復興の書店 (小学館文庫 い 10-1)

著者 :
  • 小学館
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感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094061017

感想・レビュー・書評

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  • これは「本屋の話であるけれど、本屋だけの話ではない」「被災地の話であるけれど、被災地だけの話ではない」と感じます。
    「自分が、何故そこに居るのか?」を本屋や被災地を通して問いかけてくれるお話し。
    未曾有の災害を被ったとき、最初に必要なのは確かに衣食住のインフラを再構築することでしょう。 でも、人はそれで生きていける訳ではない。
    本書で印象的だった言葉は「親たちは、子供達の笑顔を必要としている」
    そう、人が生きる勇気を、前を向く希望を感じるのは、そんな「心を満たされる瞬間を得るため」だと、本書は語り掛けてくれます。
    そして自分と重ね合わせ、自分が満たされるモノは何だろう。自分が必要としている事はなんだろう。 と気づくことができるのだと思います。

    本好きの方にはもちろんですが、「生きる勇気」を与えてくれる素敵な本だと思います。

  • 本は不要不急ではなく、生きるために必要なものだ。人は食べ物だけでは生きられない。

  • いまや本はネットで買える。電子書籍という選択肢もできた。なのに我々はなぜ本屋さんへ行きたくなるのだろう?そんな素朴で究極の疑問への答えが詰まっている。震災後、それぞれの想いを胸に各地で書店が再開。そのとき書店は被災者のコミュニティの場となり、希望の基点ともなった。災害のあとには奇妙な共同体が生まれるとよく言われるが、それとは違う。なぜなら、街の本屋さんは懐かしき場所であり、活気の象徴でもあるからだ。普段、何気についで寄りしているつもりでも、実は自分の中で心の拠り所にしているのかもしれない。

  • 本の力 信じる

  • 震災後の東北地方の書店復興の話。

    この本の素晴らしい点は
    文庫化に伴って、1年後や2年後の状態をインタビューして、うまくいってないことも記事にしたこと。

    本離れがすすむなかで、書店が再度作られることの難しさとか。

    Kindleで読んで、少し申し訳なくも思った。

  • 「紙つなげ!」の時と同様に「読んで良かった」と思い、やはり電子書籍ではなく紙の本だと心底思った。震災当時、水・食糧・衣類など必要なものは本当にたくさんあっただろうけど、その中に「日常に戻る」「ひと時だけ別世界に行ける」本はとても大きな存在だと思った。辛い現実から少しでも心を解放し少しでも不安で縮こまった心に暖かい隙間を作ることができる本はとても素晴らしいと思った。本屋さんの現状は厳しくけわしいものだと思うけど、やはり身近な地域に本屋がある世界は素敵だと思うので、なんとか踏ん張って欲しいと思った。最後の書店員さんの手記がとてもよかった。

  • 以前読んだ「紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている──再生・日本製紙石巻工場」(以下「紙つなげ」)と、比べながらの感想。

    「紙つなげ」が、紙を中心とした、本にさまざまな立場で携わる人々の物語をつなげた「ストーリー」を構成しているのに対して、本書(「復興の書店」)は、末端の「書店」にフォーカスしており、独立したエピソードはほとんどリンクしていない。「復興の書店」は雑誌連載という背景もあるのだけれど、どちらか一冊を、ということであれば、「紙つなげ」の方が、(物語の登場人物の努力の集大成を、実際に「本」という形で手にできる、という点まで含め)完成度は高い。

    ただ、「復興の書店」がフォーカスしているのは、「紙つなげ」での作り手側の物語よりもっと末端の「読み手」に近いところ。一章のタイトル「本は「生活必需品」だった」が、本書の位置づけを示しているように思う。品質、もの作りとしてのこだわり、そういったものを超えた、純粋に「情報」「環境」としての読書。そういったものがいかに被災者にとって大事であったのか、それを復興させるために、書店員がどのように戦ってきたのか、そういったことを、より、被災者に寄り添った視点から描き、まざまざと感じさせてくれたのが「復興の書店」であった。
    そういった意味では、本書で求められている「本」の役割を果たすのは、紙である必要はなく、電子書籍でも構わないはず。ただ現時点での電子書籍における「共有」の弱さが、浮き彫りになったかなという印象を受けた。

    どちらの本も、やはり涙なしには読めない。それだけの出来事であったのだし、遠く、ほとんど被害はなかったとは言え、同じ災害を体験したものとして、考え続け、語り継いでいかないといけないということを再認識させられた。

  • 被災した東北の書店を暖かなまなざしで回っていく。同じ体験について語っていくことの繰り返しだからなのか、語られる話は似通っている。だからなのか、それとも希望を見いだそうとしていることが痛々しく感じるからか、賽の河原で石を積んでいるような読書体験となった。希望を見いだそうとするのは彼なりの被災地への思い入れからなのかもしれないが、読んでいてノンフィクションというジャンルの限界を感じたのも事実。非取材者を傷つけないために、筆を押さえた部分があるような気がしてならない。もしくは書店員が口を割らなかったのかはわからないが、話しぶりが痛々しいし、深さもあまり感じない。これをもとに小説として書いた方が作品としての完成度は高まるんじゃないだろうか。そんな気がした。あと気になったのは金太郎アメ的な構成。ひとつひとつ丁寧に回っていくという作業を地道に行うのは稲泉さんの誠実さ故なんだろうけど、話をきく人に変化を付けて、震災と出版というものをひとつかみできるような構成にして欲しかった。

著者プロフィール

稲泉 連(いないずみ・れん):1979年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部卒。2005年に『ぼくもいくさに征くのだけれど 竹内浩三の詩と死』(中公文庫)で大宅賞を受賞。主な著書に『「本をつくる」という仕事』(ちくま文庫)、『アナザー1964――パラリンピック序章』(小学館)、『復興の書店』(小学館文庫)、『サーカスの子』(講談社)などがある。

「2023年 『日本人宇宙飛行士』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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