- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087715590
作品紹介・あらすじ
維新から太平洋戦争、サリン事件からフクシマ第1原発爆発まで、無責任都市トーキョーに暗躍した謎の男の一代記! 超絶話芸で一気読み必至の待望の長編小説。世の中、なるようにしかなりません!!
感想・レビュー・書評
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内容はまさにタイトルどおり。幕末から現在に至る日本があまたの無責任な欲望によって形成され、また滅びつつある様を戯画的に、漱石的な文体で飄々と描く。冷淡なユーモアで淡々と綴られるこの物語は、読み進めるほどに怖くなってくる。
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クールなイメージの奥泉氏の熱のある大作。
やはりこれは地方出身者にしか書けない神話だなぁ。
いわゆるところの町田的な東京(郊外、都下)で生まれ育った自分からすると《東京》なんて、すでに存在しないのにナァ。
地方出身者だけが、東京を概念として捉え、物語化できるのかもしれない。
とはいえ幕末から戦前を描いた柿崎、榊の章では語り口といい無責任すぎる地霊ちゃんの有り様が可笑しくて可笑しくて…ページを繰る手が止まらなかった。特に築地の白浪猫コンビには尻尾がピリピリシビれた〜。
曽根から戸部まではちょっと中弛みしたものの、最後の郷原の章は畳み掛けるような鼠ウェーブに息絶え絶えに。凄いなぁ。傑作だな。
マア個人的には他の奥泉作品に比べて、伏線回収がしつこ過ぎ、話もまとまりすぎなところがちょっぴり不満なんだけどね。
池田小事件まで回収するのはどうなのかなー。平成以降日本全国の地方都市が総東京化(町田化)わからないでもないが大阪だけはあり得ないように思うのだが…。 -
2015/1/6読了。
「私」と自称する地霊に東京を擬人化して、幕末以降の近現代史を自叙伝として語らせるという凝った作りの小説。現代に近づくにつれ日本全体が東京の劣化コピーとして均質化してきたことを考えると、これはつまり日本の自叙伝と言っていい。
非常に楽しく読めたし、よくできた小説だと思った。なるようにしかならぬと言い放つ「私」の無責任さに憤ったり笑ったりしながら、でも結局、俺もそうだよなと思う時、本書に頻出する「それは私です」は「これはお前だ」と読みかえることができる。確かにこれは上質な皮肉の文学だ。
その辺りの皮肉はバブル期以降の後半にいたって凄みを増す。「私」の拡散や記憶の混濁、非個性的な営みに溺れている間だけの安息感、事件がただ羅列されていくだけの歴史認識など、平成以降の社会に生きる体感、つまりは日々を流し読みするような感覚が非常によくシミュレートされていると思う。
ただ、皮肉とは相手が皮肉だと理解してくれないと、皮肉として機能しないという皮肉な現実がある。本書が皮肉を投げつけたい相手は、こんなことは百も承知だから皮肉とも思わないだろうし、せめてその次に投げつけたい相手は一番本書の皮肉を理解できない人々だ。そのことは作者もわかっていたと見えて、最後の最後ではっきりと言葉にして書いて傍点まで振っている辺り、小説家としてなりふり構っていられない、皮肉を通り越してほとんど怒りのようなものさえ感じられる。 -
ブログに掲載しました。
http://boketen.seesaa.net/article/412597182.html
6人の主人公がでてくる連作小説。
これがまあ、読んでいて笑っちゃうようなイヤな奴ばかり。姑息、卑怯、手前勝手、無責任…小汚い悪徳にまみれた6人の主人公が、明治維新から3・11大震災までの各時代を生きているさまを、ひとり語りする。とぼけた、独特の小狡さを感じさせる語り口なんだけど、読むのをやめられない。作家の芸です。
実はこの6人は、東京の地霊が憑依したものたちで、いわば同一人物の転生ともいえる、という設定。「東京自叙伝」というタイトルは、そこからきている。 -
「それは私です。」ストーンズの『悪魔を憐れむ歌』やピンクレディーの『透明人間』を思い浮かべていただければ、まぁそんな感じです。それにも増して面白いのは、主人公が東京(の地霊)であること。優柔不断なトーキョーシティ、主体性のカケラもなくコロコロ転がる石ころの如く。火事と祭と喧嘩が大好きで、夢見から覚めれば現実はけっこう地獄。でもまあ致し方なしと落着。トーキョーそれは私です。あなたもそうです。でもまだトーキョーを諦めたくない。この本のつづきを作るのはそんな私たち次第。なしくずしの暴走を食い止めろ。
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奥泉光の作品は読んだことがなかった。朝日の書評に載っていたのでいい機会だから読んでみました。
地霊がリビドーとなって暴れまわる。その様が東京の成り立ちとして語られている。なかなか面白い発想でした。
私は最近柳田国男全集を読み続けているのですが柳田の自己批判からの帰納法による改善の配慮から世界を見ていくのと対照的に地霊と言う発想からリビドーが織りなす世界をいささか表層的な東京の大事件を絡めながら書かれている。その辺を比較しながら読むといいと思った。
小説はほとんど読まないけれどたまにはいいかなと思った。 -
地霊に東京の歴史を語らせるという趣向は面白い。ただ歴史をすらーっとなぞるだけなので、大きな仕掛けのあることを期待すると肩透かし
でも久々に奥泉光の「奇想」と「話芸」のコンビネーションが楽しめました。昔「我輩は猫である殺人事件」や「鳥類学者のファンタジア」を読んでわくわくした頃のフィーリングがちょっと戻った感じはあります。 -
2023/12/9購入
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この物語に出てくる「東京の地霊」とは?悪意や無関心の総体みたいなもの?「なるようにしかならない」と諦める無気力さからなのか、「対話への欲望や希望が失われている」「鼠人間」とはいったい誰なんだろう?そう言えば宮崎勤事件でも「ネズミ人間」って言葉が出てきていたような…などと色々と考えさせられる作品で読みごたえがありました。
The Rolling Stonesの悪魔を憐れむ歌を思い出したので、この曲の歌詞を書いたミックジャガーが影響を受けたと言われている、「巨匠とマルゲリータ」を再読したくなったな…そして最近の「宗教と政治」の問題ともつながるようで怖いな…