- Amazon.co.jp ・本 (142ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094081930
作品紹介・あらすじ
その男、信さんは、小学生時代、2年先輩で、町で知らないものがいない悪餓鬼だった。当時、父を亡くし内向的で漫画を読むことが唯一といっていい楽しみだった「私」は、ある日、いじめられている現場で信さんに助けてもらう。その直後その場を偶然通りかかった「私」の母は、誰もが恐れる信さんに丁寧に御礼を言った。その日から、信さんは、「私」といつも一緒にいるようになった――。昭和30年代、青空がまだ確かにそこにあった時代の伸びやかかつ、美しい魂を封じ込めた秀作。
感想・レビュー・書評
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渇いた心に大人の愛を求めてた『信さん』。弱いものには手を差し伸べる優しい『信さん』。真っ直ぐな瞳で一生懸命駆け抜けた『信さん』。本当に本当に力強く生きる『信さん』。昭和の九州の炭鉱町を舞台にガムシャラに駆け抜けた少年時代。まるであの頃共に過ごした錯覚に陥る情景描写。そのセピア色の世界に染まりながら『本当の強い人間』を知る。読了後は猛烈に切なく無念な思いしかない(涙)。もう1編の朝鮮人親子の話も『本当の強い人間』の話である。辻内さん、何とかガッツリ長編もの書いてくれないだろうか。切に願う。
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『青空のルーレット』『いつでも夢を』の辻内智貴さんの本です。
予想通り、昼休み2回で読了。
物足りなーーーい!!!
上に挙げた2つは最高に好きなんだけどなぁ~
あ、『ラストシネマ』もなかなか。
けど、『ラストシネマ』『帰郷』あたりとどうもかぶってしまって
なんだか違う本を読んだ気がしませんでした。
大好きな作家さんだけにちょっと残念。
個人的には『セイジ』も微妙だったし、
今後も彼の本を読むか分からないなぁ~
根っからの作家じゃないから難しいのかもしれないけど、
ジャンルや雰囲気の違う長編の物語を読んでみたいんだけどな。
ま、こう言いつつも未読の作品には手を出してしまうんだろうな。
好きだからこそ不満も出てくる。
不満が出てきてもやっぱり好き。
なんか真剣な恋愛とおんなじやね。 -
映画の前売りを買ったので再読しました
http://shinsan-movies.com/ -
この作家の作品をまた読んでみたくなった。
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内向的な主人公と母親
町内でも有名なフダツキ信さん
三人の人生がヒョンなことで交わり物語は進んで行く
郷愁溢れる情景の中で
多くを語らないことで
読者に想像を膨らませさせる
後半に収録されている
遥い町(とおいまち)にも共通して言えるのは
生き様 -
まとめ買いした辻内智貴の2冊目。
相変わらず、じ~んとする内容と特徴的な言葉選び。
幼い頃に感じる憧れとか恋心とか友情とか、そういったものがたくさん込められているんだけれど、そのどれもがきっとみんな一度は感じたことがあるものばかり。
自分のことじゃないのに、なんだか懐かしい気分になる。
でも、ちょっと消化不良。
お話はちゃんと完結しているんだけれど、なんだか尻切れトンボな感じ。
もうあとちょっとでいいから、先まで書いて欲しかった。
せめてもう一度、お母さんに登場してもらいたかったなぁ。 -
いずれも九州の炭鉱町、おそらく昭和30年代を舞台に、少年の姿を描いた作品です。
「信さん」は主人公の私の友人だった信さんの話。彼は養子として引き取られ、後に実子が出来たために追いやられ、実像以上に「フダツキ」と見なされていた。しかしある事をきっかけに、私の母を敬愛するようになり、見事にその本性である優しさを花開かせて行く。「遥い町」は戦時中に強制徴用された朝鮮人労働者の息子・ヨン君の話。主人公の友だちだったヨン君は、ガキ大将たちのいわれの無いいじめに耐えていたが。。。
どちらも心を洗うような綺麗な話です。
毎度のことなんだけど、この人の作品はありえないほど奇麗事かも知れません。でもやっぱり読むとホッとします。
解説の「青空フェチ」論が秀逸でした。併録の「遥い町」の一文、
『そこには金持ちも貧乏もなく、町長の息子も、坑夫の息子もなく、ひとりひとりが、ただ、名も無い青空の子供でしかなかったような気がする。』
確かにこの人の作品には、子供の頃に見た抜けるような青空が良く出てきます。
それが清清しさに繋がっているのかもしれません。 -
父から借りた一冊。内容が古風だけれど、今どきの若者に読ませたい。
薄い本だけれど、深い一冊。 -
ひとことで言ってしまうと、古き良き昭和の人情話。
淡々と描写される優しい日常の風景と人物のディテールに、ノスタルジーがこみ上げます。
でも、ただの懐古趣味とか古くさい貧乏美談とか、そんなよくあるお涙ちょうだい話ではないんです。
心の綺麗な未亡人と、親子ほど歳の離れた複雑な生い立ちの少年・信さんとの、恋にならないような、否、恋にはあえてしなかった、微妙かつ繊細な心の交流が、レトロな世界観の中で、美しく切なく描かれています。それを綴るのが、信さんの唯一の親友であり、未亡人の息子であるという点において、この物語の秀逸さ、卓越性を限界まで高めていると思うのです。
良質かつ美しい家族小説でもあります。