日米開戦の真実 大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093897310

作品紹介・あらすじ

ペリー来航以降、アメリカで継承された「太平洋制覇」戦略、モンロー主義の矛盾、執拗な満蒙への介入、在米邦人の排斥、そしてイギリス植民地政策の実態-緻密にして冷静な分析から導き出された「戦わねばならぬ理由」がそこにはあった。真珠湾攻撃直後、NHKラジオで放送され、ベストセラー書にもなった"開戦理由"を全文掲載!『国家の罠』著者・佐藤優が、戦時政府を代弁した「当時最高水準の知性」に挑む。

感想・レビュー・書評

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  • 序文でグッとくる。
    帝国主義国として自ら植民地を獲得するか、劣等人種として欧米列強の植民地となるか二択の状況、植民地を解放するために一時的に植民地にする民族的自己欺瞞の罠。
    中国という利権に参入しようとするアメリカと敵対
    1941年12月開戦直後、戦争の目的と開戦に至った経緯、開戦の正当性を、政府による説明の試みとしてのNHKラジオ連続講演全12回
    帝国主義の時代において戦争は不可避
    個人に運不運があるように、国家や民族にも運不運がある。太平洋の向こう側にアメリカという、急速に発展を遂げる帝国主義国を持った日本は地政学的に運が悪かったのである。そしてアメリカの本質は現在も変化していない。しかも中国が急速に国力をつけ日本の潜在的脅威となりつつある。21世紀、日本を取り巻く環境が冷戦時代はもとより、太平洋戦争前よりも悪くなっていく可能性は十分ある。
    地政学的な運の悪さをインテリジェンスによって克服した例が世界にはいくつかある。

  • 2014年安倍政権による改革が進んでいる現在に読むと色々と思う事がある。
    『米英東亜侵略史』に書かれている戦前?戦中における知識層がどのような考え方を持っていたかを知る事ができたのは大きな収穫だった。
    自分からすると日米戦争は双方の求める利益が衝突した結果であると考えているが、当時の考え方ではそのような考えは無かったようだ。むしろ、日本はアメリカから抑え付けられていると考えていたように読めた。
    これは自衛隊の在り方が変化しようとしている現在にこそ、全国民が知っておくべき事だと思う。現在の政権に対し、野党やマスコミが批判を行なえる状況は大変に好ましく、批判が無くなった時に日本は74年前と同じ過ちを繰り返す可能性があると私は思ったよ。
    また、日本の外交が『性善説という病』にかかっている事には苦々しく感じる。本書でも書かれているが信じている事が裏切られた時に暴走するという事は一人の人間でも起こりうる事だし、その人間が動かしている外交が同じようにならないとはとても思えない。
    むしろ、武力行使がほぼできない事を考えると外交面で頑張って欲しいと思うのは自分だけではないと思う。

  • 図書館の除籍本

  • 太平洋戦争開戦直後の大川周明のラジオ講演の筆記録『米英東亜侵略史』を佐藤優の解説付きで復刻したもの.
    1章と3章がそれぞれ復刻の米国東亜侵略史,英国東亜侵略史であり,脚注がついている.ラジオ講演ということで平易に書かれているが,かといって今時のテレビ等と比べれば理路整然としてレベルは高く驚異的である.また2章と4章では佐藤が補足と出版時(2006年)の日本の状況と関連を書いている.
    大川周明については東京裁判のエピソードくらいしか知らなかったので興味深く読めた.自分も含めおそらく多くの戦後生まれの日本人は,第二次世界大戦について日本史の中での閉じた範囲で学習する程度であるので,アメリカやイギリスの近代外交史(アングロサクソン世界幕府史)との関連から読み解くことで歴史観が激変することになるかもしれない.ただ佐藤は復刻のための解説という立場からか大川の考えに批判的なことはほぼ書かず賞賛するにとどまっている点は多少気になる.
    日本の全盛期は高度経済成長期でも株価高騰のバブル景気時でもなく昭和16年-17年の年末年始あたりなのかもしれない.

  • 試み、内容共に、圧倒的である。極東軍事裁判でA級戦犯とされながら、精神障害となり免訴。開戦時には、NHKラジオで、戦争に至る経緯と意義を説き続けた大川周明。何故、対米英戦争に踏み切ったのか。その解説を佐藤優が引き受けたのだ。最強の一冊である。

    巷では、領土侵犯に端を発し、にわかナショナリズムがブームとなっている。本屋にずらっと並べられた書は、論理に甘く、まるで虐められっこを発見し、ご都合主義で一方的な言い分を並べたてたようなものだ。はいはい、俺はこんな事実を知ってます、韓国くんって酷いよねーっと。大川周明ほど、あの時代の流れをバランス良く俯瞰していた人物がいるだろうか。イギリスの論理と謀略。その後のアメリカの第一次世界大戦への参戦の論理。油と市場を求めた植民地政策。満鉄を巡る攻防。時代は、一方向的に進む。論理必然的帰結として、日米の戦争が待ち構える。

  • 2006.10.10.5刷、並、帯付
    2012.11.26.津BF

  • 極東軍事裁判において、A級戦犯となった唯一の役人が広田弘毅ならば、思想家は大川周明である。大川の分析する日本に対する米英の経済的構造は現代の構造によく似ている。TPPなど、まさに戦後60年たった今、再び戦前と同じような構造が構築されようとしている(パワーバランスが変化しただけで)。
    大川が連合国を怒らせた理由は、単純に植民地政策に対して偏見や誇張で非難したことではなく、筆者の佐藤さんが指摘しいる通り、「まさに痛いところを突いた」という点に尽きるだろう。勝者が裁くという一方的な軍事裁判と、ABC級という曖昧な罪状。パール判事の文献も含めて、再読したいところだ。

  • 大東亜戦争開戦(対米英開戦)について、当時の日本政府は国民に対してその大義名分を明確にし、その説明責任を果たしていた!本書は、戦後の占領政策やWGIPの成果として歴史に埋もれかけた第一級資料「米英東亜侵略史(大川周明氏著)」をそのまま掲載すると同時に、それをもとにした歴史公証(佐藤優氏著)からなる。
    「米英東亜侵略史」は当時一級の思想家であり、戦後の極東軍事裁判においていわゆるA級戦犯として逮捕(結果として免訴)された大川周明氏が、真珠湾攻撃直後にNHKラジオで講演した内容をそのまま書籍化したもの。読んでんでいただければ分かるが、その内容は決して感情的・煽動的な内容ではなく、豊富な学識と正確な事実認識にもとづく非常に合理的なものと言える。「米英東亜侵略史」で明確になることは、当時の世界と日本の情勢とそれに対する当時の日本人の奮闘であり、現在の日本人が良く口にする「国民が政府・軍閥に騙されて勝つ見込みのない戦争に追いやられた」ということが神話であるということである。
    一方の歴史考証は、世界のインテリジェンスの領域において日本にこの人ありと言われ、日本では数少ないインテリジェンスの専門家である外務省職員(現在起訴休職中)の佐藤優氏による。非常に興味深い考証であり、世界各国の外交戦略を世界のその時の最強国だけが取れる自由主義という名の普遍主義(グローバリズム)と、最強国以外の国が取る地政学的な特徴に裏付けられた小世界が複数存在し棲み分ける多元主義に構造化し、近代から今日に至るまでその構造は変わっていないという考証には特に関心を持った。そして、日本の・日本人の本質を「大和魂とは、他者に自己の原理を強要しない、多元論的価値観で、国際協調の基本となる物事の考え方」と表現している点も興味深い。

  • 大川周明について、ほとんど知らない。歴史のなかで葬り去られた『米英東亜侵略史』を復活させる試み。ふーむ。戦中、戦後のよみかたが変わる本。

  • 日米開戦後に、NHKラジオの放送用に作成された大川周明『米英東亜侵略史』の全文に、佐藤優氏が解説を付けたものです。当然のことなのですが、あの当時の人も本当に深い洞察力を持って考えをまとめて、ことに当たっていたのだなということが分かります。戦後60年が経った今読んでも、その論理性に飛躍したところがなく(一部を除いて)、その頃の情報量のことを思うと一級の知識人というものの底力を感じさせます。

    大川が、『敵、北より来たれば北条(*鎌倉時代の蒙古来襲)、東より来たれば東条』と言ったり、『元寇の難は皇紀1941年であり、英米の挑戦は西紀1941年』と言ってみたりするところは、ラジオ向けのサービスであるのでしょうが、一方で神風のような僥倖がなければ難しいという認識を語っているとも取ることができます。開戦に至った大川の説明(聞く人によっては詭弁になるのかもしれませんが)は非常に整合していますが、その先の勝利についてはほぼ一切論理的な説明がないことから、おそらく大川も含めてこの頃の世界情勢を把握できる人が至る認識であったのかもしれません。ただ、やはり中国含む亜細亜側の反応については、自らの希望するところを反映したものであって、明らかに現実を読み違えていたんでしょうね。

    中学の世界史の期末テストで、「東京裁判についてどう思いますか」という、教科書に手がかりもない先生の趣味的な問題が出されたことを思い出します。「日本の責任というものは償わなければいけないが、連合国という当事者によって裁かれるのではなく第三者の主導によって裁判が進められるべきでした」というような小賢しい回答をして、先生から「すばらしいです」のコメント付きで二重丸をもらいました。全くもってそれほど単純なものでなく、国際関係というものが今も昔も単純であるはずもないということがよく分かります。

    よい本ではないでしょうか。南北朝を描いた北畠親房の『神皇正統記』を佐藤氏も大川氏も非常に高く評価しているところからも思考が似ているんでしょうね。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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