    あまりにも読後に興奮し、GWに木曽路に行こうと突然閃いた!
    長野に長いこと住んでいたのに南信はほとんど行ったことがなかった。
    が、調べてみて撃沈。
    片道4時間以上。日帰りじゃ無理じゃないか。
    私の木曽路熱、梳櫛熱が冷めぬうちに行けるだろうか・・・。

  • 『お六櫛』という梳櫛を挽く家に長女として生まれ、
    神業と呼ばれる技を持つ父の背中を追いかけ櫛師となる登瀬の物語。

    何かを一徹に心定めたものは、
    歩き始めた道が進むべき所を教えてくれるのではないでしょうか。

    どんなに横槍がはいっても、多数の世間の目が行く手を塞いでも
    女性であることが足をひっぱり引きずり降ろされそうになっても
    登瀬は足を踏ん張って、自分の心に聞き、考え、また歩き始めます。

    どうにもわからず立ち止まりそうになるとき、目に入るのは
    神業と称えられる技を持ちながらも高みを見据える父、吾助。
    遠くから幾度となく目を覚まさせてくれる弟、直助。
    そして父の櫛を挽く音が響く神聖な仕事場『板ノ間』。

    師である父と登瀬の会話が心に響きます。
    訥々とした中に、登瀬の核を形作るものが
    伝えていきたい大切なことが沢山詰められてます。

    幕末の木曽の山間の物語ですが、
    ふにゃふにゃに流されながら生きている現在の私が
    心に刻まないといけないこと、沢山あります。

    実直で世間知らずな登瀬が、色々な人の言葉で
    1つ1つ今までとは違う解釈で
    見通すことができるようになるところがたまらなく好きです。

    数年後に再読したい本となりました。

    まだ手作業で櫛を挽いている職人の方っておられるんですね。
    櫛挽の音や拍子を近くで感じてみたくなる一冊です。

    木内昇さん、『漂砂のうたう』も読みましたが
    女性の話ということで、こちらの方が私には感情移入ができました。
    凛とした心棒を持つ名もなき女性の描き方が素敵ですね。
    他も読んでみたいと思います。

  • 幕末の、中山道の木曽・藪原宿。
    櫛職人の父親の仕事を手伝う、登瀬。他の人にはまねのできない優れた技術を持ち、人をうならせるほどの櫛を挽く父親。藪原で、いや、江戸の職人と比較しても、最も優れていると信じて慕う父親の後を継ぎ、いずれは自分でも櫛を挽きたいと心の奥で願っていた。

    櫛を挽くのは男の仕事だとよい顔をしない母親は、登瀬にいずれは他家に嫁ぎ、女としての幸せな人生を送ってほしいと考えている。才覚がありながら早世した弟。閉ざされた環境を辛いと感じ、よその町へ嫁ぎ今よりもいい暮らしをしたいと願う妹。登瀬を中心に据えた、過酷な暮らしをおくる家族の物語でもある。

    少女は一日の大半を作業場で過ごしながら、目の前の大きな存在である父親の背中を追い、自分の極めたい道をなんとか進んでいこうと一心に仕事に打ち込んでいく。遠く離れた地で起こる桜田門外の変や皇女和宮の降嫁など幕末のできごとが少女・登瀬が歩む人生にも影を落としている。

    自分の住む狭い町の中で完結し、ほとんどが自宅の中に限定された暮らし。家業を継ぎたいと願っても、世間の考える女の一生との差異からなかなか思うようにはならない。
    時代から制約を受け、母親の考えるあるべき姿とかけ離れた登瀬は認めてもらえず、自信を持ってまっすぐに歩いていくのも難しい状況だった。

    劇的な展開もほとんどなく、地味に辛いことばかりが次から次へと起こる。『世間が認める普通の生き方』の中に収まれば何とか穏やかに生きていかれるだろうに、あえて男の進む職人の道を選んだり、一旦決まりかけた縁談を断ったりと自分の生き方を貫くというのは現代以上に摩擦を生み、困難な道のりだろう。それでも信念を持ち、敢えてそれを進んでいく、登瀬。
    何が起こるでもない、辛いことの方が多い、一人の女の人生を辿って行く。

    一生懸命生きなければ、何かに絡め取られてしまいそうで、ひたすらに自分の道を踏みしめて歩いていく。
    時代に名を残すようなことはなくても、毎日を精一杯生きていくことの力強さをや潔さが、どの場面にも溢れている。自分の脚で大地を踏みしめて、しっかりと前を向いて立つことの難儀なこと。
    寄りかかってしまえば、信念をちょっとばかり曲げてしまえばずいぶん生き方も変わっただろうけれど、無器用さがなんとも愛おしい。

    楽してばっかりの毎日を反省中。
    愚直に生きるって根気と自分への信頼が必要なのかも。
    少しばかり背すじをぴんと伸ばし、視線をぐっと起こして、仕事をしようと思った。そうした些細な変化が日々積み重なって何らかの形を成すのではないか。3年後くらいには今とは違う風景が見られるようになっているのではないか。
    そう信じさせてくれる登瀬の生き方である。

  • 表紙に目を奪われました。
    雪の中で春の訪れを告げる黄色い花にしばし見惚れたのち、ゆっくりとページをめくりはじめました。
    そして、またしても木内さんの物語に圧倒されたのでした。

    舞台である藪原宿は中山道の宿場町で、現在の長野県木曽郡にあたります。
    江戸時代、この山に囲まれた地ではお六櫛を作り、生計を立てる職人が多く暮らしていました。
    ここに生まれ育ち、櫛挽として抜きんでた腕を持つ父に憧れる少女・登瀬が本書の主人公です。

    父の業を継ぎ、一人前の櫛挽職人になりたい登瀬。
    しかし当時は、櫛挽は男の仕事、女は嫁に行って家庭を守るのが当然であり、その当然をはずれることは周りから白い目で見られることでもありました。
    また、後継ぎであった末の弟の死により、家族の中にも少しずつ裂け目が生まれていたようです…

    時代は幕末、日本は黒船来航を契機に大きな変化を迎えています。
    同じ時の流れの中で、家族が、周囲が、そして自分自身が変わっていく…
    社会の動きと山間の町に生きる人々の日々の営みを添わせて描いていく巧みさに脱帽しました。
    決して派手な物語ではないのですが、ひたひたと押し寄せる波にゆっくりと満たされていくような、そしてその波が身体の芯まで浸みこんでくるような感じ。
    何度も涙ぐみそうになりながら迎えた最後の場面、とても静かな情景であるはずなのに、全身がゆさぶられるような幸福感に包まれました。

  • これは良かった。時代小説に心うたれたのはずいぶん久しぶり(宮部みゆき「おまえさん」以来?)。幕末を描いて、こういう切り口があったのか!とたいそう新鮮だった。

    物語自体はいたって地味だ。舞台は木曽の宿場町、名人である父の後を追い、一筋に自分の櫛作りを追求する娘が主人公だ。読み出すとたちまち、この登瀬という少女にひきつけられた。まっすぐで、不器用で、優しい。「櫛挽」への熱い思いを持っている。櫛挽は男の仕事。父の作る櫛に魅せられ、その道を歩みたいと切望する登瀬だが、現実は厳しい。その困難な道のりが、家族や村の人々との関わりの中で、丁寧に、時にいたたまれないほど身に迫って描かれていく。

    何より素晴らしいと思ったのは、登場人物一人一人の造型が巧みで、陰翳と厚みをもって感じられることだ。登瀬の父吾助、母松枝、妹喜和、とても立派な人たちというわけではないけれど、みなそれぞれに、切ない。死んだ弟が連れ立っていた源次、押しかけ弟子として登瀬の家にやってくる実幸、登瀬の人生に大きく関わってくるこの二人の描き方も、ありがちな型にはまらない若者像となっていて、しみじみ心に残った。

    さらに、物語が始まった時すでに亡くなっている、登瀬の弟直助。この少年が、物語全体を貫く、強くて明るい芯となっているのだ。それが示されるラストには、胸震える感動がある。ああ、こういうことだったのかと、深々と満足して本を閉じ、余韻に浸ったのだった。

    登瀬たちの使う木曽の方言がまた、とてもいい。厳しい暮らしを生き抜いている人たちの言葉という確かな実感がある。これもこの物語に奥行きを与えているものの一つだろう。

    風雲急を告げる幕末の情勢の取り入れ方も実に巧みだ。物語の遠景として不穏な気配が書かれてきたのが、あるところで大きく登瀬の人生に関わってくる。また、社会のありようが大きく転換していこうとする、その流れの一端が、櫛というものを通じてさりげなく示されている。いやこれは、振り返るほどに傑作だと思えてきた。ゆっくり読み返したい。

  • 櫛挽き職人の父、互助の仕事に強い憧れを持ち、父の跡を継ぐ夢を抱き続ける娘、登瀬。女の生きる道は、嫁ぎ子を産み夫に従い家を守ることと信じ、それにすべてを賭ける母、松枝。そんな生き方に反抗する妹、喜和。そして早世した弟、直助。
    幕末という時代の流れをとらえながら、家族の苦難と幸せ、生きる道を描いた作品。

    兄弟の死が家族の在り方に大きく影響し、そのことがまた家族を再生させるという点で、つい先日読んだ山田詠美の『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』に似ているかもしれない。

    何か大事件が起こるでも激動の展開が待っているでもなく、十年以上の年月が淡々と流れていく。仕事、家族、女として、一人の人間としての幸せ、夢。迷いとまどいながらもひたむきに生きる登瀬の姿に無性にひきつけられ、一気に読んだ。

    年月を重ねることで、身体的成長だけでなく、内面も確実に変わっていく。時を経て、失われるものもあるが、得られるものも確かにある。
    凍り付いていたものが、様々な苦難を乗り越えた後にふっとゆるむ、そんな登瀬や家族の姿がとても素敵だった。

    木内作品はいくつか読んだが、本作がダントツかも。ここ一年くらいの間に読んだ小説の中でも一番かもしれない。

  • 新聞の書評欄での、数々の讃辞により、ぜひ読んでみようと、書店で探し求め遂にゲット。
    題名、内容、装丁、ともに地味目ではあるが、好書に間違いなし。
    幕末の喧騒とした世相の中で、困難に打ち勝ちながら、父の櫛挽の技を受け継ぎ、自らも技を究めんとする主人公の真摯な生き方、頁を繰るごとに、たちまちその世界に取り込まれてしまった。
    そして、清涼なる読後感。
    中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、数々の賞を受賞したことも、宜なるかな。

  • 村一番の櫛職人の父を尊敬し、その腕に憧れを抱く少女。
    しかし、櫛をつくるのは男の仕事。
    それでも櫛への気持ちを捨てることはできなかった。
    こう書くと自分の望む道を自分で進む朝ドラ的ヒロインのお話かと思ってしまうのだが、読んでみるとちょっと違う。
    最初から弟の死という重い出来事を抱え、コミュニケーション不足からくる家族間の感情のもつれなど、
    なかなか作品通して鬱鬱とした雰囲気。
    結局は何を言われても、迷っても、どうしても櫛の道から
    離れることはできずひたすらにその腕を磨いていった登瀬だったが、その櫛の道でさえ、天賦の才をもっている男の出現で、その心はひりひりと焦燥にもえる。
    この男、見た目はいいもんで、もしや登瀬の相手役になるのか、と思ったが、まあ、結局は夫婦になるわけだが、
    それは惚れたはれたの結果ではなく、恋愛メインは源次。
    この子、最初はなんか卑しい子ども、とゆーイメージだったので、その後の展開は少々意外でもあったのだが、
    なかなかの純愛ものだった。
    それでもあの綿入れを登瀬はいつか身につけるのではなく、
    大事に仕舞い込むのだろうと思う。

    嫁として母として当たり前に生きたかっただけだったろうな母は知らず娘の心を傷つけ、喜和の心は家族から離れていった。それでも、冷遇されている婚家での姉妹のひと晩はどこか心あたたまるものがあった。

    直助の創作物が登瀬を救う。
    けれど、そんな彼が生きていたら、この家族はもっと幸せに生きられただろう、としみじみ思う。

    自らの技術をかりものだから、次へ伝えなければと言う吾助はいかにも職人気質。こーゆー考え方は好き。
    日本の職人、とゆーことでなく、なんにしろ、
    なにかを極めた人とかは、結局は無私の境地に達するのではないだろうか。

  • ひたむきに「櫛を挽く」父の技を受け継ぐ、
    その想いに生きる主人公が、ときに不器用で
    ときに凛々しくて、胸がしめつけられたり、
    哀しくなったりして目が離せない。

    弟への思慕から生まれかのような、
    淡い恋心のような想いの成り行きは、
    読んでいて切なく、遠い日の人を想う心を思い出したり。

    爽やかすぎて、内に秘めたる何かがあるのでは
    ないか…と、読みながら、悪いことが起きませんように
    と祈りつつ読んでいた夫の、本当の気持ちが垣間見えたとき、そしてそれが夫婦の絆のようにあらわれたとき、
    胸が熱くなった。

    ひたむきに生きていこう、そんなふうに思った。

  • 歴史の本流と、そこではないどこかに暮らす人々を描く『ある男』の流れをくむ作品です。これを追求した木内さんの傑作だと思いました。
    今回は木曽の山奥で櫛を作る親娘の話です。素朴だが名人技を持つ父と、女でありながら才能を持ち、父の技を受け継ぎたいと願う娘の人生を描きます。
    中央とは無縁の田舎と思っていても、尊皇攘夷の風が吹き、和宮の婚礼が目の前の街道を通り過ぎていく。そこに住む人々も、否が応でもその流れに足をとられていく。そんななかで、ひたすら父の名人芸を会得しようとする娘。夫となった男は商売上手で家の家計を助けるが、それでも父の櫛に固執するあまり心が離れていく・・・。彼女の目で語られていく物語のなかで、あるときふっとそれまでの認識がゆるやかに反転していくくだりは、ぞくっとするほどの描写です。リアルに生きてきた感性が、迫ってきます。

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櫛挽道守の作品紹介

幕末の木曽、薮原宿。才に溢れる父の背中を追いかけ、一人の少女が櫛挽職人を目指す。周囲の無理解や時代の荒波に翻弄されながらも、ひたむきに、まっすぐに生きる姿を描き出す、感動の長編時代小説。

櫛挽道守のKindle版

櫛挽道守の文庫

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