- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087732627
感想・レビュー・書評
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X地点,歴史や人生の分岐点.黒人の奴隷サリーの愛か自由かの選択が,選ばれなかった世界をも巻き込んで,過剰な宇宙を形成する.フランス革命後のアメリカ,宗教の支配する永劫都市,ベルリンの壁崩壊後のベルリン,どこも現実の時間軸や世界から大きく,微妙に違えて目くるめく妄想宇宙を構築した.エッチャーの愛が哀しい.
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きちがい小説
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トマスとサリーのラヴ・ストーリーなら簡単だった。
白と黒。支配と隷属。規律と自由。
相対するものが惹かれあい、内包し、反発し、消滅する。それだけ。
生まれ変わっても惹かれあい、内包し、反発し、消滅する。だけだったかもしれない。
愛しているから全てを支配したい。または全てを委ねたい。
愛しているから全てのことから解放してあげたい。または全てのことから自由でありたい。
しかし、モナが、ウェイドが、エッチャーが、サリーの娘ポリーが、ゲオルギーが、時間も空間もランダムに、現れては消えていき、消えたはずなのに現れる。
アメリカ人作家エリクソン(本人?)すら、登場してはさくっと殺されてしまう。
なに、これ?
誰が、何に、どう係わっているの?
消失したところから始まる存在。
娘より幼い母。
ひと廻りして最初に戻ってしまう話は、けれど同じ最初にはならず、メビウスの輪のようにねじれていく。
これはマジック・リアリズムなの?
それともSF?
科学と詩は隣同士にあると湯川博士が言うのなら、純文学とSFも隣同士にあるのかもしれない。
日本の純文学では見かけない構造だよね。
強いて言うなら古川日出男?←彼が純文学なのかもよくわかりませんが
一ひねりして最初に戻った物語が、もう一度巡ってきたときはひねりが二つになり、さらにもう一度…。
どんどんひねりの間隔が短くなってきたとき、それが消失した一日Xなのか…な。
“時間の虫食い穴の向こう側に何が現れるか。それは科学の領分であるのと同じ程度に、想像力の領分でもある。”
Xの彼方に救済はあったのか?
空漠の中にも、救済はきっとあったと信じたいのだけれど。 -
15年ぶりに再読。すばらしい。エリクソンの恐るべし妄想の集大成。運命の女サリーを核としたプロットがいくつも絡み伏線を張りながら物語は収束、いや解放へとつき進む。いくつもの時空を飛び越え広がる空間に終始圧倒され良い意味で疲れた。架空都市「永劫都市」や猛獣が徘徊するベルリンの描写も幻想的かつ退廃的で読み応えたっぷり。どんでん返しもあり。怪傑作。
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いやあ、寝かした寝かした。1997年に購入してから約15年、読み終わって「なんで今頃?」と思わず自問自答してしまう、まさに20世紀を終える時期に読むべき本だったなという感想を吐かざるをえない、そんな本でした。
といいつつ、
始まって長々と続く現実的、歴史的描写に、あれ?なんかちょっと違うなあと思い始めていたら、来たきた来たーー!50ページを超えたあたりから時空を捻じ曲げ飛び越えて、何が入れ子なのかどこがどこと繋がってるのかわからないまま、SF的でもあり観念的な文章(官能的でもあるけど)が続く箇所もあるれど、しかしながらすごく読みやすい。きちんと今いるところを理解してればちゃんと連れてってくれるところに連れて行ってくれる、そんな感じでどんどん読み進んでいけました。
最後に至って収束する件はさすがとしか言いようがなくって、そこかしこに見え隠れしていた死のイメージがオルフェウスのメタファーを伴って現れてきたのにはゾクゾクしました。寝かしてすまんかったです。 -
アメリカ建国の父と呼ばれるトマス・ジェファーソンとその黒人奴隷であり愛人でもあるサリー・ヘミングスの話。愛と自由の選択を迫られたサリーは愛を選ぶが、同時に彼女の魂は相反する自由を求めて時空を超えた旅に出る、という史実+SF小説。読んだ後とにかくその面白さとぶっ飛び方に圧倒されてやばい本読んじゃったなーと思ったのだけど、何がそこまで強烈かっていうとまず構造的なところ。ぐわーっといろんな時代や場所へ連れ回されて、とっちらかったままの登場人物や出来事やメタファーを見せつけられて、でも終盤それらが凄い勢いで収束していく。それからサリーやサリーを愛する男たちの情熱が尋常ではなくて、まさに魂で欲してるという感じで胸にぐっと来た。
永劫都市で切ないまでに自由を求めて死んでいくサリーの最期がすごく好き。 -
サリーという女性を巡る、摩訶不思議なおはなし。
突然のタイムスリップに戸惑ってはいるが、
エリクソンの力技は素晴らしい。
1文は短いのに、描写が素晴らしく良い。
言葉でビジュアルを想像させる作家さんです -
アメリカ建国の父トマス・ジェファソンと彼の奴隷であり愛人サリー・ヘミングスのスキャンダラスな関係は、アメリカの歴史の中でも非常に繊細なタブーのようだ。
本書のXとは、さまざまな力や激情の交点のこと。愛と自由は相反する人間の欲求だと、繰り返し著者は綴る。
Xは矛盾したトマスとサリーの関係であり、アメリカのはじまりであり、フランス革命の混乱であり、ベルリンの壁の崩壊であり、2000年の終わりである。また「永劫都市」なる、暗黒の中世を思わせる空想世界にもXはある。運命の女サリーはどこにでも現れ、それぞれの世界のほころびがふと繋がる時がある。そのたびに私はぞくぞくしてしまうのだ。
ほとんど白人にしか見えなかったという美しい女奴隷サリー。彼女が愛の前に身体を開くとき、その内側からは黒さがあふれた、と著者は書く。愛が本能的に奴隷であろうとする欲求をはらむことを、ユニークに表現して印象的だった。
独創的で難解な言葉づかいながら、一行で読む者を独特のビジョンに引きずり込む大変な描写力。きっと柴田元幸さんの訳文も素晴らしいのだと思う。毎日の通勤電車で、きれぎれにしかページを進められない私だけれど、次に本を開くのがとても待ち遠しく、密度の高い読書ができた。