蒲公英草紙 常野物語 (常野物語)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087747706

感想・レビュー・書評

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  • 再読

    常野物語、三部作の二作目。
    シリーズといっても、作品ごとに全く違う雰囲気だったと記憶している。

    この作品の語り、静かな世界がすごく好き。
    東北のとある農村。「蒲公英草子」と名付けられた日記に綴られた、振り返ってみて初めて幸せだったと気付く日々。幾つかの季節。そしてその終わり。

    最後の問い掛けは、読んでいる私たちに向けられているようにもおもえる。この問いに応えられるように、どう生きたらいいのだろう。

  • 常野物語シリーズ2弾目。

    1作目が、常野をめぐる短編集で、彼らの持つ力とそれに伴うもに語りだったのに対し、2作目は、一組の常野とその滞在先の人々、特に村を守るという使命を受け継ぐ一族との交流や事件を描く形式になっている。

    力の出方もしんみりとした感じで、それはそれでよく、終わり方にもつながっていた。

    想いは不思議な力ではなく、人と人で受け継がれ、結び付けられていく、そんな風に感じた。

  • 常野シリーズ2作目。
    第134回直木賞候補作。

    シリーズ1作目でも登場した、無尽の記憶力をもつ春田一家の物語。

    舞台は国内外にきな臭い気配が漂い始める20世紀初頭の、東北のある集落。

    他者の記憶や感情を、そのまま「しまう」春田一家の力とはなんだろう?
    現代ではスマホなどの記憶媒体がその役目をしているのだろうか。
    彼らのような存在が、自分や大切な人の記憶をまるごと受け容れ、預かってくれることで、(当時の)人々は生きた証を残せたような安心感を得たのだろうか。
    しかし、それがどんなものであれ、力がある、ということは、それゆえの使命を背負うものだ。春田一家の記憶力や、遠目、遠耳などの力は、普通の人の預かり知らぬことを見、知ってしまう。だからこそ、時には自らの命に代えてでも、人々を守らなければならない宿命にある。
    常野の人たちの、ある種の諦念のような静けさは、そこにあるのだと思う。

    語り手の少女が、春田一家のことをこう言い表している。
    「世界は一つではなく、沢山の川が異なる速さや色で流れているのでした。~彼らはどうやらそういう流れの一つらしい~私たちとは異なる川で生きている」p117

    異なる川ではあるけれど、私たちのすぐ側を流れていて、時に交わり、また離れていく存在。その安住の地は、果たしてどこにあるのだろうと考えると、寂しさが胸をよぎる。

  • 1作目を読んですぐに読みたいと思い一気に読んでしまった。内容自体は暖かい内容で悪人も出て来ず平和。荒んでしまった時に良薬になる本かな。

  • “私”こと峰子は、幼いころ蒲公英草紙という題を付けた日記をつけていた。そこには隣のお屋敷の病弱だけれど芯の通った美しい聡子さまや、その兄であり峰子を“ねこ”と呼んで悪戯を仕掛けてくる廣隆さま、屋敷にお世話になっている仏師の永慶さま、洋画家の椎名さま、発明家を自称している池端先生、そしてお屋敷に訪れた不思議な一家、春田家の人たちとの出会いと別れの日々が、ひとつひとつの思い出を磨いて並べるように幼いながらに選ばれた言葉たちで綴られていた。
    あたたかでいとおしい日々は、戦争の影がちらりちらりと目の端をかすめていっても一層やわらかでしなやかな光で満ちて過ぎていく。
    聡子さまの言葉にすることさえできないほどの淡い恋を見つめたり、不思議な春田一家との静かな関わりを重ねるさまをたどる。
    そしてその未来の先にある、たしかな現実への着地。
    視界があまりにがらりと変わってしまうことに、眩暈がした。
    峰子さんのあまりに切実な春田家への呼びかけは、どこかで届いていたらいいと願わずにはいられない。

  • 恩田陸さんの本はほとんど読んでますが、かなり好きな一冊。恩田さんらしい世界観や言葉選び。

    オセロゲームの方はあまり好きになれませんでした。

  • 「常野」シリーズの2作目。
    冒頭の語りや描写が少々グダっとしていたものの、中盤からは静かに展開していく話に引き込まれていきました。
    温かく、美しく、哀しい物語です。
    個人的には春田一家の個性をもっと出してほしかった気がします。

  • 最後の場面で、嵐の中を子どもたちを助けるために自分が犠牲になった聡子様を、4人家族の末っ子の光比古が「しまい」、その感情をみんなと共有する場面はとても温かくて泣きそうになった。
    私も最期を迎えるときは聡子様のように、歓喜と感謝の気持ちで迎えたい。

  • 「蒲公英(たんぽぽ)草紙」常野(とこの)一族という、ふしぎな力を持った一族が登場する「常野物語シリーズ」の第2作です。

    とはいうものの、第1作「光の帝国」と直接つながっているお話ではなく、共通するのはどちらの本にも春田という常野一族が登場するところくらいです。

    「蒲公英草紙」は戦前~戦後のお話なので、前作よりも時間軸が前になります。
    主人公は峰子という女性で、峰子がつづった日記・随筆のようなかたちになっています。
    その古めかしい言葉づかいの語りが、その時代を生きる人の存在を懐かしくイメージさせてくれました。

    実はシリーズ第1作「光の帝国」を読み終えてから時間が経ってしまったせいか、第1作のあらすじを、ほぼ忘れていました。
    「第2作を読みはじめれば記憶も戻るかな」と思ったものの、そんな奇跡は起こりませんでした…。
    そのため「しまう」「響く」など、常野一族の能力をあらわす言葉と、その力のイメージも、今回は今ひとつできませんでした。

    1作からの続きと大きく期待して読んだこともあり、静かに進む物語に少々物足りなさを感じてしまったため、最後まで読みましたが☆2とさせていただきました。

    「蒲公英(たんぽぽ)」草紙と主人公・峰子が名づけた理由は、7ページに触れられているものの、「著者はどういう意図でこのタイトルにしたんだろう?」というところが最後までわからず、読み終わってから考えていました。
    そんなとき、ふと蒲公英の花言葉を調べてみたところ、「愛の神託」「神託」「真心の愛」「別離」とあり、「あー、だからこのお話は“たんぽぽ”草紙なのか…」と、とても納得しました。
    「愛の神託」「神託」「真心の愛」「別離」という4つの花言葉をときどき思い出しながら本編を読むと、より物語を味わいやすくなるでしょう。

  • こちらも数度目の再読。
    常野物語の一作目『光の帝国』に出てきた春田一家の祖先が出てきます。

    時は戦前。
    峰子という女性の目線で語られていく物語は穏やかでどこか懐かしく、美しく、残酷。
    春田家の者が持つ力、「しまう」「響く」。
    そして「遠目」がどんなものなのかが良く分かると思います。
    人の紡ぐ想い。
    最後の言葉が、現代を生きる私の胸に突き刺さります。

  • まだ戦争が始まる前の新しい世界に胸を踊らせていた時代。その中で少女時代を過ごした主人公峰子が見ていた日々。その土地に古くから続く名家槙村家に出入りする人々と過ごした幸せな時間とその終わりが描かれてる。
    出てくる人々をとても好きになった。重い病気だけど聡明で勇気のある聡子様、峰子を「ねこ」と呼んでいつも意地悪をしていた廣隆様、小さいながらに自分の運命を当たり前に受け止め「常野」として生きる光比古、ちょっとだらしないけど絵のことから時代のこと国のことまで考えている椎名様...
    この時代を生きてこの村の景色を見たような気持ちになった。「常野」は、この先のこの国に役立てるためにみんなの思いを自分の中に「しまう」。「本当はみんな持ってる力」と光比古が言うのは、槙村の人々がしてきたようにみんなの思いを語り合って後世に伝えることができるということなのかな。
    最後の峰子の問いかけは今の私たちへの問いかけに思える。私たちの国は輝かしい未来に向かって漕ぎ出したはずだった。けれど、日本は負けた。残っているのは飢えた女子どもばかり。これからもこの日本は続くのか、新しい国になるのか、私たちがこれからこの国を作っていくことができるのか、それだけの価値がある国なのか。

  • 再読ですが。
    改めて恩田先生の凄さを感じたというか。
    光の帝国の続編……というよりは、その過去のお話。
    初読では感じていなかったのですが、少女の視点の瑞々しい世界。
    引き継いでいく想い。それが丁寧に精緻に描かれていて。

    かつての日本の原風景。
    そして、さらに富国強兵の後の日本を描いたラスト。
    もう夏休みが終わりますが、ぜひ、中高生が戦時を考えるうえでも読んで欲しい一作でした。

  • これぞ常野物語という雰囲気。「光の帝国」の時よりまだ常野一族以外の人たちとの距離が近かった時代のお話。

    西洋画は瞬間を切り取る、日本画は対象の過去から現在までを読み解く、みたいな解釈が非常に面白かった。そしてこの日本画の方の解釈と常野一族がオーバーラップする。

  • 読み終えるまで、苦労した。
    まったく共感もできず、入り込むこともできずじまい。
    だからなに?そんなことする必要ある?って感じ。
    読みも浅くて、読み返す気もしないからわからないんだけど…
    ふっとばされた子を、どうしてあの子が呼び戻せたのか?親よりも力がある?
    ファンタジー?SF?お伽話?
    想像力が乏しくてごめんなさい。

  • ×

  • 「夜のピクニック」「蜜蜂と遠雷」で、本屋大賞を2度も受賞した直木賞作家、恩田陸。

    この本は、世界の初めには人々が持っていた能力を、他の人々が忘れてしまった後でさえ、持ち続け人類に寄り添って生きた一族「常野」の物語の第2章。

    最初の物語では、あらゆる時空に生きた常野一族を短編風に仕上げてプロローグとし、この第2章は、ちょうど江戸時代から明治時代のニューセンチュリーと呼ばれる時代。

    妻の強い一言で、家財を台車に引いて高台に逃げ、生き延びそしてその僅かな財産で、もう一度村を再建した槙村家の人々を取り巻くお話になっている。

    心臓が生まれつきの奇形で寿命が短かった聡子は文字通り聡明で明るく優しい少女。その槙村家の末娘に、話し相手として屋敷を訪ねる様になったのが峰子、医者の娘だ。

    二人が織りなす濃密な生命の輝く季節の不思議なお話。

  • 常野シリーズ第二弾。第一弾とは違いひとつの大きなおはなし。キャラクターが魅力的だった。

  • 光の帝国とは全く違った雰囲気です。舞台は戦時中の集落で、一人の女性の視点で語られていきます。
    読んでいると暗く重い気持ちになるときが多く、しばらくはこの本を開くこともないと思うのですが、それぐらいに感じさせるもののある作品です。

  • やさしい文体で綴られる。
    タイトル通りのほんわりした雰囲気が全編にあるが、それだけにラストは衝撃的。

  • 文章が美しくてもの悲しくて、
    読み終わりたくないような早く読み終わってしまいたいような、不思議な気持ちだった。
    10年以上前に書かれた本で、舞台も昔に設定されているけれど、「私たちがこれからの時代を作っていくことができるのか、それだけの価値がある国なのか」という最後に書かれていたことは今も色褪せることなくあるテーマで、私も考えたいなと思った。
    あと、その人の歴史を気持ちごと記録するという「しまう」という行為は、超能力だけど、私たちも本を書いたり読んだりすることでできることだと思った。
    図書館で借りて読んだけど、これは手元に置いておきたいなぁ。

  • ああこれは好きだなあ。絶賛するひとの多い“常野物語”シリーズ、小耳には挟んでいたものの、、3部作の2作目からいっちゃった。でも、時系列的には最初の話らしいし。残酷な一面もあることも含め、秀逸なおとぎ話であり、寓話であり。ファンタジーのなかに、胸を刺す棘がちゃんとある、というかんじ。
    絶賛する熱狂信者が多いわりになかなかハマりきれないのが恩田陸さんと宮部みゆきさんなんだけど、どちらもやっぱり食わず嫌いせず読むべきだな、、
    常野の民の物語を読まずにはいられないな、まだ余韻が抜けない。。光比古が“しまって”いた、聡子を“響かせる”あの場面、自分でもわからないくらい泣けてしまった。単純に聡子や家族のおもいに同調したわけじゃなく、物語とはべつの、懐かしくもう会えないいろんな過去の奥底にあるものがしゅっ、しゅっと胸の奥に蘇った。うまく言えないが。琴線に触れた、というやつなんだろう。ひとは過ちも禍いも繰り返しながら生きていて、幸せはてのひらに包んで持っていられるものじゃないんだけど、失ったり傷ついたりしながら先へ進む強さみたいなものを感じられる物語。まだ3部作のまんなかしか読んでないけど。恩田作品の針にかかったきがする、もっともっと読んでみたいな。続き物なんだろうけど、単体でもじゅうぶん読み応えのある1冊。満足。

  • 日露戦争直前の、誇り高き矜持を持っていた頃の日本の話。
    村を守ることを使命と感じるお屋敷の令嬢・聡子と、彼女の話し相手となる峰子。
    峰子の視点で話が進む。
    お屋敷に出入りする人々の貴族的な感じが、三島由紀夫の「春の雪」っぽい。
    その中でも一段と光を放つのが、病弱で長くは生きられないだろうとされる聡子様。
    彼女は遠い昔に村を救ったとされる「常世」の一族の血を引いてか、常を超えた能力を持っている。
    その力ゆえに自分の未来を見通してしまう聡子が哀しい。
    しかし聡子は自分の使命をまっとうする。小説的には、長くは生きられないほど体の弱い聡子にそんなことが可能なのか?というツッコミはあるものの、クライマックスはやはり泣かせる。
    ラストの、太平洋戦争終戦の日、峰子の問いかけが胸に痛い。

  • 2017.4.24

  • 常野物語2作目。
    語り口調の文体。

  • 不思議な力を持つ常野一族の物語。戦前生まれの医者の娘峰子の丁寧な言葉で語られる文章が美しい。常野を主題に置かず、平凡な少女が見た不思議と昭和の激動期の現実、美しくも儚い聡子お嬢様との幸せな思い出をノスタルジックに描き出します。お屋敷に古くから伝わるしきたりを、弱い身体で懸命に守った聡子の姿は、涙なしには読めません。戦争という歪がなければ、里の一族の心意気は日本の確かな財産になったはず。多くの優秀な若者が命を落とした残念な歴史も、人の心と共に春田家は記録していくのでしょう。

  • 2000〜01年に「青春と読書」誌に掲載されたものの単行本化で、本屋大賞受賞作。

    『蒲公英(たんぽぽ)草紙』とはは語り手峰子が戦前の少女時代に書いた日記につけた名前で、お嬢様の話し相手として通ったお屋敷で起こった、不思議な物語が綴られている。

    常野とは、人々を「しまう」不思議な能力をもった一族のことで、お屋敷の当主を訪ねてきた旅する親子4人が、その能力で悲劇にあった人々の心に救いをもたらす。

  • 常野物語シリーズ第二弾。
    第二次世界大戦前の東北の農村。旧家のお嬢様の話し相手を務める少女・峰子の視点から語られる、特殊能力を持つ常野一族の話。
    運命を受け入れ自分の役割を果たす人たち。
    切なく、奥深い話。
    (図書館)

  • 珍しく禍々しさの無い美しい作品だった。
    凄い好き。
    でも、最後、そこなんだ~。
    なんだか悲しいよ。諸行無常だ。

  • 峰子の最期の覚悟が痛々しくもあり、かっこよくもあり…それでも槇村のために自分が最大限にできることをしたことで峰子が後悔しなかったことは救いだった。

  • 常野物語シリーズの1冊。
    ノスタルジックな雰囲気が好き。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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