千年樹

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087748505

感想・レビュー・書評

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  • 千年の寿命を持つクスノキと人をめぐる8章の連作短編集。
    1章それぞれの話の中に過去と現在、時代を超えて交錯する2つの話があるので、1冊で16話を読んだよう。
    千年前クスノキ誕生の物語から、昔の人たちの話、クスノキの傍らのことり幼稚園の園児たちの話、その園児の成長した話と、話は次々繋がっていく。
    変わらない千年樹と変わっていく人の営み。けれど昔も今も人の心は変わらない。
    怖い話も、哀しい話、厳しい話が多かったが、千年を生きるクスノキからしたら、人の喜びも哀しみも業も禍も一瞬の出来事だろう。
    クスノキが導いた訳ではないのに、人は千年樹に引き付けられるように、物語は形を変えて繰り返される。
    それもクスノキの誕生の因果がその後の物語を導く力を持ってしまったのか。
    余りにつらい話を淡々と描いたのは、クスノキの目線だったのだろうか。
    つらい読後感なのに、なぜか心に残る。

  • 東下りの国司が襲われ、妻子と山中を逃げる。そこへ、くすの実が落ちてきて……ここから始まる8つの連作短編集。
    いじめに遭う中学生の雅也。
    木の下にタイムカプセルを埋めようとしてガラス瓶を見つける園児たち。
    若くして遊郭に売られた娘、きよが好きになった男との顛末。
    城勤めの台所組でありながら、切腹を迫られる武士の忠乃介。
    産まれた子供が女の子だったからと、舅や姑からなじられるトミ。
    祖母が戦時中に受け取った手紙を見つけた孫娘。

    どの短編も、現代と昔を行き来する2つのエピソードで語られます。いつの時代も、大きな大きな、樹齢千年と言われるくすの木は、ただそこにあり、寿命の短い人間のささやかな人生を見つめています。

    特に昔の時代のものは、辛く悲しいお話が多かったなぁ。
    こんな時代に生まれていたら辛いなぁ…と思いつつ…もし、生まれ変わりというものがあるのなら、忘れているだけで、自分もその時代にいたのかもしれない?そんな風にも感じます。

    何か解決や結論があるというのではなく、ただただ交錯してゆく人々の、長い長い時代を超えたお話たちでした。

    植物に比べたら、こんなに短いちっぽけな私たちの人生…でも、必死なのになぁ…なんて思いました。

    私としては「バァバの石段」が、荻原さんらしいホッコリ感があり、ちょっと自分のなかではホッとして涙が出ました。

  • 自分が人の名前を覚えながら読むのが苦手なので、この人は以前にも?と考えながらでした。
    いわくつきというか、おどろおどろしい樹だと思わされました。
    個人的には、梢の呼ぶ声、の最後がびっくりでした。

  • そのくすの木はいつもじっと見下ろしていた。
    千年もの間、くすの木の下に集まってくる人々をただ静かに見守る。
    数多ある時代を越えても、そのくすの木だけは変わらずに。
    大きく枝を広げて悩める人々を抱きかかえるように。
    世の無情と人々の悲痛な叫びを飲み込むかのように。
    黒くて丸い小さなくすの実は、鳥によって新たな土地にもたらされ新たな歴史を刻むのだろう。
    これからもきっと。

    ちょっとぞわりとなりつつ、時代を越えた人々の巡り合わせを切なく思う連作短編集だった。
    特に『バァバの石段』が好き。
    かえるの王子様とのロマンスがとても素敵。
    「女学生の恋に焦がれる恋ではなく、いまの時代、どれだけ続くかわからないけれど、一緒に人生を歩むための恋」
    昭子バァバの秘密の恋文にキュンとなった。

  • 人間の世をずっと見つめ続けてきた、大きなくすのき。
    そのまわりで、いろんな時代の人たちのエピソードが交錯する。
    小さな種から芽を出し千年もそびえ立ち続け、枯れてもまた、小さな種から再生する樹の前では、たかだか数十年の人間の人生も、ほんのひとときなのだろう。
    各話が少しずつ繋がっていて、先を読みたくてどんどんページを繰ってしまった。

  • 連作短編。
    怖い話。ホラーだけど文体が明るい雰囲気。爽やかに読めた。

  • 怖いミステリー好きには、ピピピッとくると思います。

    大雑把なストーリーは
    1000年ほど前、
    地方の統治に派遣された都人。
    部下の地方武士に、計られ親子三人の逃亡。
    浅子季兼の郎党にかかとの腱を切られた公惟、
    幼子をおぶい、妻と5日も野山を逃げる。
    都育の3人に食物をとるすべもなく、
    妻はいつしか狂い、公惟も、土を掘り、地面に這い、
    木の実やら、名も知らぬ草やら口に運ぶも
    命が尽きる。
    残された幼子は出ない母の乳を吸い、
    父親の口からこぼれた木の実を食べるが
    やはり命が尽きる。
    こぼれ落ちた木の実から育ったのが巨木のクスノキ。

    そのクスノキに、呼ばれるように各時代の
    傷ついた魂が吸い寄せられる。
    時に哀しく、時に暴力的な事件の数々。

    数え切れない事件と事件が時空を超えて一つの点に。
    不思議で怖い作品です。

  • いくつもの短編の中に同じ人物が何人も出てくるのでページを前後しつつ読み進めました。私にとってはホラー小説。後味も悪かった。でも引き込まれて一気読みです。

  • 一本のくすの木を軸にして、様々な時代の人達がその木に何らかの形で関わっていく物語です。最後は思い出の象徴である木が、現代の人々に危害を加えるとして伐採されてしまいます。

    自分たちの思い出が詰まった対象を現代の基準で排除されてしまうのは、過去の人達にとって忍びないでしょう。しかし、物がなくとも思い出は各人の中で生きようと思えば生き続けるのであり、思い出を物に執着させるのは過去の人達のエゴではないかと思います。

    伝統という言葉で解釈されればまだ良い方ですが、得てして過去の遺産は現代にとって喜ばしくないものであると思います。それは、過去を留めておくことは変化を拒否することに繋がる可能性があるからです。

  • たまにはいつも読んでいない人の作品も読もう、
    と思って借りたが、
    三人称なのか一人称なのかよくわからない書き方が気になり、
    また、よくある登場人物にも、中途半端なファンタジーにも共感が持てず、残念な結果に…。

  • なんでこの本買ったんだろう。とてもつまらなかった。構成もとても読みにくく、効果的とは思えなかった。

  • さびれた神社の境内にそびえ立つ樹齢1000年といわれる1本のくすの木。ある意味、この木が主人公です。
    この木の周りで起こった出来事の短編。1つの短編に2つの時代の話が交互に進行し、そして、すべての短編がリンクしてます。 「ことりの木」と呼ばれている木。「ことり」は可愛らしい小鳥ではなく子盗りのこと。ご神木という荘厳なイメージはなく、物語全体に不気味さが漂っています。 人間より遥かに永く生きてきた樹が見てきた人間の営みは愚かで、残酷で、人間なんて卑小な存在なんだと感じさせます。後味がよくない悲劇が多かったです。

  • 謀反にあい、追われた国司の親子が森をさまよう冒頭が秀逸。このままの流れで長編を期待したが、本作は巨樹を巡る短編集。著者は話を綺麗にまとめるのが上手だが、それだけでなく普通の人々の人物造形が魅力的。短編だと本来の味より「綺麗」のほうが勝ってしまう。
    ホラーチックな後味の「郭公の巣」が好き。

  • 三冊目の荻原浩。
    樹齢千年と言われるくすの木にまつわる短編集。ミステリーのようなファンタジーのような。
    一話の中で戦国時代と近代が交互に描かれ二つの時代がリンクしている。
    また、近代の登場人物はそれぞれの話で少しずつつながっている。
    暖かくなる話や少しぞっとする話もあって面白かった。
    「瓶詰めの約束」と「バァバの石段」がよかった。

  • 樹齢千年と言われるクスノキの周りで繰り広げらる人間の物語。特にミステリアスでもなく、特に創造的でもないが、千年樹の周りで人間の生死に係わる物語が語られる。

  • 樹齢千年を超える楠の木。
    同じ場所に根を下ろし続けた巨樹。
    様々な年代に生きた人々の多様な思い、その姿が時代を超えて交錯しながら紡がれていく物語。
    短編形式ですが、構成が面白い。
    人間の愚かさや負の感情、哀しみを前に樹はただただそこに存在して見ているだけ。
    何が起ころうと悠久の時を刻み続ける巨樹の存在が、人の業や小ささを浮き立たせていて、その対比が良かったです。
    後味悪目のお話が多いですが、全てを語りきらない余白の残し方が個人的には好みです。

  • あっという間に読んでしまった。
    過去と現在(といっても、ちょっと昔)を大きなくすの木がつなげるというスタイルはわりと見かけるものではあるけれども、一つ一つの話がしっかり独立していたと思う。文体も苦手ではない。
    ただ、ストーリーの進め方がワンパターンだった、というのがちょっと残念。

  • 木の話、ていうとなんとなく心温まる人情話を連想しそうだが、そんなことはない。
    小山の上に立つ樹齢千年の木を巡る、血で血を洗う壮絶な過去。

    自分の住んでいる土地の歴史が気になってくる。下手な怪談より怖い。

  • 千年
    人間の一生で言えば何世代もの時間
    くすの木は一本の樹齢
    一本のくすの木が見ていた人間たちの狂宴。。
    …少し難しくて、読みづらい部分もあったけど。
    千年の時、人間の一生なんてちっぽけなもの。。とくすの木が笑っているようなお話

  • 凄絶な場面が多くて思ったよりずっと怖かった・・・。表紙のイメージそのまま。
    章によって(語り手によって)文章の雰囲気ががらりと変わるので、いろんな味を楽しめる感じ。これ、岩井志麻子とか坂東眞砂子とかが書いたらどんなになるかなあと思った。

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著者プロフィール

1956年、埼玉県生まれ。成城大学経済学部卒業後、広告制作会社勤務を経て、フリーのコピーライターに。97年『オロロ畑でつかまえて』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2005年『明日の記憶』で山本周五郎賞。14年『二千七百の夏と冬』で山田風太郎賞。16年『海の見える理髪店』で直木賞。著作は多数。近著に『楽園の真下』『それでも空は青い』『海馬の尻尾』『ストロベリーライフ』『ギブ・ミー・ア・チャンス』『金魚姫』など。18年『人生がそんなにも美しいのなら』で漫画家デビュー。

「2022年 『ワンダーランド急行』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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