デウスの棄て児

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 550
感想 : 73
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  • Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093861212

作品紹介・あらすじ

私を衝き動かしてきた、私の生きる原動力となってきたものを、今となっては正直に告白しなければなりますまい。それは神、つまりは天主への憎しみ。この世界を創造し、摂理を生み出した全能の天主なるものが事実存在するならば、私はそのものに復讐を企てる為だけに心血を注いできたのです。神をも畏れぬ衝撃の解釈で、日本キリシタン史最大の悲劇を描いた、第16回三島由紀夫賞候補作家の書き下ろし最新作。

感想・レビュー・書評

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  • 神とは何か、信仰とは何か、生きるとは何か・・・・・・・

    基本的な史実に乗っ取り、かつ嶽本野ばらさんの独創性、信仰観念が凝縮された「天草四郎」が登場するのが、この本です。嶽本野ばらさん作品特有のお洋服の名前や、ファッションについての言及が少ないのも、本作の特徴だと言えます。ですが、やはり物語根本の儚さ、四郎の両性的な美しさ、憎悪や煩悶の中で描き出される機微な心理描写、圧倒的静かなドラマチックな展開などは、他の著作にも通底する所があります。

    自分はこの所謂「島原・天草一揆」についての知識は疎いものの、野ばらさんの他の著作にもたまに登場する「切支丹」というワードと、天草四郎の起こした一連の乱の繋がりに、何か厳かなものを感じていました。(そう言えば、野ばらさんの処女作である『世界の終わりという名の雑貨店』の中でもやはり、隠れキリシタン弾圧等で知られる津和野についての言及がありましたね)本作では、そんな切支丹の殉教の真意が書かれていたようにも見え、成程と納得した半面、やはり最後の結末にはやるせなさも感じてしまいます。それは、単に私が持つ基督教への信仰心が云々とか、そういう問題ではないのでしょう。しかし、基督教を信仰し、デウスを讃え、オラショを歌い、何よりも敬虔で愚鈍に、凄惨な迫害の中で棄教を選ぶことなく、「人」として生きた信者たちには、僭越ながら、ものすごく美しく静謐な輝きを感じました。ですから比較的すぐにこの本を読み終えた私は、成程、嶽本野ばらさんの作品に通底する「信仰」がこの本にあるのだな、して、私はその美しい心に、揺さぶられるほどにひどく感動しているのだな、そう思いながらこの本を閉じ、見たこともやったこともない祈りというものに、ひどく懐かしい気持ちになるのでした。

    『違う。違うのだ、トシ。何処までそなたは痴れ者なのだ。こんなものを踏んでも、こんなものに唾しても、何も変わらぬのだ。まだ解からぬのか、天主というものの意地の悪さを。信仰というもののくだらなさを。私は、皆の為に敢えて罪を背負い、ここで天主に背いている訳ではないのだ。天主などという訳の分らぬものに誑かされているそなた達、その姿形もないものの為に命を投げ出そうというそなた達に、生きて欲しいのだ。尊きは私ではない、天主でもない。尊きはそなた達なのだ、トシ。尊きそなた達が生きずしてどうする。』(本文より)

  • 中学生の時に大好きだった本。
    何度か読み返して読書感想文を書いた思い出がある。天草四郎時貞を魅力的に描いている。最後の結末が悲しかった。

  • 野ばらさんの本は素敵だ

  • 漢字が多くて難しそうだと思ったけど、以外と読めた。
    今まで天草四郎のことなんて考えたこともなかったから面白かった。
    耽美()な感じとか、この作品なら合っている気がする。

  • 天草四郎が異能力者という設定の物語。アヘン中毒になった母と小ざかしい父の間に埋めれた彼がトシをはじめとする信者達と共に戦を戦うというストーリー。文章が読みやすくすらすら読めた。

  • 日本史で取り上げられる「島原の乱」を、野ばらさんの世界観を通して見るとこんなに違う。
    天草四郎時貞の幼少から、キリスト教を信仰する経緯、そして最期のときまでが描かれます。
    教科書を読むだけでは味わえない不思議な世界と深みがあります。
    史実を重んじるというより解釈を愉しむ、という感じ。

  • 天草四郎、嶽本野ばら風物語。

    歴史を知らない私にはよい勉強にもなりました。
    天草四郎って切支丹だったんだ。
    でも野ばらちゃん(男性)のフィルターを通すと天草四郎がハーフになっちゃう。
    クリエイティブ。

    宗教とか、哲学とか、そういった話は好き。

  • 天草四郎。
    読みやすい、と思う。
    もう少し奥行きがほしい気もするけれど。

    嶽本野ばらさんというと、もっとファッショナブルというか、
    そんな内容のものばかりかと思ってました。

  • 既読。

  • こんな野ばらちゃんの小説にヴィヴィアンも、エミキュも、お洋服の英字が並ばない小説があるとは。
    君主への信仰から神への信仰へ鞍替えとか、なかなか面白いかったです。
    どちらでもない・どちらにもなれない、そういった感覚から起こる寂しさや叫びを書く人だっていうのをやっと思い出した。
    『エミリー』ずっと好きですよー

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著者プロフィール

文 嶽本 野ばら
京都府宇治市出身。作家。
1998 年エッセイ集『それいぬ̶ 正しい乙女になるために』(国書刊行会)を上梓。
2000 年『ミシン』(小学館)で小説家デビュー。
2003 年発表の『下妻物語』が翌年、中島哲也監督で映画化され世界的にヒット。
『エミリー』(集英社)『ロリヰタ。』(新潮社)は三島由紀夫賞候補作。
他の作品に『鱗姫』、『ハピネス』(共に小学館)、『十四歳の遠距離恋愛』(集英社)
『純潔』(新潮社)など。『吉屋信子乙女小説コレクション』(国書刊行会)の監修、
高橋真琴と共書絵本『うろこひめ』(主婦と生活社)を出版するなど少女小説、お姫様をテーマとした作品も多数。

「2021年 『お姫様と名建築』 で使われていた紹介文から引用しています。」

嶽本野ばらの作品

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