- Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094063004
作品紹介・あらすじ
本屋大賞候補の音楽小説三部作、新装文庫化
新生学園大学音楽科の創設者を祖父に持つ津島サトルは、プロのチェリストを目指し、一家の敷いたレールに乗っていたはずだった。しかし芸高に落ち、失意のまま新生学園大学付属高校に入学する。
サトルはそこで一流の音楽を奏でるため奮闘する同級生たちに出会う。フルートを奏でる美少年・伊藤慧とポニーテールの鮎川千佳。そして、見たこともない澄みきった目をしたヴァイオリン奏者、南枝里子。オーケストラの想像以上に過酷な練習は、彼らを戸惑わせる。夏休みのオーケストラ合宿、文化祭、南とピアノの北島先生とのトリオ結成と、一年は慌ただしく過ぎていくが……。
本屋大賞ノミネートの傑作青春音楽小説3部作が、人気漫画家・穂積さんの描き下ろしカバーイラストで新装文庫化!!
感想・レビュー・書評
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音楽高校の青春小説。
主人公の津島サトルは音楽一家の息子。一家の敷いたレールに乗り、チェリストを目指し、東京芸術大学附属高校を受験するが、失敗し祖父が学長を務める私立の音大の附属高校へ進む。
ちょっと身近にはいない、雲の上の存在。でも、音楽高校には音楽高校の青春がある。
サトルも友人ももちろん「上手い」と言われたくて日々個人練習に励む。昼休みなどの時間も惜しんで。
しかし、音楽高校の活動はソロとしての練習のみではなく、合奏の練習も厳しい。毎年、音楽科全員によるオーケストラの発表がある。殆どの学生がピアノ専攻なので、メンバーのいないパートはピアノの専攻の学生が副専攻として、弾いたことのないバイオリンやチェロを無理やりやらされる。そこからのスタートだ。
皆、自分の楽器を一人で弾くときにはプロでも合奏となると、途端に指揮の見方、拍子の数え方から分からなくなる。音楽専攻の学生でも初めはそんな感じらしい。合わせるのって難しい。サトルは一年生だが学校で一番チェロが上手いと評判だが、一人が上手くても仕方がない。「はっきり言ってこの曲、チェロは難しくないのに、バイオリンがいつまでたっても弾けないせいで、こっちは何回ブン、チャッ、チャッ、ブン、チャッ、チャッばかりやらされるのだろう」と心の中で愚痴ったり。
意中の女の子がいる。美人で、一年生だけどバイオリンが一番上手い、負けず嫌いの南枝里子。
その子に思いきって声をかける。「文化祭で僕と一緒にメンデルスゾーンのピアノ・トリオやらない?」。
オッケーを貰えて、「家にレコードがあるから、ダビングしてくるよ。」。
しかし、家のカセットレコーダーが壊れていて、仕方がないから南さんにその〈カザルスの歴史的名盤〉といわれるレコードを貸すために学校へ持っていく。チェロと楽譜ケースも担いで、レコードも持って通学。南さんに貸そうとすると、「そんな大切なレコードに針を落とすのが怖い。私の家に来てダビングしてくれない?」と誘われ、彼女の家に。南さんは育ちのいいお嬢さんらしく、駅から公衆電話で家に連絡してから連れていく。彼女の部屋でダビングしながら、一緒にカザルスの名盤のピアノ・トリオを聴く。「この曲を弾くの?」彼女は驚く。
この辺りが好きだ。そう、あの頃はレコードが凄く大切だった。クラシック音楽なんて、その道の学生でも、レコードを聴いて初めて知る曲が多かったのだろうな。その後にきたCDの時代も盛りを過ぎ、今は大抵の曲をユーチューブや音楽アプリで手軽に聴くことが出来てしまうけれど、あの割れそうな黒い円盤を皆大切に抱えて友達に貸したりしていたな。それに、サトルのような凄いお坊っちゃんでも録音の手段はカセットテープだったんだな。あの時代辺り前だけど。それに公衆電話。今の子供は「皆、連絡はLINEだからスマホがなかったら困る」なんて言う。
今思えば、あの頃はなんてキラキラしたクラシカルな時代だったのだろう。(著者は1963年生まれ。音楽高校生だった自身を顧みながらの執筆らしいので、昭和50年代前半ごろかな。)。
で、その南さんと協奏曲を一緒に演奏出来て、心を通い合わせて、絶好調!
でも、2巻めから、下降の一途をたどるそうです。この物語は大人になった主人公の回想で語られるからもう本人は運命を分かっているのですが、傷ついてほしくないなと思います。
ネタバレごめんなさい。でも細部の読みどころについては殆ど書いていないです。
2巻に続く。
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音楽にかける青春、音高生たちの物語。普通の高校とはちょっと違ってて面白い。音楽にかける情熱も素敵だなと思った。
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青春です。一生懸命に生きている。清々しく感じました。
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読み始め…16.7.13
読み終わり…16.7.13
音楽が題材になった小説として読んでみたくてかなり前から探していたところ、カバーが新装され出版社も変わって再販されていたところにやっと出会うことができました。新装されたカバーのイラストは漫画家さんであるという穂積さんによるもので、楽器に向かうその真剣な眼差しがこのストーリーに登場する人物たちにも似ていてなかなかの迫力です。
音楽一家に生まれ育った津島サトルはチェリストを目指して東京芸大の付属高校を受験するも失敗し、結局サトルの祖父が学長を務める私立の音楽高校に入学するというところからストーリーは始まります。
音楽科に特化した過酷なカリキュラムに奮闘するサトルとその同級生たち。友情と恋にも揉まれ、高校生という多感な年頃の心の葛藤は全力で熱いです。
ことにオーケストラという集団での演奏について、一つの音楽を集団で作り上げ、ステージ上で演奏するに至るまでの過程の描写があまりにもリアルで真に迫るものがありました。
楽器というものはたった一つでも音楽(曲)を成すことができるけれど、集団で一つの音楽を作り出すこともできる。
オーケストラでは、楽器一つでも成せるのが音楽だからといって自分一人だけが目立ったり、勝手なことをしたり、あるいは手を抜いたりしていたんでは一つの音楽(曲)は出来上がらない。自分の役割を忠実に果たすことによって初めて一つになるもの...
並行して読んでいる本があるせいか「駅伝」にも通じるものがあるように思えました。
一つの目標に向かって全力で熱くなる青春。
一生懸命。好きな言葉です。 -
隣の芝生はいつだって青いし、氷山も一角らしいし、
世の中には表面だけ見て分からないものが多すぎる。
(以下抜粋)
○指が動くだけじゃ表現できないものが多すぎるんだ(P.88) -
音楽に打ち込む若者たちの青春小説。
三部作の第一弾。
津島という苗字は、もしかして、恥の多い人生を送ってきた例の文豪から取ったのだろうかと思ったら、やはりそのようでした。
失ったものを語る口調の回想から入るあたり、何か残念なことが起こってしまったのだろうとは想像するけれど、第一弾は、まだ、華やかな登り坂だ。
滑稽なほど思い上がった可愛げのない子供だった津島サトルは、その鼻っ柱をへし折られて、華麗なる音楽一族の長である祖父が学長を務める「三流の」音大附属高校に情実入学を果たす。
津島サトルが気取った仮面を脱ぎ捨て、素直に音楽に傾倒し、情熱を傾けるようになるまでが、この一冊。
楽器の演奏、合奏、自分を磨くこと、人の音を聴くことは、スポーツに通じる。
だから、音楽家たちの青春ものは、熱くて爽やかで、輝いている。
前半、哲学の話題が多かったが、津島くんがそういう小難しいことばかり考える少年だったのだから仕方がない。
彼が普通の(才能と育ちを考えると全然普通じゃないが)DKになった、と思った瞬間は、戸田先輩に「オイ!」と突っ込みを入れた時。
そして、普通の高校生らしく、恋に落ちて行くのだ。
美少年・伊藤の眼差しが気になる。
健気なポニーテール・鮎川の語らぬ思いが気になる。 -
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初めてコメントします。
南がサトルを好きになったのは、彼がチェロが上手いと言われていたから、だけな気がします。
結局、彼女は、自分の...初めてコメントします。
南がサトルを好きになったのは、彼がチェロが上手いと言われていたから、だけな気がします。
結局、彼女は、自分の欲を満たすためにヴァイオリンを選んだのであって、サトルのように音楽に圧倒された経験はないんじゃないかな、と。
好きというよりかは、南が自分の行きたい場所に到達するために、サトルの力が必要だと感じたからじゃないかなと思いました。踏み台みたいな…。2016/07/14 -
返答遅くなってすみません。そしてコメントありがとうございます。
確かに、思い返してみると南は「好き」という感情ではなく…極端な話「自分...返答遅くなってすみません。そしてコメントありがとうございます。
確かに、思い返してみると南は「好き」という感情ではなく…極端な話「自分の栄養になる人材」としてサトルに擦り寄っていたようにすら感じてしまいます。
そう考えると「好きというよりかは、南が自分の行きたい場所に到達するために、サトルの力が必要だと感じたからじゃないかな」は、とても核心を突いているように感じました。
それ故に、音楽に対してその程度の覚悟しかなかったのにあれだけ周囲をかき乱した彼女のことを、今まで以上に許しがたい存在と思うようになってしまいました。相手の男が音楽界で権威のある人で、退学後も音楽をずっと続けていたら、音楽に対する執念にだけは納得ができていたかもしれません。ただの妄想ですが…2016/07/19
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音楽一家に生まれた津島サトルは、一家の敷いたレールに乗ってプロのチェリストを目指すが、芸高に落ち、失意のまま三流音楽高校に入学する。そこで生涯忘れられない同級生たちに出会う。
青春音楽、時々哲学。
大人になった主人公の独白形式で物語は進むが、振り返るあの頃に不穏な空気を孕んでいるのが気になる。 -
あるかしら文庫で読んだ。何も期待しないで読んだが、音楽の知識は全くない私でもそのテンポだったり緊張感だったり、青春の甘酸っぱい感じを存分に感じることができた。蜜蜂と遠雷以来の感覚だった。1巻で終わらないとわかって、先が気になるが、まずは小休止したい。あの熱量をあと2巻味わうのもなかなかハードルが高い。しかも、挫折が待っていそうな予感。まずは、津島と南がいい感じでいい方向にいきそうなところでホッと一息つきたい。また、続きが気になる時に次の巻に手を伸ばそう。