ミカドの肖像 (日本の近代 猪瀬直樹著作集)

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著者 : 猪瀬直樹
  • 小学館 (2002年4月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (550ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093942355

ミカドの肖像 (日本の近代 猪瀬直樹著作集)の感想・レビュー・書評

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  • 天皇制について、というと今の日本人は近寄りがたい雰囲気を感じるかもしれない。
    学校教育では天皇制や戦争について学ぶことはないし、天皇というと(ネット含む)右翼左翼の激しい罵り合いレッテルの張り合いにうんざりしていることもあってつい避けてしまう。

    しかしこの本は数々の興味深いエピソードで構成されており、とても刺激的で面白く読める。
    天皇制とはこうであるとか天皇制は良いか悪いかといった話は出ない。
    天皇制について多角的な視点からのルポタージュである。
    しかし本書によって、天皇観や日本観に新たな一面がみえることは確実で、発売後25年たった今でもその魅力は色あせることがなかった。

    しかしこういうがっつりハードな本を読むと、それに対して何を語ったらいいのかかなり戸惑ってしまう。
    言いたいことは色々あるのだけれど、読んだ本に見合うだけの深いことを言えるかなんて考えてしまう。
    まあ趣味のブログなんで適当に語ればいいか!

    とりあえず堤康次郎の話はビジネス書の偉人伝さながらで破天荒で面白かった。
    常軌を逸した執念というのはやはり大事なんだなあ。
    昭和天皇のゴルフ好きや、英国びいきで朝食はパンにオートミール、寝巻はパジャマとかもびっくりした。
    そして富士山に松に海に朝日という銭湯の壁の絵のような風景は明治になって、西洋に対するコンプレックスや絵葉書技術の発達によって生まれた人工的なものだったというのにも驚いた。

    あとは著者の行動力にも驚いた(笑)
    これだけアクティブにいかないとやっぱだめだよね!











    丸の内の東京海上ビルの高さが99.7mに抑えられた理由は? お召し列車運行の際の3原則とは? ヨーロッパでポピュラーな「ミカド」ゲームとは? アメリカ・ミシガン州に「ミカド」という町がある? 欧米では誰もが知っているオペラ「ミカド」とは?「プリンスホテル」が発展してきた陰にあったブランドとしての皇室の意味は?なぜ「御真影」が外国人によって描かれたのか?──いくつもの「?」を解くことで、「近代日本」と「天皇」が鮮やかに見えてくる。妥協を許さない綿密な取材と、世界的視座に立った壮大な考察から導き出される真理の的確さはこれまでの日本論の常識を覆した。昭和62年に大宅壮一賞を受賞。



    以下メモ



    堤康次郎のときに非常に安く買った土地にホテルやゴルフ場スキー場をたて、利益は借入金で増やして相殺。相続も、土地の簿価が低いので安い。
    彼の土地に対する執念は異常。事業にはまず第一にカネを借りること。そして、次に土地を買うこと。これが終われば99%事業はできたということ。
    第3次産業が栄えるという信念というより信仰があった。大衆社会の到来を予感していた。
    空襲で東京が焼ける中、必死に電話を握りしめ土地を買い漁っていた。


    昭和天皇は大のゴルフ好きだった。新宿御苑もゴルフ場だった。大正天皇が崩御してからも大喪も待てずに皇族たちはゴルフに熱中。
    しかし盧溝橋事件をきっかけにゴルフを止めた。
    ゴルフ場は草木の手入れをしないように。天皇曰く「雑草という植物はないのだから、全てそのままに」。植物学を学ぶ天皇は、このゴルフ場で咲いた花を見ての喜びがきっかけではないかと。

    昭和天皇の即位後の大嘗祭では、先帝の以外と添い寝をしたのではないか。
    戦後、「天皇ヒロヒトを戦犯として裁判にかけることは、合衆国の方針である」と宣言を可決していたが、日本をキリスト教化するために天皇をクリスチャンにしようという目論見があったとか。

    皇太子裕仁はヨーロッパへ巡遊して、英国びいきに。
    真の自由の貴さ、楽しさを知ったと。そしてオートミール、パンにバターという朝食、寝巻は和服でなくパジャマに。お局制度の廃止。

    富士山、松、日の出が風景のシンボルになったのは19世紀末。作られた日本観。

    明治維新によって、人々は自分の所属していた手触り可能な空間をはぎ取られた。実感の範囲にあった狭い空間は一気に拡大されて「日本」というネーション空間に広げられた。一君万民という新しい空間秩序のなかで、「一君」は抽象的な存在である。それでもいままでと同様に、人々はその空間に手触りが求められるものと信じた。視えないものを視ようとするとき、その代替物として複製を求めるか、代わりに新しい空間の中にシンボル(象徴)を捜すあ、どちらかになる。

    三島由紀夫が回帰しようとした風景が絵葉書に端を発したものであるように、自決のときに叫んだ「天皇陛下万歳」のスタイルも、明治時代に外国の影響によって生じたもの。欧米のスリー・チアーズが元。欧米では「ヒップ・ヒップ・フレー」という。桓武天皇の平安遷都のときにも万歳と言う言葉は使われていたが、「ばんせい」という発音で永遠・長寿を祝うときに用いられた。

    複製技術革命がもたらした倒錯意識「本当の出来事が疑似イベント的性格を備えるようになってから、われわれの社会では、英雄もまた有名人の性格を獲得することによって生き残る。最も宣伝された経験が、最も正真正銘の経験であるように思われる」

    昭和16年12月8日の日米開戦の直前に近衛文麿内閣が総辞職し10月18日に東条英機内閣が成立した。下馬評は皇族東久邇稔彦内閣であった。近衛内閣が崩壊したいま、もはや皇族内閣しか陸軍の独走を抑えられない観測は政治家や軍人の間では常識だった。にもかかわらず、天皇の側近中の側近木戸幸一内大臣は、「皇族内閣にて日米線に突入するが如き場合には之は重大にて、(略)万一予期の結果を得られざるときは皇室は国民の怨府となるの慮あり」として、皇族内閣を避け東条陸相を指名。日米線に明るい見通しを持てなかった木戸は、国民の犠牲よりも皇室の存続の方を優先して考えていた。

    昭和天皇「もし、わたしが戦争に反対したり、平和の努力をやったりしたならば、国民はわたしをきっと精神病院かなにかにいれて、戦争が終わるまでそこに押しこめておいたにちがいない」

  • 『ミカドの肖像』は、猪瀬直樹によるノンフィクション。1987年度大宅壮一ノンフィクション賞受賞作品。古い本だが、こと細かく事実が書かれているので、読めば新しい発見がある。

    西武グループは戦後、皇族の領地を安く買い取って、プリンスホテルを建てていったという。西武グループの創始者、堤康次郎は、戦後土地を買い漁った。終戦時は今と違って、土地なんて買っても儲からないと思われていた。何故堤は、資産価値なんてないと思われていた土地を買い漁ったのか。堤の評伝では、理由が曖昧にぼかされているけど、著者は、本当の理由を探った。

    堤は、企業家や政治家などの有志が集まるグループにコネで所属し、グループが発行していた雑誌を読んでいた。堤が読んだ雑誌には、アメリカの最新の動向が書かれていた。当時のニューヨークは、都市開発が盛ん。土地を買って資産を増やした人が多かったという。著者は、この雑誌を読んだことで、堤康二郎の土地に対する過剰な執着が生まれたのではないかと推定している。つまり、日本も都市開発が進めば、ニューヨークみたく地価が高騰するんじゃないかという予測。

    戦後、GHQの政策によってお金と権力を取られた旧皇族から、西武グループは土地を安値で買い占める。プリンスホテルを各地に建設し、リゾートを作る。都心のオフィスに通うベッドタウンも開発したし、ベッドタウンの終点には遊園地も開発した。ベッドタウンから都心まで鉄道を敷いて、土地を使って金を儲けたわけだ。

    戦前は、天皇が権力の頂点であり、象徴だった。戦後、日本はアメリカ型の大衆社会に転身する。戦後の主役は、消費し、娯楽にふける欲望全開の大衆だ。経営者であり資産家である堤一族は、戦後の大衆社会で、強大な権力と富を手中におさめることになる。まあバブルが弾けて堤帝国も没落するわけだけど。

    というような、堤家と天皇家の関係を綴った第一部に続く後半では、西洋で流行したオペラ『ミカド』の詳細、明治天皇の御真影が何故ヨーロッパ人の顔つきなのか、といった謎が解き明かされていく。

    一ページあたりの情報量が膨大で、読むのに時間がかかる良書。最近の本は1ページあたりの情報量が少なすぎると思っている人にはうってつけの本。

  • メモ
    近代天皇制と日本人を関係を探る一冊。
    東京海上ビルの高さがなぜ99.7メートルなのか。お召列車の三原則とは?プリンスホテルはなぜ「プリンス」と名がついているのか?オペレッタ「ミカド」が欧米人から喝采される理由とは?明治天皇の御真影はなぜ西洋人の面立ちをしているのか?ひとつひとつの謎を解いてゆくことで、浮き上がってくる近代日本と天皇。
    秩序の安定装置として天皇を利用する発想を天皇安保体制と名付けているけど、言い得て妙だ。この天皇安保体制によって生まれた視えない制度(文化・習慣)に囲まれて僕たちは暮らしているわけだ。

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