みえない雲 (小学館文庫)

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制作 : Gudrun Pausewang  高田 ゆみ子 
  • 小学館 (2006年11月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094081312

みえない雲 (小学館文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 現実となった日本。事実をもっとしっかり捉えなければ。

  • ドイツ(当時は西ドイツ)の原発で事故が起きた後の様子を少女の目から描く小説。
    発表されたときは、チェルノブイリの体験が新しく、ショッキングな内容だったろうと思う。
    今、福島の後読んで、感慨深いものがあった。
    この本に書かれたことで実際起ったこと(被爆していない農作物や畜産物の高騰、移住、ボランティアの活躍、被爆者の差別など)もあったし、起らなかったこと(妊娠した被爆者への中絶の強制、被爆者が皆禿げる、口封じのための殺人など)もある。
    でも、読んで強烈なショックを受けるようなことはあまり起っていないものの、こまごまとした日常的なことは
    結構当たっていることに驚く。
    そして、こういう本があったのに、同じ過ちを繰り返す愚に暗澹とする。
    もっと日本で読まれるべきだったのに、と思う。
    ただ、パウゼヴァングの作品全体の中のレベルとしては下の方だという気がした。
    ストーリーを追うあまり、いつも感じられる登場人物の心情描写が甘くなったこと。ストーリー自体も、ディテールの巧さはあるものの、ありきたりな印象。
    読む価値はもちろんあるが。

  • 『そこに僕らは居合わせた』の巻末解説を読んで、あ、この人は『みえない雲』の人なんやと気づく。それで、タイトルだけは知っていたが読んだことのなかった本を借りてくる。この作品は、チェルノブイリの事故から20年目にドイツで映画化されている(『みえない雲』;文庫のカバー写真は映画のものと思われる)。

    著者は、チェルノブイリ原発事故のニュースにふれるうち、「これが1500キロも離れた場所ではなく、ドイツのど真ん中で起こったとしたら、いったいどんなことになるのだろう?」と思い、翌1987年初めに、この作品を発表した。

    フィクションではあるが、福島第一原発の事故が起きたいま、原発事故後の政府の対応や人々の言動を読んでいると、この2年あまりをなぞるようで、たまらない思いにかられるところがある。

    西ドイツ、シュリッツに住む14歳のヤンナ-ベルタは、授業中に突然鳴り響いたサイレンを聞く。「たった今、ABC警報が発令されました。授業は中止します。生徒は全員ただちに家に帰りなさい」という校長先生の放送。ABC警報とは、A=核兵器、B=細菌兵器、C=化学兵器の攻撃を知らせるドイツの警報で、家へ帰ろうとする生徒でごったがえす中からグラーフェンハインフェルトで事故があったんだという声が聞こえてくる。

    グラーフェンハインフェルトは、確か原発のあるところ…とヤンナ-ベルタは思い、チェルノブイリの事故のあとに両親と一緒に何度かデモに参加したことを思い出す。あのときは、同居する父方の祖父母と両親とのあいだで大げんかがあった。祖父母は、今やもう原子力なしにはやっていけない、原子力は車やテレビと同じように現代生活の一部で、チェルノブイリのような事故はドイツの原発では起こりえないと言い、デモで何かを動かすことなどできっこないとも言った。

    ヤンナ-ベルタの両親は、原子力利用に反対する市民運動グループの結成メンバーだった。けれど、ときが経つうち、チェルノブイリのことは忘れられ、原発は操業を続け、市民運動は活気を失った。ヤンナ-ベルタの父は「自分の国で何か起こらなきゃ、みんなのお尻に火がつかないんだ」と言っていた。

    上級生の車に乗せてもらって、ヤンナ-ベルタは自宅へ帰る。両親と2歳の弟カイは、原発近くのシュヴァインフルトに住む母方の祖母ヨーを訪ねて留守だ。父方の祖父母はバカンスに出かけていた。小2の弟ウリと過ごす2日間に、こんなことが起こるなんて。

    警察の広報車が、窓を閉め、室内にいるよう呼びかけている。「あくまでも念のための措置ですので、心配する必要はありません」と言いながら。ヤンナ-ベルタはウリと2人どうするか、状況を懸命に考える。ウリは、叔母からの電話で、地下室にいなさいと言われたという。近所の人たちは、車に荷物を積み込んで逃げだそうとしている。

    地下室にとどまろうと決めたところへ、母からの電話。地下室はだめ、できるだけ早く逃げなさい、行きなさいと言う途中で電話は切れた。ご近所はもう車を出してしまった。ヤンナ-ベルタは自転車で逃げると決心し、「私のあとをついてきなさい」とウリと共に走り出す。

    道路は逃げる車で大渋滞、その脇をヤンナ-ベルタとウリは走った。汚染された雲がやってくる、その雲から逃げなければ。車でいっぱいの道を前に、ヤンナ-ベルタは農道を選んで走ったが、行き止まりになって泣きたくなる。どうしたらいい?と弟を前に考える。

    土手の下に道があると、ウリは自転車で斜面を降りていこうとした。気をつけて!と言うまもなく、ウリは自転車から放り出され、頭から落ちていった。ウリが死んだ。

    そのあと、ヤンナ-ベルタは、車の家族連れに乗せられて駅へ向かうが、そこも列車に乗せろという大群衆で混乱に陥っていた。列車に乗せろ、子どもだけでも中へという人びとを警官隊が押しとどめようとしていた。そこまで一緒だった家族連れの子どもも群衆にのみこまれ、ヤンナ-ベルタは狂気の笑いを止められないまま駅を離れた。

    ウリが横たわるあの菜の花畑へとヤンナ-ベルタは走る。降りだした雷雨にうたれ、ずぶぬれのヤンナ-ベルタを若い家族連れが車に乗せ、東ドイツとの国境近くまで来た。そこで臨時に開設された救急病院にヤンナ-ベルタは収容され、トルコ人のアイゼと親しくなる。

    被災地をまわっているという内務大臣が視察に来たとき、ヤンナ-ベルタは「ウリは? どうしたらすべてが元に戻るっていうの? 両親は? カイは? ヨーは?」と叫ぶ。「ここの人たちもどうなるのよ。どうやって元に戻るというの」と。そんなヤンナ-ベルタをみて、「彼女は勇気があるわ」と別の子どもの親が言う。それを聞いたアイゼが言うのだ。

    「勇気じゃない。怒りよ」(p.104)

    ヤンナ-ベルタの髪は脱けはじめる。アイゼが死に、他の子どもたちも死んだ。ヤンナ-ベルタは、ハンナブルクの父方の伯母ヘルガにひきとられる。両親と弟のカイ、母方の祖母ヨーが死んだことを知らされ、けれど、そのことをバカンス先にいる父方の祖父母には知らせたくないのだというヘルガに、ヤンナ-ベルタは反発する。祖父母は何も知ろうとしないのだ。恐ろしい話は聞きたくないというのだ。

    ヘルガは帽子やかつらを用意して身につけるように言うが、ヤンナ-ベルタはそれにも抵抗する。
    「私は隠すものなんてないわ。私はハゲ頭だけどこれが現実。このままでいるつもりよ」(p.139)
    「私は覚えていたいの」「だって私には隠すものなんて何もないもの」(p。147)
    「…今度のことだってもう、みんな忘れようとしてるもの。だから私、カツラも帽子もかぶりたくないんだ」(p.180)

    ヤンナ-ベルタを母方の叔母アルムートが訪ねてきた。ヘルガと違い、アルムートとは今起こっていること、思っていることを話せる。ヘルガのもとにとどまらざるをえなかったヤンナ-ベルタだが、ある日、ヘルガの家を出て、アルムートたちのいるヴィースバーデンへ向かった。

    「ここへ来た人みんなが希望と勇気を与えられて帰るような、そんな場所にしたい」と被曝者のためのセンター設立に奔走しているアルムートを、ヤンナ-ベルタも手伝う。

    ヘルガがあらわれて、何も言わずになぜ出ていったのか、学校へもいかずに将来どうするのかと問いただすが、ヤンナ-ベルタは私に未来があるかどうかわからないけれど、少しでも命が残されているなら生きたいように生きる、学校より大切なものがある、「生きてるっていうことよ」と言う。よくわからない顔をするヘルガに、ヤンナ-ベルタは「ああ生きているんだなと実感できるってこと」とつけ加えた。

    やがて、ヤンナ-ベルタたちが住んでいたシュリッツの封鎖が解除された。ヤンナ-ベルタはウリが横たえられた菜の花畑に向かい、ウリを埋葬した。そして、自宅へ戻ったヤンナ-ベルタは、父方の祖父母が帰っているのと出くわす。

    祖父母はこんな大事故があっても、何も変わっていなかった。ヘルガが、息子たち家族の死を知らせまいとしたのを信じているのか、何も知ろうとしていなかった。

    「あの日はね…」と話そうとしたヤンナ-ベルタをさえぎって、祖母は「私は何も聞きたくないよ、もうすんだことはいいの。それよりだれも災難にあわなくてほんとうによかったわ」(p.257)と言った。

    祖父は、マスコミが知らせなくていいことまで知らせ、大げさに騒ぎすぎたせいでこんなパニックが起きたと言い始めた。「ここはグラーフェンハインフェルトから90、いや100キロも離れているっていうのに、あわてて住民全員を追い出してしまった。工場を止め、家畜も死なせ、作物も台なしにしてしまった。私には理解できんね。お腹に子どものいる女の人と子どもたちだけを、1,2週間ほど避難させれば十分だったんだよ」(p.261)と。

    それまでかぶっていた帽子をゆっくり取って、祖父母をまっすぐに見すえ、ヤンナ-ベルタはあの日からのことを話し始めた、その場面で物語は終わる。


    ヤンナ-ベルタの話を聞いて、その脱毛した頭をみて、この父方の祖父母はどんな反応をしただろうかと考える。知ろうとしない人、変わろうとしない人として、象徴的に書かれているこの人たちと、自分は違うと思いたい。けれど、いまの自分もこの祖父母とそう変わらないんじゃないかと思えたりする。

    『そこに僕らは居合わせた』でも語られる大人のように、すんだことは聞きたくないという祖母は、かつてナチス時代の婦人隊で、結構高い地位にいたが、ヤンナ-ベルタやウリがそのことを聞くと、あの頃のことには触れないでちょうだいと口をつぐんだ。あの頃のことを夫が話そうとすると、「私は戦争やあのつらい時代のことは聞きたくないのよ」とたしなめた。

    「自分の国で何か起こらなきゃ、みんなのお尻に火がつかないんだ」と言っていた、ヤンナ-ベルタの父。その自分の国で何か起こっているのに、原発の再稼動が当然のように動く政府、その支持率が決して低くないことに、苦しい思いになる。

    (6/30了)

  • 3.11東日本の後に読んだ。今の日本人には他人事じゃなく実感を持って読めると思う。著者はチェルノブイリから学ぶべき事、忘れてはいけない事を伝えたいんだろう。

  • 借本。

  • チェルノブイリのあとに書かれたフィクション。

    福島原発事故後の日本は、もっと原発に恐怖を持ってもいいのではないだろうか?
    閣僚たちは経済を優先して、とっとと原発の再稼働を進めているが、もっともっと慎重にするべきではないだろうか。
    同じ失敗を二度と繰り返さない。
    そんな決意が国民には全く見えてこない。

    今度も事故が起こったら、想定外と言うのだろうか?
    想定外は自然相手なのだから、必ずある。

    その事態が起こった時、どう対処するのか、その部分が今回の経験から生かされていないように思う。

    息子の高校の国語の副読本になっているそうだ。
    もっと多くの日本人に読んでもらいたい。

  • 184 「原発は貧困をもたらす。だって事故のおかげで増えたのは、宿無しと失業者と病人ばかり。金がかさむだけだ。農業はもうおしまいだし、交通もマヒしている。それにー」

  • ドイツのある原子力発電所で爆発事故が起き、地域一体がパニックに陥る。
    14歳の少女ヤンナ・ベルタは学校で警報を聞き、事情がよくわからないまま家に帰される・・・家には小学二年の弟ウリがひとりで待っているにちがいない。父と母は下の弟を連れてでかけている。
    パニック状態の中、ヤンナ・ベルタの身体も放射能に冒されていく。
    髪が抜け落ち、「ヒバクシャ」と呼ばれる。
    彼女の中で「ヒバクシャ」とは広島の人のことであったのに。

    同じドイツ内での差別。
    原子力発電に対する考えの差。

    チェルノブイリ爆発事故の翌年に書かれた作品で、事故後20年に映画化もされた。
    架空の話ではあるものの、2011年3月11日を経験した私たちにはとても他人事ではいられない話だと思う。
    「なにもしらない」ではいられない。

    パン屋へ行くと小学生ぐらいの男の子がおつかいに来ていて、これは『あと」のかな、それとも『さき』のかなってつぶやきながらパンの前で考えているのよ」訳者あとがきより

  • 購入前、図書館で借りて読んだことがあります。
    初版は5年前ですが、今年に入ってから随分手に入りやすくなりました。
    それはおそらく、この作品がチェルノブイリ原発事故の翌年に警告的意味合いを込めて書かれたからです。

    物語中で深刻な原発事故が発生し、得体の知れない恐怖に怯え逃げ惑う人々の姿がリアルに描写されています。
    政府の動き方や放射能に対する意識のしかたが日本人とよく似ており、3.11も一歩間違えば本文中のパニックと同じ状態になっていたのでは?と考えさせられます。特に、「ヒバクシャ」となった人々が差別される部分の描写は必見です。

    数字は難しい理科系の話が苦手だけれども、真剣に考えてみたい人にお勧めします。

  • 3章まで読んだら目から汗が出てきた。悲しすぎる。もう読めない・・・

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