イノセント

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087716566

作品紹介・あらすじ

幼い息子とふたりきりで生きる女性・比紗也は、対照的な性質の二人の男と出会う。複雑な過去を抱えた比紗也を、二人はそれぞれの想いから救おうとするのだが──。鮮烈な印象を残す傑作長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 一人の女性と二人の男性の複雑な関係。さらに娘と父親(義理の父親)との関係。

    前回の「アンダスタンド・メイビー」でも、娘と父親との関係に強烈な違和感があった。そして、今回も父と娘の関係に対しては、さらに気持ちが萎えた。自分が想像すらできない世界。世の中の深さ、人間の複雑で、単純で、野性的な心理を考えてしまう。

    主人公の女性・徳永比紗也はネガティブ思考だ。自分は不幸である…幸福にはなれないと幸せから逃げている印象がつきまとう。悲しい過去を背負っている。父との淫乱な関係。それでいて、男性には年齢的に世間知らずで、無垢に映るのであろうか…

    本作は、会社を経営し、女性には不自由しない真田幸弘と、女性からは縁遠い、神父・如月歓が比紗也の人生に絡んでいく。この対照的な2人の比紗也を思う気持ちのコントラストと、その調和がこの物語の深さを出している。
    環境も、性格も、社会的な立ち位置も全く異なり、共通点がない男性2人が、普通ではない(普通なら逆に魅かれることもないかもしれないが)女性をめぐり、今までの自分の生活を投げ打って、考え方、行動を変えていく。

    ふたりの心を捉えて、こんなにまで、自分のことを考えさせる比紗也に、そしてふたりの人生に大きく負担をかける比紗也が、正直、最後まであまり好きにはなれなかった。

    それでも、本作は、そんな恋愛経験の異なるふたりの男性とひとりの女性との恋愛の話で、人生の中で人を愛することの意味を味わえる、、それはひとりの女性に想いを寄せる男性の恋愛を描いた小説のように思え、読後の満足感は高かった。

    透明感のある恋愛小説ではなく、登場人物がそれぞれに癖があるうえに、内容が濃かったため、読み終えた直後は、少し重かったが(アンダスタンド・メイビーよりも重くはないが)、純粋に恋愛小説だなぁと、少し経ってからの方が感じることができた。

    真田の女友達・猪瀬桐子(キリコ)が真田に言った「女は百歳になったって、自分が一番で特別だと思いたいの。理屈や正論は男同士の言語でしょう。」、「真田君が求めているのは対等じゃない、なんだかんだで自分が優位に立ちたいのよ。別に責めてるんじゃなくて、男の人はみんな、そうよ。女より優れてるって微塵も疑っていない。ましてや若い女の子相手ならね。でも、そんなのつまんないことでしょう」が、なんだかとても心に響いた。キリコが何も考えていない女性だと思っていたのに、実はそうではなかったと思え、脇役ながらいい味をだしているなぁと、思えた。


    最後に、、比紗也が最後に逃げ込んだ女子修道院が函館であったので、「トラピスチヌ修道院」なのかと、気になってしまった。(逃げているなら、こんなに有名な修道院には逃げ込まないか…)

  • 消せない傷を抱く魂にも、いつか救いは訪れるのだろうか…。

    東京でイベント会社の社長をしている真田は、出張先の函館で、
    一人旅をしていた若い女性比紗也と出会う。
    比紗也は仙台で美容師をしている事、婚約者と来る予定だったが彼が来られなくなった事。
    妊娠している事を話し、二人は食事をして別れた。
    数年後、真田は自身が企画した婚活パーティで比紗也の姿を見付けて驚く。
    今は、東京で美容師をしていて幼い息子と二人で暮らしていると言う。
    真田は比紗也に強く惹かれていく…。
    カソリックの修道院で神父をしている歓は、病院で回転扉に指を挟まれそうになった所を
    比紗也に救われた。
    ボランティアで髪を切りに来た比紗也と再会した歓は、彼女を守りたいと決意する…。
    彼女を二人はそれぞれの想いから救おうとするが、
    二人が気付く事の出来ない深い絶望を抱えていた…。

    人間と人生に絶望し続けてきた比紗也。
    そして、男性を信じたくても信じられずにいる比紗也。
    女性にだらしない真田。
    女性に畏怖の念を抱き続ける生真面目な歓。
    読み始めからしんどかったなぁ。
    比紗也と真田のだらしなさ…。
    比紗也が何を思い何を考えているのか全く分からず…。
    何か、とっても重いものを抱えて凄く心を閉ざしているのは感じたが、
    それが一体何なのかわからないし、だらしなさも嫌悪感を抱いて、全く共感出来なかった。
    しかし、二人が少しずつ向き合って幸せになれるって思ったら、
    どうしてそっちに戻ってしまうのって歯がゆかったり、
    自分から不幸に落ち込んで行こうってしてるんじゃないかって思った。
    うーん、これに東日本大震災を絡められちゃうと…辛い(´⌒`。)
    幸せになって欲しいって心から思った。
    歓が中学卒業後神学校に入ったのは、頭の中で別の声が聞こえるから…。
    双子で産まれるはずだった歓。育つことが出来なかったもう一人が頭に居るの…?
    その声は、歓の生真面目さを嘲笑い、悪い事をしろと囁いたり…。
    それは、凄く興味深くって歓が比紗也を愛した事でどう変化するのかワクワクした。

    そして、最後に希望がしっかり見えて
    ハッピーエンドだったのは嬉しかったし、ホットしました。
    でも歓は、辛いよね…あれで良かったのかな…。

  • あまり期待していなかったけどぐいぐい読んだ。淡々と進んでいく中で突然ぶん殴ってくるいつもの容赦ない感じでなく、感情だだもれの話で新鮮。こういうのも好き……というのが前半までの感想。このスタンスを保っていてほしかった……。後半ただのメロドラマでがっかり。あまりにも陳腐。「ラブストーリーが書きたかった」という著者の本意には沿っていて実力があるんだなとは思うけど。

  • 島本さんらしい作品だと思った。
    こうすれば幸せになれるのに….と、読者の立場から思う行動をなかなか取らない比紗也。
    じれったくなる、自分から不幸の道を歩んでるようにみえてしまう。
    でもこれが、比紗也がしんどい環境の中生きてきて、身につけた生き方なんだと思う。
    人を信用すること、日の当たる場所を歩くこと、親と距離を取ること、どれも生まれ持ったものじゃなくて、身につけていく能力だから。
    真田、歓、美容院の店長、それからシスター達がなんとか力になろうとしてくれていること。
    何より愛しい子供達の存在で、少しずつ変わりゆく比紗也のラストシーンは希望が垣間見えた。
    不安定な環境の中、紡がまっすぐ育ってるのは頼もしい。
    比紗也が、紡に対しては安定して関わってることが想像できる。
    比紗也と真田二人きりでもちょっと心配で、歓を含めいろんな人に見守られ支えられながら生活してほしいなと思いを馳せる。

  • 主人公の境遇は恵まれないことばかりだけど、自身を省みずに助けようとしてくれる男性の存在が尽きない。自分の力で運命を切り拓くというよりは、男性が救いたくなってしまう天性の何かをもつ女性の話、という読後感。ストーリーとしては面白かったし、読めない展開に興奮しながら読んだ。

  • 読みやすかった。
    すんなり行かなくてもどかしかったけど、ラストは良かった。
    キリコと店長。サブキャラが素敵。

  • 久々にエグいテーマ(個人的に)のものをひいてしまった、と思ったけど(シングルマザー、近親相姦、震災ものだし刃傷沙汰まで出てきてもう何がなんだか)、タイトル通りイノセントなものが根底に流れる物語だった。ラストのまとめ方が願った通りのハッピーエンドできゅんとする。

  • 2011年初めの函館での真田と仙台から来た人懐こく魅力的な若い女性・比紗也の偶々の出会いから物語が始まる。それぞれにいろいろな経験をして渋谷での再会。しかし、それから更にあまりにも劇的な展開が待っていた。カトリックの神父・歓、真田の学友時代からの付き合いのキリコ、美容院の店長などが登場し、彼らも含めてそれぞれが人への不信を持たざるを得ない陰影を含んだ人生を感じさせる。そしてやはり最後は函館。感動的な結末ではあるが、カトリック、修道院の扱いについては、そんなことが可能なのかとやや不自然さはあった。

  • 未婚の母となった若い女性と、彼女を支えようとする二人の男性の痛々しい恋愛物語。

    不幸な生い立ちの子持ち女性、イベント会社を経営して女性には不自由しない都会の大人の男、対照的に聖職者である青年など、わかりやすいキャラクター設定と展開で、前半はテレビドラマのよう。
    途中からそれぞれの過去やキリスト教の神の存在などをうまく絡ませて、重みが出てきたかと思いきや、ラストに向けての波乱からはまた作り物めいてしまった。神父や義父はよいのだが、肝心な地に足のついていない男には魅力もリアリティも感じられなかった。

    軽い恋愛もののイメージが強くて未読の作者だったが、他作品で直木賞候補に挙がったのを機に本作を手に取った。過去にも芥川賞や直木賞の候補作があるようなので、もう少し読んでみたい。

  • 島本さんによくある題材だが読んでしまう…。

    主人公には守ってくれる男性が二人もいる。
    彼女の過去には同情ができるが、かといって傷つけていいわけではない。
    母親の設定は無理がある気がする…こんなに軽々とあっちこっちに預けられる?
    妊娠してても黙って消えられるの?

    如月神父がただただいい人すぎて、気の毒になった。

    いい終わり方でした。

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著者プロフィール

1983年東京都生まれ。2001年「シルエット」で第44回群像新人文学賞優秀作を受賞。03年『リトル・バイ・リトル』で第25回野間文芸新人賞を受賞。15年『Red』で第21回島清恋愛文学賞を受賞。18年『ファーストラヴ』で第159回直木賞を受賞。その他の著書に『ナラタージュ』『アンダスタンド・メイビー』『七緒のために』『よだかの片想い』『2020年の恋人たち』『星のように離れて雨のように散った』など多数。

「2022年 『夜はおしまい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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