どん底 部落差別自作自演事件

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著者 : 高山文彦
  • 小学館 (2012年4月2日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093798327

どん底 部落差別自作自演事件の感想・レビュー・書評

  • 月刊『部落解放』で高山文彦が連載していた「新破戒」が終わったのはいつやったかなとバックナンバーの目次を調べたら、連載終了は昨春で、そろそろ本になってないかと図書館の蔵書検索をしてみたら、「新破戒」はなかったけど、この本を見つけて借りてきた。

    サブタイトルにある「部落差別自作自演事件」は、福岡の被差別部落で実際にあった事件。2003年から2009年にかけて、山岡一郎(仮名)のもとへ、あるいは勤務先や上司へと差別ハガキが送られてきた。巻末には、その全44通の内容が掲載されている。「部落の人を辞めさせてください」とか「部落にクソあれ、あんたに不幸あれ」など、書かれた内容はひどい。

    何より驚くのは、この差別ハガキを書いて送り続けたのは、当の山岡(仮名)本人だったということ。「すなわち彼が差別した部落民とは自分自身なのであり、読むに堪えないおぞましい言葉の数々を自分自身に向かって吐きつづけたのだ」(p.6)という事件だった。

    著者は「事件の一部始終を可能な限り詳細に描き出し、後世への記録としたい」(p.11)という。差別事件の「被害者」がみずから加害をおこなっていた、という事件をどう考えたらいいのか。読んだ後味はわるい。この山岡(仮名)という人が、何を思い、何を考えてこんなことをしたのか、私には分からない。

    自身が部落の出であることを知らず、部落に対して差別的な言動をおこなう例はあるという。しかし、山岡(仮名)は自分が部落出身だと認識し、そして地元の部落解放同盟の役員でもあり、それでいて、ひどい差別ハガキを書いている。いうならば確信犯としての差別者なのだ。

    事件の犯人として逮捕されるまで、山岡(仮名)は「被害者」として、時には妻を伴い、集会や講演の場で涙ながらに差別への怒りや苦しみを訴えていた。地元の部落解放同盟は犯人をあげて糾弾するべくキャンペーンを張り、町はハガキが来るたびに対策会議や啓発活動に追われた。ついには県議会でもとりあげられ、県知事や県警本部長が徹底究明を約束する答弁をおこない、県警本部が派遣した特捜班によって山岡(仮名)が逮捕されたのである。

    「第二の狭山にしたらいかんけん、われわれも慎重に操作をしてきたとですよ。ばってん、どこをたどっても、最後は山岡に行き着いてしまうとです」(p.273)と捜査員は語ったという。

    糾弾について、この本では、福岡連隊爆破陰謀事件をでっちあげられて投獄生活を送った松本治一郎を、その陰謀をはかった特高刑事が許しを請いたいと訪ねてきたときのエピソードが出てくる。松本はかつての特高刑事に対し、「君もずいぶん苦しんできただろう。言っておくが、われわれが闘ってきたのは、君個人ではない。君の背後にあるものと闘ってきたのだ」(p.130)と語りかけた。

    この治一郎の話をひきあいに出して、組坂繁之(部落解放同盟の執行委員長)は、縁戚の組坂幸喜に対して「糾弾とはな、個人攻撃をすることではない。個人を差別に走らせるものがなんなのか、つねに視野にとらえておかんといかんのさ」(p.131)と説いている。

    では、自作自演の差別事件を起こした山岡(仮名)は、なにゆえに差別に走ったのか。

    山岡(仮名)は役場の嘱託職員で、契約は1年ごとの更新だった。来年度はクビになるのではと不安に襲われていたといい、差別ハガキを出せば「行政は同和問題に取り組んでおり、被害者となれば解雇をしにくくなり、継続してもらえると思いました」(p.300)と裁判で述べている。

    裁判ののち、山岡(仮名)本人に対する糾弾学習会がひらかれた模様を終章は伝える。喪服姿であらわれた山岡(仮名)は詫びを言って土下座をしたというが、結局のところ、事件の「原因」や「背景」、「今後の行動」につい... 続きを読む

  • 2013/7/8購入
    2013/8/4読了

  • 部落差別自作自演事件を追ったノンフィクション。権利を利用するが、筋は全く通さない、そんな犯人。本当に腹立つ。

    犯人を信じて、支えて来た組坂幸喜さんが大道塾WARSに出ていた方だと知ってビックリ。

  • 差別ハガキが同和地区のある男性に送られてきた。男性は差別への怒りを訴え講演会に引っ張りだこになり自作の歌さえもうたうのだが結局はハガキをだしたのは男性本人と判明した。周りの善意と同情と運動の歴史を踏みにじって、ちっぽけなエゴを満足させようとした男性のパーソナリティがなんとも不気味だ。すべてが発覚したあとも男性は未だに同じ場所に住んでいるという。なんとも後味の悪い読後感だが構成が上手く発端から発覚その後と一気に読んでしまった。良書。

  • こういう人ともし出会ったら、全力で関わり合わないように逃げるしかないですね。
    関わり合わないわけにはいかない状況になってしまった解放同盟等の方々には同情の念しかありません。

  • 状況がすっかり分った状態で この事件の詳細が語られてゆく。
    結果が分っているだけに、読み進む事が非常に辛くなる。
    この男は、同和問題以前に「ただ そういう人だった」と言うことのような気がする。
    何処にでも、こういった人物は居るのだ。

  • 差別自作自演事件のルポだが、本質は犯人の人間性に帰着するという論調もあるが、人間が根源的に持つ差別意識を問う重たい一冊。

  • 世の中にはさまざまな差別が存在している。その中でも、生まれた地域や職業によって差別され続けられているのが、「被差別部落」の人たちである。ここに登場する山岡一郎の悲しくも哀れな結末を通じて、この国が明治維新以来、戦後、民主主義国家に至ってもなお完治することが出来ず、それはまるで傷のかさぶたを剥がすような痛々しさがこの本に描かれている。治りかけては、剥がされ、剥がしては、治そうとする…この虚しい繰り返しが、差別の根本的な問題なんだろと思う。世の中の状況が悪くなり、自分の将来に不安を感じたり、生活が苦しくなると、この「差別」が著しく台頭してくる。今まで自分より劣っていると思ったり、バカにしていた人たちが、自分よりいい生活をしたりしているのを見ると、やっかんだり恨んだり、場合によっては引きずり落とそうと考えたりする。普段は抑え込んでいる劣情に捉(とら)われ、相手の秘密を暴露したり、密告したり。そうやって自分の優位性を満足させる為の「差別」を作り出さずには生きてゆけぬ人間の業の深さが、この本に描かれているグロテスクで歪んだ差別社会を作りだしてしまうのだ。

  • 狭山事件があるので、みんなの目がくもってしまったのではないだろうか?それにしても平気で嘘をつく人は恐い。そして嘘と理解していないだろうことがもっと恐いです。

  • 福岡県で実際に起きた部落出身者による差別自作自演事件のルポ。
    被差別部落については、本当に根が深く、一筋縄では到底行かない難題であるのは周知の事実。
    本作は、それに加え、その解放運動の孕む危うさ、差別問題の別の側面にもさらに一歩言及した問題作と言ってもいいかもしれない。

    犯人の狡猾さというか幼稚さというか、部落云々以前にその人間性を強く疑うような振る舞いは、読んでいるだけでも憤りを通り越して呆れるばかりだが、著者はそこへさらに、解放運動の在り方にも一石を投じるかたちでルポをまとめている。
    これはなかなかに勇気のいる決断ではなかったかと思う。
    同時に、それだけこの部落問題が持つ難しさ、根深さをも追及して見せたという点で、非常に意義深い作品。

    あとがきの「曇りのない目で読んでほしい」というひとことに、二重三重の著者の思いを見た。

  • あまりにも身近な場所での事件なのに、
    まったく知らなかった。
    身近な地名、身近な方言で語られる事件。
    なのに、全然身近に感じたことのなかった差別・・・

    部落差別については、義務教育時代からいろいろ勉強しているが、
    過去のものという意識でいた。

    しかし、この事件はつい最近のこと。
    部落差別の歴史も含めて、今でも差別が続いていることが書かれている。
    その差別をなくすために、地域の人たちが、どれだけのつらい思いをして、
    どれだけの決意を持って戦っているか。

    それを、この自作自演の主人公がどのように踏みにじったのか。
    自分の実力以上の地位や職、金を求めて、自作自演を繰り返した男。
    社会の同情や注目が集まることで得たものは、
    彼をどれだけ、安心させたろうか。

    この地域に生まれただけで、常に恐怖感と戦っている。
    そのことがバレるんじゃないか(なにも悪いことはしていないのに)
    差別を受けたくない(差別を受けることはみじめだ)

    差別は間違っている。
    差別するものは、糾弾されるべきだ。
    しかし、誰もが立ち向かえるほど、簡単な問題ではない。
    隠して生きていく生き方も、決して間違ってはいないと思う。
    本書内にも、なぜ隠すのか、なぜ堂々としないのか、という地域の声もあったが、
    誰もがそれほど強いわけではないし、戦えるだけの知識や能力を持っているわけでもない。

    それは、部落差別に関わらず、私の持論であるけれど、
    そもそも、この男がなぜこんなことをしでかしたのかというと、
    差別だけの問題ではなく、人間性の問題のように思える。

    タイトルの「どん底」は差別をされているこの地域のことを指しているかと思っていたが、
    この男の人間性のことなんだろうなと思う。

    どこにでも、こんな底辺の人間がいるんだな・・・
    これじゃ、差別はなくなるはずないさ・・・

  • 福岡県で実際に発生した
    部落差別の自作自演事件のルポルタージュ…。

    2003年から5年間、被差別部落の出身者の男が、
    部落差別の手紙を、自作自演で自分に送り続け、
    自治体も巻き込んで偽りの糾弾を行い続けた事件について、
    部落差別とその解放運動の歴史とともに、ルポしてます。

    登場人物それぞれの心理に焦点を当てることによって、
    事件の真相と同和問題について見極めよぅと試みており、
    なかなか読み応えのあるルポルタージュでした…。
    ただ…、著者自身も消化不良で結んでるのが、ちょっと…。

    そもそも…、
    部落差別問題について、ボクは、きちんと理解してなぃな~。

    在日朝鮮人差別や障害者差別、また女性差別なども含め、
    近年は、インターネットによる匿名での中傷も増えてますが、
    これらの差別問題と人権教育について、また、
    インターネットによる匿名投稿による人権侵害について、
    もっとしっかりと学校で教えるべきなんじゃないかな~。

    あと…、本書の中で一つだけ解せなぃのが…、
    本書では、なぜ加害者に仮名を使ってるんだろぅ…?
    ウィキペディアでも、A氏になってるし…。
    同氏は、実名で報道され、公判で有罪判決も受けており、
    今さら、仮名や伏字にする意味が解せないんですけど…。

    そもそも、同氏は…、
    被差別部落の方々も、また、それを支援する方々も裏切り、
    しかも、いまだに反省、謝罪の意思が感じられなぃといぅ…。
    それこそが、部落差別意識そのものだと思ぅんだけど…。
    申し訳なぃけど…、まったく同情できなぃ…。

    この事件は、
    裁判による判決をもって一応は解決してますが…、
    やはり、本質的な問題は何も解決してなぃので、
    本書も、スッキリ納得な終わり方ではありません…。

    でも…、一読の価値はあるかな~っと…。

  • 役場に勤める契約社員に部落出身であることを非難痛罵する50通以上の匿名ハガキが送られ続けた実在の差別事件。

    実はそれが被害者の自作自演だったことが判明し、町を揺るがす騒動となる。

    犯人の仮面をかぶったような無感動さと、一転して被害者としての辛さを訴えるときの芝居がかった言動が、ひたすらに不気味。

    差別という心の闇がドロリと日常を浸食していくえもいわれぬ恐ろしさ。

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どん底 部落差別自作自演事件の作品紹介

おぞましい言葉に満ちたハガキ44通。「犯人」は「自分」だった。複雑に歪んだ「現代の部落差別」の構造を抉る事件ノンフィクション。

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