素晴らしきラジオ体操

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093872232

感想・レビュー・書評

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  • 村上春樹氏が、エッセイの中でこの本を紹介していたので、読んでみました。
    タイトルに『素晴らしきヒコーキ野郎』を思い出します。
    ラジオ体操についての本だろう、という漠然としたイメージはありましたが、実際に読んでみると、思ったほど単純明快なものではありませんでした。

    なぜ、日本中に毎朝欠かさずラジオ体操を続ける人が大勢いるのだろうと疑問に感じ始めた著者が、その謎を解こうと、あちこちの会場を訪ねては取材を重ねます。
    インタビュー集めに3年もの月日をかけますが、ただ、読んでいて哀れになるほど、取材の成果は出ません。
    目的が曖昧で見えないまま、それでもまた朝が来ると集まってくる人々の不思議さ。

    的を得ないインタビューを重ねていき、ようやく著者は気が付きます。
    人々にとって、ラジオ体操をすること自体が、目的でありゴールなのだと。
    それを続けることで、なにがあるわけでもないけれど、「年を取るとすることが無いから」「ぽっくりあの世にいくため」というようなハッキリとしない理由を持って、体操を続ける人々。
    それが、ラジオ体操というものの存在意義であり、完結形なのでしょう。

    小学生の頃、夏休みに毎朝ラジオ体操をしに校庭に向かいましたが、休みが終わるとすっかり忘れてしまうため、夏以外の季節でも、一年中、しかも年配の方々が休まず体操を続けているということには思い至りませんでした。

    老いも若きも老若男女、同じ動作を繰り返すという様子が、外国人には薄気味悪く見えるようで、敗戦後にGHQがゆゆしき事態だと、ラジオ体操を駆除しようとしたそうです。
    そんな大ごとに発展していたとは。

    ラジオ体操の取り締まりにまで騒動は大きくなったものの、結局淡々と普段通りに体操を続ける人々の数は減らず、どうにも統御しきれなかったそうな。
    すごいですね、日本人の持続力って。

    敗戦を伝える玉音放送は、実際は天皇の声がくぐもっていて、ラジオではよく聞き取れなかったそうですが、どんなに音響が悪くても、ラジオ体操はみんなきちんとやれたという話を聞くと、確かにアメリカ軍が、集団暴動の原動力になるのではとあやしんだというのも分かる気がします。

    トーンを落とした生真面目な文章ですが、だからこそそこはかとないおかしみがじわじわと感じられて、楽しい気持ちで読みました。
    秘密を知ろうと、大勢の参加者たちにインタビューを繰り返しては、全くつかみを得られずに肩を落とし、哀愁を背負ってすごすごと帰る著者の姿が目に浮かぶようです。

    読んだあと、無性にラジオ体操がしたくなり、小学生の時ぶりに、YouTubeを見ながら第一・第二をやってみました。
    久しぶりのラジオ体操、気持ちいい!
    この本をきっかけに、これから毎朝やろうかな、と思います。
    子供よりも、むしろ身体が硬くなった老人がやるべきラジオ体操。
    ただ、子供の頃に身体に覚え込ませているからこそ、どんなにブランクがあいても、音楽を聞いたらすぐにできるのが日本人なんでしょう。

    これまで、ラジオ体操について真剣に考えてみたことがありませんでしたが、なかなかおもしろい歴史があるものだなあと思いました。
    もしかしたら、日本人の長寿の秘訣は、ラジオ体操にあるのかもしれませんね。
    たかがラジオ体操、されどラジオ体操。何のためにも存在せず、ただラジオ体操としてのみ今日も存在し、変わらず人々に支持され続けるもの。
    奥深い世界を知ることができました。

    この話をベースに小説化したものを映画化したら、面白いと思います。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    「新しい朝がやってきました。きょうも元気にラジオ体操第1から始めましょう。」音楽を聞けば、自然と身体が動く。そーれ、イチ、ニ、サン!日本人の身体に刻み込まれたラジオ体操の動きとリズム…。6分26秒のドラマに秘められた謎を追う。


    ラジオ体操と言えば夏休みという感じですが、何を隠そう僕は朝起きられない子供だったので1回も行ったことがありません。当然地域の公園ではやっていたようですが、6:30なんてまだ夜ですよという感じです。今思えば早く寝て朝から活動した方が建設的ですが、子供の頃って夜の方が楽しいんですよね。特に我が家は夜に来客が多い家だったので必然的に宵っ張りになりました。
    さて、話は逸れましたがラジオ体操の歴史と現在をひたすら詳らかにする本です。ラジオ体操に関心を持ったことは有りませんでしたが、この本は戦前からの資料まで引っ張り出して来ての本なのでかなりディープ。色々な人が関わって今のゆったりした形になったんだなあとしみじみ。それよりもこんな題材に真顔で取り組む筆者がなんだか面白い。

  • ラジオ体操
    天皇陛下へ奉納された
    体操は、白人に憧れ、主にドイツやスウェーデンを真似た
    ヨーロッパ民族は、力を入れることで愛国心を生んだが、日本では力を抜くことがよい
    国民体操、ヨイサ
    私たちは皇国の日本人である前にラジオ体操人
    マッカーサーに禁止された
    そもそもラジオ体操の母国はアメリカである

  • 20141215読了
    ふと目についたこの本。1998年出版。毎朝ラジオ体操に集う老人たちにインタビューしてまわる筆者、そのどことなく噛みあわないやりとりがおもしろい。●ラジオ体操のなりたちは「神道の禊→高木兼寛男爵の国民運動→松本稲穂の国民体操(ヨイサ)→ラジオ体操(昭和三年、逓信省が簡易保険事業の浸透を図るため、アメリカの生命保険会社の実践を取りいれた。つまりは健康増進により加入者の死亡率を下げ長く保険料を支払ってもらうのが目的)」。神道にルーツがあるのも驚きだが、高木男爵は薩摩藩士の生まれで鹿大医学部卒、松本氏は知覧町生まれ。現在のラジオ体操ができるまでに鹿児島の人が関わっていたとは。しかも高木男爵は日露戦争に貢献した明治の偉人で、海軍軍医総監。軍隊において「脚気」の根絶を成し遂げている。…ということはつまり、陸軍軍医で脚気を菌由来の伝染病と論じた森鴎外とは敵対関係にあった人物!こんなところで鴎外とつながるとは。個人的に「そうだったのか!」という驚きが連続した第三章。ふと借りた割には実り多き本だった。

  • 『齋藤孝のおすすめブックナビ 絶対感動本50』より

  • 「ラジオ体操」というユニークなテーマから、「昭和の世相」を論じます。論考としては今ひとつという感は否めませんが、フィールドワークのアウトプットとしては興味深い気づきがいくつかありました。

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著者プロフィール

医師、医学博士、日本医科大学名誉教授。内科学、特に免疫学を専門とし、東西両医学に精通する。元京都大学ウイルス研究所客員教授(感染制御領域)。文部科学省、厚生労働省などのエイズ研究班、癌治療研究班などのメンバーを歴任。

「2022年 『どっちが強い!? からだレスキュー(3) バチバチ五感&神経編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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