天頂より少し下って (小学館文庫 か 11-1)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094060638

作品紹介・あらすじ

川上マジックが冴えわたる極上の恋愛小説集

収録作品は次の通り――
[一実ちゃんのこと]一実ちゃんは「私、クローンの生まれだから」と恐ろしいことを言う。ある日、彼女に牛強盗に誘われた。
[ユモレスク] 不思議な女の子ハナは自称・詩人だ。彼女はイイダアユムに恋していて彼の名前を織りこんだ詩を書いている。
[金と銀] 治樹さんに初めて会ったのは私が子どもの頃。再会したのは彼が離婚した二年後だ。ある日、彼は失踪した。
[エイコちゃんのしっぽ] 「短いしっぽがあるんだ、わたし」とエイコちゃんは言った。あたしが男に襲われそうになったのを救ってくれたのは彼女だった。
[壁を登る] あたしの母はときどき妙なものを家に連れてくる。見知らぬおばさんやおじいさん。今は五朗がいる。彼はお天気になると家の壁を登る。
[夜のドライブ] 温泉に連れてきた母が真夜中に言う。「ドライブに行きたいの。好きな人と夜中にドライブしたことがなかったなって、急に思ったの」
[天頂より少し下って] 十一歳年下の涼に、全身全霊をかけて愛されることなんて、あたし、ぜんぜん望んでいない。あたしの方が全身全霊をかけて愛したいのだ。

感想・レビュー・書評

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  • やはり奇妙でユニークな人が出てきて、肩の力が抜け気持ちがほぐれてくる。一話読み進むうち、現実味を増すストーリーに、知らないうちに入り込んでいる。
    文章から感じ取る会話のテンポがとても好き。恋愛を描く短編とは括りたくない。人生って感じがする。
    特に印象的なのは、「壁を登る」。五郎さんはお天気になると家の壁を登る。そのえが浮かんで頭から離れない。一話完結人情ドラマのよう。終わり方がとても好きです。
    表題作、主人公は年頃の息子がいるシングルマザー。11歳年下の恋人がいる。母親であり、恋をする女でもある。女性はいくつになっても恋をすると少女のようなんだなぁ。同じような状況の知人がいるのでこういう気持ちなんだな、と思った。
    靴を探しているとき、靴屋の店員涼と出会う。
    お目当ての靴が見つからなかったとき「あきらめるのもいいかもしれません」と声を掛けた涼。
    あきらめなさい、その言葉で私も楽になったことがあります。
    日々はそう変わるものではない、でもそれでいいじゃないの、と著者が言われてるような気がした。

  • ひさびさの川上弘美だけど、
    肌に馴染むこの心地良さの正体は何だろう。

    散りばめられたユーモアと切なさが溶け込んだ文体。
    彼女にしか書けないオリジナリティ溢れるストーリー。
    淫らで艶やかなものを品性を損なわずに読者に伝える筆力。
    一発のインパクトは少なめだけど
    何度となく読み返すうちに
    じわじわ沁みてくる中毒性。

    川上弘美が描く
    恋愛がもたらす輝きと孤独感、
    その先にある暗闇は、
    読む者を幼い子供に戻し、世界をまっさらに塗り変えていく。


    風呂が短くおでん屋が好きな
    なげやり派でクローン人間の一実(かずみ)。
    自分のアイデンティティに悩む一実は「何かすごいことをやってやる」という口癖を実行すべく、
    クローン牛を飼育所から逃がすが…
    『一実ちゃんのこと』、

    詩を書くことが趣味の17歳の少女、ハナのエキセントリックな恋の行方を描いた切なさいっぱいの話。
    ノラ猫に餌を与えにくる猫当番、いつも煙草を逆さまにくわえた憧れの人、飄々とした喫茶店のマスター、侠気(おとこぎ)溢れるハナの母など登場人物がみな魅力的で引き込まれた
    『ユモレスク』、

    5歳の暎子(えいこ)と16歳の治樹(はるき)が初めて出会ったのは斎場だった…。
    二人がお互いの思いに気付くまでの20年を
    密やかな官能で描いた
    『金と銀』、

    尾てい骨からしっぽの生えた不思議なエイコちゃんと
    主人公まどかの女の友情物語
    『エイコちゃんのしっぽ』、

    ノラ猫を拾ってくるかのように
    ワケありの人を次から次へと家に住まわせるシングルマザーの綾子さんと一人娘のまゆの不思議な日常を描いた
    『壁を登る』、

    同居を望む娘と頑なに拒む年老いた母の
    一夜のドライブを詩情豊かに描いた
    『夜のドライブ』、

    靴屋で出会った年下の恋人、涼(りょう)との甘やかで切ない日々を
    45歳のシングルマザー、真琴(まこと)の妄想と共に描いた味わい深い表題作
    『天頂より少し下って』

    などなど、
    恋や孤独感に悩む(自覚してない人も含む)女性たちを描いた七つの短編が収められています。


    川上弘美の小説には
    見た目は普通だけど考え方がズレてたり、行動が突飛だったり
    どこか変わった人たちがよく出てくる。
    この短編でも
    姉のお尻の細胞から生まれたクローン人間の一実ちゃん、
    恋人のいる男の気を惹くため
    淫靡で淫らな詩をせっせと書きためる女子高生詩人、
    尾てい骨から短い尻尾の生えたエイコちゃん、
    食べ物を他人とシェアできない男、
    デパートの食品売り場で1日過ごすおじいさん、
    ロープも何も使わずに家の外壁をどんどん登ってゆく、「壁登り」が趣味の男など
    みんな変なんだけど、これが一様に憎めない(笑)
    愛らしさを持ってるんです。

    他にも、恋に落ちた女性の
    埒もないグルグル思考の描写がなんとも愛しいし(笑)、
    (でもコレは恋に落ちたら男女問わずですよね)

    ラブホテル帰りのいつもと違うシャンプーの匂いに
    不思議な寂しさを感じる主人公の描写も上手いなぁ~と唸ったし、

    恋を始める時の
    あの違和感と不安感と安心感が混じりあった感覚を
    その夏初めてのプールにつかる時の水の感触に例えたり、
    思わず膝を打つ比喩の巧みさにも脱帽です。


    何度恋を重ねても
    最初にその恋愛に飛び込んでゆくときのためらいだけは解消されない。

    人は誰も恋の予感に身悶え打ち震えながら
    届きそうで届かない不確かなものに手を伸ばし続ける。

    そんな恋のためらいやもどかしさを
    ぎゅっと凝縮したような作品です。

    サクッと読めて
    世界観に浸りたい人にオススメします。

    • 杜のうさこさん
      こんばんは~!
      最近、更新がありませんが、お元気ですか?
      ご職業柄、心配になってコメントしてしまいました。
      また、レビューを楽しみにし...
      こんばんは~!
      最近、更新がありませんが、お元気ですか?
      ご職業柄、心配になってコメントしてしまいました。
      また、レビューを楽しみにしていますね♪
      2015/09/08
    • 円軌道の外さん

      杜のうさこさん、ご無沙汰してすいません!
      実は本業であるボクシングの試合が9月頭にあったので
      減量と合宿練習などで携帯は封印しており...

      杜のうさこさん、ご無沙汰してすいません!
      実は本業であるボクシングの試合が9月頭にあったので
      減量と合宿練習などで携帯は封印しておりました(笑)
      心配していただき本当にありがたいです。
      今回は怪我はないので(笑)
      またぼちぼち更新していきたいと思っております。

      季節はもうすっかり秋ですが
      杜のうさこさんはお変わりありませんか?
      僕は減量後ということもあり食欲が止まらなくて
      リバウンドがコワいです(汗)
      (なんてったって大好きな食欲の秋ですから笑)

      季節の変わり目、風邪など引かぬようお体御自愛くださいませ。

      また後ほどそちらの本棚にも伺いますので
      よろしくお願いします!


      2015/09/22
    • 杜のうさこさん
      円軌道の外さん、こんばんは~♪

      私の本棚にもコメントありがとうございました!

      お元気そうで良かったです!!!
      心配性なもので…...
      円軌道の外さん、こんばんは~♪

      私の本棚にもコメントありがとうございました!

      お元気そうで良かったです!!!
      心配性なもので…
      かえってお気を遣わせてしまい、申し訳ありません。


      うふふ、今度は止まらない食欲と戦っておられるのですね(*^-^*)
      わかります!
      私もお腹が根性なしなので(笑)自重はするんですが、ついつい(^_^;)
      美味しいものと、本に目がない者同士ですもんね♪

      私の本棚で気にされていた『虹猫喫茶店』

      ご存知の通り、猫ちゃんに弱くて、
      悲しい描写を避けてしまう、情けなーい私ですが、
      面白かったです!おススメです♪

      では、今から久々の円軌道の外さんのレビューに、
      どっぷりはまりに行ってきます(*^-^*)
      楽しみ~~♪
      2015/09/24
  • 実は川上弘美さんの本を読むのは今回がはじめてでした。
    解説で平松さんの書かれた「寄る辺のなさを純化する」という表現がぴったりの、7篇の短編集でした。

    クローンの女の子、見ず知らずの人を泊めてしまう継母。
    壁に登る男。しっぽのあると言う女の子。
    ユニークな登場人物は少しクセがあって、正直最初は面喰った。それが、読み進めていくうちに文体が肌に馴染んで、もっと、読みたくなる。ひんやりした孤独と近過ぎない人との距離感。

    年老いた母との旅行を描いた「夜のドライブ」
    11歳年下の男の子を恋した日々を描いた表題作。
    その2篇が特に大好きでした。
    特別でない日常なのに、胸がきゅっとする。余韻も残る雨の日にもぴったりの1冊でした。

  • 久しぶりの川上弘美さん短編集。アンソロで既読のものもあったので、結構寄せ集め的な感じだったのかな。でも全体的にやわらかい、ひらがな多めのトーンで統一されていて、どれもさすが川上弘美な味わい。

    お気に入りは「夜のドライブ」。アラフォー独身女性が母親と旅行にいって夜のドライブをする、それだけのなんてことないエピソードなのだけれど、年齢的に共感できる部分が多く、ラストはほろりとしました。たまに実家に帰ると、ふいに母が老いていることに気づいて「はっ」とすることとかあるんですよね。かつては自分を庇護してくれた存在に、今は頼られるようになっている、そういう立場の変化や気持ちの変化が、不安になることもあるし、切なくなることもある。

    逆にイマイチだったのは表題作。こちらも40代女性が主人公ですがバツイチ、同居している息子はすでに成人、自分には11歳年下の恋人がいるという設定と、ひたすら恋愛モードな彼女の言動に、単に共感できるポイントをみつけだせませんでした。

    ※収録作品
    「一実ちゃんのこと」「ユモレスク」「金と銀」「エイコちゃんのしっぽ」「壁を登る」「夜のドライブ」「天頂より少し下って」

  • 25

    川上弘美の話って、感想が難しい
    めちゃくちゃ面白い!とかではなく、揺蕩う世界観を味わう作品。
    クローン人間やしっぽのある人間など、不思議な設定も当たり前に受け入れて話が進んでいくから、
    日常が非日常かよくわからない。そこがすき。

    面白いというより、好きだな~と思う短編集。

    2019.04.06

  • 2018年最初の読了本。数年前から少しずつ読んでいる川上先生の恋愛短編集です。自分が姉のクローンだと仰天の告白をする少女の物語で幕を開けますが、二編目以降は現実世界に舵を戻します。

    イイダアユムという男に詩心をくすぐられる女性ハナの恋の玉砕。

    泣き虫な年上の男と数年ぶりに出会った少女の恋の予感。

    派遣先の男とデートしたはいいものの、一緒に鑑賞した映画への評価が180度真逆と知るなり感じた「コレジャナイ感」を、尻尾が生えた友人とシェアする女が巻き込まれたトラブル。

    妙な人間を家に引っ張ってくる綾子さんに翻弄される娘。

    婚期を逃した娘と母の夜のドライブ。

    年下の恋人と社会人になった息子の間で、女と母をすみ分ける女の幸福。

    川上作品の主人公達に共通しているのは、どの女性も今の自分を肯定しているという絶対的な安心感です。私なんて、とか、彼女の方が、とか、この手の短編集にアリガチな劣等感が少しも顔を出しません。時々差し挟まれるフシギ設定も小気味好いスパイスになっています。清々しい女達の物語で2018年の読書が始められてついてるな〜。

    特に表題作の女主人公の恋人に対しての愛情の示し方が、読んでいるこちらが気恥ずかしくなるほどオトメ。アラフォーのおばさんの純情が、少しのイタさ(笑)と少しの不安をはらみつつ、あっけらかんと描かれています。

  • どの登場人物も透明感があって素敵。
    名前が漢字、ひらがな、カタカナでこんなに印象が変わるものですね。
    金と銀が好きかな。
    また川上さんの作品読みまーす。

  • 外れないなー。読んでてすごく心地いい。
    特に夜のドライブは良かった。
    何だか泣けてきた。

  • 川上弘美の恋愛短編には謎の癒し効果がある

  • 日々に疲れて、精神がしんどくて、生きていくことの大変さを噛み締めているときに、すごくじんわり染み渡るあたたかいお話だった。表題作はうるっとして、泣きそうになっちゃった。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川上弘美の作品

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