ホット・キッド (小学館文庫)

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制作 : Elmore Leonard  高見 浩 
  • 小学館 (2008年1月7日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (568ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094054774

ホット・キッド (小学館文庫)の感想・レビュー・書評

  •  エルモア・レナードが続々小学館文庫から翻訳され、文庫価格で読める。彼のファンであれば、非常に歓迎すべき時代が到来したと感じているはずである。それと同時にハードカバーでは、これほどの作家でもなかなか売り上げに繋がらなくなったのかという、海外ミステリーに対する出版業界という市場の風当たりの強さも感じられ、寂しい気持ちが生じないこともなく、複雑な気持ちである。

     ともあれレナードの作品は健在であるばかりか、近年作品の幅を大きく広げている様子すら窺える。本書は、現代の物語ではなく、実は銀行強盗が大流行りした1920年代のギャング団の時代に材を取っており、まさに実在の強盗団たちと同時代に、レナードは稀代の悪党を作り出すとともに、同時に本書では早撃ちを売りにする保安官ホット・キッドを生み出したのである。

     アカデミー受賞映画『ノー・カントリー』で一躍売り出したコーマック・マッカーシーの『地と暴力の国』では、姿を変えた現代の犯罪に対し、理解を超えているとの思いが強く世界の流れをどう捉えていいのかわからなくなっている老保安官の困惑が印象深く描かれている。最終章で、老保安官は父との寒い闇の国の夢を見る。絶望の只中を生き行く父と子の姿を描きその世界の終わりの姿の中にあっても崩れない子の中の善なるものが輝く非常に厳しい小説が『ザ・ロード』である。

     そうした破局的世界に比して、レナードの世界で悪を射殺してのける早撃ち保安官ホット・キッドの果たす役割は、古きよき時代のノスタルジーとともに、アメリカが寄って立つ何者かを感じさせるのだが、その安定感は、実は銃器という、何よりも不安定な象徴によって成り立っている、瞬間の積み重ねの歴史の上に存在してきたものであることをも思い出させられるのである。数ある銃撃シーン、殺戮シーンが暗示する、アメリカの歴史の情緒的側面、もしくは暴力に対する肯定的な宗教に捉われらたアメリカ文化の根源、といっていいようなある妄信の方向であるような気がする。

     1920年代のアメリカ、『俺たちに明日はない』のボニーとクライドや、ジャック・ヒギンズが小説化している(『デリンジャー』)ジョン・ディリンジャーなど、実在の銀行強盗たちと同時代に、二人の同郷のそれぞれ資産家の息子の立場でありながら、一方は犯罪者の道を、一方は保安官の道を辿り、やがては決闘に導かれるであろう大団円を想定しつつ、そこに向う人生の屈曲点を、エピソードの積み重ねによって描いてゆくレナードの筆致が、いつもながらに見事である。

     人間たちにこだわっているようでありながら、どこかでその時代を描き、それでいてアメリカをニュートラルに表現して、娯楽小説として徹底するというプロ職人の技術が生んだ近代のウエスタン、と言っていいだろう。

     ちなみに、本書のホット・キッドの父であるヴァージル・ウェブスターは、『キューバ・リブレ』では名脇役を果たすらしく、作家はこの人物の魅力を一作では語り足りないと感じたのだろう。本作では、その息子に主役を任せている。ちなみに『キューバ・リブレ』は1998年作品で、舞台は1898年のキューバとちょうど100年前の、いわゆる歴史ロマンであるらしい。続けて手に取って置きたい作品である。

  • カール(カーロス)という連邦執行官と、ジャック・ベルモントという放蕩者と、彼らをとりまくほかの強盗やちんぴら、その情婦たちの物語。”医者の数より銀行強盗の数の方がはるかに多かった時代”とレナードが言ったという、そういう時代のお話です。
    カールは連邦執行官ではありますが堅物ではなくて人情もわかる人物。でも有名になったり早撃ちと言われることを誇らしいと感じたりという弱みというか人間くささもあります。
    ジャックはナゼ?というほど悪辣で身勝手を極めていながら、頭が悪く単純な駄目人間なので厭らしさはそれほどでもありません。
    ルーリー、ハイディ、ナンシー、といった女性たちはまだまだ社会的にフェアでない扱いを受けながらあっけらかんとしたバイタリティでたくましくより良い生活を追い求めてゆきます。全体的にさすがレナード、という感じでした。

  • 著者80歳のときの作品であるが、その創作意欲には頭が下がる。これだけのボリュームにもかかわらずで完成度がかなり高い。登場人物の性格の掘り下げも相変わらずさすがであるが、往年の軽妙さが少なくなっているのはちょっとさみしい。

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