夜の三部作 (P+D BOOKS)

  • 12人登録
  • 5.00評価
    • (1)
    • (0)
    • (0)
    • (0)
    • (0)
  • 1レビュー
著者 : 福永武彦
  • 小学館 (2016年8月8日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (473ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093522762

夜の三部作 (P+D BOOKS)の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • 「冥府」「深淵」「夜の時間」の三作収録。解説(息子の池澤夏樹)によると、作者自身がこれらを「夜の三部作」と呼んでいたらしい。夜=死の印象の強い3作でしたが、どれもテイストが違って良かった。

    「冥府」は一種の死後の世界の話。失った生前の記憶を少しずつ取り戻しながら、「新生」=生まれ変わるための裁判を待つ人々が暮らす不思議な町。死者同志が7人集まると裁判が始まる不思議なシステム。悪夢の中のような浮遊感のある短編。

    「深淵」はうってかわって現実的なドロドロ感がある。結核療養所で15年暮らし聖女と呼ばれた30代半ばの女性が、どうしようもない「飢え」を抱え放火や殺人を繰り返して生きてきた50代の男と運命的に惹かれあう。解説で「舞姫タイス」を引き合いに出されていたけれど、なるほど、男女は逆ながら近いものが。男女どちらの心理も救いがなく、読後感は重い。

    「夜の時間」は三作の中でいちばん長編で、そして個人的には一番好きだった。若き医者・不破と、彼の婚約者で結核患者の冴子、そして冴子の友人で不破の元恋人の文枝。かつて不破の親友・奥村次郎の自殺をきっかけに破局した二人が再会したことから物語が動き出す。一見三角関係の恋愛メロドラマのようでありながら、実は文学における普遍的なテーマともいえる「人はなぜ生きるか」を真正面に据えており、意外にも3人ともが前向きになるラストが感動的。恥ずかしながらちょっと泣いた。

    「神になるため」に自殺した奥村次郎というキャラクターの印象も鮮烈。奥村の自殺の理由を理解できず、残された二人が戸惑い苦しむ様子に、なぜか萩尾望都の「トーマの心臓」が重なった。奥村はさしずめ、一人でサイフリートとトーマの役柄を担っている。文枝がユリスモールで、不破がオスカー、冴子はエーリクかな、などとつい置き換えながら読んだ。まあそれは別としても傑作。もっと読まれるべき作品だと思う。

全1件中 1 - 1件を表示

福永武彦の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

夜の三部作 (P+D BOOKS)を本棚に登録しているひと

夜の三部作 (P+D BOOKS)を本棚に「読みたい」で登録しているひと

夜の三部作 (P+D BOOKS)を本棚に「いま読んでる」で登録しているひと

夜の三部作 (P+D BOOKS)を本棚に「積読」で登録しているひと

夜の三部作 (P+D BOOKS)の作品紹介

人間の“暗黒意識”を主題にした三部作

人間の奥深い内部で不気味に蠢き、内側からその人を突き動かそうとする“暗黒意識”を主題に書かれた『冥府』『深淵』『夜の時間』の三部作。

作家・福永武彦の死生観が滲み出た作品群だが、各ストーリーにつながりはない。

「僕は既に死んだ人間だ。これは比喩的にいうのでも、寓意的にいうのでもない。僕は既に死んだ」という書き出しで始まる『冥府』は、死後の世界を舞台にした幻想的な作品。

『深淵』は敬虔なクリスチャンの女性と、野獣のごとき本能むきだしの男との奇妙な愛を描いた物語。二人それぞれが一人称の告白体で、サスペンス的な要素も色濃い作品。

『夜の時間』は、男女の三角関係を、過去と現在の二重時間軸構造で描くロマンあふれる作品。

解説は芥川賞作家で、福永武彦の長男でもある、池澤夏樹氏。

夜の三部作 (P+D BOOKS)はこんな本です

夜の三部作 (P+D BOOKS)のKindle版

ツイートする