- Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093863049
作品紹介・あらすじ
奇妙な味とユーモア、そしてやわらかな幸福感-川上マジックが冴えわたる、極上の恋愛小説全7篇。
感想・レビュー・書評
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表題作を含む7つの短篇を収録。ここにあるのはいずれも基本的にはリアリズムの系統に属するもの。巻頭の「一実ちゃんのこと」だけは、ちょっと人を食った話だけど。10代の終りから40代後半の、いずれも女性が主人公の物語だ。相手も含めてみんなそれぞれに現実の社会生活とは、ほんの少しだけズレていたり、違和を感じていたりする。今回の作品は、おそらく男性の読者よりも、女性の読者のために書かれているという印象を受ける。もちろん、男性読者を排除するものではないが、それでも作家は自分を含めた女性の存在を見つめているようだ。
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『世界は断片からできていて、どの断片もはかなくてあやふやだけれど、あたしも一実ちゃんも、ともかく牛丼屋でつゆだく大盛りを食べることができる』-『一実ちゃんのこと』
川上弘美の魅力は様々あって、読むもの毎に異なっているとも言えるのだけれど、きっと全てを決定してしまわずに読み手に託されているものがあるところが、自分は一番に気に入っているところなのだろうと思う。そもそも主人公の描かれ方にその特徴は既に表れていて、大概、主人公たちは自分の気持ちがよく解っていない。
そんな風に言葉にしてみたら、あれれ、それって特別に普通じゃないことなのかな、という気がすごくしてきた。考えてみたら、自分はそういう登場人物の出てくる可能性の高い作家が好きなのだけれど、それはきっと自分の気持ちと親和するところが大きいからなのだろう。つまり自分も自分の気持ちなんてよく解らないものだと思っているのだろう。
主人公たちは何を見ても聞いても一様にびっくりする。よく解らなくてびっくりするのだ。しかし、びっくりした後は受け止める。それもありだなあ、と受け止めることができる。結局自分の気持ちなんてあやふやなものなんだし、と割り切る。
それにも係わらず、川上弘美の描く人物は行動的である。そしてやたらに健気である。そういう人にホレない人はめったにいないだろうと思う。そして、川上弘美の書く物語は必ずしも大団円という訳ではないのに、少しだけ、前向きになれる。決してどんどん前向きになれるのではない。ほんの「少しだけ」前向きになれるのだ。そこがきっとまた自然な感じがしてよいのだろう(と思う)。
物語に振り回されるような嫌な感じが起こらない。あざとさがない。やっぱり川上弘美が好きだ。(いや、よく考えればあざといと言えばあざといところもあるんですよ、本当はね。でもそこも含めて好きなんです) -
なんだか絵を鑑賞したような感じ。表紙のせいかな。
ストーリーとしてや、はっきりとした台詞での印象ではなく
もっとぼんやりとした全体的なイメージが残る感じというのか。
どれもちょっと不思議な話だったけど、日常の機微を感じて、そうなんだぁと相槌を打ちたくなる感じというのか。
宙ぶらりんの感じがなんかしみじみしたんだけど、なんとも具体的な感想が書きにくい。 -
全体的に明るいトーンの短編集でした。
ナチュラルなポジティブさとユーモアで、
ありふれがちなテーマをこういった形で表現するのかーと、
毎度のことながら驚きと可笑しみが渦巻く中、
こっそりと行間に潜んだ感情交々に、しみじみじんわりとしてしまったのでした。 -
短編集。
ふわっとした文章で読みやすい。
恋愛小説というよりもう少し、生活の中で感じるモドカシさ、刹那さ、哀しさが漂う。 -
クローン人間がクローン牛を強奪する物語が含まれている。
クローン人間は同じ境遇の牛に自由を味あわさせてあげたいんだそうで。
で、このクローン人間、お父さんが作ったんだと。愛妻をなくした経験から、愛娘のクローンを3体も。と言うことは、その家庭には同じ顔をした女性がオリジナルを含め4人も。
凄い! -
短編集。恋愛小説、にカテゴライズされてるけども、母親や息子、友人の話に、恋愛をちょいと絡めている感じでした。
『エイコちゃんのしっぽ』は女友達と恋愛話。最後が笑えます。
『夜のドライブ』は、母とドライブする話。昔に比べてなんだか優しくなった母。自分の母親と被る部分があり、なんだかしんみりしました。
『天頂より少し下って』は、若い恋人のいる母親の話。息子(成人)との関係がなんかいい。息子と恋バナをする、ていうのに、憧れる。
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単純ではない主に恋愛関係の短編集。タイトルに惹かれて手に取った。
「壁を登る」のときどき妙なものを連れてくる綾子さんという設定がなかなか変わっていて面白かった。
表題作の「天頂より少し下って」は、きっと幸せな気持ちは過ぎた後にならないと認識できない、というような喩えだと思うのだが、それが素敵に描かれているなと感じた。
全体としては不思議さ少なめで理解できる雰囲気という感じで、川上弘美らしさちょっと控えめかなと感じた。