訪問者 (1) (小学館文庫 はA 4)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784091910141

感想・レビュー・書評

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  • 他3編の短編もそりゃあ素晴らしいのですがオスカー厨なのであえて訪問者の感想です!
    この話のなにが一番の救いって、あくまでトーマの心臓って物語が未来にあることを前提として訪問者って話が作られたことだと思います。親から与えられるべき当たり前の愛を得られなかったオスカーが、それでも自分以外の他人を許し受け入れ愛することができた、それがトーマの心臓におけるオスカーの姿なんだもんね…許される子供になれなかった子が一人の人間を許し愛せるようになったという…
    最後のページのユーリの姿がたぶんオスカー視点なのだと思うけどあまりにも眩しくて…ユーリにとっての愛という救いをもたらした天使はトーマとエーリクだったのだろうけどオスカーにとってのその意味での天使は紛れもなくユーリだったのだなって…大丈夫、っていう何も知らない故の美しくて優しい言葉がどれだけそのときのオスカーの心に染み込んだことでしょうか

  • 誰かに萩尾望都の漫画を1冊貸してと言われたら、この文庫を貸すと決めている。
    萩尾さんの漫画のモノローグには印象的なものが多いと思うけれど、中でも「訪問者」のオスカーのモノローグを思い返すことが多い。

    ”あの家のなしの花もいまは満開だろうね”

    何ともいえませんな・・・。

  • トーマの心臓の続編というか番外編。短編だけれどこちらも味わい深い。子どものいる家に神の裁きはない。だから家の中の子どもになりたかったというオスカーは、血のつながらない父親を愛していたから。トーマの心臓も「愛しているといったときからただいっさいを何があろうと許していた」というテーマだった。

  • 表題作は、親子関係の話。「あなたが神だとしても、子供がいる家には来てはいけないんだよ…」母を殺した父を必死に庇う少年。暖かいはずの家庭を、愛おしい記憶を、不器用な父を守ろうと必死になるその姿の愛おしさと切なさ。世界を放浪せざるをえない、魂の放浪者であるフリーカメラマンの父も、その父を引き止めるために母が犯した罪もなんとも人間臭く、切なく胸に響く。

  •  この短編集中で頭ひとつ抜きん出た物語的完成度をほこる「エッグ・スタンド」の評は<a href="http://mameyamori.blog.shinobi.jp/Entry/56/" target="_blank">ブログにて</a>


     で、ここでは表題作「訪問者」について。オスカーは萩尾の代表作『トーマの心臓』における名脇役であるが、あるいは主人公格のユリスモールとエーリクよりも根強い人気があるのではなかろうか。別作品「妖精狩り」でチョイ役として登場していることからして、作者の思い入れにも特別のものがあるようだ。いや、一言で言ってしまえばこの作品は、オスカーに心酔した読者のための、そしておそらくは作者自身のための「キャラ萌え」作品である。<br>
     しかしさすがは萩尾望都というべきか、キャラ萌え外伝でありながら腐れた空気はみじんも感じられないのだが、それは言葉と絵柄に漂うクラシックな品格ゆえか。(絵柄については「残酷な神」連載中にどんどん崩れていくが・・・。)またそれに加えて、やっぱり描写の丁寧さというか、過剰感たっぷりな演出パターンを回避しているところもミソであろう。たとえば作品中でオスカーは、両親という近しい人びとを失った喪失感を、自傷的な叫びとして噴出させるのではなく、過去に遡っての静かな失望として経験する。こうした抑えられた描写を通じて、彼は「深い傷をもつ人間」というパターン化された役割の枠を離れ、われわれとどこかつながった地平上で思惟し、感じ、変貌していくキャラクタとして現れることになる。それゆえにオスカーは、ある種の影を漂わせながらも同時に茶目っ気たっぷりで、かつ微笑を誘う生意気さをも持ち合わせているという、多層的なキャラであることができるのだ。この作品を通じ、彼は『トーマ』の主人公二人がかすんでしまう人間的な魅力を再度確立してしまっているのではなかろうか。<br>
     ・・・あれ?おかしいな、この作品は批判的に書くつもりだったのに。やっぱりオスカー礼賛になってしまった、おかしいなあ。いやあオスカーすごいよオスカー!

  • さすが萩尾望都。
    「城」や「エッグスタンド」が読めたのはラッキー。

  • 寄宿舎〜悲しみの天使〜を観てトーマの心臓の印象が変わったので、改めて訪問者も読み返し。
    オスカーにとってのユリスモールの存在に対する解釈が自分の中で明確になった気がする。
    ブレーメンの音楽隊の像が描いてあるコマがあるのに初めて気づいた。

  • ・訪問者
    ・城
    ・エッグスタンド
    ・天使の擬態

    どれも本当に鮮烈

  • 戦争や人間のこころの内を描いた漫画の短編集です。
    全ての作品のテーマが重たいと感じますが、現在ではなかなかこのような作品を探すのは難しいと思います。そんなお話がたくさん詰まっています。

    テーマが重たく感じますが、全てのお話の舞台がどこかの外国なので、映画を見ているような感覚になります。

    心理描写がイラストで表現されているので、なんとも言えぬおもむきがあります。

  • 「訪問者」
    「トーマの心臓」に出てきたトーマの外伝。
    母を殺してしまった父を庇う子の話。
    逃避行の途上で体調を崩していく父の姿が悲しい。

    「城」
    寄宿学校に預けられたラドクリフが、優等生のアダムとギリシャ人の不良オシアンに影響される話。

    「エッグ・スタンド」
    ナチスドイツの侵略するフランス。
    パリの踊り子ルイーズのもとに身を寄せる謎の少年ラウルを、
    非合法活動に携わるマルシャンが、ふたりを愛しつつも調査する話。
    「愛も殺人も同じなんじゃないの?」というラウルの存在が面白い。

    「天使の擬態」
    自殺未遂をこころみ、天使になることを夢想する大学生の次子が、
    新任教師シロウと触れ合ううちに、本来の自分を取り戻す話。
    次子がいったい何に絶望していたのか、が最後に明かされる。

    どれもよい中篇・短編だった。
    「訪問者」「エッグ・スタンド」は萩尾作品によくある設定だが、珍しく「天使の擬態」は日本が舞台で驚いた。

    @@@@@

    202109再読。
    訪問者 小学館文庫(新版)1995.9.1

    萩尾望都の70年代はデビューと同時に綺羅星のごとく輝いたが、
    80年代もまた別の意味で冴えており、凄みを増す。
    90年代の「残酷な神が支配する」で遺憾なく発揮される精神分析的関係性が、80年代ですでに。
    心に深く潜るとはこういうことだと思う。

    ■訪問者100p
    前に読んだときは「トーマの心臓」のオスカーだとあまり関連付けずに読んだせいかもしれないが、
    「トーマの心臓」の直後に読んで見たら、ちょっと自分でもびっくりするくらい胸に響いてしまった。
    単に感動とか泣いたとは言えない感じ。
    胸郭が自分でも信じられないくらい広がった空間になって、そこに鐘だか銅鑼だかが鳴り響いて、これどうしたらいいんだろう、と。
    父母の性を目撃という意味で、正しくフロイトのいう原光景が描かれる。
    愛着と、捨て子と、そしてこの年になって父(というか……)の「弱さ」も他人事ではない。
    ラスト3ページの光に溢れた風景と、独白が、依然とは全然違う響きを持って感じられた。

    ■城33p
    心の中にお城を作る、その材料は? という箱庭療法を連想させる、やはり深層心理学的な話。
    しかしまた、そういうラドクリフの文脈をゆうに軽々と乗り越えて自転車で駆け抜けていく女性もいて、ここが最もぎょっとするところ。

    ■エッグ・スタンド100p
    パリ、ナチス、レジスタンス、男娼、ミステリ。
    単なる雰囲気や要素だけでなく、吉田秋生「BANANA FISH」と通じるものがあると思う。
    少年の胸の奥に開けた洞窟の大きさに慄く大人、という構図。
    また卵の中の死んだ雛→押井守「天使のたまご」を連想。
    実際萩尾望都は押井守作品では「天使のたまご」が好きなんだとか。

    ■天使の擬態50p
    本書の中で唯一、少年少女ではない、青年男性と成熟直後の女性の話。@現代日本
    萩尾望都もまた宮崎駿と同じく「雑学の人」で、生物学の雑学が詩情を増す方向で発揮されている。

    ■エッセイ―私のルーツ、萩尾まんが:折原みと(漫画家・小説家)

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著者プロフィール

漫画家。1976年『ポーの一族』『11人いる!』で小学館漫画賞、2006年『バルバラ異界』で日本SF大賞、2012年に少女漫画家として初の紫綬褒章、2017年朝日賞など受賞歴多数。

「2022年 『百億の昼と千億の夜 完全版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

萩尾望都の作品

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