逆説の日本史 18 幕末年代史編1

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (377ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093798310

感想・レビュー・書評

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  • 18巻。

    1800年ごろから、1857年までの、
    激動の時代の入り口あたりには、何が起きていたのかを
    「逆説の日本史」の視点から読み解く。
    この巻で著者が一番力説しているのは
    「ペリーは突然来たわけではない。何度も米国の事前交渉はあった」
    「それを無視、握りつぶして何もしてこなかった幕府は無能である」
    という点であろう。
    ではなぜそうだったかというと、
    「言霊信仰」「日本的朱子学教」「徳治主義」「祖法の思い込み」
    などなどの複合産物だろうというところ。
    まさに、これまでの歴史の中でさんざん出てきたことが、
    やっぱり強烈に悪影響を及ぼしている。
    そして、これはまだ先の話だが、太平洋戦争などでも
    結局このあたりは何も変わっておらず、敗因に繋がっていく。
    そして今日も「絶対平和主義」が生きていたりする。
    (ただ、著者も20年にわたって本シリーズを書いていく中で、
     世の中の空気が変わりつつあることを実感しているようでもある。
     冷戦終了、ソ連崩壊から時間が経つ中で、マルクス思想は見事に
     衰退し、自由主義以外にとるべき道はないということが
     ようやく日本でも主流になったからかもしれないし、
     あるいは北朝鮮や中国との「衝突」も影響をもたらしたのかもしれない)

    本書に戻ると、
    私が一番驚いたのは、ロシアが一番最初に来航し、
    もっとも紳士的に交渉を進めようとしていたことである。
    漂流民を送り届けるなどの「善意」に対して、
    幕府は勝手な対応で長崎に軟禁したりと、無茶苦茶をするが
    それでも戦闘をしかけることもなく、紳士的態度を通す。
    それが、あとからやってきたアメリカ(ペリー)が武力を
    ちらつかせながらの江戸湾入りをする際には、
    手のひらを返したように幕府がおとなしく従ったというのは、
    なんというかまぁ、平和ボケというか、朱子学教に染まった日本人の
    権力階級の主体性のなさ、計画性のなさの表れと思える。
    そりゃ、ロシアからしたら怒るのは当然だろう。

    さらには対外交渉という点では徳川幕府成立以来の数少ない
    貿易相手であるオランダが、国王親書までくれて、
    熱心にアドバイスしてくれたのに(もちろん善意というよりは
    国際的な覇権競争の中での打ち手という意味は大きいだろうけれど
    それを利用するのが、まともな治政者であろう)
    それもどん無視、あとでついに海防力が必要と分かった時に
    泣きつくという始末であるのは、なんともお粗末。

    歴史のIFであるが、仮にロシアときちんと外交し、
    オランダの力をうまく借りることができていれば、
    不平等条約を結ぶこともなく、日本の近代化は数十年
    早まったことであろうし、ハリスとの通貨交渉での失敗に
    起因する金の流出もごく少なかったことだろう。

    けれど、老中・阿部正弘がきっと感じていたように
    「まぁ、こいつらじゃ無理だよ」
    っていうあたりを思えば、そのシナリオは日本では
    実現しなかっただろうなぁとも思う。
    それほどまでに日本的朱子学の強さというか、変革への拒否心が
    強いのが、日本に住む人々なのであろう。

    ただし、著者の書くように、松下村塾の俊英らや、坂本竜馬らのような
    「日本人」(大攘夷)も出てくるという意味では、
    やっぱり国全体に変な宗教思想が蔓延していても、それに異を唱える
    「勇敢なアンチ」は必ず出てくるということも思う。
    そして、長州藩主毛利敬親のように、そういう「変革の旗手」たちを
    支える地方統治者もいたりするので、
    社会というのはおもしろいものである。

    今日もなお、「日本的宗教」信者と、国を憂う変革の担い手たちとの
    戦いは続いているように思う。
    これからの日本は経済的な意味では国際的には「凋落」傾向にあることは
    疑う余地はないが、
    そうなればなったで、きっと変革の旗手たちが現れることだろうとは思う。
    しかし、今日の欧米システムの民主主義政体では、
    あくまで選挙を通じてしか政体変更が行えないため、
    結局は「票田」確保と昭和期に呼ばれたような、大衆迎合策を掲げる政治家の
    ほうが有利だったりするので、
    幕末から明治に起きたような急変は無理であろう
    (逆に、この2年ほどに起きた「中東の春」は、独裁国家だからこそ、チカラでの
     政府打破も許されるということになり、急変が起こるのであろう)。
    すると、病巣の治療には手の付けられないまま、より体調が悪くなる
    病人のような事態はずっと続くのである。

    これからの日本は、大変だなぁ…。

  • 井沢さんの幕末ネタは、他の本でも結構書いておられるので、知っているものも多かったけど、老中阿部正弘論や3つの大地震が続いたことなど、新たに勉強したこともけっこうあった。

    本書で井沢さんの幕末編に初めて触れる方には読み応えがある内容だと思う。特に現代の日本社会にもつながる問題提起として、朱子学の弊害、改革に無駄なエネルギーを要すること、幕末から明治にかけて芽生えた「日本人」という意識、「言霊思想」に基づくドロナワ的対応、などなど本質をついたものが多かった。

    井沢さんが「日本民族の民族的欠点を克服するための、最も良い方法の一つがこの幕末史の分析だ」と言われることには全く同感だし、次作が大変楽しみである。

  • 毎度のことながらわかりやすく歴史を学ぶことができて素晴らしい。
    歴史っておもしろなと思う。

    ちゃんとした歴史を学ぶことが大事。
    あまりよくわかっていない日本の歴史、しっかり学んでいかないといけない。

  • 言霊の歴史

    「大君の通貨」 佐藤雅美著

  • 予約がやっと回ってきた。いつもながらの切り口。福島の原発事故も言霊の影響アリだと思う。

  • 第一巻から読んでますが、18巻まできました。年一回楽しみに読んでいます。内容は賛否両論あるかもしれませんが、歴史好きには読み応えがあるシリーズです。こういう本他にはないし。次回も楽しみです。

  • 1年に1回、刊行されるのを楽しみにしているシリーズです。

    18巻は、日本人とは何か、日本人の特質は何かを歴史から学び、これからに生かしていく努力をしなければならないと改めて認識させてくれました。

    いよいよ、幕末から明治維新に突入していくので、ますます楽しみです。

    このシリーズを読むと、受験のために暗記していたあの出来事や制度は、実はこういう意味だったのかと新たな発見があったりして、知識が深まります。
    何度でも読み返したい本の一つです。

  • 毎年出版されるのを楽しみしている本のひとつに井沢氏の「逆説の日本史シリーズ」があります。この本は18冊目で、時代も江戸時代の幕末にさしかかってきました。

    この本を読むと「歴史は繰り返す」と言われる通り、幕末の日本を動かしていた役人は「知っていながら何もしなかった」という点で、現在と酷似しているようです。当時も今もその時の判断基準で最高であると選ばれた人たちが、彼らなりに一生懸命やっているのですが、その当時の体制を変えなければ次のステップに進めなかったようですね。

    欧米は金融危機で今は厳しい状況にありますが、それを乗り越えた数年後に、今と同じようにしている日本は時代に取り残されてしまうのではないかと不安を感じました。堺屋氏が予測小説を書いたタイトルが「平成30年」、あと6年ですが何か不気味なものを感じました。

    以下は気になったポイントです。

    ・アメリカは、アジア進出、正確に言えば中国との大々的な貿易を望んだために日本の開国を求めた(p15)

    ・当時、アメリカで最も盛んだった産業の一つが捕鯨、鯨油を取るのが目的で、皮を船上で煮込んで油(灯火用)を取るだけで肉は捨てていた(p20)

    ・江戸時代に三大改革があるが、財政的に正しいのは「田沼の政治」と呼ばれている改革のみ、三大改革では家臣の給料をコメで払っているのにコメを増産して給料を上げずに、時価で売るのを放任していた(p25)

    ・アヘン戦争とは、イギリスが清にアヘンを売りつけ、それを没収した清国に対してイギリスが弁償しろと迫り、拒否した清に武力で対応した事件(p53)

    ・儒教や朱子学の欠点としては、「歴史をねつ造する」というものがある(p71)

    ・政治家が新しいプロジェクトを実行しようとするとき、検討する
    要素は、1)成功の可能性、2)予算、である(p107)

    ・当時のアメリカは提督(Admiral)は議会承認が必要であった、議会承認が不要でかつ艦隊の指揮権が認められる階級として、代将(Comodor)が必要になった、ペリーは東インド艦隊の司令長官なので大佐から昇格した(p115)

    ・ペリー艦隊4隻のうち2隻が帆船なのは、補給ができないので石炭がなくても動く船に石炭を大量に積む必要があった(p116)

    ・当時の日本の大砲は大きくなればなるほど青銅製になる、融点の高い鉄を溶かす高熱の炉が存在していなかったため(p139)

    ・弾丸自体を円筒形にすることで、ライフルに沿って回転する運動が均一化されて、射程距離や命中精度が上がった(p157)

    ・お台場の「台」とは、砲台(大砲の台座)であり、正式名称は「品川台場」で、砲台のための人工島である、「お」がつくのは将軍家の施設だから(p167,168)

    ・老中の阿部正弘が広く意見を求めるという姿勢は、今の民主主義の基準では「いいこと」のように見えるが、結局は幕府の権威を失墜させた、外様大名ばかりか一介の浪士までが御政道に口を出した(p182)

    ・ペリーが来年まで回答を待つことに対して受諾したのは、ミニ艦隊の船が減らされて食糧が足りなくなったため(p185)

    ・日米間の交渉は、英語をアメリカ側がオランダ語に訳し、それを日本側のオランダ通詞が漢文化してそれを検討した(p197)

    ・関税自主権が奪われたことによって失われた日本の富は天文学的なもの(p245)

    ・下級旗本の子弟が実力で出世できる唯一の道が、勘定吟味役=財務省主計官になること、これは試験があった(p248)

    ・ロシアのプチャーチンが下田に来た嘉永7年(1854)11.3の翌日に安政東海地震が起き、下田は津波による壊滅的被害を受けた(p263)

    ・日本人は金貨を古くから当たり前のように使っているが、中国でも欧州でも金貨は殆ど使われていない(p272)

    ・円とドルの交換レートが、幕府の存亡に大きくかかわった、日本国内は1両=4分(銀貨)であったが、アメリカの使っていた銀貨は3倍の銀量があったので、4ドル(洋銀)=12分(銀貨)を主張した、国内は1両=4分なので、12分=3両となった、ここで外国人はそれを地金にするために金が流出した(p339)

    ・本来は幕府は金1両に対して16分の正しいレートにすべきであったが、諸外国に比べて金の保有比率が多く、銀の保有量が少なかったためしなかった(p344)

    ・ハリスは当時の日本に、世界的に見れば近代的貨幣制度の先取りとも言える「一分銀という信用貨幣」があることが理解できなかった(p348)

    ・関白を息子や弟に譲った場合、譲ったものは太閤と呼ばれる(p357)

    2012年6月2日作成

  • 今回は驚きは少ないが、噛んで含めるような日本史は、判り易い。
    幕府の無作為、大地震が2回続いたこと、ハリスとの為替の交渉が幕府の崩壊を招いたこと。改めて成程と納得。
    外圧が具体化しないと動き出さない。危機が目の前に無いと対策が無い。現在も変わらないのかも。

    将軍家定は堺雅人さんのような人じゃなかったのか。口のきけない将軍や虚弱な将軍もいたなあ、毒をもられたりするからかな。
    岸田秀さんの本では松陰はボロクソ。確かに藩やペリーへの迷惑をまったく考えていない。以前にも友人との約束を優先し、許可の出る前に藩を出ている。どうも幼児的な人だったのでは。

  • こちらも長いつきあいの逆説の日本史シリーズ。
    姿勢が常にぶれないのは評価していいかと。

    幕末幕府が泥縄であたふたしている様子が、
    TPPや震災でどたばたしている今の日本の政府の様子と重なり
    「本当に日本人というやつは⋯」と思ってしまうな。

    ペリーは、黒船は突然やってきたわけではない。
    日本の歴史教育の不備もまた明らかだな。

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著者プロフィール

1954年、名古屋市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、TBSに入社。報道局在職中の80年に、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞を受賞。退社後、執筆活動に専念。独自の歴史観からテーマに斬り込む作品で多くのファンをつかむ。著書は『逆説の日本史』シリーズ(小学館)、『英傑の日本史』『動乱の日本史』シリーズ、『天皇の日本史』、『お金の日本史 和同開珎から渋沢栄一まで』『お金の日本史 近現代編』(いずれもKADOKAWA)など多数。

「2023年 『絶対に民主化しない中国の歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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