- Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094026160
感想・レビュー・書評
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産婆オリュウノオバを語り手にして、中本一族の美しい若者たちの生と死を一人また一人と描いた連作。色を好み、荒くれもので、奔放な生の軌跡と非業の若死。そのなかでふと垣間見える男たちの脆さと弱さが魅力的であり、そして哀しい。熊野の路地と強く結びついた若者たちの姿は、やがて路地の消滅とともにその生を終えていく。夏芙蓉の花が咲き、黄金色の鳥が舞う紀伊熊野を舞台にした中本の若者たちの物語であるが、読後は場所も時間も超越した神話的世界の胎内をくぐり抜けたような気持ちになり、その力強さに圧倒された。
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新宮市立図書館の中にある中上健次資料収集室で中上の自筆原稿を直接見たとき、彼の独特な文体の理由を垣間見た気がした。
彼は作家一本で活動する前はサラリーマンと掛け持ちで、原稿用紙ではなく、一般事務で使う集計用紙に作品を書き込んでいた。集計用紙は横書きでマス目はなく、私が見た原稿には、中上の手書き文字がびっしり隙間なく行を埋めていた。集計用紙を使うことや、余白無く書き込むことには、まだ作家として生計を立てていなかった中上にとって、紙を節約するという意図もあったという。
しかし作家となって以後も、自身に余程合っていたのか、このスタイルは続けられる。
「明け方になって急に家の裏口から夏芙蓉の甘いにおいが入り込んで来たので息苦しく、まるで花のにおいに息をとめられるように思ってオリュウノオバは眼をさまし、仏壇の横にしつらえた台に乗せた夫の礼如さんの額に入った写真が微かに白く闇の中に浮き上がっているのをみて、尊い仏様のような人だった礼如さんと夫婦だった事が有り得ない幻だったような気がした。」
上記の引用は冒頭の記述で、168文字ある。句点が入らず言葉が紡がれ続いてゆく文は、呪詛とも語りとも読者に印象づける、まさに独特の文体。この冒頭部の一読で作品に入り込める読者ならば、最後まで大きく引きつけられるだろう。しかし、この表現に「?」と感じた人は、言い方はきついが、読み進んでもこの作品を自分の中には取り込めないかもしれない。
切れ目なく流れるような文体で、私は谷崎潤一郎の春琴抄を連想したが、後になって中上が谷崎の文体に敬意をもっていたのを知った。このように、おそらく源氏物語まで遡れるであろう日本文学の作家から作家に引き継がれてきた“遺産”が、中上以後の最近の作家からはあまり見出せないのは、寂しい。
(2009/12/28) -
ETV特集「路地の声 父の声 〜中上健次を探して〜」
をきっかけに読み始めた作品。
初めての中上健次作品にもなる。
1文がものすごく長く、文の内容を把握するのにも正直かなりの苦慮を要するが、この作品に込められた作者の想いと、オリュウノオバが私の知る人の祖母だという事実を知った上で読み進めて行ったので、私にとっても思い入れの深い作品となるに違いないとの思いもある。 -
老いた産婆、オリュウノオバが語る、中本一統の若者たちの、死に急ぐ話が続く。
独特な世界観と救われない話が苦手で、断念。 -
ついていけない世界観だった。
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オリュウノオバもの。
穢れているからこそ貴く浄い中本の血。路地の血。 -
読了
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新宮などを舞台とした作品です。
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オリュウノオバの死と誕生 高澤秀次
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色気の塊みたいな男が、これでもかと出まくってくるオムニバス。
「路地」に住むオリュウノオバという産婆さんが眺め続ける
ある血統の男達の、どうしようもない物語です。
何でも、腐りかけが一等おいしいのね。