起終点駅

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093863186

感想・レビュー・書評

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  • 北海道の美しい情景描写と、ままならない運命に翻弄される登場人物の生き様が調和し、桜木紫乃さんの世界にどっぷり浸らせて頂きました。
    無縁をテーマに描かれた6つの短編。何故こんなことにと、孤独で明るくはない濃い人生。しかし、後半に向かって眩しくなってくるのが桜木さんの魅力だと思う。
    印象的だったのは表題作と、「たたかいにやぶれて咲けよ」。
    起終点駅は、ホテルローヤルより前に映画化されていたとのこと。それを知って読むと頭の中により映像が浮かび、佐藤浩市さん一色だった。多分映画を見ても同じ風景が広がるのでは。
    「たたかいにやぶれて咲けよ」は今までの作品と違う雰囲気を感じました。ストーリー性というよりミツを通しての生き方の指標のような。
    「ふたりだけどひとりだった、ひとりだけれど、ふたりだった」このセリフを何度も読み返し、自分と重なるところがあり胸が熱くなりました。ミツのいいつけには涙腺が緩む。
    桜木さんが描く女性たちは、姿は変わっていても、強くて覚悟を決めている。そこに心を付き、そんな風になれたら、と思う。
    人生には失敗や、様々な別れがあり、もう駄目だと行き止まりにも感じることがある。実際これの繰り返しではないか。しかし、その終点が起点でもあると。綺麗ごとに聞こえるかもしれないけれど、前を向いて(と自分に言い聞かせる)。
    自分の孤独を大事に。
    今まで読んだ中でも、寄り添われた感じがして、しみじみしてしまった一冊でした。

  • 私の好きな北海道を舞台にした6編からなる短編、表題作の起終点駅に出てくる国選しかやらない男やもめの弁護士が新聞の切り抜きの料理を作るというくだりがなかなか良かったです。いろいろな人生の起点終点を描いたお話しにあなたも考えてみて下さい。

  • 人間は誰もがいつかは死ぬとしても、すべての短編で、死の気配が色濃く出ている短編集でした。
    桜木紫乃さんの小説は、誰のどんな生き方でも、それを否定しないところが好きです。

  • 「晴れ渡った空は青いビニールシートと同じ色をしていた」

    ひとつの映画が作れたほど印象い深く内容の濃い短編でもある、桜木柴乃さんの短編「起終点駅 ターミナル」文末尾の一節

    北海道釧路のカーンと晴れ渡ったときの空らしい描写でもあり(いつもは霧も濃いらしいのだが=原田康子『挽歌』)この短編の初老の弁護士の来た道の人生をくくればそんなふうに思うような印象も受けて(といってもこの短編を読まない人にはわからないが)

    たまたま、森干絵都さんの短編「風に舞いあがるビニールシート」を読了したばかり、 なぜあの場違いのような青いビニールシートがこの短編に描かれているのか?
    国連難民高等弁務官事務所で働く悩み多い女性の主人公が、 そのビニールシートでなぜ「なごむ」のかわかり、ストンと腑に落ちたところで。

    昨夜はNHKで「UNHCR国連難民高等弁務官事務所」で働く女性のルポを見、シリアの難民問題もさることながら、それを手助けする人たちの苦労に、 またまた殺伐たる印象を受け、どこに希望があるのかと、時宜を得た印象

    あのくどくどしい青い色のシートは決して美しくない。 ホームレスの小屋を作るし、災害の時屋根をおおうのもそれ、 ほんと、よく見かけるおなじみだけど。

    ビニールシートは便利、ピクニックのお弁当の時にも
    花見宴会のござにもなるし、工事場のちょいおき材料にも雨露しのげる。

    でもでも、 あの色は美しくもない、味もそっけもない。

    桜木柴乃さんも初めて読む
    この作家さんのハッとするようなフレーズに心ひかれた

    例えば
    「すべてが自由に見える生活は、案外不自由でこころもとない」(「起終点駅」)
    とか
    「花が大きいほど、できる影もまた同じ」(「たたかいやぶれて咲けよ」)
    など

  • 淡々と描かれた文章なのに、すごく共感できたり、ぐっと心を揺さぶられたり、秘めた力強さがある作品だと思った。
    様々な理由で一人で生きている人達。それが当然のように生活しているけれど、誰かがいてくれると、それがすごく暖かくて愛おしかったりして。
    読んでいると、「人生って思い通りに行かない、難しいものだよなぁ」と悲しい気持ちになるけれど、最後まで読むとなんとなく前向きな気持ちになれるのは、この短編のそれぞれの主人公達が皆「それでも明日もがんばろう」と、前に進む生き方をしているからなんだと思う。そこにとても励まされた。
    短編なのに、すごく長い人生のストーリーを読み切ったような気分。

  • 北海道のある土地を舞台にした、6編の短編物語。
    どれも切ない気持、
    起終点駅(ターミナル)は映画にもなりました読んで思い出した。
    スクラップロード、自分の為の墓穴を掘るとは…描写が浮かび何とも言えない感情。

  • どの物語も切ない。北海道の観光地ではない漁村を通りがかると、どこかよそよそしく、寂しく、でも静かにそこにある。
    ここに住む人たちがどんな思いで暮らしてきたのか、これからは通るたびに考えてしまうだろう。厳しすぎる自然。濃すぎる人間関係。選択肢の少ない生き方。それらが人々の運命を変えていく。
    「かたちのないもの」はキャリアウーマンで、都会の話だが、男は故郷の母の元へ帰り、女は残された。釧路の新聞記者、里和の取材で出会う釣りする男「海鳥の行方」。ミステリアスな、でもしたたかな歌人の生き方「たたかいにやぶれて咲けよ」。失踪した父親と思いがけない形で出会う「スクラップ・ロード」。「起終点駅」(ターミナル)は映画化もされた。(みてません)「潮風の家」のたみ子は吉原から流れて、天塩町の漁村に住み着いた。過去にどれほど壮絶な人生があったかは描かれていないが、端々から感じることができる。30年ぶりに戻った千鶴子とのひと夜の邂逅。この話が最後でよかった、と思えた。

  • どの短編も、人が死んだり、死んだ人に心が囚われたりしている人の、重そうな題材だけど、海風に倒されず前を向く人たちを暖かくも厳しく描いている。良い

  • 北海道の寂れた、寂しいストーリー。何故だか、しっとりして、悲しい出来事があり、小さい幸福があり、こんな幸せもあったんだなって気づかせてくれる。悲しくもあり、面白く読める短編だった。

  • 6つの短編集。
    何故か作者が直木賞を獲る前に、何かで衝動買いをしたにも関わらず、読んでなかったので、映画化してるという文庫本の帯を見かけ、そういえばまだ読んでなかったなと思い、引っ張り出した。読み終えてから、今まで読まなかったことを後悔するくらい良かった。
    いずれも、男女の、恋愛ともまた違うが、それぞれの人物が抱える内面にあるものを揺るがす再生の物語だった。
    決してどれも明るい物語とは言えないが、ひたむきに生きる姿、これからの姿というものを、想像させる内容だった。
    北海道を舞台にしているが、それが都市部では無く、地方を中心に繰り広げている、退廃した空気がまた一層に作風を彩る。

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著者プロフィール

一九六五年釧路市生まれ。
裁判所職員を経て、二〇〇二年『雪虫』で第82回オール読物新人賞受賞。
著書に『風葬』(文藝春秋)、『氷平原』(文藝春秋)、『凍原』(小学館)、『恋肌』(角川書店)がある。

「2010年 『北の作家 書下ろしアンソロジーvol.2 utage・宴』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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