スープの国のお姫様

著者 :
  • 小学館
3.40
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本棚登録 : 293
感想 : 51
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  • Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093863537

作品紹介・あらすじ

謎たっぷりの、美味しいスープを召し上がれ

元料理人の僕は、別れた恋人から奇妙な仕事を紹介される。それは、湘南に建つ古い屋敷で、一人暮らしの高齢のマダムのために、毎晩一杯のスープを作ること。報酬は破格だった。
屋敷で、僕はマダムの孫娘である風変わりな美少女・千和に出会う。両親を事故で失くした千和は心を閉ざしていたが、母の遺した料理本を愛読し、古今東西の料理について膨大な知識を持っていた。幼い頃に母と離れ離れになった僕は、千和に自分と似たなにかを感じ、二人は少しずつ心を通わせていく。
終戦後に食べた想い出のポタージュ・ボンファム、ビールのスープ、画家ロートレックが愛したスープ、偽ウミガメのスープ、せかい1おいしいスープ……。僕と千和は力を合わせて、無理難題のようなリクエストのなかに隠された”謎”を解いていく。
そしてついに僕は、ずっと探し続けてきた「母と最後に食べた想い出のスープ」の手がかりを見つけるが――。
哀しみから再生し、明日を向いて歩む力をくれる6皿のスープの物語。


【編集担当からのおすすめ情報】
2014年4月映画公開の青春小説『大人ドロップ』でも注目を集めている著者は、現役の料理人。謎解き×料理の蘊蓄で二度おいしい食ミステリーです。たかがスープ、と侮るなかれ。スープという料理の奥深さも再発見できます。

感想・レビュー・書評

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  • 主人公の調理人の淡々とした雰囲気がよかったです。
    心理描写に唸りました。たとえば、
    “老人は遠くを見るような視線で空中の一点を見つめていた。老人もまた、失われてしま った日々に想いを馳せているようだった。
    「スープを口に含んだ瞬間、昔のことを思い出しました。嬉しいこと、辛いこと、哀しかったこと、寂しいこと、それらを順番に…」”
    この、思い出す順番はかなり推敲したのじゃないかな、うーむ。


    ・「余計なお世話かもしれませんが、年配者のちょっとしたアドヴァイスだと思って聞いてください。こういう時は、そもそものはじまりから考えることです」
    「そもそものはじまり?」
    「つまり、ポタージュ・ボンファムとは一体なにか、というところを紐解くことです。根源的なところから考えはじめるのです。答えは意外にシンプルだったりします。あれやこれや材料を足しても、お客様の望む味にはなりません」
    キサキは人差し指を立てた。この男の動作はいつもどこか芝居めいたところがある。

    ・老人は遠くを見るような視線で空中の一点を見つめていた。老人もまた、失われてしま った日々に想いを馳せているようだった。
    「スープを口に含んだ瞬間、昔のことを思い出しました。嬉しいこと、辛いこと、哀しかったこと、寂しいこと、それらを順番に…」

    ・「そんなの変ですよ。友達なんて、頼まれてなるものじゃない」
    キサキは目を細め、そのかたちの良い鼻筋を指先でなぞった。『どうでしょうか』とその表情は語っているように見えて。それから彼は流しで手を洗った。彼は一日に何度か、丁寧に手を洗う。それがとても大切なことのように。

    ・口論してみたって溝は埋まらない。こういう時、言葉は基本的には無力で、事態をややこしくするだけだ。

    ・「昔、車のなかで積み上げた容器が崩れて、料理が台無しになったことがあったな」
    「その時はどうしたの ?」
    「真空パックにしてあった料理はいいんだけど、そうじゃないのは食べられないから、近くのスーパーで材料を買い込んで、一から新しく料理したんだ。なにつくったのかさっぱりおぼえてないくらい大変だった」
    そういうトラブルのなかでつくった料理のほうがかえって評判が良かったりするのが、不思議なところだ。

    ・「あの鳥たちは君が飼っているのかい?」
    僕は彼に訊ねたが、返事はなかった。本当に聞きたいことでもなかったので、それ以上訊ねたりはしなかった。彼の様子を見ていると、なんとなく自分の子どもの頃を思い出した。自分にもこういう時があった。世界と自分とのあいだの距離の取り方がよくわからなくて、戸惑っていた頃だ。

    ・「大人になるってことはさ、罪を 重ねることなんだ。僕らは命を奪わなければ生きていけない。菜食主義者だって、その罪からは逃れられない。そして、罪を償う方法は、罰を受けるだけじゃない。死んでいったものたちのためにできることは、ちゃんと生きることだ――なんて言うと教科書に書いてあるような説教になっちゃうけどさ」
    僕は誤魔化すように笑ってみた。真面目に話すのは、難しい。

    ・「真剣に話したから恥ずかしいんでしょ?たまには得意じゃないこともしたほうがいいわよ。嫌なことを毎日ふたつすることは魂の健康のためにいい、って誰かも言っているんでしょ?」

    ・「僕だって、わかっているよ。でも、もしもって考えてしまうんだ」
    「もしも」彼女は空中に書かれた単語を読むように言った。「もしもっ て、なんのためにあるのか、よくわからない不思議な言葉よね。こういう気持ちって、どうしてあるのかしら。ただ人を苦しめるだけじゃない。そんな風に考えたって、今はなんにも変わらないのに」

    ・「腹は立たないの?」
    「慣れてるからね」と僕は言った。「知識を認めてもらいたかったり、文句をつけずにはいられない性質だったり、ああいうお客さんは一定の割合でいる」
    銅鍋を磨きながら、僕は話をした。
    「君もいつか男性とレストランででデートこともあるだろ。そんな時に思い出すといい。客として訪れた店のスタッフへの態度で、その人の本性がわかるから。僕らみたいなスタッフに対して、相手の男性が偉そうにしたり、なにかを頼む口調がぞんざいだったりしたら要注意だよ。君 に対してどれだけ紳士的にふるまっていても、それがやつの本性だから。付き合いはじめてからガッカリしないですむ」

    ・その部屋に足を踏み入れた瞬間、はじめに満ちてきたのは虚脱感だった。
    ガラスから夕陽が差し込んで、部屋をオレンジ色に染めていた。

  • 一杯のスープで人生が変わることもある
    スープの中には全てがつまっている

  • だいぶメルヘンだったけど
    美味しいスープが食べたくなった。

  • スープしか食べないマダムの元で働くことになった料理人の話。

    食事と芸術が共通しているというのはとても面白い観点。伝記や物語、絵本の食事を再現するというのも面白かった。作者は料理人との兼業作家らしく、料理の描写が詳しいのも納得。

    ただ、千和が最初モリノにものすごく怖がられていた理由だとか、最後のスープを料理をほとんどしたことのない人間が推理も含めてできたのかとか、キサキと主人公の元カノはどうつながっていたのかとか、そういうモヤっとしたツッコミどころがあるように思えてしまった。
    料理本としては◎なだけに、惜しい気がする。

  • 色んな種類のスープを巡って話が進む。
    スープ食べたくなった。

  • 『大人になるってことはさ、罪を重ねることなんだ。』というセリフが印象に残った。

    主人公と女の子の関係性も良かった。

  • 文学中のレシピなんかが出てくるから最初はとっつき辛かったけど、気になるレシピが沢山出てきた。
    またいつか読み返したい。

  • 懐かしい人の小説を読んだ。良いものでした。
     

  • 屋敷に1人住むマダムにスープだけを作るシェフとして働き始めた主人公。料理知識は豊富な孫娘の千和と協力してリクエストされるスープの味を探す。
    6皿のスープにまつわる物語。

    スープ作りの描写が丁寧で詳しい。作者がシェフならでは。
    おじさんと女子高生、年齢・性別関係なく友達じゃないけどなんか心を開ける関係って良いですね
    読後は陽だまりにいるような感じ。執事のキサキも良いキャラでした。

  • スープに関するウンチクを うまく物語と重ねて
    楽しめました。
    漫画のような感覚で 読み易かった。

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著者プロフィール

作家・料理家。1981年生まれ。服部栄養専門学校卒業後、料理教室勤務や出張料理人などを経て、2005年『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、デビュー。同作は芥川賞候補になる。作家として作品を発表する一方、全国の食品メーカー、生産現場の取材記事を執筆。料理家としても活動し、地域食材を活用したメニュー開発なども手掛ける。『ぼくのおいしいは3でつくる―新しい献立の手引き』(辰巳出版)、『もっとおいしく作れたら』(マガジンハウス)、『低温調理の「肉の教科書」―どんな肉も最高においしくなる。』(グラフィック社)など著書多数。

「2023年 『樋口直哉のあたらしいソース』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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