あんぽん 孫正義伝

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (399ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093882316

作品紹介・あらすじ

今から一世紀前。韓国・大邱で食い詰め、命からがら難破船で対馬海峡を渡った一族は、筑豊炭田の"地の底"から始まる日本のエネルギー産業盛衰の激流に呑みこまれ、豚の糞尿と密造酒の臭いが充満する佐賀・鳥栖駅前の朝鮮部落に、一人の異端児を産み落とした。孫家三代海峡物語、ここに完結。

感想・レビュー・書評

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  • 図書館に申し込んで一年と少し。やっと読む事が出来た。ソフトバンク社長の孫正義氏の伝記である。「あんぽん」とは孫の日本での元の呼び名「安本」の韓国風の読みである。しかし、それは孫にとっては差別語と同義だった。九州鳥栖の朝鮮人スラム街に育った孫は日本に帰化し、それと同時に安本姓を選ばずにあえて孫という名字を選択した。そこに孫の複雑な「プライド」が存在し、同時に孫が日本の既成概念から自由にスピード持って「事業家」として変わって来た原動力がある様に感じた。

    孫は自分をここまで育ててくれた三憲と玉子(父母の名前)にいくら感謝してもたりないくらいの感謝をしていることだろう。
    だが、孫は無意識の中で、在日の血族のしがらみの中でしか生きてこられなかった一族を激しく嫌悪しているのではないか。(390p)

    「だから親父は、僕がちっちゃいときからいつも言っていました。正義、俺の姿は仮の姿だ、俺は家族を養うために仕方なく商売の道に入ったけれど、おまえは天下国家といった次元でものを考えて欲しいってね。僕は小さいときから商売人になろうと思ったことは一瞬もないんですよ。商売って要するに、出来るだけ安く買って高く売るということですよね。でも事業家は違います。鉄道や道路、電力会社など天下国家の礎を作るのが、事業家です」(101p)


    久留米大附属高校時代の孫の成績は、東大進学も狙えるほどに優秀だった。孫が後に語ったことによれば、そのコースを諦めたのは、たとえ東大に合格しても国籍の問題で官僚にもなれないと考えたからだという。国籍による差別は、年齢を重ねるごとに孫の肩に重くのしかかってきた。(86p)

    父親の三憲が倒れた時には、せめて自力でアメリカ留学の金を稼ごうと、高校生の身で塾経営の計画書を作り元の中学教師をヘッドハントしようとした。結局父親の回復でその心配はなくなったが、現実的な計画書だったという。

    アメリカ留学は孫に決定的な影響を与える。孫は幾つかの大学を経て77年にカリフォルニア大学に入る。IT業界の当たり年に孫たちは、シリコンバレーに赴く。ビルゲイツ、スティーブジョブズ、Googleのエリックシュミット、アスキーの西和彦が同世代だ。このときにマイクロコンピュータが個人で買える時代が来た。チップとCPUを買って手作りパソコンを作る。彼らはそのとき革命を見たのである。

    孫は技術屋としては限界があったかもしれないが、決断力の正確さと速さ、プレゼンテーション能力は異常に高く(佐高に言わせれば選球眼に優れたギャンブラー)、日本的風土の中で常に「他所者バッシング」の風にさらされている。それがまた、出自経験とあいまって彼の原動力となっている。リクルートの江副浩正やライブドアのヒロエモン、或いは民主党の鳩山由紀夫や小澤、菅の様に潰されていないのは、それだけで異能の人間ではある。

    その彼が自然エネルギー財団を設立して、本格的に脱原発に挑戦している。確かにこれは現在進行形の日本史的な「ドラマ」ではある。


    ちなみに、孫の父方の出自が韓国大邱の不老洞の国際空港辺りだったそうだ。偶然私は今年の年末年始の旅で不老洞古墳群を訪ねていた。確かにいかにも素朴な田舎であり、アメリカに立つ前の孫少年が一度だけ祖母と共に訪ねて年来の韓国憎しの認識を変えただけはある。
    2013年3月13日読了

  • ここに書かれているのは我々が知ることがなかった孫正義一族の三代に渡る『海峡』の物語です。ありきたりなサクセスストーリーとは一線を画す『血と骨』を凌駕するような凄まじい「物語」の上に彼の存在があります。

    この本は2011年に週刊ポストに連載されていたものを中心として掲載後にあきらかになった事実を加筆したものです。雑誌に掲載されていた当時、僕はパラパラと飛び飛びに読んでいましたが、こうして単行本化されたものをじっくりと読むにつけ、ここ近年自分が読み進めてきた本の数々は、実はこの本を読むためにあったのではないかと錯覚してしまうほどでありました。

    『孫正義とは何者か?』ここに描かれている彼の姿は筆者の真骨頂による徹底した取材力で全4回の本人取材はもちろんのこと近親者への徹底した聞き込みや彼の一族のルーツである朝鮮半島の現地取材によって僕もある程度は読み込んでいましたが彼自身の華々しいコンピュータや通信事業を中心としたサクセスストーリーとは一線を画すような『血と骨』を中心とする梁石日の小説を地で行くような孫正義の理屈抜きの生々しい世界を抉り出しております。

    僕が読んでいてのっけから孫正義をして『無番地』と言わしめたバラックの中で豚に酒粕を食わせて育て、その豚をしめて正肉やホルモンをとって売り歩き、雨が降って豚の糞が浮かぶ水が床上や床下から浸水するところで孫正義はヒザまでその水に漬かりながら机にかじりついて勉強をしていた、というまことにもってみもふたもない『破壊力』抜群の話が全編にわたって描かれております。

    『孫正義本人も知らない孫正義』を描き出している、ということで、彼の人格形成をする上で決定的な影響を与えたといわれる父親の三憲や『海峡』を14歳で渡ってきてリアカーにドラム缶をつめて飲食店から残飯を集め、養豚や『頼母子講』という小口の金融業まで行った祖母の李元照の『仔豚に自分の乳を含ませて母乳を与えていた』というまさに常軌を逸したエピソードがものすごく印象に残っていてページをめくりながらその一つ一つに圧倒されてしまいました。

    『3.11』後の原発事故の際、孫正義は100億円の義捐金をポンと出し、その後も反原発、脱原発の旗を振り続ける彼の母方の叔父に、かつて日本の『国策』としてエネルギーを担っていた炭鉱で過酷な労働に従事し、筑豊炭鉱の爆発事故で命を落としたという箇所は以前読んだ山本作兵衛翁の書いた著作や画文集が本当に彼らの実態を類推するために非常に役立ちました。その中で事故の描写は作兵衛翁の事故の絵と自筆による解説の画文が頭の中にありありと思い浮かんできました。時は流れて日本の『国策』で推し進められた原発に反旗を翻す孫正義の姿に、すさまじいばかりの『縁』というかなんというか…。並々ならぬ深い『業』という一筋ならないものを感じて戦慄を憶えました。

    筆者は彼ら三代に渡る血脈を『魑魅魍魎』という言葉で表現しましたけれど、そうでもしなければ生きていくことが出来なかった彼らのことを想い、同じく『海峡』を渡ってきた半島にルーツを持っている人間の物語、僕は伊集院静、梁石日、そして柳美里の小説やエッセイに描かれている物語の数々を連想し、そうした『物語』を一身に体現した存在が孫正義なのだということを読んだ後に思いました。

    ありきたりの『成功物語』という範疇にはまずくくられることのない、『孫正義』という『怪物』の物語は筆者いわく『日本のスティーブ・ジョブズの物語を描きたい』という大願に沿うものであると思いました。僕はジョブズの評伝も読みましたけれど、彼のドラマチックな人生に勝るとも劣らないすさまじいばかりの三世代にもわたる人生の記録がここに記されております。

  •  孫正義は朝鮮部落生まれ、豚の糞尿と密売酒で家族は生計を立て、後に父親はパチンコ業界で大成する。著者が宣うには、この話を何度も繰り返すことに本書を出版した意味があるのだとか・・・孫正義の情報革命に関する本については山ほど出版されているので、それについて本書にはほぼほぼ記載なしって・・・知っていたら、この本は読まなかったわ(怒

  • 孫正義を生んだ環境が知りたくて読んだ本。
    ・サラ金やパチンコで一財をなし、商才があり、バイタリティーのある父三憲から、「お前は天才だ」と言われ続け、実地教育を通して帝王学を叩きこまれた
    ・過剰なまでの自信はどこから生まれたのでしょう?→親父が、際限のないレベルで僕を褒めたからでしょうね。「お前は俺より頭がいい」って。僕は親父に怒られたことが一度もないんです。
    ・中一の一学期で母と移住し、県内屈指の市立進学校に転校。子供の成長の為に、金銭,親の生活を度外視した協力が、感じ取られる。
    ・高一の二学期頭に、担任に渡米を相談。翌二月に渡米。英語学校を経てハイスクールに編入。その後大学入試検定試験に合格後、カレッジに入学。二年で修了後にカリフォルニア大学バークレー校経済学部に編入。
    ・アメリカ時代の孫が青春を思いっきり謳歌できたのは、父三憲からの潤沢な仕送りがあったからである。
    ・大学時代に「自動翻訳機」を発明。一億円の資金を手にしたことから、事業家人生がスタートする。
    ・幼稚園時期に朝鮮人差別を受けた、在日の劣等感の裏返しのコンプレックスが、上昇志向の原動力になった、とも考えられる。

    • motoy0415さん
      ずいぶん前に読んだので内容を忘れていましたが、こちらのレビューで思い出せました。ありがとうございました。
      ずいぶん前に読んだので内容を忘れていましたが、こちらのレビューで思い出せました。ありがとうございました。
      2016/06/03
  • 孫正義その人や家族については佐野眞一氏らしい取材に基づいた生々しいものになっているのだけど、ただそれだけ。佐野氏が見聞きしたことを書いている分には興味深いのだけど、佐野氏の意見が出てくると途端に興ざめする。ノンフィクションの意味をはき違えている。

  • 孫さんに興味津々だったので読んでみました。
    著者は話題の佐野さん。
    孫さんの人生と佐野さんの取材方法や発表方法の両方が面白い!2度おいしい作品でした。

    孫さんの生い立ちを先祖にまでさかのぼって解きほぐし、
    なぜ孫さんなる人物が誕生したのか、
    彼のルーツを探ることで孫さんがやってること・発言することの根幹にあるものはなんなのかを探ろうという1冊。

    とりあえず孫さんの源体験はすごい。
    小学生とか中学生のときには日本という社会の既存の枠組みで歯車になっては生きていけないことを強烈に自覚させられてる。
    私の源体験はなんだろう、と真面目に考え込んじゃった。

    そして孫さんの体験以上に実は今回面白いなと思ったのが佐野さん。
    佐野さんといえば橋下さんで燃えに燃えた人。
    まだ彼の執筆者としての人生は残っているのだろうか、ってくらい燃えた人。
    橋下さんの一件の是非は全く読んでないからわからないし、盗作疑惑についても全く読んでないからわかりません。

    ただ、この1冊はめちゃくちゃ面白いし、盗作はあり得ない。

    読みながら、確かにこの1冊も孫さんが抗議したっておかしくないかもな、とは思った。
    取材方法と取材対象があまりにディープなことが1つ。
    孫さんの一族とか関わった人、しかも孫さん自身というより孫さんのお父さんに関わった人、とかでちょっと遠い、みたいな人がいーっぱいでてきていろんなこと言ってる。
    本当よく孫さんこんなことまで書かれて何も抗議しなかったな、って感じ。
    むしろ孫さんすごーいって孫さんの人生よりもその対応に感服。

    もう1つは発表方法。
    彼は週刊誌で連載という形式で発表している。
    連載ってことはある情報が多面的に検討される前に世の中に発表される、ということでもある。
    この本の中でも連載で発表されて、「事実誤認だー!」って孫さんのお父さんが怒りくるってたり、新しい事実が出てきたりしている。
    彼としてはその当たりを期待して連載にしているのかもしれない。
    ということで本で読むにはいいのだけど、連載で1回だけ読むとすごーい偏った内容を読まされるかもしれないということ。

    あとは書き口?
    いわゆる優等生じゃないから、佐野さん、笑
    客観的な書き口でもないし、きれいな書き口でもない。
    週刊誌らしいスキャンダラスな言い方だったり、無駄に人の感情を煽るような言い方も多い。
    優等生的なジャーナリズムからは遠いよね。

    で、怒られたのかしら、と。

    なんというか、佐野さんって清濁併せ持つというか、いやもっとドロドロした世界を生き抜いてきたすごいグレーな人なんだろうな。
    とにかく世の中ではたたかれまくってる佐野さんですが、一読の価値はありありです。
    面白いです。
    読み手がフィルタリングすればよいのです。

  • 日本一、お金持ちで大企業の孫正義が、日本の最下層で生まれ育ったとは…。壮絶なイジメにもあっている。
    彼が生まれた頃は「もはや戦後ではない」といい、日本人の生活は豊かになってきていた時代であった。その裏に最低な生活をしていた人たちもいたのだ。
    今だに、孫正義に対して、人種差別な発言をする輩(前の都知事とか)が、たくさんいるらしいが情けないことだ。欧米ヘ行けば、日本人もしっかり人種差別されるのに…。そう言う輩こそ、この本を読みな!といいたい。
    ★をひとつ減らしたのは、孫正義のみの話じゃなく、孫一族の話が主だったから。

  • あの件で話題になった著者。
    孫氏の両親の祖父母のルーツまで調査に行かれている著者は、もともと出自が人生に大きく影響すると考えている方なんだなぁと感じた。(私は否定的だけど)
    くどいほどに「在日であるから」ということに焦点をあてている。

    私は311以降の孫氏の言動でファンになった。
    この著書でも後半のほうが好意的な文章になっている。(おそらく311以降)
    著者も少なからずファンになっているのかも。

  • 孫正義。
    在日でも他の人と彼はちょっと違うと思っていたけど、ちょっと原因が解ったかな。

    雑誌編集をまとめているので、いたしかたないところもあるが、フレーズが何度も重複する部分があり、文章の躍動感を落とす。

  • あんぽん 孫正義伝 単行本 – 2012/1/10

    孫正義氏以上に父の話が多い
    2013年5月3日記述

    佐野眞一氏によるソフトバンク孫正義氏についての評伝。

    しかし読み終わってみると孫正義以上に父三憲氏についての評伝かと思ってしまう程だ。

    孫正義がどのような背景を持って育ってきたのかを解き明かしているという意味で本書は力作であることは間違いない。
    かつて九州で養豚と密造酒作りで生計を立てていたとは・・・

    あと孫正義氏は帰化する際にあえて孫という名前にこだわったという話しは面白かった。
    そのために妻に孫という名前で役所に登録してもらってまで・・
    この人物の行動力には驚愕だ。

    涙という孫正義氏が小学校6年生の時に書いたという詩が掲載されており読んでみると凄い。
    偉人というのはやはり頭の構造が違うのではないかと感心した。

    文章途中に挟まる著者の意見には同意できないものがあると読んでいて少しイライラするだろう。

    一人の人間が一生涯に読む情報量が一円以下のメモリーチップに入る時代はあと15年か20年すれば確実にやってくるという話しに著者は怒っている。
    しかし現時点で1円以下ではなくても一生涯に読む以上の情報がWeb上にあるのだし電子書籍が今後増加していくのも理解できる。
    紙の書籍が無くなると断言する孫正義氏の意見は行き過ぎかもしれないが・・・
    世代にもよるだろうけれども佐野眞一氏より孫正義氏に同意できる箇所もあると思う。

    あと著者の無理やりな推理や論理の飛躍もあって良くない。
    もっと事実の積み重ねを重視して書いて欲しかった。

    本書が成功したのは何も孫正義氏のヨイショ記事ばかりではなく批判一辺倒でもなくありのままの実態を浮かび上がらせようとしたからだろうと思う。

    • ウシさん
      佐野さんが孫さんにも媚びてないところがいいですよね
      佐野さんが孫さんにも媚びてないところがいいですよね
      2022/12/08
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著者プロフィール

1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者、業界紙勤務を経てノンフィクション作家となる。1997年、民俗学者宮本常一と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』(文藝春秋)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦乱心の曠野』(新潮社)で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。

「2014年 『津波と原発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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