ぼくの死体をよろしくたのむ

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 981
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093864558

作品紹介・あらすじ

ちょっと奇妙で愛しい物語の玉手箱

ヴァラエティ豊かな18篇からほんの一部をご紹介――

「大聖堂」
家賃は格安で2万円。そのかわり、一匹だけ扶養義務を負うというのがこのアパートの決まり。動物は三種(猫と兎とぼくの知らない小さな生き物)。そのなかからぼくは三番目を選んだ。四つ足でなめらかな毛、耳が立っていて、目はぱっちりと大きい。背中に一対の小さな羽根をたたんでいる――ぼくは〈つばさ〉と名づけた。

「ぼくの死体をよろしくたのむ」
「恋愛の精算に他人をもちこむのって、ずるくないですか」「そうよ、ずるいの、わたし」--銀座 午後二時 歌舞伎座あたり。知らない男と二人でてのひらに乗るぐらいの小さな男の人を助けた。「恋人を助けてほしい」と小さな人は言う。『猫にさらわれたのだ』と。

「二百十日」
伯母の代わりにやってきたのは「るか」という男の子だった。彼は少し魔法が使えるのだという。時間の流れを変えることができるのだ。

「スミレ」
人間を精神年齢に応じた外見にするための技術は、今世紀後半に発達した。わたしの実年齢は58歳だけれど精神年齢は18歳なので、宿舎の中では18歳の姿で過ごす。

感想・レビュー・書評

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  • 世の中の取るに足らない存在たち。誰かに知られることのない存在たち。忘れ去られる存在たち。温度感があるようでない世界。風のように走り去り記憶に留まらない小さなストーリー。『バタフライ・エフェクト』が印象に残りました

  • 奇妙なタイトルと目が合って、はじめて川上弘美さんと出会った本。ファンタジーか夢かユニークだったり、泣けたり18コもお話があるのに、一つ一つがぎゅっと心をとらえて離さない。筋肉に恋するわたし、魔法を使える子供、小さい人や頭で描いているが口には出さないそのまま吐き出したようなお話で、合わない人にはイミフメーとなりうるかもだが。こういうこともあるんだ。わたし(たち)が当たり前に思っていることも、感覚的には絶対ではないんだ。と、心がほぐれる。
    心がきゅーっとせつなくなったのは、土曜日には映画を見に、や、廊下。
    土曜日にでは、さえない男がお見合い結婚をした。ふつうのもてない同士が結婚した。土曜日には映画に行く、それだけが年老いても続く約束でした。淡々とした日常の気持ちのやりとり。贅沢でもなく、地道にお仕事をし、ほどよく距離を保ちながら生活を続ける、実はそれがとても難しく、幸せなことだと教えてくれます。
    川上弘美さんのお話は、日常生活を静観、客観視し、ささやかな中から幸せを引っ張り出してくれる。

  • 全体的にふんわりとしていてよかった。
    一話一話がとっても短くて読みやすいけど、次の話が全く違うから余韻を楽しむにはもっとじっくり時間をかけて読めばよかったかも。そのくらい短い話でもじわーとくるのがありました。最初の方より後の方の話が◎
    最初この中に出てくる人達がちょっと人離れしてるというかちょっと人から距離を置いてる感じがしたけど、共感できるとこがかなりあってよいなと思いました。
    好きなセリフ:あくまで偶蹄目の名前なんだな

  • 雑誌『クウネル』の連載シリーズも今回が4冊目。
    今回は表題にある通り「死」や「喪失」を連想する短編が多かったように思う。
    お馴染みの杏子ちゃんや小さい人(名前は出なかったけれど、この人はもしやあの人?)も登場してきて嬉しい。

    好きな短編は『二百十日』『ルル秋桜』『土曜日には映画を見に』『スミレ』『廊下』。
    特に最後の『廊下』は切なくて泣けた。主人公の祖母の麻耶さんがとても素敵だった。

    前3作品と雰囲気もちょっと違い、しんみりとした切なさや心細さがじわりじわりと染みてくる短編が多かった。
    この短編シリーズは雑誌がなくなっても、続けていってほしい。

  • 読後感は寂しさと切なさで胸がいっぱいになった。自分が気が付かないだけで様々な人と出会って別れてを繰り返して、知らないうちに知らない人と縁のある人生を送っているのかもしれない。死んだ命の魂はどこかでちゃんと存在してるのかなと思えてちょっと心強くなった。

  • 川上弘美さんのショートショート18編。
    「ちょっと奇妙で愛しい物語の玉手箱」だそうです。
    こういう系の短編はその時の自分の状況や心境によって心にストンと落ちる話もあれば、何が言いたいのかさっぱりな話があるので、暇つぶしにさらっと読むにはいいかも。
    日常に割と近いファンタジーなので、リフレッシュ的な感覚で読むのが私には合っているなーと。
    何が言いたいのか明確ではない話が多いから、合わないものは本当に合いません。。。

    読後しばらく経っても覚えているような印象的な話はほとんどなかったけど
    「土曜日には映画を」は結構好き。
    取り立てて特徴のない女性が、冴えない男性とお見合いをし結婚する。
    夫は結婚前によく妻を映画館に誘っていた。
    妻の実家では日曜日のお昼は「にゅうめん」を母がよく作っていた。
    結婚後、普段はお互い好きなことをして過ごすけど、土曜日には一緒に映画を見に行く。結婚前と変わらずに。
    とある日曜日、ソファーに座ってTVを見ている妻の隣に座る夫。
    妻の手に手をのせる夫に妻は言う。「お昼はにゅうめんにしましょうね」と。

    心地の良い関係と穏やかな時間がそこにあって、その優しい雰囲気に包みこまれました。
    友人は別に多くなくてもいい。たくさんお出かけしなくてもいい。人と比べなくてもいい。
    自分が居心地がよければそれでいいんだ、と思わせてくれる作品でした。

    ≪収録作品≫
    「鍵」「大聖堂」「ずっと雨が降っていたような気がしたけれど」「二人でお茶を」「銀座」
    「午前二時 歌舞伎座あたり」「なくしたものは」「儀式」「バラフライ・エフェクト」
    「二百十日」「お金は大切」「ルル秋桜」「憎い二人」「ぼくの死体をよろしくたのむ」
    「いいラクダを得る」「土曜日には映画を見に」「スミレ」「無人島から」「廊下」

  • 初めましての作家さん。癖のある人々がよく出てくる印象でした。不思議な話あり切ない話ありの短編集なので短い休憩のお供に良いです。
    二百十日が優しくて好き。

  • 『いろんなことが目の前を流れてゆくけれど、どれもわたしからは少し遠いものだ。(好物じゃないネタの回転寿司のお皿が流れ去る、みたいな感じだな)』―『いいラクダを得る』

    川上弘美の短篇は少しだけ星新一のショートショートに似ている。予想を常に裏切るところ、とか。でも川上弘美の話には星新一と違ってきれいな起承転結は大概のところ、ない。そのせいか、もやもやとした気分が残る。恐らく、そのもやもやした気分を味わいたくて川上弘美を読むのだと思う。

    独特な比喩もまた川上弘美の特徴だと思うけれど、その思考の裏側で働くものは生物学的な観察眼じゃないかなと最近思うようになった。物理や数学のように定義や法則から積み上げていくものとは違って、生物学の基礎は分類だ。もちろん最先端の生物学は違うと思うけれど、リンネの分類とか昔は習ったものだし。分類の基本は比較、つまりは似ているか似ていないかを見極めること。そんなことを繰り返していると、ああこれはあれに似ているな、という誰からも理解されない類似例を大量にストックすることになる。あるいは逆にそういう思考の癖のある人が生物学を学ぶのかも知れない。同じ学問の分類で言えば間違いなく生物学と同様に博物学的範疇に入る地質学を専攻したものとして、川上弘美の比喩は妙にツボにはまる。

    それにしても偶に思うのだが、いつから川上弘美はこんなに固有名詞はっきりと使うようになったのだろう。初期の彼女の作品には、人称代名詞が多用されていて、どこにも属さない空間を形造る効果があったように記憶しているのだが。あるいは、あわあわとした、などと評されることの多かった作家の本質は、案外理屈っぽく緻密な思考に支えられていて、固有名詞の少なさに論理の一般化を志向する性癖が表れているのかと勘繰ったりしたのだが。 主にクウネルに掲載された作品を集めたこの短篇集には、独特の名を持つ主人公達が登場する。そしてそれもまたいつの間にか川上弘美らしい世界観を形造るのに一役買っているのに気付いて、はっとするのだ。

    固有名詞は符丁となり絡み合う世界の四次元的構造を読み解く道標となる。例えば、Monkeyに連載されていた短篇を集めた「このあたりの人たち」に登場する人々の名前のように。この短篇集でも幾つかの名前は拡がりを想起するように配置されている。そのことを無意識に作家が行う筈もないが、尋ねられれば、名前を考えるのが面倒で、等と答えるに違いない。その時、作家が心の内で舌を出して見せているのを見逃してはならないのだ。

  • 読後感はすごく良かった。
    ふわふわと不思議な話の詰め合わせ。何を伝えたいのかしっかり読み取ろうとするのではなく雰囲気を楽しんで読んだ。
    きっと時間を置いて読み直してもまた同じように楽しめると思う。

  • 短編集。
    私は『お金はだいじ』が好きです。いつまでも忘れない恋にはどれほどの価値があるのか?

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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