天頂より少し下って (小学館文庫)

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著者 : 川上弘美
  • 小学館 (2014年7月8日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094060638

天頂より少し下って (小学館文庫)の感想・レビュー・書評

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  • ひさびさの川上弘美だけど、
    肌に馴染むこの心地良さの正体は何だろう。

    散りばめられたユーモアと切なさが溶け込んだ文体。
    彼女にしか書けないオリジナリティ溢れるストーリー。
    淫らで艶やかなものを品性を損なわずに読者に伝える筆力。
    一発のインパクトは少なめだけど
    何度となく読み返すうちに
    じわじわ沁みてくる中毒性。

    川上弘美が描く
    恋愛がもたらす輝きと孤独感、
    その先にある暗闇は、
    読む者を幼い子供に戻し、世界をまっさらに塗り変えていく。


    風呂が短くおでん屋が好きな
    なげやり派でクローン人間の一実(かずみ)。
    自分のアイデンティティに悩む一実は「何かすごいことをやってやる」という口癖を実行すべく、
    クローン牛を飼育所から逃がすが…
    『一実ちゃんのこと』、

    詩を書くことが趣味の17歳の少女、ハナのエキセントリックな恋の行方を描いた切なさいっぱいの話。
    ノラ猫に餌を与えにくる猫当番、いつも煙草を逆さまにくわえた憧れの人、飄々とした喫茶店のマスター、侠気(おとこぎ)溢れるハナの母など登場人物がみな魅力的で引き込まれた
    『ユモレスク』、

    5歳の暎子(えいこ)と16歳の治樹(はるき)が初めて出会ったのは斎場だった…。
    二人がお互いの思いに気付くまでの20年を
    密やかな官能で描いた
    『金と銀』、

    尾てい骨からしっぽの生えた不思議なエイコちゃんと
    主人公まどかの女の友情物語
    『エイコちゃんのしっぽ』、

    ノラ猫を拾ってくるかのように
    ワケありの人を次から次へと家に住まわせるシングルマザーの綾子さんと一人娘のまゆの不思議な日常を描いた
    『壁を登る』、

    同居を望む娘と頑なに拒む年老いた母の
    一夜のドライブを詩情豊かに描いた
    『夜のドライブ』、

    靴屋で出会った年下の恋人、涼(りょう)との甘やかで切ない日々を
    45歳のシングルマザー、真琴(まこと)の妄想と共に描いた味わい深い表題作
    『天頂より少し下って』

    などなど、
    恋や孤独感に悩む(自覚してない人も含む)女性たちを描いた七つの短編が収められています。


    川上弘美の小説には
    見た目は普通だけど考え方がズレてたり、行動が突飛だったり
    どこか変わった人たちがよく出てくる。
    この短編でも
    姉のお尻の細胞から生まれたクローン人間の一実ちゃん、
    恋人のいる男の気を惹くため
    淫靡で淫らな詩をせっせと書きためる女子高生詩人、
    尾てい骨から短い尻尾の生えたエイコちゃん、
    食べ物を他人とシェアできない男、
    デパートの食品売り場で1日過ごすおじいさん、
    ロープも何も使わずに家の外壁をどんどん登ってゆく、「壁登り」が趣味の男など
    みんな変なんだけど、これが一様に憎めない(笑)
    愛らしさを持ってるんです。

    他にも、恋に落ちた女性の
    埒もないグルグル思考の描写がなんとも愛しいし(笑)、
    (でもコレは恋に落ちたら男女問わずですよね)

    ラブホテル帰りのいつもと違うシャンプーの匂いに
    不思議な寂しさを感じる主人公の描写も上手いなぁ~と唸ったし、

    恋を始める時の
    あの違和感と不安感と安心感が混じりあった感覚を
    その夏初めてのプールにつかる時の水の感触に例えたり、
    思わず膝を打つ比喩の巧みさにも脱帽です。


    何度恋を重ねても
    最初にその恋愛に飛び込んでゆくときのためらいだけは解消されない。

    人は誰も恋の予感に身悶え打ち震えながら
    届きそうで届かない不確かなものに手を伸ばし続ける。

    そんな恋のためらいやもどかしさを
    ぎゅっと凝縮したような作品です。

    サクッと読めて
    世界観に浸りたい人にオススメします。

  • 久しぶりの川上弘美さん短編集。アンソロで既読のものもあったので、結構寄せ集め的な感じだったのかな。でも全体的にやわらかい、ひらがな多めのトーンで統一されていて、どれもさすが川上弘美な味わい。

    お気に入りは「夜のドライブ」。アラフォー独身女性が母親と旅行にいって夜のドライブをする、それだけのなんてことないエピソードなのだけれど、年齢的に共感できる部分が多く、ラストはほろりとしました。たまに実家に帰ると、ふいに母が老いていることに気づいて「はっ」とすることとかあるんですよね。かつては自分を庇護してくれた存在に、今は頼られるようになっている、そういう立場の変化や気持ちの変化が、不安になることもあるし、切なくなることもある。

    逆にイマイチだったのは表題作。こちらも40代女性が主人公ですがバツイチ、同居している息子はすでに成人、自分には11歳年下の恋人がいるという設定と、ひたすら恋愛モードな彼女の言動に、単に共感できるポイントをみつけだせませんでした。

    ※収録作品
    「一実ちゃんのこと」「ユモレスク」「金と銀」「エイコちゃんのしっぽ」「壁を登る」「夜のドライブ」「天頂より少し下って」

  • みんな風変わりなようでいて あっ(゜O゜;!
    わかるーと、思うところもある。
    日常のゆっくりながれる時間が 大切に思えます。ちょっと疲れた時に
    素敵な一冊ですね(p^-^)p

  • どの登場人物も透明感があって素敵。
    名前が漢字、ひらがな、カタカナでこんなに印象が変わるものですね。
    金と銀が好きかな。
    また川上さんの作品読みまーす。

  • どの短編も独特の雰囲気が漂っていて、それがとても好きです。
    登場人物はどこか風変りで、そこはかとなく悲しい感じ。

  • 『大きな鳥に....』を読んでファンになり2冊目。
    ちょっと不思議で奇妙な恋愛もの(?)短編集なのか?
    夜のドライブが一番好き。
    一人で暮らしている母親を娘(主人公)が車で旅行に連れていく....というだけの話なのに、いつの間にか主人公の気持ちとリンクしてしまいました。
    そして、とても良いお母さんでした。

  • 16/07/25
    “恋をしている女の、埒もないぐるぐる思考”てまさにそれだ笑。いくつになっても恋をしたら、そのぐるぐるに取り込まれちゃうのかな。抜け出せる日は来るのかな。

    ・いつかまた、この瞬間のことを思い出すことがあるのかな。真琴は思う。好きな男たちがいて、でも不安で、どうやって生きていったらいいかわからない幼い子供みたいな気持ちでいる、今のこの瞬間のことを。(P207 天頂より少し下って)

  • また不思議な世界。
    女性の視点の鋭い部分で描くとこんな世界なんでしょうか?
    ちょっと自分には遠い気分。
    そしてなんか不安な感じです。
    まあ「金と銀」の治樹さんのような人はいますね。

  • 2014年7月17日購入。

  • あとがきより

    ー恋愛のみならず、ひとが生きてゆくときの寄る辺なさが絶え間ない波として押し寄せ、こころの頂きに届く。
     エッセイスト ひらまつようこ

    カバー絵 パウルクレー「人形劇場」
    カバーデザイン 坂上栄治、坂上朱音

    小学館文庫 2011年

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天頂より少し下って (小学館文庫)の作品紹介

川上マジックが冴えわたる極上の恋愛小説集

収録作品は次の通り――
[一実ちゃんのこと]一実ちゃんは「私、クローンの生まれだから」と恐ろしいことを言う。ある日、彼女に牛強盗に誘われた。
[ユモレスク] 不思議な女の子ハナは自称・詩人だ。彼女はイイダアユムに恋していて彼の名前を織りこんだ詩を書いている。
[金と銀] 治樹さんに初めて会ったのは私が子どもの頃。再会したのは彼が離婚した二年後だ。ある日、彼は失踪した。
[エイコちゃんのしっぽ] 「短いしっぽがあるんだ、わたし」とエイコちゃんは言った。あたしが男に襲われそうになったのを救ってくれたのは彼女だった。
[壁を登る] あたしの母はときどき妙なものを家に連れてくる。見知らぬおばさんやおじいさん。今は五朗がいる。彼はお天気になると家の壁を登る。
[夜のドライブ] 温泉に連れてきた母が真夜中に言う。「ドライブに行きたいの。好きな人と夜中にドライブしたことがなかったなって、急に思ったの」
[天頂より少し下って] 十一歳年下の涼に、全身全霊をかけて愛されることなんて、あたし、ぜんぜん望んでいない。あたしの方が全身全霊をかけて愛したいのだ。

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