- Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087748383
作品紹介・あらすじ
結婚をしないまま、娘・千草を産んだゆり子。スーパーのパート勤めの間、千草は母・菜穂子のもとに。父が出ていったあとに一人暮らす母のいる家は、ゆり子の「見憶えのある場所」だった。千草の姿に重なるように家族の日々と忌わしい記憶が蘇る。母はゆり子と千草の生活にかかわるうちに、次第に常軌を逸していく…。母と娘の確執、それぞれが抱える苦悩を丹念に描く注目の小説。
感想・レビュー・書評
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何と戦っているのかわからないけど、とにかく必死で戦っている人、たまにいます。
本人は必死でとても苦しいのかもしれない。
それはそれで大変だなと思うけど、その周りで、その戦いの犠牲になる人は大迷惑だなとも思う。
そしてだいたい、子どもがその犠牲になってしまう。
見えない何かと戦わなければならなくなった理由は色々あるだろうけど、子どもがそれに巻き込まれなければならない理由はないですから。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
優しい両親に感謝
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母と娘の話。根は単純。なのにどうしてこんな結果になるのか。
この作者の、愛というものの考え方、人のつき放し方は好きです。
文章も美しくて純文調だけど退屈じゃない。もっと注目されてほしい作家さんのひとりです。 -
これはすごい。なぜこれが芥川賞候補にも上がらなかったのか不思議なくらいだ。
結婚することで総合職エリートの道を絶たれ、子どもを産むことで会社を辞めた母に育てられた娘の物語。見憶えのある場所とは虐待を受け、ことあるたびに「あなたを産まなければよかった」という叫びが染み付いた家だ。
こう書くとどろどろした親子の物語になってしまうけれど、その特異な文体が淡々と冷静に語る世界はだからものすごくリアルで、テレビドラマでは到底描ききれない、ちゃんとした劇団の舞台でならあり得るかなと思った。
内容より文章の一つ一つがすごいのだ。どこを切っても深い。
自ら母親となることでふたたび菜穂子の子どもに戻ったのではと、ゆり子は感じる。
命を宿さなければ、あの家を拒絶し、否定していられたというのになんという皮肉だろう。
私にはスキルがない、と搾り出すように言う。
彼女にしてもらったようなことは絶対にしちゃいけない、それは承知している。
でも、じゃあどうすればいいかとなると、暴力はいけないとか、
馬鹿にしたり可能性を潰すようなことを言っちゃいけないとか、
そんな、極端なことしかわからない。
こうして書き写してみると、改めて、的確に言葉を選んでいると感心する。主語を書かなかったり、会話文を織り込みながら心理を描く手法などは「源氏物語」を思い起こした。
上記はほんの一部で、どの人にも感じ入る部分はあると思う。読者会をしたら何時間も盛り上がりそうだ。
後世に残る作家というのはこういう人を指すのだろうと思う。 -
このテーマなら、なんか、もうちょっと…!視点固定・三人称で視点がくるくる変わるので、そのスパンが短すぎるような気もしました。
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考えさせられる。
キャリアを捨てて専業主婦になったことを、自分自身がどう捕らえるかによって、こうも家族の人生が変わるとは。
いつでも前向きで生きていきたい。 -
母親って子供が生まれたら無条件に母親になれるってわけでもないんだよな・・・。
そして、そんな母親を選べずに生まれてきた子供はきついよね・・・。
やっぱり家族は家族として機能していないと、それぞれが哀しい。 -
母から存在を否定されて生きてきたゆり子は、父のない娘・千草を育てるために、憎んでいた母親に生活を頼らざるを得ない。
優秀だったのに家庭のために犠牲になったと、自分の現在の姿を認められない母親と、その呪縛から逃れられない娘。
家、家庭、女であることの業や不条理や甘えが様々な色彩で塗りたくられ、気がつくと一服の絵になっている、そんな印象の一冊だ。