さくら (小学館文庫)

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094082272

感想・レビュー・書評

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  • 昔、実家で犬を飼っていた。
    母親が動物嫌いで、ずっと外飼いだった。
    一度、その犬が逃げてしまって、不安で、寂しくて、悲しくて、何をしていても落ち着かなかった。
    シロ、今どこにいるのかな。
    そんなことを思いながら、「ちょっとトイレに」と、廊下を通ったその時!
    なんと!
    シロが!
    窓の外、座って、尻尾を振って、こちらを見つめているではないか!
    おかえり、シロ…!
    帰ってきてくれてありがとう。
    シロが亡くなってからも、他の犬を飼ったけれど、やっぱり死に立ち会うのはしんどくて。あまりにも犬の死を悲しむわたしに、近所の人が「子犬が産まれたんだけど、どう?」と訪ねてきたのを、家族がこっそり「あの子が悲しむのを見ていられないの」と、そっと断った。部屋から出て階段を降りようとした時、思いがけず聞いてしまった。
    それ以来、わたしはペットを飼っていない。今でもやはり、失った悲しみの方を先に考えてしまって、ペットを飼うことには躊躇いがある。

    長谷川家に迎えられたサクラは、家族みんなから、愛されている。
    ヒーローでイケメンの兄ちゃん、誰もが振り返る美人で、ぶっとんだ行動をする妹のミキ、その真ん中に挟まれた次男坊の僕、薫。どんどん太っていく母と、どんどん細く小さくなっていく父、そして愛犬のサクラ。
    サクラは、彼らに、猛烈に愛されている。
    家族はとにかく幸せだった。この幸せがずっと続くものだと思っていた。

    ああ、神様。
    神様が投げるボールはもともと決まっているのでしょうか。
    あの時、あんなことをしなければ、ここで変化球を投げてくることなんてなかったのでしょうか。
    それとも、もとからこのタイミングで、変化球を投げるつもりだったのでしょうか。
    もしくは、いつだって投げるボールは直球で、それをわたしたちが、時に変化球のように感じてしまうだけなのでしょうか。
    そして、一番教えてほしいのは。
    なぜ、その「変化球もどき」は、こんなにも幸せな家族を直撃したのでしょうか。

    西加奈子さんの作品は、人間の醜い部分も、美しい部分も、全てを丸ごと包み込んでくれる。そして、この作品の中で、その役割を果たしているのが、愛犬のサクラだ。サクラにとっては、神様から投げられるボールは、直球も変化球も、全て軽やかに跳ねるおもちゃ。そんなサクラと共に、家族は年を越す。

    生きているとたくさんの幸せも悲しみもあるってこととか、遺伝子レベルで刻み込まれた人との違いとか、それを打ち明ける人がいることといないこととか、好きな人に好きだよって伝えることの大切さとか、そういうことをぎゅうーーっと詰め込んで、全部包み込んでくれる。そんな、とてつもない愛にあふれた一作。

    2020年秋、映画化されます。

  • 「サラバ!」に続き西加奈子さん2冊目。

    「サラバ!」が好き過ぎたので、いつものように期待しつつ読み始めたが、もうはじめから最後までたまらなかった。まだ2作目だが西加奈子さん節がとても好きだ。彼女の比喩表現が素敵すぎる。芸術的で情景が浮かびやすく、この世界観に入り込める。

    途中までは笑いあり、のほほんとしていて、あぁ好きだわこの感じ〜素敵な家族 ♪とルンルンしていたら、突然雲行きが怪しくなり一気に台風がやってきた…。

    何せ人物描写がとても豊かなので、どの登場人物にも感情移入できる。お兄ちゃんのあの一言、辛過ぎた…。自分だったら同じ道を辿るのか。
    そして家族みんな一人一人の心情。自分だったら?をすごく考えた。
    サクラを含め、家族全員が主人公のような深さ、濃さ。

    何というか全部を通して「サラバ!」同様、魂が揺さぶられて、まるで自分もこの家族の一員となったようだった。

    (ありきたりだが)今目の前にある幸せを、一日一日大事にしたい、そう思った。明日自分が、大事な家族がどうなるかなんて誰にもわからない。
    「サラバ!」もだったが、今私が述べたようなありきたりな感想でなくて(自分で書いたくせに)、もっと『人生とは』的な大きな何かを伝えてくれている気がする。

    そしてサクラ。愛おしいな。賃貸の我が家では現状お迎えしたくても我慢しているが、この本を読んで益々チャンスが来たらぜひお迎えしたいなと思った。

    とにかく良かった!!(語彙力…)

    西加奈子さん、他の作品を読むのが今から楽しみ!素敵な作家さん。

    出会えて良かった作品です。またサクラとみんなに会いに戻ってきたい。

  • 主人公の僕と、ヒーローだった兄ちゃん。美人の妹。自慢の母さんと父さん。お喋りな犬のサクラ。

    「ヒーローだった兄ちゃんは二十歳四か月で死んだ」あらすじのこの一文で購入を決めました。初、西先生である。

    自分でも他人でもない人、それが家族。理解できないことも多々あるけれど、喧嘩しても一緒に住んでなくてもずっと家族。その事実がたまらなく嫌になる時もある。そしてその後、たまらなく愛おしく思う時もきっとくる。家族って不思議だなぁ。

    何気ない日常にも複雑な想いや経験があって、上手くいかない時は何しても上手くいかないし、誰にも打ち明けられない悩みに眠れない夜を過ごしたり、ある日突然きょうだい児になったり。人生何があるか分からない。

    兄ちゃんは最初から最後まで神様へのボールを真正面から投げ切ったのかな。
    「ギブアップ」苦しすぎた。

    うちにも若い犬が何匹かいる。
    後悔しないように毎日声を聞いてあげようと思う。

    家族が改めて大好きになる本!
    最後の父さんかっこよかったー!
    サクラも死んだ兄ちゃんもずっと家族!!!

  • 犬ころが家族の鎹(かすがい)になっているの、わかるな。
    もの言わぬが語りかける瞳で、そこにいてみんなを癒してくれる。すきに放っておかれ後回しにされがちな存在なのにね。家族と、すべてを受けとめることと、そして、戻らない日々の愛おしさを、さくら色にみずみずしく味わえた作品。

    「~みたいな」という直喩がたくさんあって、どれもしっくりくる素敵な喩えで、読んでいて気持ちよかった。直喩の多使用は故意にかな。子どもは直喩で世界を表現しがち。この表現の初々しさが、これまた「さくら」というタイトルと相まって春っぽかった。今、この桜の開花前に、読んでよかった。

  • 「窓の魚」が合わなかった西加奈子さんに再挑戦。うん、前作で諦めないでよかった!まったく印象がちがう。すごくよかった。

    登場人物ひとりひとり(+1匹)が生き生きとしていて、まるで家族の日常をお隣さんとして内から外から覗いているようで、読んでいるうちに長谷川一家が愛おしくてたまらなくなった。
    お兄さんが亡くなることがはじめから明かされているから、前半の愛に溢れた家族の情景がすごくまぶしくて、壊れて欲しくないと願ってしまう。
    そしてその分、後半はすごく苦しい。。それぞれにもがく家族の姿が、辛かった。でも、最後のミキの言葉。「生まれてきてくれて、ありがとう」。これが全て。たとえ姿かたちが変わってしまっても、マイノリティでも、この世界からいなくなってしまっても。
    夫婦、親子、兄妹、恋人。強く結びついているようでいて、その関係は脆い。でも、掛け値なく、まさに「美しく貴い」ものだとあらためて思わせてくれた。
    号泣しました。家族ができた今、読んでよかった。

  • 再読。
    こんなにも素晴らしい本だったかと感動。
    美しく明るい母さん、働き者で宇宙一幸せな父さん、太陽みたいに中心にいるヒーローの兄ちゃん、美しい妹、賢い女の子の犬サクラ。
    そして主人公の平凡な僕、薫。
    幸せで、愛に溢れていて、笑い声の絶えない家族。
    しかし、一人欠けたことにより、崩壊していく。

    公園に出没していた、みんなに恐れられていた男「フェラーリ」。
    自分達とは違う世界にすんでいると思ってた。
    それなのに、まさか自分がフェラーリ側の人間になるなんて思ってもみなかった。
    という兄ちゃんの言葉。
    妹ミキのイビツな恋。
    一度は崩壊した家族が、サクラの存在に助けられ、再生していく。
    心に響きすぎて、号泣してしまった。
    本当に素晴らしい作品です。

  •  きっかけ
     
     すこし調子が悪いときに、試験の同期が、
    「すごく悲しくて幸せな本」と紹介してくれたのがこの本でした。

    構成、の代わりに物語の彩り
     僕、さくら、お母さん、おとうさん、彼女、ミキ、ばあちゃん、
    おじいさん、フェラーリ、望月君、難関、湯川さん、パラボラ猫、
    おばさん、妖怪、矢嶋さん、サキコさん、ゲンカン、薫さん、警察
    官(ぬけていたらすいません)


    印象に残った文章、せりふ
     ぼくは貯金が出来ない。
     女の子はいつか赤ちゃんを産むけど、きっとこの子は小さいか
    ら、桜の花びらを産んだんよ。

    「ああこの人の前で、思い切り餃子が食べられるような関係
    になりたい」

     「ミキ、生まれてきてくれて、有難う。」
    大人になるというのは、ひとりで眠ることじゃなくて、眠れない
    夜を過ごすことなんだ。

     「嘘をつく時は、あんたらも、愛のある嘘をつきなさい。」

     「薫さん黒帯やで。」

     兄ちゃんが食べ残したごはんを食べるように、母さんは
    少しずつ太りだした。

     さく、さく、さく、さく

     「この体で、また年を超すのが辛いです。 ギブアップ」

     「あんたらが三人揃ってたら、それだけで笑えんのよ。」

     「病院なんかなんぼでもある。」

     「あのランドセルは、捨てたぞ。」

    • 79kaさん
      SSSさんのレビューを見て、読んでみたくなりました。今度探してみます。ありがとうございました!
      SSSさんのレビューを見て、読んでみたくなりました。今度探してみます。ありがとうございました!
      2010/06/21
  • ⚫︎受け取ったメッセージ
    生きるとは傷を負い続けること。
    だが人生は傷ばかりではない。
    素晴らしいことを人と共有し、
    幸せを膨らませることだって
    生きていればできる。


    ※以下ネタバレ※

    (あらすじ)
    絵に描いたような素晴らしい兄、美しい妹。その2人に挟まれた弟である主人公。三人兄弟妹、それぞれの生きる苦しみ、重さ、美しさ…

    兄には好きな人がいた。妹はずっと兄が好きだった。妹は邪魔をした。自分の心を隠して。兄は事故に遭い、元の兄ではなくなった。兄は自殺した。妹は主人公に全てを告白する。父はそれを聞いていた。

    最後はさくらを助けるため、家族4人全員が必死になり、つながる。

    ⚫︎感想
    タイトルの愛犬の名前「さくら」からは想像できない波瀾万丈の家族の物語。「さくら」で繋がる家族。彼女はいつでも家族に寄り添い、見守っている。苦しみ、悲しみ、一人では背負いきれない記憶、それらを抱きながら、それでも生きていけるのは、一人じゃないからではないかな。人は他人を傷つけなながら、傷つけられて、それでも時間と他人に癒してもらって生きていくしかないし、生きていく。

  • 西加奈子さんの作品にはリアルがある。
    隣の家で起きているような、ごく親しい友人に起きているような、何年かに一度会うか会わないかの親戚に実は起きているような、だけど私は死ぬまで知らずに終わるかもしれない、そんなリアルがある。登場人物はとても変わっていて、だけどどんどん読んでいくと、変わっているのは私の方かもしれないと思ってしまうほど、彼らは自然でまっすぐで素直なんだ。

    主人公の薫には、宇宙一幸せな父さんと、美しく明るい母さん、太陽のようでどんな場所でも中心にいるような人気者の兄さんと、そんな兄さんに恋をする、乱暴者で愛想のないとびきり美人の妹がいる。その家族には、大して美しくはないが賢く愛嬌のある「さくら」が、幸せの象徴として飼われている。

    太陽のような兄さんと僕はいつも一緒にいて、可愛い妹の誕生を喜んだり、両親の仲睦まじさに目を合わせたり、互いの初体験やなんやかやを語り合ったりしたのだが、そこには僕の、兄さんに対する絶対的な信頼と羨望があった。
    世界で2番目か3番目に美しい妹は生まれながらに兄さんしか見えなくて、父さんも母さんも当然ながら太陽の恵みを毎日受けていた。

    兄さんの事故と後遺症と、それらに苦しめられた末の自殺によって、家族の笑顔は奪われたのだが、「さくら」だけは変わらずボールを追いかけたわしと戯れる。
    変わり果てた家族が、また少しずつ共に歩き始められるまでの希望を感じさせる物語だ。

    いくつも心に残る場面があるのだが、
    三兄弟が両親のセックスの声を聞いてしまった翌朝、ミキ(妹)が勇敢にも「何やってたの?」と聞いた時の母さんの回答は、我が子に同じことを尋ねられた時に真似しようと思ったし、
    父さんが「不幸」に耐えきれずに出て行ってしまった時に、主人公が、我が家の幸せを支えていたものがは兄さんの笑顔や母さんの歌声なんかの「燦々と降り注ぐ夏の太陽みたいな暖かさ」ではなくて、父さんがチェスを楽しむ音やメガネを拭く音なんかの「秋口の遠慮がちな太陽みたいなそれ」だったと悟るところなんかは、あぁそうだよ、幸せは、慶びは、静かにそこにあるものなんだよ、なんて思ってしまった。
    それから、人生について。兄さんや主人公が、「ボール」を受けたり投げたりすることと自分の人生とを重ねていく中で、「さくら」は目の前にあるただ戯れずにはいられないものとして「ボール」と対峙する。面白い。

    圧倒的なのは西さんがあとがきで書いていることだ。
    「『何かを書くこととは?』ということを忘れることが出来るのは、何かを書いている間だけである」

    意味なんてない。いや、あるのかも知れないけど必ずしも考えてその場で理解しようとしなくていい。
    今ここに立って、没頭してみるんだ。
    意味を知るとしたら、その後だ。

  • なんて温かい鬱小説なんだ……が読後すぐの感想。

    『サラバ!』で西加奈子さんの文章にハマって『さくら』も読み始めた。共通して幼少期の表現がすごく瑞々しい。まるで昨日体験してきたことを書き出したみたい。

    でも「温かいストーリーだなあ」とほっこりしていると、思春期あたりから徐々に不穏(この言葉は適切じゃないかもだけど)な表現が登場し、後半はどっぷり鬱小説だと感じるような展開。

    いろんな触り方で心をゆさゆささせられた。

著者プロフィール

1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年『あおい』で、デビュー。07年『通天閣』で「織田作之助賞」、13年『ふくわらい』で「河合隼雄賞」を、15年『サラバ!』で「直木賞」を受賞した。その他著書に、『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『まく子』『i』などがある。23年に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題となった。

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