始祖鳥記 (小学館文庫)

著者 :
  • 小学館
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感想 : 93
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  • Amazon.co.jp ・本 (509ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094033113

作品紹介・あらすじ

空前の災厄続きに、人心が絶望に打ちひしがれた暗黒の江戸天明期、大空を飛ぶことに己のすべてを賭けた男がいた。その"鳥人"幸吉の生きざまに人々は奮い立ち、腐りきった公儀の悪政に敢然と立ち向かった-。ただ自らを貫くために空を飛び、飛ぶために生きた稀代の天才の一生を、綿密な考証をもとに鮮烈に描いた、これまた稀代の歴史巨編である。数多くの新聞・雑誌で紹介され、最大級の評価と賛辞を集めた傑作中の傑作の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 2017年は酉年、ということで選んだ1冊。(鶏ではないけれど…)

    江戸時代、岡山の町では夜な夜な藩の失政を嘲笑う鵺が飛ぶという。
    民衆たちは藩を非難する怪鳥に喝采を送り、役人たちは捕縛に躍起になった。
    町を騒がす怪鳥の正体は、1人の空を飛ぶことに魅せられた男でした。

    主人公・幸吉を突き動かすのは「空を飛びたい」という一念のみ。
    世間から、悪政に反発するため空を飛んだ男、と見られていることに、幸吉自身は戸惑いを感じています。
    しかし、当の本人を置いてきぼりにして、幸吉が空を飛んだ話は日本中に広まり、人々を奮い立たせ、大きな動きを生み出す源になっていきます。
    たった1人の志を貫く姿が、多くの人々に伝播していく様に胸が熱くなりました。

    物語は3部構成で、第3部はわが故郷・駿府が舞台。
    馴染みのある町名や場所が登場したことも手伝って、より一層物語にのめりこんでいました。

    ほかの飯嶋和一作品も読まねば!

    • すずめさん
      シマクマ君さん、こんにちは!
      コメントありがとうございます。『始祖鳥記』、読んだのは数年前ですが、とても面白くて胸が熱くなったことを覚えて...
      シマクマ君さん、こんにちは!
      コメントありがとうございます。『始祖鳥記』、読んだのは数年前ですが、とても面白くて胸が熱くなったことを覚えています。恥ずかしながら、そのあと飯島和一作品を読めていないのですが、いずれほかの作品も読んでみたいなぁと思っている作家です。
      2021/07/23
    • シマクマ君さん
      『神無き月十番目の夜』がとても印象深い作品でした。具体的には忘れてしまいましたが。(笑)
      『神無き月十番目の夜』がとても印象深い作品でした。具体的には忘れてしまいましたが。(笑)
      2021/07/24
    • すずめさん
      シマクマ君さん、おすすめ作品を教えていただき、ありがとうございます!
      しばらく史実をもとにした小説に触れていなかったので、今度読んでみたい...
      シマクマ君さん、おすすめ作品を教えていただき、ありがとうございます!
      しばらく史実をもとにした小説に触れていなかったので、今度読んでみたいと思います。
      2021/07/31
  • とある方からお薦め、と借りた一冊。

    思ったよりも、歯応えあり。
    読むのに、意外と時間がかかった。
    江戸時代を江戸時代のように、という作者の思いが込められてか、かなり綿密に描写されている。
    フワッと読むタイプの私なので、その描写の凄さを逃している感はあるが、まあ、良しとして。

    第1章では、幸吉と弥作の兄弟が、才と情という部分でお互いを補い合う姿が睦じい。
    幸吉の、権威に対する反感と、表具師としての才のアンバランスさ。割とベタな設定ではあるものの、幸吉が純粋に成したいことと、それを周囲が曲解し、世の中の流れを変えていく数奇さが楽しい。

    第2章では視点を変えて、塩の取り引きと廻船の話にパーンと飛んでゆく。
    あれ?と思いながら、チラチラと人の噂の中に姿を見せる幸吉が、いよいよ源太郎と組み、新たな一歩を踏み出すところは、胸熱の展開。

    なのに、だ(笑)
    第3章では、そんな弥作や源太郎とはスッキリ一線を引いてしまう。
    自分の中の「鳥のように飛ぶ」という想いも、昔のように形振り構わずではいられない。
    そんな、「一般」のカタチに収まりつつある幸吉の体たらくを見ていると、残りこのページ数でどうするんだ!?と、読む側としては焦らされます。

    クライマックスは、もうね、なんか、スローモーションになります。

    第1章では、孤独と、反骨精神と、そんな中で夜が似合っている滑降だったけど。
    第3章では、まさに夕暮れなんだよー。
    日本昔話のエンディングなんだよー。(違うか)

    そんな訳で、レビューを読んでいて、この一冊を愛でる人が多い意味が分かるように思いました。
    個人的にはミルキィ・イソベさんの表紙と、その裏に……という遊びの効いたイラストも、すごく素敵で良かった!

  • ずば抜けてレビューが高評価でしたので読んでましたが・・・

    自分の好みではなかったようです。
    江戸時代のお話であり、言い回しが耳慣れない文章だったのと、凧や船について延々と専門的な説明が続くのも苦痛でした。

    最後にちょっと感動みたいなのも感じましたが、
    飛ぶなら「イツマデ」言わなきゃダメでしょw

  •  うおー!すごい!「全日本人必読!」と書くだけはある!<br>
     ものすごい急展開もない。すさまじいオチもない。派手な名ゼリフがあるわけではないし、現実離れした濃いキャラクターが出てくるわけでもない。それなのに、とても胸が熱くなるのだ。第一部では天才表具師でありながら、空を飛ばずはにいられない幸吉の心中に共感し、第二部では「××が来た!」と伊兵衛と一緒になって叫んでしまった(笑)そして第三部では……と、それは読んでのお楽しみ。<br>
     それじゃあ、この小説はどんな小説だったんだ、と振り返ってみる。ものすごくざっくりした言い方だが、ただ出会うべき人物が出会い、為すべきことを為し、淡々と、しかし着実に、物語が展開していき、辿り着くべき結果へ辿り着く。<br>
     そこで、ああそうか、とはたと気づく。それが歴史というものなのだ。それは人間の営為の積み重ねなのだ。同作者の「出星前夜」に井上ひさし氏が寄せた賛辞と重なってしまうが、そこにはたしかに歴史があった。

  • 一万円選書の二冊目。
    私にはちょっと難しかったかも…
    幸吉の人となりはわかったし、物語的にも面白かったけど、細かい設定があまり頭に入らず流し読みしてしまった。歴史小説は好きな方なんだけど、わかりやすく没入できる司馬遼太郎はすごいなと思ってしまった。ただただ私の読解力の問題だけど。

  • 空を飛ぶことに執着した男。意図しない社会の反応。数奇な運命。漢たちの情熱。
    江戸時代、岡山城下の表具屋の職人が空を飛んだことは事実として残ってるそうで、それに脚色してるんだとは思うけど、こんな人がいたかもと思わせる。
    面白かった。

  • 飯嶋和一めっちゃ好き

  • 元気のないとき、勇気が必要なとき、また奮起したいときなどに聴く曲、というのをもっている人は多いと思う。
    自分の場合は、それにあたる小説が、この『始祖鳥記』である。
    仕事がうまくいかんとき、海外旅行のとき、入院したときなど、読んで力をもらったものである。

    本書の、資料資料した説明をいやがる人もいると聞く。だがこの小説の3人の男たち備前屋幸吉、巴屋伊兵衛、福部屋源太郎の男前さを堪能するには必要な部分なのだ。

    もう何回目かの読了かわからん。カバーを引っ剥がしてところかまわず読んじゃうので、自分がもっている今の文庫本は3代目にあたる。

    数少ない、次回作が楽しみな存命作家が飯嶋和一なんだもんね。

  •  安政6年(1859年) 山の峰から一里半(約6キロ)を大凧(グライダー)で飛んだ男がいた。リリエンタールのグライダーより32年も早い。しかしその快挙は賞讃されず、怪しげな術をつかう者として囚われの身に。そして死ぬまで座敷牢に閉じ込められ、しまいには狂ってしまった…

     というのが「キテレツ大百科」の第1話に載っている「キテレツ斎」の話。


     藤子・F・不二雄氏は、たぶんこの小説の主人公「浮田幸吉」の逸話を知っていて、キテレツ斎のエピソードとして採用したのだろう。キテレツ大百科の雑誌連載は、いまから40年くらい前。「浮田幸吉」は日本人の99%は知らないと答える、とんでもなくマイナーな人物だと思う。それでも藤子先生は知っていたわけで(あくまで推測)、つくづく博学な方だったんだなあ、と今さらながら感動している。


     幸吉は1757年、岡山の八浜にある旅宿桜屋の当主浮田瀬兵衛の3男1女の次男として生まれた。7歳で傘屋に奉公に出て、14歳で岡山城下の紙屋に移った。持ち前の器用さを発揮し、表具師としてメキメキと頭角を現し、腕の良いものだけがその格を得る「銀払い」の表具師として、金銭的にも富んでいく。そのまま一生つつがなく暮らしても、誰からも羨まれる境遇だったに違いないが、幸吉にはある夢があった。
     
     鳥のように空を飛びたい。


     彼は夜な夜な、自らが拵えた大凧を持って、橋の上から飛び降り、試験飛行を繰り返す。失敗つづきで勢いよく川に落ちるので、大きな音で人に気づかれるが、なにせ暗闇だから「身投げだ!」とか「酔っ払いが落ちた!」「河童が出た!」などの噂だけが広まる。水死人が浮かぶわけではもちろんないので、みな不思議に思う。そのうち幸吉の広げる大凧の影を見る者も現れるが、まさか鳥の真似ごとをしている人間がいるとは思わないから、これは鵺の仕業に違いない、と人々が口にするようになる。


     鵺はお上の政治が乱れたときに現れるとされる妖鳥だ。、人々は鵺の出現に世直しの気運を高める。幸吉の思惑とは別に、幸吉の行為はお上にとっては体制批判を扇動する危険な行為に映った。


     そしてついに彼は人々を扇動した危険人物として捕らえられてしまう。
     
     さあ、その後の彼の人生は如何に! キテレツ斎のように狂死してしまうのか…


     実はここから物語は面白くなる。


     でも、これ以上ネタばらししたくないから書かない。


     ラストはとても感動した。この後の幸吉の人生の紆余曲折も全て、このラストへと収斂されていくための艱難辛苦だったんだと思うと、涙腺が緩んだ。


     男は夢を追い続けることに憧れるが、ほとんどの男はできない。だから夢を追い続ける男に自らの夢を投影させる。
     最後まで読んだ人には、たぶんこの意味がわかると思う。


     


     


     


     

  • ひとつの夢を追い続けることはとても難しいことだと思っている。子供のころ純粋に思い描き形にしようと思う傍ら生きてゆくための暮らしがある。それは年齢を重ねる程に大きな割合を占めるようになり、強く願っていたことは次第に生活の中次第に色色あせていってしまうことが多いのではないだろうか。そのため「夢は夢」…そんな切ない言葉がつい口を衝いて出てしまう。それは単なる言い訳なのかもしれないと、この本を読んで考えてしまった。

    例えば生活の中、薄れてしまったとしてもいつまでもその思いを胸のどこかで温めていることで描いた夢へと向かうことが出来る瞬間を見逃すことなく進めることは出来るのだと思う。その時はとても勇気が必要となるかもしれないけれど夢を叶えるということは、何かを犠牲にする「勇気」や「ちから」が必要なものなのかもしれない。

    そんな風に夢を持ち、夢へと向かう姿は他者からの目にも輝くものが見て取れ、それがその人の魅力となり、またその姿を見た人の希望にも変わる。誰かの夢が誰かの夢の手助けをする…そんな連鎖が続いていく。夢というものには、そんな不思議な力が宿っているようにも思えた。

    この「始祖鳥記」は、そんな夢が夢を呼び忘れかけていた希望を手にして行く男たちのお話。またこのお話は実際にあった出来事をモデルとしたもので、この時代にとんでもない夢を持った人物がいたということに驚く。

    夢は風を見極め掴むこと。
    共に夢を見てくれる理解者。
    そして何より飛び立つ勇気と羽ばたく力強さ。
    それとほんの少しの運。
    これらが重なったときに形をなすのかもしれない。

    その運は単なる「運」ではなく夢に対する自身の思いが運んでくる「運」でそこには必ずひとがついてくると思う。そう考えると「夢を描き続けること」それこそが夢を叶えることに繋がるのだろう…

    そんな風に自分の中で眠ってしまった夢を再び思い起こさせてくれる素敵な本だった。

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著者プロフィール

小説家。1952年山形県生まれ。1983年「プロミスト・ランド」で小説現代新人賞を受賞しデビュー。88年「汝ふたたび故郷へ帰れず」で文藝賞受賞。(上記の二作は小学館文庫版『汝ふたたび故郷へ帰れず』に収録)2008年に刊行した単行本『出星前夜』は、同年のキノベス1位と、第35回大佛次郎賞を受賞している。この他、94年『雷電本紀』、97年『神無き月十番目の夜』、2000年『始祖鳥記』、04年『黄金旅風』(いずれも小学館文庫)がある。寡作で知られるが、傑作揃いの作家として評価はきわめて高い。

「2013年 『STORY BOX 44』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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