- Amazon.co.jp ・本 (477ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093863896
作品紹介・あらすじ
人々の交錯が一日の物語となり浮かび上がる
もうしばらくだ。もうしばらく待てば、偽札事件は終息する。一家三人の神隠し事件はともかく、みずから関わった騒ぎのほうは警察も裏社会の“あのひと”こと倉田健次郎も追跡を断念するだろう。追手の心配がうすれ、そう考えた津田伸一はノートに鉛筆で「二年前、夏」と文章を書き出し、しばらく平穏に過ごしていた。
ところが翌月に入って、ハンバーガーショップに姿を見せた女優倶楽部の社長からいきなり退職金を手渡され、最後通告を受ける。
「このままじゃおれたちはやばい、ラストに相当やばい場面が待っているかもしれない。おれたちというのは、床屋のまえだとおれ、それにもちろん津田さんの三人組のことだ。だけど厳密にやばいのはあんただよ。わからないか。夜汽車に乗って旅立つ時だよ」
あのひと倉田健次郎が散髪に現れたのか? 房州老人のあの大金は裏社会から流れてきたものなのか? 数日のあいだ身を潜め、せっせと小説の下書きをつづける津田伸一にまもなく決断の時期が訪れる。
忽然と姿を消した夫婦と娘、郵便局員の失踪、疑惑つきの大金、そして「鳩」の行方……多くのひとの人生を大きく左右する二月二十八日の交錯が、たった一日の物語となって雪の夜に浮かびあがる。
【編集担当からのおすすめ情報】
本作品は文芸誌「きらら」に足かけ4年にわたり連載されました。その期間毎月、次回はどんな内容がどんなふうに描かれるのだろうか、と待ちきれなくてうずうずしていた編集者にとっては、こうして上巻から下巻までいっぺんに読める「あなた」が正直なところうらやましいです。下巻では急展開も待ち構えています。ぜひ最後の1行まで、これぞ小説、と言えるおもしろさをご堪能ください。
感想・レビュー・書評
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上巻の帯に「この作者の新作を、ずっとじっと、ひたすら待っていました」と角田光代のコメントが書かれている。
まさにその通り。私もずっと待っていた。
佐藤正午は大好きな作家のなかでも、私にとっては村上春樹以上の待ち人。
この本も5年ぶりの長編である。(しかも上下巻!)
今回もずいぶん待たされました。
念願の図書館予約一番を勝ち取り、年末年始に読める―!
あー、でもきっと面白くて一気に読んじゃうんだろうな、ムフフ。
なんて思いつつ読み始めたのは良いが、予想に反して手強い相手だった。
津田伸一は直木賞を二度も受賞した(?)経歴を持ついわば過去の人。
この津田が冬の日にドーナツショップである男と知り合った。
まさにその日の夜に男は家族と共に忽然と姿を消した。
現実に起こった失踪事件を元に小説をしたためる津田。
その小説の中の世界と現実の津田の生活を錯綜しながら物語は進んでいく。
どこまでがフィクションでどこまでがリアルなのか段々分からなくなってくる。
伏線をいくつも張り巡らせた巧みな展開は一筋縄ではいかない。
タイトルの「鳩の撃退法」にある鳩とは一体何を意味しているのか。
つがいの鳩はどこへ行ってしまったのか。
後半になるまで明かされない鳩の真実。
最後は全ての謎が解き明かされ・・・。
読むのに苦労させられましたが、最高に面白かったです!
ここまで複雑な構成はなかったんじゃないかな。
無冠の帝王、佐藤正午。やはり只者じゃない。
彼の作品には良く使われる過去に遡及する展開がミステリー要素と相まってぐぐっと惹きつけられちゃうんですよね。
忘れてはならないのが会話の妙。
佐藤正午の台詞回しの巧さはいつ読んでも痺れる。
必ずと言っていいほどのだめんずっぷりが良いのよね~。
これは好き嫌いが分かれるところだと思うけれど私はたまらなく好き。
憎めないのよね、なぜか。
もう、本当にありがとうと言いたい。
こんなにボリュームのある小説を堪能させてくれて。
佐藤正午氏、この小説を「墓碑銘にしたい」なんて言ってますが、そんなことおっしゃらずにもっともっと新作を書いていただきたい。
切に願います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
結局最後まで著者が何を言いたいのかよくわからなかった。鳩のことも家族の失踪のことも中途半端に終わった印象。いちおう伏線は回収して物語は収まるとこに収まったんだろうけど、いまいち共感できない。文章が非常に読みづらいのも厳しい。
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かつての賞作家津田さんが厄介ごとに巻き込まれつつ小説を書く話。現実の話と書かれた小説の話が交錯するから度々いやこれは小説の方、と思い聞かせながら読んだ。たまに脳内バグを起こして現実と勘違いしかける。後半になるにつれ慣れて面白なるし、ラストに思わず納得できる。
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ふぅ。物語的には面白かったのだが、なんとも苦戦した読書時間になったように感じる。そう思ってしまう原因はこの物語を完全には把握できていないからだ。作家の津田が描いた物語と実際現実に起こった事象との境界線が入り乱れている。つまりつかみどころがないので、自分で面白いと思う部分を読んで楽しむ読書になった。やはり面白いのは偽札の出どころと、この物語自体の伏線回収か。
「これってどんな内容?」って人に聞かれてももちろん答えられない。でも先が気になってページを捲る手を止められず、時間はかかるが読了してしまう。津田に翻弄された。肩が凝った。 -
変人たちが出そろった上巻が終わり、主人公の活躍の場は東京の中野ふれあいロードに移る。仕事もデリヘル会社の専属ドライバーからバーテンへ。その店の女社長もなかなか個性的。そんな中、主人公の副業としての作家活動はノリに乗る。
ようやく「鳩」の正体が判明するが、それはたいした問題じゃない。いや、結構な大事件ではあるんだけど、本作品の最大のミステリーはこの話がどこまでが事実で、どこまでが主人公の創作なのかってことだ。そして、主人公はやっぱり著者の佐藤正午自身なのか?
主人公の津田同様、この小説発表の数年後に著者、佐藤正午は本当に直木賞を取ってしまう。それが本作品の本当のオチだ。 -
図書館で。最高の読書時間でした。手品の様な本だったなぁ。
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まぁ「カラスの親指」よりちょっと面白い程度かなと思った。しかしと言うことは比較論としてあの道尾君の大ヒットを超えているのでありやはり佐藤正午は只者ではないと言う結論に達する。
それはあの江國さんや角田さんが絶賛していることからも間違いはない。
真面目に評価させてもらえばこの人は正統派の純愛路線もハードボイルドも容易く書ける作家である、が敢えて小娘に日銭を無心し居候先のスナックのママにどやされるうだつの上がらない男を描き続けることを譲らない文壇でも孤高の存在。
だから一度ファンとなると心を掴んで離さない。そう私もその一人と自負している -
小説の中の話なのに、実際の話なのか創作なのかいろいろと考えてしまうところがおもしろい。
自分が作家の津田でもお金は手放したな。
元々自分のものでもなかったんやもん、見なかったことにできる。面倒事に巻き込まれるのだけは勘弁や〜。
そうは言っても、お金となると目がくらむものよね。
あれがあったら……と。
しかし、いろんなことが関わり合ってたんだ。 -
作家、津田伸一は今は風俗店の送迎ドライバーをしている。
ドーナツショップで会った男が妻と幼い娘と共に行方不明となる。
津田は、行方不明事件を題材に書き始める。
後に古書店主から津田に届けられたキャリーバッグには大量の一万円札が入っていた。
津田伸一、どうなる?
上巻で「いまあなたが読んでいるこれは、基本、深刻な物語である。」と書かれている。
しかし、津田伸一が書く小説は、笑えるのである。
小さなことにこだわり続ける津田。
下巻では「僕のことばは、あなたに届いているか?」と書いている。
そう!!彼は読み手に問いかけるのだ。
はい!津田伸一からのことば、受け取りました。
面白くてニヤニヤが止まらなかった。
佐藤正午さんが楽しんでいる様子が伝わってきた。 -
私にとっては、まあまあかな?まあまあ面白かったです。