空白の叫び 上

著者 :
  • 小学館
3.82
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本棚登録 : 538
感想 : 97
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  • Amazon.co.jp ・本 (582ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093797290

感想・レビュー・書評

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  • 面白い!心に闇を抱えた三人の中学生。長編ならではの大きな熱量を感じる。さて下巻へ。

  • 殺人を犯した3人の中学生。
    凡庸であることを酷く嫌悪し怖れ、新しく着任した非常勤の女性教師を憎みながらもその体に溺れ、殺した工藤。
    家柄もよく、秀でた容姿と頭脳を持ち、対人関係だって常にクール。しかし、幼馴染との関係だけは冷静に築けず殺してしまった葛城。
    母に捨てられ、祖母と叔母の下でそれなりに平穏に暮らしていたのに、祖母の死、その後の遺産争いから発した母親の卑劣な行為を許せず、母親を焼き殺した神原。

    第一部 胎動では、この3人が殺人を犯すことになった経緯が。
    第二部 接触では、同じ少年院へ入院した3人の過酷な生活、そして、3人の出会いが語られる。

    正直、読んでいてすごく苦しい。稚拙なことしか言えないけれど、やっぱり殺してはいけなかった。
    少年たちの目線で書かれていることもあって、葛城と神原だったら、殺してさえいなければ、相手の方が何倍も卑らしい人間だったのに…なんて思ってしまう。工藤にしたって、小狡くて陰湿でそりゃもう嫌な奴だけど、柏木にさえ出会わなければ…と思ってしまう。誰よりも理解できなかったのは柏木だから。
    でも、そこまで彼女を壊した、あるいは彼女の何かを目覚めさせたのは工藤なのだから因果応報というやつか…。
    結果として彼女は一番効果的な復讐を果たしたのかもしれない。

    第一部でも十分にキツかったのに、第二部の院生たちの陰湿なイジメの描写はさらにキツイ。これからどうなってしまうんだろう…と苦しいのに気になって目が離せない。

  • テーマソングはTHE BACK HORNの「扉」。読後聴くと心臓痛い。「告白(湊かなえ)」で読後感が最悪って言ってる方には是非読んでほしい。最悪、というより、やりきれなさと悲しさが胸に溜まる。少なくとも3日は消えないと思う。「永遠の仔」を読んだ後以来の虚無感。
    以下下巻のネタバレもあり。
    久藤美也、葛城拓馬、神原尚彦。1人1人のキャラクターがしっかりしていて、各自の心の動きや自分なりの定義なども不自然ではなく物語に(感情移入ということではなく客観的にだけども)入り込めた。胎動→接触の流れも良かったし、そこからの発動もボリューム満点だった。
    久藤は完全なる悪党とは言えない。でも瘴気に取り込まれないように適度に心を開くべきだった。水嶋も、下巻で良い味を出したと思う。
    葛城みたいな人が周りにいたら、その徹底された人格を少し崩すぐらいに近づいてみたい、なんて思ったけど実際いたら怯んじゃうのかな。途中で壊れたのは当然だったのかな。
    全編を読み終えた後、神原……尚くんの部分だけ「ぼく」という一人称だったのはこういうわけだったのかと思った。この子が一番変化があって、それも悪い方へ悪い方へ、なのに本人はいたって無邪気。その崩壊の過程は一人称の方がわかりやすいし気味が悪い。
    上下巻を読み終わって。
    3人は殺人犯だし、自分達の罪を心から"反省"はしていない。それでも彼らに少しでも良い結末を、と思っていたら……そりゃそうだよねと言う感じ。尚くんが死んだ時は「やっぱり」と目をギュッとつぶってしまった。久藤もこれから、幸せにはならなくていいから、少なくともひとりの人間として生きていってほしい。葛城の、実は英之と、というのは予想がついていたから衝撃は少なかった。彼はきっと生きていけるんだろうな。瘴気のことばかり考えることは少なくなるんだろう。
    ところで本当の終わりに佳津音が出てきたのは、読んでいる時はそうでもないが、後々、秀逸だったなあと思えてきた。最後の台詞にいたっては「よく読者の気持ちをわかっていますねー」と皮肉をこめて言いたくなるぐらい。
    少年をテーマにしているにしても、結局は大人の行動がその影、瘴気を生みだし育ててしまったも同然。3人のことを責められず、寧ろ辛い目に遭ったら胸が痛くなったのは、3人も被害者だからだろうか。

    「永遠の仔」と同じで、いつか絶対再読したいけれど、今すぐに読み返す気力がない。しばらくはこの虚無のような余韻が残っているだろうし。いやあ、すごい作品だった。

  • 3人の14歳の殺人者。
    自分の容姿の悪さや中学時代にいじめられていた過去にとらわれている久藤美也は肉体関係を持ってしまった女性教師を、医師の家に生まれ並外れた頭脳と容姿を持つ葛城拓馬は幼なじみを、奔放な母親が育児放棄をし祖母と叔母に育てられた神原尚彦は母親を殺した。
    3人は少年院で出会い、卒院後に再会する。
    3人は無事更生することができるのだろうか。
    あるいは更生せずとも別の世界を切り開くことができるのか。
    って感じのお話だ。

    とにかく重い、つらい、救いがない。
    「少年院は罪を償う場所ではなく、更生させる場所である」という記述がたびたび出てくる。
    「罰を受けたい=生きることに救いを見出せない」少年たちにとって、卒院後の世界はさらにつらいものになっていく。
    そして、自分の瘴気を持て余す彼らは、「植物のようになりたい」と願うのだった。
    なににも動じない心を持ちたいと。

    この3人の少年、まったく違ったキャラクターなのだが、共通点はふたつ。
    自分の犯した罪を後悔していないところ。
    罪の原因は被害者にあるということを疑っていないところ。
    絶望しきっていて、「自分はひとりで生きていかねば」と思っている一方で、理解されたがってもいる。
    人間って本当に複雑だ。

    結末をまったく逆方向に持っていってもおもしろかったかも。

  • 【頭脳、容姿、経済、すべてに恵まれながらガンプラ作り以外に熱中しない拓馬。
    腕力に秀で他者の干渉を拒む美也。
    父を知らず祖母と叔母に育てられたおとなしい尚彦。3人の中学生はなぜ人を殺したのか?彼らが少年院で出会った時、新たな運命が動き出す】

    上巻は彼らが人を殺すまでの過程と少年院での生活です。
    なかなか面白くてすぐ惹きこまれました。
    上巻を読み終えて早く下巻を読みたいっっ!と思いました。

  • 3人の少年が殺人を犯して少年院に入る話。
    罪を犯すまでのそれぞれの心境が細かく描写されているので、病んでるな…と思ったり、これはしょうがないかな…と思ったりしながら長い前半を読み進める。
    葛城くんと久藤くんはわかりやすいのだけど、一見真面目で素直な神崎くんが、自分でも気づいていない闇をかかえ、罪を犯したことを全く悪いと思っていないところが不気味。保身のために他人に頼るところなど、幼稚な面もあるが、計画的に母親を殺しているところをみると、この子が1番サイコパスなんじゃ?と思ってしまう。

  • 序盤は主人公入れ替わり立ち替わりで読みにくい印象。

    事件が起きてから、またその書き方に慣れてからか、読む手が止まらなくなる。

    それにしても、どうしてこの人の話は救いがないのに引き込まれてしまうのか。

    これから下巻を愛でてきます。

  • 少年犯罪についての本は、周りの大人達や被害者側の視点から書かれることが多いが、これは当事者達からの視点のみ。

    葛城、神原と違って家庭環境に大きな問題がないのに日々瘴気をためている久藤のようなタイプが一番怖いと思ってよんでいたが、結局全員怖い´д` ;

    わかりやすい不良なわけではないだけに余計に。

    刑務所のくだりが辛すぎて暗い気持ちになりながら読んでいた。

  • 凡庸の日々を憎み『瘴気』を体のうちに溜め込む久藤と、才能・美貌・親の金銭的余裕を持ちながらも周りを俯瞰して見ることに慣れた葛城。親戚に預けられ実母に嫌悪感を感じ孤独を感を募らせる神原。さまざまな事情を抱え、中学生という若年でありながら人を殺めた3人。上巻では犯行に至った経緯と、少年院での生活が描かれています。
    読んでいて感じたことは、登場人物の心の変化とともに文体が絶妙に変化していること。
    物語序盤、久藤は平凡な生活に不満をもつ典型的な思春期の男の子だな、というイメージでした。何かと自分がどう思うか、どう感じるか、とにかく自分の視点だけで物事を考え、周囲の人の気持ちを踏まえることが希薄であるように感じます。事件前までは久藤の章が多かったのですが、少年院入所後は言動・思想が激変し、久藤目線の章自体が少なくなっており、何を考えているのか少し不気味な印象を受けます。
    葛城に関しては事件以降、世間を俯瞰して見ることに拍車がかかったように見受けられます。最初こそ世間を斜めに見ながらも一人称で葛城の気持ちにふれることができるものの、入所後はほとんど三人称に近い文体で周囲がどう感じるかを予測立てて機械的に処理していく感じがしました。
    また、神原に関しては上巻の終盤で大きな心の変化があり、何かが動き出しそうな気配が。少年院卒院が物語の終わりを締めくくると予想していますが、そこにどのような付加価値を添えるのか。この作者の本を読むのは初めてですのでラストを読むのが楽しみです。

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著者プロフィール

1968年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。93年、第4回鮎川哲也賞の最終候補となった『慟哭』でデビュー。2010年『乱反射』で第63回日本推理作家協会賞受賞、『後悔と真実の色』で第23回山本周五郎賞受賞。「症候群」シリーズ、『プリズム』『愚行録』『微笑む人』『宿命と真実の炎』『罪と祈り』『悪の芽』『邯鄲の島遥かなり(上)(中)(下)』『紙の梟 ハーシュソサエティ』『追憶のかけら 現代語版』など多数の著書がある。

「2022年 『罪と祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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