恋するソマリア

著者 :
  • 集英社
4.10
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感想 : 95
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087715842

作品紹介・あらすじ

アフリカ大陸の東端に広がる“世界一危険な地"ソマリア。
そこには、民主国家ソマリランドと海賊国家プントランド、内戦が続く南部ソマリアがひしめきあい、
現代のテクノロジーと氏族社会の伝統が融合した摩訶不思議なソマリ社会が広がっていた。
西欧民主主義国家とは全く異なる価値観で生きる世界最大の秘境民族=ソマリ人に夢中になった著者は、ベテランジャーナリストの
ワイヤッブやケーブルTV局の支局長を勤める剛腕美女ハムディらに導かれ、秘境のさらに奥深くへと足を踏み入れていく。
ある時はソマリランド初の広告代理店開業を夢想。
ある時は外国人男子にとって最大の秘境である一般家庭の台所へ潜入し、女子たちの家庭料理作りと美白トークに仲間入り。
ある時は紛争地帯に迷い込み、銃撃戦に巻きこまれ……。
もっと知りたい、近づきたい。その一心で台所から戦場まであらゆる場所に飛び込んだ、前人未到の片想い暴走ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 早大探検部出身、あの「謎の独立国家ソマリランド」を著した高野秀行氏による同著の続編とも言える1冊。
    アフリカ東部に角のように突き出たかつてのソマリア。ソマリア国は1991年に崩壊し、20年以上無政府状態だったその地域に入っていったのが著者の前著だったのですが、本著は更にソマリ世界の深くに入り込んで、どっぷりと浸かっていく印象。
    こうして本として読むとまぁとにかく滅法面白くて、しかもこれはフィクションではなく、著者自身が最前線に立っているノンフィクションなのです。もし自分が著者と同じ状況に置かれたとして、同じ行動が取れるだろうか・・・無理です!

    例えば、戦闘が続くモガディショの滞在には、護衛の兵士や車代で、1日あたり$500超を払う必要があるのですが、その街を複数回訪れた上で、モガディショ市内を出たい(当然、市外の方がずっと危ない)と思ってそれを実現してしまう…。
    著者がそう思った理由などは本著で良く説明されていて、それぞれの個別の理由は実によく筋が通っているのですが、一見道理が通っているミクロの理由を積み重ねていった結果、マクロ的にどう見てもおかしい/危ない事態に陥っている不思議。
    外務省の人からしたらマジギレ案件なのかもしれませんが、ソマリアにはもう大使館無いしなぁ…(ケニア大使館が管轄しているようで)。

    著者が無政府状態のモガディショを指して表現した言葉は「(電気・水道やネット、交通までが民営で)本当に何でもあり、ないのは政府くらいだったので、私はここを『完全民営化社会』と名付けた。軍も民営化されていると考えれば辻褄が合う。」という表現。
    すっごい的確だと思うんですが、自らが危険に晒されている状況下でこういう謎のユーモア表現が出てくるって、凄い。凄いし、笑えるんですが、どこか間違ってるような感も…。

    ただ、著者の表現の的確さは他のところでも存分に発揮されていて、例えば「人間関係を形作る内面的な三大要素は『言語』『料理』『音楽(躍りを含む)』」というのは全くその通りだと思うのです。
    こういった洞察と、稀有な行動力が生み出す展開、それを的確に伝える表現力、本著ではこれらが三位一体となって、読みだしたら止まらないくらいの疾走感を生み出しています。
    著者に関しては、テーマのある研究よりも、好きなものを、著者が旅する中で自由に見て考察してもらう本の方が、面白いように感じました。
    完全な非日常を旅した気分になれる1冊。ただ、かと言って「ソマリア行きたい!」とはなかなかならないですが(笑

  • 「恋するソマリア」
    なんと思わせぶりなそそられるタイトルだろう
    前回のブータンに続き、高野さんと一緒に旅して、そこまで高野さんがソマリアに恋い焦がれる訳が知りたいなと思い手に取った

    期待を裏切らないおもしろさと度肝をぬかれる事件?事故?にも遭遇、やはりこの人は一筋縄ではいかないノンフィクションライターだった

    ソマリアは、アフリカの東部、サイの角のように突き出た通称アフリカの角と呼ばれる広大な土地にある国だが、ソマリアとして存在したのは1991年までで、この本が書かれた頃は国際的には認められていないが、独自に内戦を終結させ民主主義を達成した「ソマリランド」、海賊が猛威を振るう「プントランド」、イスラム過激派のアル・シャバーブと暫定政府軍との戦闘が続く「南部ソマリア」の三国に分かれている

    それぞれのお国事情のあまりの違いは、かつて同じ国だったとは思えないくらい

    ソマリ人の素の姿が知りたい、ソマリに自分のことを認めてもらいたいの一心でグイグイと厚かましいばかりに現地の人に食い下がっていく根性、その甲斐あってか普通ではあり得ないことが次々実現する

    その国を知るには、その国の家庭料理を知ることがモットーの高野さん、何とか若い女性二人に家庭料理を教えてもらったのはいいけれど、「結婚して日本に連れて行って」とせがまれる羽目に
    親族以外の男性の前では絶対頭の布をとらないソマリ女子が高野さんの前では布をかぶらず、綺麗に編み込まれた素髪を見せる
    テレビの音楽に合わせて踊り出し、「ビデオを撮って」と言い出す始末、イスラム教徒とは思えない若い女性の奔放さに笑えた

    旅も終わりにさしかかり、南ソマリアを訪ねた際、高野さんが乗っていたアミソム(アフリカ連合軍) の装甲車がイスラム過激派アル・ジャバーブの襲撃に遭い、命を落とす羽目にもなりかねなかったこと

    所変われば、品変わるの話の数々の中で、一番興味深かったのは、「カート」
    はじめ、何かを運ぶ車かなと思ったら、何と和名アラビアチャノキという木の葉っぱ
    この若葉を生でバリバリ食べるとやがて清々しい気分になり、周りの人全てが自分の愛しい人と思えるらしい
    酒やタバコの類なのかなと思うが、一人ではやらず、誰かの家やたまり場などでやり、マフラーシユというカート宴会場まである
    これをやると、ひどい便秘になるので、ラクダのミルクが欠かせないというおまけつき
    便秘に苦しむ様子も気の毒だが、大爆笑!

    大の大人が輪になって、葉っぱをちぎってバリバリ食べているなんて日本では考えられない!

    物語の世界が大好きで小説を読むことが多かったが、ノンフィクションのおもしろさを実感した
    日本から遠く離れた国で、たくましく生きる人々の息遣いが感じ
    られた

    アフリカの国々のことなど何も分かってなかったなと思い知らされた




  • いやあ、これはたまげた! 高野さん、危機一髪だったんじゃないか! こんな目に遭ってたとは。ブログやインタビューなんかではほとんど語ってなかったのでは? 待ちかねていた二年ぶりの新作は、まったく驚きの内容なのであった。

    タイトルからして、「謎の独立国家ソマリランド」のゆるめの(ほめ言葉です。念のため)後日談的なものだと思って読み出した。実際、終盤まではそういう感じで、高野さんが再び三たびソマリランドや南部ソマリアを訪れたときの、変わったり変わっていなかったりするあちらの様子が書かれている。おなじみワイヤップやハムディたちと再会し、ずいぶん治安の良くなった南部ソマリアで念願の家庭料理を習ったり、人気歌手に会いに行ったり。

    前作ではソマリランドの特異な政治経済状況に驚かされたのだが、今回は、「素の」ソマリ人の生活を知りたいということが興味の焦点となっている。これが思いの外難しくて苦労しつつ、でもまあ、そこは高野さん、普通はよそ者を決して入れないソマリ家庭の奥にまで入り込み、普段の姿をばっちり見てくる。このあたりは独壇場。特に女性たちの姿が活写されていて楽しい。

    一般のムスリムについて、私たちが知っていることはあまりにも少ない。特に「ソマリ人社会」については、そういうものが存在することすらまったく知らなかった。世界中どこへ行こうがソマリ社会の枠の中で生きるほどの強固なつながりを持ちつつ、いくつもの国に分かれているソマリ人。「氏族」というものが争いの種であり、同時に平和をもたらすものともなっているという。そのありようはまったく興味深い。

    自分たちから見て理解しがたく、常識では計り知れないと思えることでも、その民族・宗教をよく知れば、そこには一貫した論理があり、伝統に従った行動規範がある、と高野さんは書く。イスラム社会との軋轢が高まりつつある今、そういう視点は実に貴重だ。同時に、世界は広いなあ、異文化というのはそう簡単に理解できるものではないのだなあとしみじみ思う。

    わたしにとっては、高野さんの一連の著作ほど、イスラム社会について理解する手がかりをくれるものはない。今回なるほどなあと思ったことの一つが、民主主義選挙についてだ。エジプトの事態をはじめとして、イスラムの国では、民主的に選挙が行われたのに混乱が深まったりするのはなぜか、疑問に思ってきたのだ。簡単に図式化すると、宗教による抑圧を嫌うインテリが民主主義を持ち込む → 選挙が行われる → 宗教は選挙には強い(インテリは理想主義で団結しにくい) → イスラム厳格派が政権をとる → 世俗派が反政府活動をする → 政府が弾圧する、ということのようだ。「民主派は民主主義選挙では弱い」というこの皮肉。エジプトなんか軍と結託してしまった。うーん。

    あ、もちろん、高野さんの本なのだからして、笑いももれなくついてくる。とぼけたエピソード満載だが、最高なのはモガディショで便秘に苦しむくだり。悲願だった南部ソマリア初見学の日だというのに、「覚醒植物」カート摂取の副作用である極度の便秘に苦しむ。ソマリアで初めて畑や川を見たり、長老たちの話し合いを間近に見たり、願ってもない経験をしながら、高野さんの頭は「大腸と肛門の異常事態」でいっぱい。「半分尻を浮かせたような、ひょこひょこした歩き方」を想像してかなり笑った。

    と、これだけでも十分面白いのだが、それで終わらなかったのだ。便秘解消(この場面もケッサク)の二日後、とんでもないことが起こるのだ。まさに危機一髪。それは…、いやこれは語るまい。読んでください。びっくりするよ~。

    しかしまあ、フツーのジャーナリストはこういうふうには書かないわなあとつくづく思う。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それをおもしろおかしく書く」というモットーを、まさに文字通り実践している。やっぱり「われらが高野さん」である。

    表紙は「モガディショの剛腕姫」ハムディ。なんともかっこいい!こんな面構えの娘さんってあまりいないだろう。オソロシイまでの行動力と胆力。こういう人がいるんだなあと感心する。また、「おわりに」でふれられる元ソマリ海賊である受刑者とのエピソードも印象的だ。待った甲斐のある一冊でした。

  • “謎の独立国家ソマリランド”の続編の位置付け。
    前作は、氏族の詳細説明など複雑で中々頭に入ってこない部分も多かったが、今回は冒険譚として読みやすかった。
    ソマリ女子とやりとりしながら家庭料理を体験する場面ではほっこり。イスラム過激派が跋扈する“南部ソマリア”の旅路では、危険な場面と抱腹絶倒場面の、緊張と緩和の落差が半端ない。
    著者の行動力と表現力にはただ感服するばかり。

    “ハムディ”のその後が気になるなぁ
    続編を期待!

  •  前著「謎の独立国家ソマリランド」に続き読んだ。前著でラクダ・キャラバンを匂わせていたが、そうではなく、今回は主に南部ソマリアへの旅である。日本に来ているソマリ人留学生と現地南部ソマリアが繋がる様が妙である。著者のお遣いがなんといっても心にくい。
     前著同様に著者の行動力には脱帽するが、現地の情勢や人の動向のめまぐるしい変化にも驚く。
     ホーン・ケーブルTVの剛腕ジャーナリスト ハムディがあっさり、大学で勉強して母国で政治家として貢献したいという思いで、難民としてノルウェーに行ってしまう行動力にも感服する。若い力を感じるうえに、世界はこんなにも動いているんだ、と感じた。
     人間模様が興味深く、単なる興味だけでなく応援する意味で、また続きを書いて欲しいと思う。

  • http://www.geocities.jp/keropero2003/hikounin/somaliland.htmlここで読んで依頼気になっていた国ではありましたが、実際に行かれた人がいたことに驚きです。ジャーナリストという職業の本髄をみた気がします。

  • 前作よりさらに病的になった筆者の「ソマリ愛」が伝わってきました。ワイヤップとハムディのキャラクターもさらに掘り下げられていて、2人を通してソマリをさらに理解することができました。今作は、南部ソマリアがメインで、前作では語られなかった南部の普通の暮らしを垣間見ることができました。また、どの世界も宗教と政治は切り離せないこと、現地民と心を通わせるには、言語を習得することが大切なんだなあと思いました。ただ、南部ソマリアは非常に危険な状況なので、行きたいとは思いませんでしたが…。

  • 前作?はソマリの文化というか氏族の説明を延々とやっている節があり、中々のめり込めなかったが、今回は第二弾ということですっと入ってこない部分の説明はなく、いつもの著者のノリで話が進んでいく・・が、結構血生臭い話になったり、かなり危険なことになったりするが。

    P.118
    いい人はなかなか強い人にならない。そして強い人はなかなかいい人になってくれない。それは万国共通なのかもしれない。

  • 『謎の独立国家ソマリランド』と一緒に読んだのでより楽しめた。ハムディの決断にびっくり!

  • この方、人としてはとても興味あるけれど、本自体は微妙です。ただソマリアのことを日本人目線で書いている本は少ないのでそういう意味では貴重。

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著者プロフィール

1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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