裏切り (小学館文庫 ア 4-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094054637

作品紹介・あらすじ

「きみといても楽しくない」。なぜ夫の心は自分から離れてしまったのか。エーヴァはヘンリックの気持ちをとりもどそうと必死だった-。ヨーナスという若者がいた。植物人間となってしまった恋人アンナを献身的に介護している。だが、その看病ぶりは常軌を逸しているようだ-。ヘンリックに不倫の疑いを抱いたエーヴァは、憎悪の炎を燃やす。二組のカップルの葛藤が、ある晩思いがけない出会いを生み、そこから恐ろしい破局が始まる…。ベスト北欧推理小説賞受賞の実力派女性作家が、男女の心の奥底を緻密に描いて新境地を開くサイコサスペンス。

感想・レビュー・書評

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  • 夫が浮気をした。最近会話もない。妻も夜中に家を飛び出し成り行きで浮気をした。不倫小説かなんだありふれたテーマかと読み始めたら、あちこちで小さい山が鳴動して落石に会うくらい驚いた最後だった。


    恋して衝動的に結婚した夫婦は甘える間に甘えておかないと、青春ホルモン(?)と子孫繁栄本能が消えかかると、そこからは思いやりの暮らしになる。それに気がつかない妻のエーヴァ、急に冷たくなったのはなぜかと悩む。自立しすぎた妻は夫の欠点に目をつぶって生活をリードしてきたのだ。

    夫は息子の保育園で不倫相手を見つけていた。相手は離婚経験のある、手を差し伸べたくなるようなリンダで、彼は同棲する準備をして、口実を作って二人で船旅をすることにしていた。
    エーヴァはそれに気がついて嫉妬に狂う。憎いリンダは保育園から追い出す。夫とはもう一緒に暮らせない。

    夫は話しかけても「知らない」とにべもなく、挙句には「君といっしょにいてももう楽しくない」という。
    さぁどうやってこの問題を解決するか。
    悩み疲れてバーで酒を飲み、近くにいる若者に一杯奢った。酔った勢いで若者(ヨーナス)の部屋で一夜を明かしてしまった。リンダという偽名を使ったが、ヨーナスは美人と寝て舞い上がった。

    ヨーナスの恋人は二年半植物状態で病院のベッドに横たわったまま、もう先が長くないと言われていた。彼は病院側の看護も迷惑なほどつきっきりで、たまに泊まり込んで彼女のベッドで寝た。精神科医はそういった行為を異常だと感じていた。

    ヨーナスはエーヴァの家の周りを徘徊した、美しい家に住む美しいエーヴァ。常に夜は窓の外からエーヴァを見ている。夫の名はヘンリックだ。

    ヘンリックの浮気を探り出したヨーナスはエーヴァを救う任務を遂行しなくてはと思う。
    ヨーナスはヘンリックにエーヴァと愛し合っていると告白をする。ここに来ては夫婦の危機はもう救いようがないが、エーヴァはヨーナスにその後会うこともなく記憶もおぼろで。
    彼の行動を知らないままリンダを陥れ保育園から出て行かそうと計画する。

    ヨーナスの話を信じたヘンリックはエーヴァとの生活の快適さを手放す恐怖に震える。
    ここにきてエーヴァまでヘンリックとの生活に未練を感じる。
    ヘンリックも自分も哀れで悲しい。
    彼を不倫に走らせたのは自分ではないだろうか。

    ヨーナスの彼女は死んだが彼にはすでに過去の女になっていた。

    船旅に出たには出たが、ヨーナスの話を聞いても、煮え切らないヘンリックを見限ってリンダは逃げようとする。
    エーヴァの執拗な嫌がらせに手首を切って瀕死の状態になる。


    よくある不倫から始まった登場人物の「裏切り」についてヨ-ナスとエーヴァの最後の会話が面白い。
    ヨーナスは
    「自分が愛することになっている相手に愛情を感じなくなったらなにも言わずにいつもどおりの生活を続けて、すべてうまくいっているふりをするのがいちばんいいと言っているんだね」
    「それもまた、ある種の裏切りじゃないのか?愛していると思っている相手に対し、実は義務感と思いやりからそこに踏みとどまっているだけなら」
    「それじゃ全生涯をいっしょに生きた夫婦はみんな幸せなのか?その人たちは単に運がよかったということか?」

    こうして変質的な形で愛し愛された夫婦はもう戻れない人生に堕ちてしまう。

    あれさえなかったら、と何度も振り返る。そして息子のそばでしみじみと独白する最後の章は胸が詰まる。

    と並みでない心理ミステリと解説されるのは、こういう描写で登場人物の特異性や陥った状況を心理や会話から浮き彫りにしていく手並みの鮮やかさにあるのか。

  • スウェーデンの作家「カーリン・アルヴテーゲン」の長篇ミステリ作品『裏切り(原題:Svek、英題:Betrayal)』を読みました。

    「ヨアキム・サンデル」、「エメリー・シェップ」に続きスウェーデンのミステリ作家の作品です… 北欧ミステリ作品は、面白くて読み始めたら止まらないですね、、、

    「カーリン・アルヴテーゲン」作品は、3月に読んだ『喪失』以来なので約半年振りですね。

    -----story-------------
    壊れかけた夫婦が憎悪に染まるサイコノベル

    「きみといても楽しくない」。
    なぜ夫の心は自分から離れてしまったのか。
    「エーヴァ」は「ヘンリック」の気持ちをとりもどそうと必死だった―。
    「ヨーナス」という若者がいた。
    植物人間となってしまった恋人「アンナ」を献身的に介護している。
    だが、その看病ぶりは常軌を逸しているようだ―。
    「ヘンリック」に不倫の疑いを抱いた「エーヴァ」は、憎悪の炎を燃やす。
    二組のカップルの葛藤が、ある晩思いがけない出会いを生み、そこから恐ろしい破局が始まる…。
    ベスト北欧推理小説賞受賞の実力派女性作家が、男女の心の奥底を緻密に描いて新境地を開くサイコサスペンス。
    -----------------------

    2003年(平成15年)に刊行された、「カーリン・アルヴテーゲン」の3作目にあたる作品です… 衝撃的で、むっちゃ恐ろしい結末でしたねぇ、、、

    どこの家庭でも起きる可能性のある物語… 壊れかけた夫婦関係を修復しようとする中で、夫の不倫に気付いたことから、妻は一夜だけの大胆な行動を取るのですが、それがきっかけとなり、家族が崩壊していくというサイコサスペンス。

    異常な愛情を持った変質者の存在は、映画の『サイコ』や『コレクター』を彷彿させましたね… でも、身近にあっても不思議じゃない展開だけに、怖さがリアルに感じられましたね、、、

    あと、ぐいぐいと作品に引き込まれるのは、男女の心を緻密に描いた心理描写が秀逸だからでしょうね… どの登場人物にも裏切りの経験があり、信じる者の裏切りにより、愛情が憎悪に変化していく様がリアルで真に迫ってきましたね。


    「エーヴァ」は「ヘンリック」は一緒に暮らし始めてから15年のカップルで、双方が働いており、家庭と仕事を両立させている典型的な中堅層の夫婦であり、二人の間には保育所に通う「アクセル」という6歳の息子がいた… 「エーヴァ」は、偶然に「ヘンリック」に不倫相手がいることを知るが「ヘンリック」は否定、、、

    「エーヴァ」は、信頼していた「ヘンリック」の言葉が嘘であることを知り、許すことができず裏切りと感じる… そして、「エーヴァ」は絶望のあまり報復を企てる。

    一方、ある病院で「ヨーナス」という若者が恋人らしき女性に付き添っていた… 事故で植物人間の状態に陥った「アンナ」に彼は献身的に尽くしているが、実は彼の精神状態は極限に近付いていた、、、

    父親の不倫が原因で家庭が崩壊し、友人もなく、「アンナ」だけしかいない彼は、内なる強制力に支配され不安定な精神状態を抱えていた… 「ヨーナス」は街で偶然「エーヴァ」と出会い、関係を持ってしまったことから、全く接点のない二人の人生が交差し、物語は急展開する。

    裏切りを受けた「エーヴァ」、裏切った「ヘンリック」というパターンで始まった悲劇は、「ヨーナス」の恣意的な介入に操られ、それに、誤解や一方的な思い込みも加わり、立場が逆転していく… コミュニケーションが不足し、感情的になり自己中心的な発想しかできなくなった「エーヴァ」と「ヘンリック」は、それに気付かず、徐々に泥沼に陥っていく、、、

    そして、「エーヴァ」は、「アンナ」と同じように、「ヨーナス」の歪んだ愛情を受け入れざるを得ない状況に追い込まれていく。

    夫婦の間の何気ない会話から、お互いが疑心暗鬼になっていく場面の描写はホントに秀逸… その後の「エーヴァ」の行動には、やや極端な印象を受けましたが、理解はできますねぇ、、、

    刑事や警察官、探偵は登場しないミステリなのに集中力が途切れない面白さがあるだけでなく、殺人事件が起きない(「ヨーナス」の行為はほぼ殺人に近いですが… )のに、こんなに恐怖感を感じることのできるサスペンスを描けるなんて凄いなぁ… 「カーリン・アルヴテーゲン」の他の作品も読んでみたいな。




    以下、主な登場人物です。

    「エーヴァ・ヴィレンストルム=ベリィ」
     マネージメントコンサルタント

    「ヘンリック・ヴィレンストルム=ベリィ」
     エーヴァの夫、ジャーナリスト

    「アクセル」
     エーヴァとヘンリックの息子

    「ヤーコブ」
     アクセルの保育所の友だち

    「アニカ・エークベリィ」
     ヤーコブの母親

    「シーモン」
     アクセルの保育所の友だち

    「オーサ・サンドストルム」
     シーモンの母親

    「シャスティン・エヴェルトソン」
     保育所の所長

    「リンダ・ペアソン」
     保育所の保育士

    「ヨーナス・ハンソン」
     もと郵便配達人

    「アンナ」
     画家

    「ビュルン・サールステッド医師」
     アンナの主治医

    「イヴォンヌ・パルムグレン医師」
     精神科医

  • 俳優の不倫報道でTVが沸騰している時にたまたまこの本を読む。つい重ねてしまった。
    ヘンリックは最初から好きな人ができたといえばよかったのに。人格を否定されるのと、浮気を知らされるのとどちらが辛いだろう。
    妄想ストーカーの割り込みさえなかったら、エーヴァが暴走しなかったら、いずれ元サヤもあり得たかも。人生はもしもだらけ。

  • 30代のキャリアウーマンの女性が主人公。
    著者も真面目な女性なのか、夫に裏切られた妻の心理が丁寧に書かれていて引き込まれる。
    途中話しがくどいというか、無駄?に長く感じられたのが残念。

  • キャリアウーマンの妻は夫から突然裏切られ、憎しみに任せた行動にでる。ある青年は一人の愛する女性のために行動に出る。
     どの登場人物ももやもやストレスを抱えていて、何をしでかすかわからない。後味は少し悪いかもだけど、まさに「裏切り」が物語りの主幹になっていて納得。

  • 生々しすぎる。

  •  エーヴァはある日突然、夫の心が完全に離れてしまったことを知る。
     ヨーナスは目覚めない恋人を献身的に介護している。
     出会うはずのない2人が出会い、物語は悲劇へと転がり落ちていく。

     スウェーデンの女流作家、K・アルヴテーゲンの3作目。

     結局は、男に振り回される女性の哀れの物語のように感じた。
     エーヴァの夫は、長年の不満が積り、他の女性に心が移ってしまうのだけど、家庭を維持するために彼女が払ってきた犠牲や献身については、全く考えない。確かに、エーヴァもただ同情できるような存在ではないし、彼女が夫の恋人に対して行ったことは、とてもひどいことだ。けれど、そんな風に彼女を追い詰めたのは、やっぱり夫なのだと思う。

     そして、ヨーナスは寝たきりの恋人に献身的につくすという姿をとりながら、その実はあまりにも利己的だ。
     そう、エーヴァの夫も、ヨーナスも、大切なのは自分自身で、恋人でも妻でもない。
     そんな男のエゴに振り回されていくエーヴァや、彼女の夫の恋人。
     
     スウェーデンというと、ジェンダーフリーが進んだ国というイメージがある。確かに、エーヴァが夫の恋人に対して行ったことへの周りの反応は、とてもシビアで、日本人だとちょっと考えにくい。「これ」は「これ」、「それ」は「それ」というクールさが、物語の根底にあり、それはジェンダーフリーの考えに基づくのだろうと思われる。

     が、そんなクールさが、エーヴァをどうしようもない処へ追い詰めてしまうのだ。
     そうやって男のエゴの犠牲になってしまう。

     すごく悲しくて、怖い物語だった。

  • 裏切り、裏切られる男と女の物語。心理描写がもう凄い凄い。リアルというか的を射ているというか、ここまで克明に描写している作品をいまだかつて見た事がない。
    6歳の子供が一人いる夫婦の間で、突然夫から「きみといっしょにいてももう楽しくない」と言われたら妻はどうするか。驚き、哀しみ、屈辱、怒り、疑惑、後悔、プライドは傷つきそれでも平静を装おうとし、なんとか反撃して優位に立とうとする…
    そういう心の機微を妻の視点から夫の視点から、これでもかこれでもかと見せてくれます。
    自分の心に波立つ感情をなんとなく認識はしても、どうにもうまく言葉にならなくて悶々としたことは何度もあった。そういう混沌とした心の動きをきちんと説明しながら見せてくれる、そんな小説です。
    サイコ・サスペンスになっていて、ストーリーもかなり面白い。文句なくオススメです!

  • こ、怖い・・・(>_<) ひたひたと、心の内に侵食してくるような怖さ

  • ハッキリ言って、
    「こりゃ凄い作家が現れたもんだ!」と思いました。

    もちろん、お化けも怪物も、なにも出てきません。
    あるのは、誰もが心当たりあるだろう
    日常の…家庭の風景…でも、とにかく怖い…
    ハラハラするのともドキドキするのともちょっと違う…
    ここまで人の心理に分け入っていく…
    裏返せば、自分の心理に入り込んでくる…
    こんな作品は久しぶりです。

    作者はこれを書き上げるにあたって、
    2ヵ月間休養を取らなければならなかったという…
    作者自身が、執筆中にそれほどまでに
    登場人物たちとの精神的関係を深めてしまった…
    だから距離を置く必要が生まれてしまった…
    きっとそういうことなのでしょう。

    これを読んでいくうちに感じるのは、
    身近な人たちへの自分の理解の仕方は、
    事実なのだろうか…?という、独特の感覚です。

    ミステリー好きはもちろん…
    おもしろい本を読みたい人すべてにこれはお奨めですよ。
    ただし…自分の心も覗くことになるかもしれない…
    ということを、ちょっと覚悟しておいてください。

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