鱗姫(小学館文庫) (小学館文庫 N た- 1-2)

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094080186

感想・レビュー・書評

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  • “乙女のカリスマ”こと、嶽本野ばらさんの描く美醜観念…それがこの一冊に凝縮されていて、とても充実して、そして実に耽美的な内容。2日程で読み終えました。しばらく読書をしていなくても、嶽本野ばらさんの作品はグイグイと私を読み耽らせる魅力があります。強くて美しい生き方に勇気をもらう…!

    「美」という観念に固執する主人公、龍鳥楼子が受けた龍鳥家の呪われし遺伝病、通称「鱗病」は、やがて自分をとても醜い姿に変えてしまうという、楳図かずおの『おろち』の中の話のような病気。自分の中に現れたこの醜い塊に、彼女は絶望します。なんとなくですが、楼子が言うことも理にかなっているかなぁと思います。「外面を決めるのは内面」「美しいか醜いかで決まる」という彼女の考え方は決して誇張した表現でもなんでもなく、事実としてこの世の中に蔓延した強迫観念のようなもので、実に言い得て妙な表現だと思います。だからこそ、楼子は強い少女で、そこに勇気をもらうのです。人によってはちょっと不遜に感じる彼女の態度ですが、彼女自身も自分は不遜だと自負しているし、なんてったって嶽本野ばらさんの書く乙女ですから、苛烈な思想は持つもの(笑)。ただ、ちょっとイレギュラーなのはやはり「鱗病」という架空の病でしょう。楼子はコンプレックスとして「醜さ」を持つ少女です。ここがやはりほかの小説と比べてみても明らかに変わったところでしょう。「ブス」とかじゃなくて「醜い」ですからね。楼子や黎子叔母さんたちの絶望は凄まじいものだったのでしょうね。ひたすら「醜さ」を否定する楼子が、一番の「醜いもの」を持っている…。しかし、「醜さ」が嫌悪された本作だからこそ、「美」が極まったとも考えられるのです。嶽本野ばらさんの文体だから尚更です。何度も出てくるエリザベートも、楼子の視点から見るとやはり違って見えてきます。本作ではその、「美しさと醜さ」が絶対的なようで実は曖昧なのだと気づかせてくれる、素晴らしい作品になっていました。最後の終わり方はいかにも嶽本野ばらさんらしかったですね。でもやっぱり近親相姦だったり「鱗病」だったり、『鱗姫』では新しい嶽本野ばらさんを見つけたような気がします。(感想久しぶりでまとまらない…)

  • お嬢様や奇病という非現実さと実際するブランドのもつリアリティーが奇妙に混ざり合って気持ち悪くも美しかった。美肌への意識や最も愛する人に醜い部分を見られたくない高貴さの表現は嶽本野ばらワールドでとても好き。ただ、忌み嫌っていた相手の血だったとしても躊躇なく体に塗りつけるシーンは少しゾッとしたし美しさへの執着すら感じられた。

  • 【お嬢様の語るトラウマ的物語!】
    エログロな悪夢にうなされるような内容ながら、なかなか面白かった。やはりあのお嬢様語りが癖になる。

    京都らしさは全体にもっと漂わせてほしかった。でも黎子叔母様はすぐ居なくなるし、罪深いし、色々疑問点がある人物。お兄様、琳太郎さんがいつでもカッコいい。
    改めて野ばらさんすごいです

  • 嶽本野ばら氏の作品はとても好きで、この鱗姫はその中でも特に好きな本の一つと言えます。

    主人公・楼子にもそれは言えるのですが、嶽本氏の小説に出てくる女の子が持っているとても高い美意識やその描写がとても好きです。また不思議の国のアリスを彷彿とさせる括弧書きの心情描写もこの話を面白くさせている要因だと思います。

    似たような主題の作品に「おろち」が挙げられますが、こちらはそれをもっとソフトにした様な感じです。「下妻物語」から嶽本氏に入られた方は、この話も読みやすいのではないでしょうか。

    星が4つな理由として、他の方も挙げられていますが、最後の件が急展開すぎる上に、そうなる事に違和感を覚えるからです。しかしこういう終わり方をするのも嶽本氏の魅力の一つであると言えなくもありません。

  • とある裕福な一族にて、女児だけが感染する遺伝病「鱗病」。発症は性器周辺から始まり、やがて全身の皮膚に魚のような、あるいは龍のような鱗が広がっていく……というエロ・グロ・ホラー要素が入り混じった怪作。
    主人公の楼子の、自らを「ウルトラ・スーパー・お嬢様体質」と言い切ってしまう気位の高さが良い。美しい肌を保つため、教師に叱られようといつ何時たりとも日傘を欠かさない美意識の強さにも平伏せざるを得ない。(わたくしは太陽盛んな夏場に日傘どころか日焼け止めを忘れる愚民でございます……。)常に楼子目線で物語が進むため、某お嬢様Vtuberを彷彿とさせる「ですわ〜」口調や文体に抵抗があったという感想を見かけたが、個人的にはこういうものだろうなという感覚で特に違和感なく読めた。このクセの強さが嶽本野ばらワールドって感じだ。

    突如奇病を発症し戸惑う楼子を導くナビゲーターとして、楼子の父親の妹である黎子叔母様という存在が出てくるのだが、この人がまた良いキャラクターをしている。鱗病は一族の女児だけに発症するのだが、鱗病の女性と性交渉を行った男性にも感染するという設定だ。なのでこの黎子叔母様、なんと45歳になっても衰えない美貌で数多の男を引っ掛けては感染させ、特に有効な治療法もない病で彼らの人生が崩壊していく様子を楽しんでいるかなりの悪女である。きっととんでもない美魔女なんだろう。外出時はディオールの顔半分を覆い隠すデカいサングラスをはじめ、全身ハイブランドで固めているそうなので、個人的には叶姉妹みたいな女性を想像していた。ちなみに感染した男性は当然、男性器周辺から鱗に包まれていくらしい。やっぱり絵面が相当グロい。

    物語のラスト、楼子に付き纏っていた気狂いストーカーを殺すという罪を犯し、共犯者という絆で結ばれた楼子と"お兄様"。しかしこの二人、許されざる罪はもう一つあると言わんばかりに、いままで秘めてきたお互いの気持ちを告白し、そのままセックスに雪崩れ込んでしまう。血縁関係にある兄妹が殺人共犯となり、最後はただの男女としての情で結ばれるという近親相姦エンド。刺さる人にはめちゃくちゃ刺さる耽美な結末だろう。血痕飛び散る惨劇の現場で、身体を重ねて悦に浸る美男美女の兄妹という構図はなんとも不道徳だ。死体が既にセメント処理済みで、彼らの横に転がっていなかっただけマシだろうか。

    楼子の台詞や独白から察するに、この性交渉をきっかけに今後はおそらくお兄様も鱗病に感染するだろうし、この二人の間の子どももまた、呪われた血と病の代償として、楼子や黎子叔母様に比肩するような、類稀なる美しさを持って生まれてくるだろう。鱗病は遺伝病という設定だが、感染方法が性的接触というのがなんとも……あくまで性病ではないというのが、うーん……。結局この世界の医療現場では鱗病の進行を遅らせることはできても治す手立てはないようなので、この一族が今後どう生きていけば良いのかといったところは謎のままである。

    そう考えると、黎子叔母様のように「私はセイレーン(人魚)の末裔よ。セイレーンは歌声で魅力した人間を海底へ引き摺り込む不幸の象徴。だから私も関わった男達を不幸に陥れていくのだ」と開き直って綽々と生きていくのもひとつの答えである気はする。綺麗な薔薇には棘があると言うし、綺麗な女性がセイレーンの末裔で、身体に鱗を隠し持っている可能性は否めない。知らず知らずのうちに不幸な運命に導かれぬよう、気をつけるしかない。

  • 十数年ぶりに再読。
    嶽本野ばらの独特の世界に惹かれる。
    これでもかと言うほどにハイブランドの描写がされることで、高級なお嬢様感がビシバシ伝わってくる。

    物語のグロテスクさはやはり以前と同じく
    うえーな感じだけど、前回とはまた違った心地で読んでました。
    このマニアックさが好き。

    野ばらさんの本を読んでるときに感じる、
    「ん?」となるいつもの疑問符もさらっと流しつつ、楽しめました。

  • 最初から最後まで楽しめました

  • 学校の図書館に唯一入ってた嶽本野ばら作品
    初めて読んだのもこれ

  • 耽美な感じ。

  • 野ばらちゃん作品の中で1位2位を争う作品
    やぱ、あにいもうとは最強
    琳太郎くんいたいなお兄ちゃんがほしい
    楼子さんのお肌に対しての思いを読むと
    自分も美しくなる努力をせねばと思わせる
    鱗の描写もおどろおどろしくてすき

    しかし終盤のところで、枚数制限があったのか
    野ばらちゃんのモチベーションが下がってしまったのか
    あれよあれよと押し込めるように
    終わってしまったのがかなり心残りなのでよっつ

    まぁ楼子さんが幸せならそれでいっか、と思う

著者プロフィール

文 嶽本 野ばら
京都府宇治市出身。作家。
1998 年エッセイ集『それいぬ̶ 正しい乙女になるために』(国書刊行会)を上梓。
2000 年『ミシン』(小学館)で小説家デビュー。
2003 年発表の『下妻物語』が翌年、中島哲也監督で映画化され世界的にヒット。
『エミリー』(集英社)『ロリヰタ。』(新潮社)は三島由紀夫賞候補作。
他の作品に『鱗姫』、『ハピネス』(共に小学館)、『十四歳の遠距離恋愛』(集英社)
『純潔』(新潮社)など。『吉屋信子乙女小説コレクション』(国書刊行会)の監修、
高橋真琴と共書絵本『うろこひめ』(主婦と生活社)を出版するなど少女小説、お姫様をテーマとした作品も多数。

「2021年 『お姫様と名建築』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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