- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094082272
感想・レビュー・書評
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自分もこの家族の一員になっているかのような感覚で、小さい頃から大人になる流れを汲むことができる。
ただ、普通の家族のようでいて少しずれている。
兄の悲劇にはうるっときたし、妹のランドセルの中の手紙には衝撃を受けるし。
家族がバラバラになったところに犬のサクラがまた絆を結ぶ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
悲しかった、最後は少し救われる感じだったが、途中あまりにも辛い。こんなことがあったらそりゃ家族も頭がおかしくなるだろう。現実では、美しいひとには辛い思いをしないままいてほしいと思ってしまう。
読んだ後ちょうど西加奈子さんがこの物語について語っているテレビを録画で観て、その番組がとてもおもしろかった。
「やくも」車内と境港の喫茶店にて -
西加奈子さんの作品にはリアルがある。
隣の家で起きているような、ごく親しい友人に起きているような、何年かに一度会うか会わないかの親戚に実は起きているような、だけど私は死ぬまで知らずに終わるかもしれない、そんなリアルがある。登場人物はとても変わっていて、だけどどんどん読んでいくと、変わっているのは私の方かもしれないと思ってしまうほど、彼らは自然でまっすぐで素直なんだ。
主人公の薫には、宇宙一幸せな父さんと、美しく明るい母さん、太陽のようでどんな場所でも中心にいるような人気者の兄さんと、そんな兄さんに恋をする、乱暴者で愛想のないとびきり美人の妹がいる。その家族には、大して美しくはないが賢く愛嬌のある「さくら」が、幸せの象徴として飼われている。
太陽のような兄さんと僕はいつも一緒にいて、可愛い妹の誕生を喜んだり、両親の仲睦まじさに目を合わせたり、互いの初体験やなんやかやを語り合ったりしたのだが、そこには僕の、兄さんに対する絶対的な信頼と羨望があった。
世界で2番目か3番目に美しい妹は生まれながらに兄さんしか見えなくて、父さんも母さんも当然ながら太陽の恵みを毎日受けていた。
兄さんの事故と後遺症と、それらに苦しめられた末の自殺によって、家族の笑顔は奪われたのだが、「さくら」だけは変わらずボールを追いかけたわしと戯れる。
変わり果てた家族が、また少しずつ共に歩き始められるまでの希望を感じさせる物語だ。
いくつも心に残る場面があるのだが、
三兄弟が両親のセックスの声を聞いてしまった翌朝、ミキ(妹)が勇敢にも「何やってたの?」と聞いた時の母さんの回答は、我が子に同じことを尋ねられた時に真似しようと思ったし、
父さんが「不幸」に耐えきれずに出て行ってしまった時に、主人公が、我が家の幸せを支えていたものがは兄さんの笑顔や母さんの歌声なんかの「燦々と降り注ぐ夏の太陽みたいな暖かさ」ではなくて、父さんがチェスを楽しむ音やメガネを拭く音なんかの「秋口の遠慮がちな太陽みたいなそれ」だったと悟るところなんかは、あぁそうだよ、幸せは、慶びは、静かにそこにあるものなんだよ、なんて思ってしまった。
それから、人生について。兄さんや主人公が、「ボール」を受けたり投げたりすることと自分の人生とを重ねていく中で、「さくら」は目の前にあるただ戯れずにはいられないものとして「ボール」と対峙する。面白い。
圧倒的なのは西さんがあとがきで書いていることだ。
「『何かを書くこととは?』ということを忘れることが出来るのは、何かを書いている間だけである」
意味なんてない。いや、あるのかも知れないけど必ずしも考えてその場で理解しようとしなくていい。
今ここに立って、没頭してみるんだ。
意味を知るとしたら、その後だ。 -
幸せな家族に不幸が訪れるのが辛い。文章が表現豊かで好みでした。普通に見える家族にもそれぞれ色々な苦労があるのかもしれないなと思いました。
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なんて温かい鬱小説なんだ……が読後すぐの感想。
『サラバ!』で西加奈子さんの文章にハマって『さくら』も読み始めた。共通して幼少期の表現がすごく瑞々しい。まるで昨日体験してきたことを書き出したみたい。
でも「温かいストーリーだなあ」とほっこりしていると、思春期あたりから徐々に不穏(この言葉は適切じゃないかもだけど)な表現が登場し、後半はどっぷり鬱小説だと感じるような展開。
いろんな触り方で心をゆさゆささせられた。 -
一つの夫婦から3人の子どもが産まれて、様々な…だけど割と普通な出来事が家族に沸き上がる。
犬のさくらは、時々起こる?騒動に悩んだり喜んだりする家族を近くでそっと見てきた。
我が家にも老犬がいる。さくらみたいに、近くでそっと見てる感じがする。
見守るほど高い目線でも大きな態度でもなく、さくらみたいに我が家のワンコが見ていてくれるのは嬉しい。
さくらも我が家のワンコも長生きしてずっと私たちを見ていてほしいな。 -
娘に同じ名前の本だよ、でもこっちは犬の名前だってと言うと、やだーパンダが良かった!でもパンダだとサクサクとかになるねって。
家族のあり方、いつ襲ってくるか分からない不幸、人間の弱さを考えさせられました。 -
西加奈子らしさが前面に出た作品だと思います。
歪んだ中でも安定感とか、おかしな明るさとか、感動とかじゃないけど思わず泣きそうになる、というか泣いてしまう。
またさくらがね、そこをさらに刺激してくるんですよ。
同じ内容とか題材でも、やっぱり西さんのこの文体じゃないと伝わらないものがあるなぁと思います。
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装幀がシンプルでノスタルジック!思わず引寄せられた本書は、長谷川家の次男坊・薫(かおる)が語る、どこにでもありそうなホームドラマのようで、じつはかなり異色づくめの家族の物語です。一家のヒーロ-的存在の兄・一(はじめ)、美人ながら喧嘩っ早い妹・ミキ、この三兄妹の生みの親・おしどり風の夫婦、そして老犬・サクラが織りなす五人と一匹の家族模様は、恋愛、嫉妬、ジェンダー、生と死にまつわる問題を絡ませた息の抜けない展開ながら、嫌みのないからりとした文体で、最後まで惹きつける著者の若き才能に驚かされました。
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"大人になるというのは、一人で眠ることじゃなくて、眠れない夜を過ごすことなんだ。"