- Amazon.co.jp ・本 (541ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094063455
作品紹介・あらすじ
あの人は資本主義をやり直そうとしている!
新国立競技場の工事現場で働く中谷は、不思議な老人と出会う。老人はいかにも肉体労働には向いておらず、仕事をクビになるが、現場を去る直前、翌日の競馬の大穴馬券を中谷に託していた。老人が姿を消した直後、工事現場では爆破事件が起こり、翌日馬券は見事的中する。
5000万円の現金を手にした中谷の前に、再び老人が現れ、彼が開発した市場予測システム「エアー」の代理人として、日本政府との交渉窓口となるよう、中谷は依頼される。
「エアー」は世の中に渦巻く人間の感情を数値化して、完璧な市場予測を可能にするシステムで、それは政府が握るビッグデータと結びつくことで、国家の予算を潤すほどの巨額な利益をもたらすものだった。
謎の老人の代理人として、政治家や官僚たちと交渉を重ねる中谷だったが、「エアー」を供与する見返りとして、福島の帰還困難区域を経済自由区として、自分たちに運営を任せるという要求を突きつけるのだった。
現代日本が直面する難題をつまびらかにし、圧倒的なスケールで描く近未来経済サスペンス小説。巻末解説は書評家の三橋暁さんです。
【編集担当からのおすすめ情報】
前半はミステリー・タッチで物語は進み、後半は未来を占うユートピア小説としても読めます。予想外の展開が次から次へとスピーディーに続き、気がついたときには壮大なスケールの物語の真っ只中にいることでしょう。新人作家にもかかわらず第18回大藪春彦賞にもノミネートされ、将来が嘱望される作家さんのひとりです。ぜひお手にとり、ページを繰ってください。一気読み必至の、至福の読書体験が待っています。
感想・レビュー・書評
-
榎本憲男『エアー2.0』小学館文庫。
近未来経済サスペンス小説。榎本憲男の作品で唯一未読であった。
スケールが大きくて、非常に面白く、読後に爽快な気分を味わった。資本主義をリセットするという着想が凄く、福井晴敏の『人類資金』にも匹敵する傑作だと思う。
今や資本主義社会に於いて、実体経済は完全に崩壊し、ネット上の金融取引や権力を背景に巨額の金を手にする者が勝者となっている。その結果、経済格差は拡大し、汗水たらして働く者への見返りはどんどん目減りするアンバランスな社会が形成された。さらには復興五輪など掛け声ばかりで、国の体面を保つために新型コロナウイルス感染禍であるにも関わらず、東京五輪を強行開催し、原発事故の後処理などお座なりになっている。本作は、そんな腐った日本を鋭く抉り、一石を投じる作品だった。
東日本大震災の福島第一原発事故後、東京オリンピック開催に向けた新国立競技場の工事現場で働く中谷は肉体労働には不向きな不思議な老人と出会う。やがて老人が工事現場をクビになると、最後に10万円で競馬の大穴を狙い、その馬券を中谷に託す。その馬券は見事的中し、中谷は5,000万円を手にする。
そんな中谷の前に再び姿を現した老人は、中谷に老人が開発した市場予測システム『エアー』の代理人として、政府と交渉することを持ち掛ける。『エアー』は世の中の人間の感情を数値化し、完璧な市場予測を行い、政府に国家予算を潤す巨額の利益をもたらすのだ。
政府に『エアー』を提供する見返りに利益の15%を手にする契約を結んだ中谷は、福島の帰還困難区域を経済自由区として様々な事業を立ち上げ、独自の通貨『カンロ』を流通させる。
本体価格770円(古本100円)
★★★★★詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
こちらも出張のお供に。
この著者も初めて読みます。
読んだ感想は、「何か石田衣良っぽい感じの小説」。
文章が重すぎず、ライトな感じで、
でもストーリーはその後の展開が気になり、
どんどん読み進めていくことができる感じ。
テーマも自分の好みに合致していて、
楽しんで読むことができました。
簡単にストーリーを紹介すると、
工事現場で出会ったおじいさん(おっさん)に万馬券を渡され、
突然お金持ちになった主人公が「エアー」という空気を読むマシンを使いながら、
原発事故で廃れてしまった福島を何とかしようと奮闘するお話。
資本主義の次のシステムに関する記述や
主人公が色々な本を読んで少しずつ賢くなっていく成長シーンなどは、
個人的にはドンピシャのシーンでした。
特に、おっさんからの読書リストは著者にもっと公開してもらいたかった!
ライトな小説な割には、経済に関して深い議論がなされていて、
理解できないくても十分小説自体は楽しめますが、
理解出来ればもっと楽しめるつくりになっていると思います。
(自分の理解度は50%くらい!?)
続編も出てきそうな終わり方でしたので、次も楽しみです。 -
「巡査長 真行寺弘道」が面白かったので、こちらも読んでみた。すぐに物語に引き込まれて一気読み。
今の日本人が欲しているストーリーを紡ぎ出している。
この痛快さを堪能できて幸せを感じる。 -
ハードカバー版も含めて、レビュー数はすごく少ないけれど、とても読ませる作品でビックリ!
東京オリンピックと、フクシマを重ね合わせながら、借金をエネルギーとして生き続ける日本からまずは福島を再生させようとする話。
その登場人物は、肉体労働者として日銭を稼ぐ中谷とオッサンの迷コンビ。
でも、この二人のキャラクターが良すぎて、チートコンピューターであり題名でもある「エアー2.0」が霞むほど。
さてさて、このエアーが面白い。
空気を読む、という意味で、人々の感情の流れまで数値化し、演算処理を可能にするという、まさにチートコンピューター。
もちろん、非現実的ではあるのだけど、人の心理を数値化する、なんてことは身近に山ほどあるわけだから、目の付け所としては楽しい。
サスペンスというより、SF要素だけど。
クライマックスで、エアーがどこに行き着くのか、オッサンが何者なのか、明かされてはいくのだけれど、どんな窮地に陥っても、不思議と絶望感がない。
オッサンが中谷を見出した意味は、恐らく読者にはちゃんと伝わっている。
そうして、本を閉じた時にもう一度、ああ、なるほどと味わって欲しい。
もっと読まれるべき作品! -
近未来的で先が次々と気になるストーリーであった。政治の色んな面の裏側がわかった気がしました。
-
とにかく盛り沢山!
技術、経済、政治と多方面で考えさせられる。
最初はSF小説なのかな、という印象で読み進めていたが、次第に上記の面が浮き彫りになっていく。
自分はエアー2.0を手に入れたら、何に使うだろう?ろくでもないことになりそう。 -
東日本大震災の後、東京五輪の前、そんな時代に書かれた一冊。テーマはタイトルどおり「空気を読む」。
世の中の空気を読むことで作り出したものを、世の中の空気を読まない破天荒な方法で還元していく。
非現実的な夢物語と言ってしまえばそれまでかもしれないが、単純明快なビジョンに魅かれたのは確か。
空気を読むって何なんだろう。 -
過去1が出ました。
私がこの物語の主人公の立場になった時、思ったり願っている事の、ほぼ全てを作中でやっている。
そこで起こるであろうトラブルもその対処法も、全てが理想と言わざるを得ない。
激しさの中にある優しさにも、とても満たされました。
超最高でした。
-
読みやすい文章だし内容も面白かったので最後まで楽しめた。カンロが広がった世界を読んでみたかったので強引な終わらせ方がちょっと残念だった。
-
面白かった!経済とか政治とかよく分からなくても、主人公と一緒におっさんに教えてもらえるから置いてきぼりにされなかった。最後の最後までどんな展開になっていくのか分からなくてハラハラした。ラストにかけてがすごく好きだったな。読んでいて飽きないような、先が気になるような書き方だったのが印象的だった。