銃口 (下)(小学館文庫) (小学館文庫 R み- 1-2)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (443ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094021820

作品紹介・あらすじ

激動の時代を描く三浦綾子の最新長編小説

昭和16年、思いもよらぬ治安維持法違反の容疑で竜太は、7か月の独房生活を送る。絶望の淵から立ち直った竜太に、芳子との結婚の直前、召集の赤紙が届く。入隊、そして20年8月15日、満州から朝鮮への敗走中、民兵から銃口をつきつけられる。思わぬ人物に助けられやっとの思いで祖国の土を踏む。再会した竜太と芳子の幸せな戦後に、あの黒い影が消えるのはいつ……過酷な運命に翻弄されながらも人間らしく生き抜く竜太のドラマ。

感想・レビュー・書評

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  • 上巻に続き下巻を読了。

    激動の昭和を生きていく竜太。戦争の足音が近づいてくる最中にもたらされた通知、赤紙。
    芳子との結婚も間近なのに出兵せざるを得ない竜太。

    <北海道綴方(つづりかた)教育連盟事件>1940年から41年にかけて北海道で起きた思想弾圧事件。 日常生活をありのまま表現させる綴方(作文)教育を実践した教師らが「子どもたちに資本主義の矛盾を自覚させ、階級意識を植え付けた」とされ、治安維持法違反容疑で大量に逮捕された。

    上記は引用文だが、この事件でも竜太には大概にして濡れ衣であり、7ヶ月という拘留生活を経て、保護観察下とは言え釈放された後に出兵。

    どこまでも同じ日本で起きた出来事とは思い難い話ではあるが、史実は史実。

    三浦文学の要素が詰め込めるだげ詰め込んだ作品、そんな風に感じた。事実、この作品が著者最後の長編小説らしい。すべからく納得できます。

    “愛”とは、“赦し”とは、“神”とは。

    クリスチャンらしい疑問を投げ掛けるあたり、作風はいつも通り。しかし、細やかに人物像や背景を変化させることで、どの作品も別物として読める。何より読みやすいのが有難い。

    真面目なテーマながら、ホッコリしてしまうところも織り交ぜて進むストーリーには、惹き込まれる以外の手立てが無い。

    稚拙な感想しか出てこない自分自身が情けなくなるぐらいです…。

    良い作品に出会えました。

    竜太や芳子の様な夫婦が、後の世に大勢現れてくれることを切に願いたい、おっちゃんはそう思いました。

  • 上下巻読了。
    三浦綾子だなあ、と思う。主人公が真面目。文章が読みやすい。決して軽いわけではないのだが、とてもイメージしやすい文章である。そして、誠意がある。キリスト教が出てくる。
    同じテーマを繰り返し書く人ではあるのだが、それぞれ時代や設定が違い、きちんと取材して書いているので、三浦綾子節とは思いながらも、最後まで一気に読んでしまう。
    これは、旭川の質屋の息子が恩師と出会い、小学校教師になるが、時代に翻弄されていくという物語で、大正天皇の死から、昭和天皇の死までの時代、つまり丸ごと昭和史。
    三浦綾子も旭川の出身なので、旭川の様子はもちろん、書かれた頃はまだ戦争体験者が多数生きていたから、直接取材によって、戦前戦中のこともかなりリアルに描かれている。
    戦争が近づいて、共産主義者やキリスト教徒が弾圧を受けたことは知っていたが、北海道で綴り方(作文)の勉強会を自主的に行っていた教師たちが検挙された「綴り方連盟事件」は知らなかった。酷いとしか言いようがない。
    私が幼い頃は教師は日教組に入っていて皆共産主義だ、などと言う人が結構いたが、戦前戦中の弾圧の反動と、皇軍教育の反省から増えたのかもしれない。今はあまり聞かないが。
    主人公はノンポリの青年で宮城遥拝も欠かさないし、真珠湾攻撃のニュースを聴いたときは「彼らの後につづくべきだ」と素直に思う。天皇は神ではないとか、政治が間違っているとか考えたりしない。当時の真面目な日本人ならこれが普通で、彼が考えを変え始めるのはかなりの目に合ってからである。だから説得力がある。今見れば、それはおかしいだろうと思うことでも、当時は当たり前だったのだから、読者はちょっとイライラするが、主人公竜太の誠実さもそこから来ているのだ。読者も竜太という人間を信頼できるように書いてある。
    いつ芳子と結婚するのかと気を揉みつつ、苦難を乗り越えて、ラスト近くでやっと幸せになれたのは良かった。
    三浦綾子は、どんなに悪い奴でも、手酷い罰を与えたりしない。たとえ物語の登場人物であっても。三浦綾子という人もまた誠実で信頼できる人であることを読者も強く感じる。
    それにしても、ストーリーテリング、上手いよね。
    真面目で、面白くて、感動できて、こういうのを中高生が読めばいいと思う。

  • 感動する小説は世の中に数多あります。
    ただ、打ちのめされる小説に出合うことは滅多にありません。
    打ちのめされました。
    世に言う「北海道綴り方教育連盟事件」を題材にした94年刊行(単行本)の小説です。
    と聞けば、こういうご時世です、「反戦平和小説ですか」「サヨクですね」と揶揄する向きもあるでしょう。
    それは半可通というものです。
    早合点するなかれ、主人公の竜太は紛うかたなき皇国民です。
    陛下の大御心を理解し、奉安殿に向かって深々と、それは見事な最敬礼をする青年です。
    そういう青年が「アカ」と疑われ、治安維持法違反で過酷な取り調べを受けたのです。
    げに恐ろしいのは法律の中身でも政治家でもない、法律を拡大解釈し、政治家の意を体して現場で運用する官憲なのだと思いました。
    いや、まあ、それはいい。
    ある種の小説を読むと、すぐに「テーマは何か?」「この小説の教訓は?」と考えてしまうのは私の悪い癖です。
    本作は、一個の物語として実に読み応えがあります。
    小説は、主人公の竜太が小学3年のころから書き出されていきます。
    大正天皇が崩御して昭和に変わっていく時分です。
    小学校で竜太は坂部先生という恩師に出会います。
    教育に情熱を注ぐ坂部先生の影響で、竜太も教師を志すようになり、やがて師範学校を出て夢を実現します。
    ところが、たまたま綴り方連盟の会合に顔を出し、記名したことで無実の罪を着せられ7か月間にもわたって拘留されることになります。
    この間、厳しい取り調べが続いたわけですが、竜太が何にも耐え難かったのは教員の退職を強要されたことです。
    保護観察の身となって娑婆に出た竜太を、さらなる悲劇が待ち受けます。
    同じく綴り方連盟に加担したとして逮捕、拘留されていた坂部先生が、厳しい取り調べの末に亡くなっていたのです。
    竜太は慟哭します。
    私もこの場面では涙を禁じ得ませんでした。
    竜太はさらに時代の波に翻弄されます。
    召集令状が来て、兵隊として満州へと渡るのです。
    そこは死と隣り合わせの戦場でした。
    実は、思想犯の前科のある者は、とりわけ厳しい任に就かせるという不文律があったのだそうです(しかも竜太は思想犯では断じてない!)。
    この点、先年読んだ吉村昭の「赤い人」を想起しました。
    ただ、そんな竜太にも心の支えとなってくれる人がいました。
    その一人が、何と言っても、竜太の小学生時代からの同級生であり、恋焦がれて来た芳子です。
    治安維持法違反容疑での拘留、そして戦争とさまざまな障害に阻まれながら、芳子との恋を成就し、敗戦直後に挙式する場面は目頭が熱くなります。
    竜太を陰に陽に支えた家族、短い教員生活で出会った尊敬すべき教師たち、さらに戦場でも心優しい戦友に恵まれ、その交流のひとつひとつがジンと胸を打ちます。
    そうそう、小説のごくはじめの方に登場する金俊明という男に触れないわけにはいきますまい。
    タコ部屋から逃げ出してきた朝鮮人です。
    この男が物語のキーマンの一人だったのですね。
    興趣を殺ぐことになるので、これ以上は触れませんが…。
    戦争は言うまでもなく、人の命を脅かし、大切なものを有無を言わさず奪っていきます。
    著者の筆運びは淡々としていますが、行間からはそんな声が聞こえてきそうです。
    ただし、そんじょそこらの反戦平和小説では断じてありません。
    物語の最終盤、竜太が愛する祖国の敗北に涙を流したことを付記して筆を置きます。

  • 竜太は、人間というもの、そして自分自身を知っていく。それがどんなに恐ろしく、残酷で、理不尽で、利己的であるかを。しかし、人間と人間が分かり合えるということは、自分と同じ人間として他者を尊重できるということでもある。本作品にはさまざまな人物が描かれていたが、私は政太郎の生き方に最も心打たれた。同じ人間を人間として扱うということ、人々が浮かれているときこそ冷静でいること、そして情報をもとに客観的に情勢を見極めるということ、自分とは考えが異なる相手の意思を尊重するということ。そして、最後は人間、そして教育の大切さを政太郎は知っていた。筆者がパーキンソン病との闘病生活の中、苦慮して描いた引き上げの筋書きや龍太が教団復帰してからの教師生活など、物足りなさを感じる部分もあったが、筆者も、軍国主義的な教育をしてきた教師の戦後の胸中を丁寧に描写できなかったからであろう、「もっと書かねばならなかった」と言う。しかし、物語に身を任せるのではなく、私自身が「なお終わらないもの」に目を逸らさずに対峙してゆかねばならない。竜太が周りに流されずに、人として異を唱えるまでに成長したように、子供に握り飯を渡すことを躊躇うことで人間の本性を見、それにどう向き合うべきかを悩んだように、この物語に出会った以上、弱き人間の弱さに目を逸らさずに、人が人に何ができるのかを、人が人の上に立つということがどういうことかを、考えてゆかねばなるまい。

  • 銃口を背中に突きつけられてる

  • 主人公の北森竜太は治安維持法違反容疑で半年以上もだらだら勾留がつづいたあげく、教職の辞職届を出さざるを得なくなって釈放。その大量の教師を逮捕した事件は特高に忖度して新聞にも報道されず、どこに就職しても特高の尾行がつづきスパイ呼ばわりされ居心地が悪くなる。恩師の坂部久哉教師は衰弱の挙句亡くなってしまう。失意の中、招集通知がとどいたときも教職を失ったので幹部扱いからひらの兵隊となり、理不尽な暴行を受けて片耳の聴力も失う。満州で盲腸になり、親しくしてくれた近堂一等兵との別れ、山田曹長との終戦直後にソ連や中国の連中を避けながら決死の逃避行の中で、朝鮮人の抗日派につかまる。その抗日派につかまって殺されるしかないとなった矢先、、、助けてくれたのは旭川で命を助けたたこ部屋から逃げ出した金俊明だった。金俊明もまた決死の努力で日本に戻るすべをつくってあげて、日本に戻ることができる。弟保志は戦死していたが、懐かしい芳子とついに結婚できた、ついには教職に復職できたという、戦前の思想弾圧の不合理を上手に描いた感動作である。

  • 「銃口」とは結局何だったのか。
    古参兵から曹長に向けられた銃口。
    集団自決をした男の銃口。
    曹長の夢に出てきたもう一人の自分が向けてくる銃口。
    帰国後竜太が背後に感じた銃口。

    同調圧力が言葉の感覚として近いのだろうか。
    個人の何かへの信じ方の問題かもしれない。

  • まちなか文庫より。上巻はダラダラ、下巻は一気読みのいつもの三浦マジックにハマる。昭和初期・戦前の社会のしくみ、考え方、思想と、現代の今の状況下を比較して、新しい社会はどのように作られるべきか、そこにどう関与するか、考えさせられる。
    2020/5/24読了

  • 昔読んだ本

  • 子供の国語の読解力の問題に出ていた文章が気になり、借りた本。第二次世界大戦前から戦後までの、北海道に住む教師を目指す質屋の息子を主人公とした作品。出題箇所ででは、主人公が小学校4年のときだったが、読後、物語の最後は昭和が終わるまで長生きしたフレーズがあり、それも感動の一つ。愚直に行き抜いた主人公竜太とその家族、友人など、まっすぐに生きる姿勢を感じた作品。戦争を題材にする本は久しぶりだけど、やっぱり苦々しく、内容を我が子たちへ話した。

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著者プロフィール

1922年4月、北海道旭川市生まれ。1959年、三浦光世と結婚。1964年、朝日新聞の1000万円懸賞小説に『氷点』で入選し作家活動に入る。その後も『塩狩峠』『道ありき』『泥流地帯』『母』『銃口』など数多くの小説、エッセイ等を発表した。1998年、旭川市に三浦綾子記念文学館が開館。1999年10月、逝去。

「2023年 『横書き・総ルビ 氷点(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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