くちびるに歌を

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093863179

感想・レビュー・書評

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  • 中田永一著『くちびるに歌を』P75、76より抜粋


    「(中略)サトルは部活に行かんね」

    「よかと?」

    「部活にでもはいらんば、あんた、友だちできんばい。あんたが結婚するとはもうあきらめとるけどね、友だちくらいはできんといかんばい」

     なんだかいろいろひどいけど、全体的には母の気持ちがつたわってきた。

    「うん、ごめん」

    「あんた、ごめんち言うとはやめんね。そういうときは、ありがとうち言うとよ」

    「そうか、ありがとう」


     満足ではなく大満足の佳作青春小説でした。

    上記の箇所を読んで作者とこの物語のセンスの良さに

    ピンとくる人もいると思い一部抜粋させてもらいました。

     これだけ密度の濃い物語を300ページ弱にまとめ上げ、

    読み応えも、気持ちよく後を引く満足感と読後感も

    得られる作品に仕上がっているのは、

    青春、エンタメというジャンルに留めておくのは

    もったいない(というか間違いだとすら訴えたい)ほどの

    文学的な才能と文章のセンスが下支えしているからだと思います。

     そうです、この小説は日本が誇る秀逸な文学作品だと思うのです。

    そして読書好きも、小説読まず嫌いの方や偶に話題作は読みます派の方、

    さらに老若男女、古今東西を問わず、

    誰が読んでも大満足間違いなしの素敵な物語の世界を

    どうか多くの人が共有できることを

    私のくちびるに歌を持つように

    願いを込めて伝えたいと思います。

  • 合唱コンクールを目指す、五島列島にある中学校の合唱部。
    そこに産休になった顧問教師の替わりに、美人教師が1年だけ赴任されて来た。
    彼女目当てに合唱部に入る男子生徒たちと真面目にコンクールを目指す生徒たちの間に生まれる軋轢。
    そして、あれこれあった後、心一つにコンクールを目指す様子が、二人の少年、少女の目線で描かれた作品。

    中田永一さんは乙一さんの別名なんですよね。
    これは乙一さんらしくない爽やかな話ですが、やはり所々に乙一さんらしさを感じました。
    島を舞台にした中学生の話と言っても、ただほのぼのしているだけでなく、現代らしい暗さを抱えた、等身大の中学生の姿がここにあります。

    あらすじだけを見ると、同じ目的をもつ先生、生徒の熱血っぽい青春小説かな~と思うけど、そこは乙一テイストで、アツいものを感じない。
    生徒だけでなく、新任教師も最初はあまりコンクールに対してやる気がないというか・・・やる気のある子とやる気のない子の差もあり、空回りしている感じ。
    やっと皆がやる気になるのは後半あたり。
    そしてそこに所属している、複雑な家庭環境にいる少年と少女。
    コンクールを目指すという共通の目的以外には特につながりの感じられない二人に終盤、思いがけない関わりのあった事が見えてきます。

    こんな風に何か一つの目標に向けて、同じ年齢の人間が思いを一つにするってこと、大人になってからは中々ありません。
    結果はどうあれ、そういう事をしたという経験って、その人の一生の宝物になるんだろうな~と思って何となく羨ましい気がしました。

    作中、課題曲である「手紙」の歌詞を心から理解するために・・・と、中学生たちは15年後の手紙を書く課題を与えられます。
    その手紙の中で主人公の少年が書いた思い、その文章は痛いほど鋭い表現だと思いました。
    『自分のことが、人間の村に入りこんだモンスターのようにもえるのです。』
    短いのに、何よりもはっきりと少年の状況が分かるこんな表現・・・こういうのが乙一さんのセンスだと思います。
    瑞々しく傷つきやすい年代の少年、少女の目線で、淡々と描かれた、それでいて透明感の感じる青春小説です。

  • 『手紙』という歌の良さが最大限に生かされている小説。
    元々好きな曲だったけど、この本を読んでもっと好きになった。

    メインになっているのはふたりの目線なんだけど
    15年後の自分に宛てた手紙という形でまた違う人の目線が絡んでくる。
    それも含めていろいろミスリードされて、尚且つうまいこと引っ掛かった感じ。
    いちばん吃驚したのはケイスケの好きな人。そっちかよと思った(爆)。
    そしていちばん感動したのは
    最後のサトルのお兄さんとナズナの遣り取りからの一連の流れ。
    あれこそが合唱の真骨頂なんだろうなーと。
    サトルのお兄さんは自閉症だというが、あの記憶力はずば抜けている。

    淡々と、日常を切り取った感じの筆致が心地よかった。
    普段の自分は白黒付かずに話が終わるのはあまり好きではないのだが
    この話に関しては、こまごまとした部分が曖昧なまま話が終わっているのが
    実際は日常が続いている、という感じがして嬉しかった。

  • 長崎の五島の中学校合唱部がNコンに出場するまでの話。

    いやぁ、青春の甘酸っぱさいっぱいで
    自分の青春時代を懐かしく思い出した。
    九州弁も味があって良いなーと。

    終盤サトルの兄の前で歌うシーンには泣いた。
    音楽の力ってすごいよな。
    「手紙」も今度じっくり聴いてみたい。

  • すっごく厳しく言うと、あともう少し何か物足りない感じ。
    でも、それでも読んでよかったと思える1冊だった。

    自分も中学、高校とコーラス部に入って歌っていたので、この話に出てきた諫早の文化会館は同じように緊張しながら歌った場所。
    小さな島の中だから、いろんなことが繋がってきて、そのつながりに救われる部分も好きだった。
    大好きな友達でも、なんとなく許せない気持ち。でも、許したい気持ち、そんな気持ちのゆらぎも、それぞれに迷いながら一生懸命の気持ちもとても良かった。
    特に大輔。よかったねと、肩を叩いてやりたい。

    • ようこさん
      中学生のとき、こういう青春小説が好きでした!レビューを見て、また読んでみたくなりました(^_^)
      中学生のとき、こういう青春小説が好きでした!レビューを見て、また読んでみたくなりました(^_^)
      2013/01/17
  • Nコン懐かしい!!
    学生時代合唱をしていたので、懐かしい気持ちで読み終えました。

    みんなとの声が一つにまとまった時の感覚は、本当に気持ちのよいものです。

    登場人物それぞれの「手紙-15の君へ」が綴られています。

    爽やかな読後感です。

  • アンジェラ・アキの名曲 「手紙」が課題曲の、NHK合唱コンクールを舞台にした青春小説ということで、かなり熱く語られるのか、と思いきや、割とアッサリした展開だった。
    ラノベ的とも言えようか(必ずしも悪い意味ではなく)。

    しかし、ヤマ場ではやはりホロッとくるものはある。

    各登場人物の掘り下げかたは、今一つ。
    特に、産休となった先生の代わりに臨時できた柏木先生については、描き方が不十分と感じる。

    閉じこもりがちだった男子の桑原君の、将来の自分に宛てた手紙が、ヤマの一つにあるのだが、この手紙が立派過ぎて(笑)、リアルさが感じられないところが残念。

  • それまで女子部員しかいなかった合唱部。しかし、顧問の先生の産休で臨時教員として来た美人の先生が顧問となり、その先生目当てに男子部員が入部してきて、合唱部の中は徐々にゴタゴタに…。2人の視点で進む物語。部員それぞれが抱える悩み、思いを旋律に、物語が紡がれていく。


    自閉症の兄のいる桑原サトルと、家庭事情により男性に対して嫌悪感を抱いている仲村ナズナ。この2人が抱える内面的な葛藤を主軸にしつつ…いや、最後は感動しました。ラストシーンではこの物語を、音楽の持つ力に結びつけて見事に完結しています。結末までの物語の繋げ方が素晴らしい。何より、読後に合唱って、音楽って素晴らしいものなんだなぁ、と改めて感じさせてくれます。

  • 主人公がどうして合唱部に入ってのめり込んだか、普通の小説ならもっと勿体ぶった理由をつけそうなところ、本当に日常の些細なきっかけを書いている。
    日常ってそういう積み重ねなんだろう。描写が見えるから没入感があっていい話でした。

  • 「【くちびるに歌を持て、勇気を失うな。心に太陽を持て。そうすりゃ、なんだってふっ飛んでしまう!】って、そんな感じの詩があるとです」

    『ああ 負けないで 泣かないで 消えてしまいそうな時は
    自分の声を信じ歩けばいいの』

    『拝啓 若葉の薫る候となりましたが、いかがおすごしでしょうか。などと、季節の挨拶をしてみましたが、不要だったかもしれませんね。十五年後にこれを読んでいるあなたが、おなじ季節に手紙を見つけるという保証はないのだから。』

    「だれも切り捨てない。全員で前にすすむ。そう決めたんだ」

    「あんたたちは、ほんとうに、どうしようもなか。もう、しらん。死ね。そして地獄におちろ。生き返って、もう一回、死ね」

    『金賞をとって勝ち進みたいという願望もなければ、ミスをしないだろうかという恐怖も消えた。今、私たちにあるのは、もっと純粋で、つよい心だった。私たちは、ただ歌を届けたかった。海をわたったところにいる、大切な人に。』

    『「【くちびるに歌を持て、ほがらかな調子で】ってね。それをわすれないで」
    松山先生の言葉をおもいだす。きっと、その通りだ。どんなに苦しいときでも、つらいときでも、不幸なときでも、迷ったときでも、かなしいときでも、くちびるに歌を忘れなければ、だいじょうぶ。私たちは涙をぬぐって、いつだって笑顔になれる。』

    『兄がいなければ、もっと自由に生きられるのに、というおもいがあったのではないか。
    信じたくないけれど…。
    たとえ、そうだとしても、最後には兄のそばに寄り添うでしょう。
    愛情も、憎しみも、何もかもすべて受け入れて、それでもいっしょに生きるでしょう。
    僕たちは家族ですから。』

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著者プロフィール

1978年福岡県生まれ、2008年『百瀬、こっちを向いて。』でデビュー。他の著書に『吉祥寺の朝日奈くん』『くちびるに歌を』『私は存在が空気』。別名義での作品も多数。

「2017年 『僕は小説が書けない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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