もののはずみ (小学館文庫 ほ 8-1)

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  • 小学館
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本棚登録 : 191
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094061772

作品紹介・あらすじ

フランスで出会った「もの」たちの物語

《捨てられはしたけれど破壊はまぬかれた、近い過去の生活用品には、独特の表情がある。元の所有者たちの生活の匂いが、設計者や製造者の顔が透けて見える。それらが引きずっている人々の過去に、感情に、もっと言うなら、「もの」じたいが持っている心、すなわち「物心」に私は想いをはせる。》(本文より)
旧式のスライド映写機、1950年代の万年歴、他メーカーのものも混ざった古いコンテ社の色鉛筆……。主にフランスの古道具屋や蚤の市で出会ったがらくたとも言える「もの」たち。その「物心」に想いをはせ、「物」の語りを綴った珠玉のエッセイ集が、書き下ろし作品も加えて待望の復刊。

感想・レビュー・書評

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  • ものが持つ、独特のいい雰囲気。
    堀江さんがここで取り上げるのは、フランスの蚤の市や古道具屋で見つけた過去の生活道具たち。
    アンティークとしての価値がつくほどまではいかない、ちょっと過去の生活道具。
    そのもののもつ、独特なたたずまいを、短いエッセイの中で掬い取っている。

    古道具を自分の生活に取り入れたり、そうでなくても賞翫するというのは、センスがないとできるものではない。
    この本で、自分は文章を通して、堀江さんの目を通してそれらのものに触れて、良さがわかった気がしているが、実際にそのものを見て、その良さがわかるとは思えない。
    写真や文章から漂うおフランス的な雰囲気への憧れもあるのか、と幾分やっかみながら、そう思う。

    ただ、ものが、あるものの隣に置いたとたんに精彩を放ち始めたり、違う光、違う空気の中にあることで、魅力を失ってしまうことは、自分の経験にもある。
    そういうところのリアルさは、よく理解できる。

  • 堀江氏が雑貨好きだなんて知らなかったし、私物(だと思う)の写真とその雑貨に纏わるエッセイ集。
    雑貨を買うに至るまでの気持ちや買った後に愛でる気持ちや思い出など、穏やかで時には笑いを誘う文章で綴られている。
    思うと、私は雑貨好きとは言えない。
    でも、ボタンとか綿のはみ出た人形を手元に置きたい、という気持ちは分からなくもないなと思えたお話ばかりだった。

  • 同タイトルが沢山出て来るなあ、と思ったら、角川文庫からの復刊らしい。

    堀江敏幸さんのエッセイが好きで、中公文庫の「回送電車」シリーズが店頭に並ぶたびにドキドキしてしまう。
    ハードカバー版のレビューに、吉田篤弘の小説に似ているというコメントがあり、思わずボタンを押してしまった。

    正直、一気読みには向かない、じわじわ本だ。
    それも、カフェや書斎で読むのとも違って、旅のお供にするといいと思う。
    様々な「もの」への愛着を語りながら、切ないような懐かしさが漂うから。

    「この際、古い新しいはもう関係ない。ひとつの「もの」にあれやこれやと情をかけ、過度にならない程度に慈しむことで、なにか身体ぜんたいをはずませ、ひいては心をもはずませること。私はそれを、もののはずみ、と呼んでいる。」

    がらくた、というと価値のないもの、を想起させるけれど、その音の響きには愛らしい何かが潜んでいる。

    解説の片岡義男さんとの「もの」を巡るやり取りも、なんだか趣味に走っていく男同士の、これは分かりますかな⁉︎という駆け引きが見えて、楽しい。

    物語は、すぐそこに佇んでいるのだと、感じた。

  • はたから見ればただのがらくたに過ぎない中途半端な物たちに惹かれる著者が、主にフランスで出会った物たちについてペンを走らせた好エッセイ。

    スライド映写機、珈琲ミル、陶製のペンギン、木製のトランク、ドアノブ、キッチンスケール、木靴、ビー玉etc.

    年代物の高価な骨董品ではなく、20年から100年くらい前の使われなくなったものたちである。

    「物心」という言葉があり著者はそれに心思いを馳せる。

    もののはずみで買ってしまったものたちは、著者と心を通わせ世界を広げるための力となっていく。

    堀江敏幸さんの文章は、小説にしてもエッセイにしても独特の静けさを持っていて大好きだ。

    芥川賞作家であり、明大教授の堀江さんは毎日多忙な生活を送ってらっしゃると思うのに、彼の描く世界はまるで時がゆっくりと再生しているようで、その静謐の中に贅沢な空間を見出す。

    劇的主題を持つわけでもなく、強烈な光を放散するでもなく、レトリックに凝るわけでもない。

    静かに時を流し、静かに独創的な世界を作り上げる。
    その白き静けさに堀江さんの文章を読んでいるとゆっくりと満たされていくのだ。

  • 読み始め…16.2.7
    読み終わり…16.2.24

    堀江敏幸さんの著書は今からちょうど4年前
    2012年の2月に短編集を読んだのがはじめてで 今回はそれ以来の2作目です。

    ある日の書店でふと目に飛び込んできた
    堀江敏幸さんの名にそういえば...と無性に懐かしい気持ちにさせられて 迷うことなく手にしてしまったという行動は「もののはずみ」とでもいうのでしょうか。(笑)

    堀江さんの「もののはずみ」はエッセイ集。
    主に堀江さんがフランス・パリにお住まいだった頃 ふらりと出かけた蚤の市でみつけた堀江さんの心のツボにはまったモノたちへの想いが 穏やかな語り口で綴られています。

  • 偶然に出会った「もの」たちをめぐるエッセイ集です。対象に対する逸話と愛情が、心地よく混じり合っています。

    小川洋子さんとかなら、これら「もの」たちをモチーフにして物語を紡いでいるかもしれません。しかし、堀江敏幸さんの場合、あくまでエッセイにとどめている感じが個人的には好印象です。

  • フランスで出会ったものについて綴る、短いエッセイ。ヴィンテージのようなものから、とりたてて価値はないけれど自分の琴線に触れたものまで。
    いいエッセイだなぁと思う書き手は、視野が広いというより(狭いわけではない)、細かいところまでよく見ているんだなぁ、と思う。毎日のこと、なにげないことでも流さずに見つめている。

  • 『もの』をテーマにしたエッセイ集。この場合の『もの』とは、新品でも骨董でもなく、微妙な古さの『古道具』。
    各エッセイには写真が1枚ずつ添えられているが、古ぼけてくすんだ『もの』が、不思議な味わいを見せている。また、エッセイも、小説めいたエピソードが違和感なく混じり合っていて、写真とともに本書の味わいに深みを加えていた。
    実際に自分が使うかどうかは別として、『もの』に対する著者の愛が伝わるエッセイ集だった。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

堀江敏幸の作品

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