日米開戦の真実 (小学館文庫 さ 11-1)

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (436ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094085860

作品紹介・あらすじ

歴史に学び、21世紀の日本の道を探る

ポスト冷戦後の世界は、帝国主義時代に近い構造を持っている。
このような世界で日本が生き残っていくには、どうすればいいのだろうか。
北方四島、尖閣諸島問題を見れば、最近、日本外交が「八方塞がり」に陥っていることは新聞や雑誌の論評を読めばよくわかる。日本外交の歯車が狂い始めているのだ。こんなときに、安直な対症療法ではかえって事態を複雑にし、病状をより深刻にする。いまこそ腰を落ち着けて、歴史に学ぶことが重要だ。歴史は繰り返すのである。
1941年当時、日本が対米戦争に踏み切らざるを得なかった。急速に発展するアメリカという帝国主義国と妥協はできなかなかった。妥協をすれば、日本はアメリカの保護国、準植民地になる運命を免れなかった。
NHkラジオの連続講演をもとに1942年1月に出版された、大川周明の『米英東亜侵略史』は、アメリカの対日政策の分析において、客観的および実証的なものだった。
過去の歴史から学び、現下日本国家そして日本人か抱える外交政策の困難な問題を克服する緒が得られるとの考えから、佐藤優が『米英東亜侵略史』を丁寧に読み解き、21世紀の日本の方向性を示唆している。

感想・レビュー・書評

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  • 1941年12月の開戦直後、政府は戦争の目的と経緯を大川周明によるNHKラジオの12回の連続講演で説明した。それは速記によって記録され、『米英東亜侵略史』として上梓されベストセラーになった。その全文とテキストを他の思想家と比較検討しながら読解していく。様々な視点があるが、日本の外交の閉塞状態をいかに打破するかが本書の書かれた意図である。忘れ去られた大川周明という思想家の思想への最良の入門書であり、自虐史観という呪縛を解き放つものでもあるが決して右翼的内容ではない。良書。戦前の知的水準の高さに驚いた。


    大川周明(1886-1957) 思想家。極東国際軍事裁判でA級戦犯として起訴されるが精神障害を疑われ不起訴となった。佐藤氏によると日本を「教育」する場で逆に英米の悪事を暴かれるのを怖れたためだという。「米国東亜侵略史」ではペリー来航から始め、日本がアメリカと戦争することになった経緯を語る。また「英国東亜侵略史」ではイギリスの植民地政策、インド植民地化と中国の半植民地化への過程を述べ、日本の戦争の大義名分は中国、インドの解放にあると訴える。世界史的読み物としても興味く読めた。

    戦前の国民は軍部に騙されていたというのは戦後アメリカによって作られた神話だったらしい。戦争に至る経緯と目的を国民に向けてきちんと説明しているからである。また開戦当時の政府はなるべくアメリカとの戦争は回避しようとしたが追い詰められやむを得ず開戦になったというのが真実のようだ。実践はなかなか難しいが与えられた情報を鵜呑みにするのでなく自分でも広く情報を集めることの大切さを改めて知った。

    現在は第二次大戦前の帝国主義時代へ逆行しているらしい。哲学的にはキリスト教型の普遍主義から脱却し、ライプニッツのモナド型の並列主義に移行しなければ様々な問題の根本的な解決は難しいということらしい。グローバリスム、イスラムのテロ、パレスチナ問題などもそうなのだろう。

  • 大川周明が思想家であることは知っていたが、こんなに論理的かつ説得力ある論法で発信していた人だったとは知らなかった。また佐藤優の著書もこれまでに何冊か読んできたが、この本が最も面白いと思った。「米英東亜侵略史」へのフォーカスのしかたも鋭いし、大川周明の考え方への理解、説明もとても解りやすい。それでいて100%賛成という訳でもなく、現時点での日本の取るべき策について語るところは素晴らしい。できることならこういう人に国のリーダーになって欲しいと思う。
    3冊続けて同じ系統の本を読んだが、戦勝国史観、東京裁判史観はやはり改訂されるべきだと思う。学校教育がこの論調で行われている限り、日本は善意の人のままだろう。他国がどう言おうと、日本としてはこういう考えなのだ、という主張をしてもいいと思う。



  • 小学館文庫 佐藤優 「 大川周明 米英東亜侵略史 を読む 」


    米英の侵略史から日米戦争の大義や必然性を論じた本。


    正論もあるが、正当性を感じないのは 戦争により 正当性を証明しようとしたから?


    米英と日本のアジア侵略の違いを説いているが、三国同盟と日中戦争の時点で アジア解放の大義は崩れ、米英も日本も 帝国主義の本質(自己の利益極大化のための戦争)は 同じかなと思う



    大川周明の大東亜共栄圏や世界最終戦の構想は、世界制覇を意図しておらず「世界最終戦のあと、東洋と西洋を棲み分け、それぞれの小世界が発展した上で 交流する」というものらしい。世界最終戦の元ネタとなった ロシア思想家ウラジミール ソロヴィヨフ 「三つの会話」は 読んでみたい

  • 戦争の是非はその当時の世界の考え方、自国の考え方で判断しなければならない。今の価値観で是非を論じても仕方がない?

  • 2020/11/14
    佐藤優のナビが無かったらおそらく触れることはなかったであろう大川周明のその的確な歴史認識には正直驚いてしまった。
    しかし西洋に対抗するという大義が、アジア周辺他国にとってのお節介・余計なお世話ではないのかという視点を無視できたのも、それまで対外的な敗戦を経験していなかったせいか。
    そして日本の社会も敗戦を想定していなかったからこそ、自分たちの日常とは別の世界での出来事であった戦争とその身勝手な大義を容認していたというべきか。
    どちらにせよどんな立ち位置であってもきちんとした人はいるし、そうではない人もいる。右か左かという単純な図式が如何に空しいかを思い知らされる。
    また北畠親房の自己を絶対化せず、多様性・多元性を受け入れるべきという言葉も今の世こそ再認識すべき大切なことを教えてくれている。

  • "第二次世界大戦時の思想家を振り返り、現在の国際情勢も見据える。
    この域に達するには、相当の学習が必要だ。
    こうした書物を読みこみ、物事の思考方法を学ぶこと。"

  • 大川周明のラジオ講演に基づいて刊行された『米英東亜侵略史』の本文と、著者の解説で構成されています。

    「日本を戦争へと導こうとする指導者に国民は騙されていた」という、戦後アメリカによって広められた見方を批判し、帝国主義国家どうしが衝突する当時の世界情勢のありようを、大川が冷静に見抜いていたことを明らかにしようとしています。その一方で著者は、当時の思想家たちの喧伝した「東亜共同体」の理念や、マルクス主義の立場に立つ哲学者の廣松渉も晩年にその可能性を積極的に語っていた「東アジア主義」という発想に対して、リアリズムの観点から鋭い批判を提起します。

    日米開戦にいたるまで、両国の国民の心情がどのような歴史をたどっていったのかということは、猪瀬直樹の『黒船の世紀―ガイアツと日米未来戦記』(文春文庫)が詳細に論じています。本書でもこれとおなじような認識が共有されてはいるのですが、大川の文明論的な枠組みのなかで話が進められているので、少し議論が大雑把ではないかという印象をいだいてしまいます。

    もっともこれは、わたくし自身が文明史的な議論の仕方に対してそもそもほとんど信用を置いていないことによります。

  • [もう1つの「日本の」物語]1941年の真珠湾攻撃の直後から放送されたラジオ講演を土台として大川周明が著した『米英東亜侵略史』。この作品を基に、当時の日米が抱いていた世界観の違い、そして右翼の大立て者という印象の強い大川周明の思想体系に迫った作品です。著者は、本書が自身初めての第三者ノンフィクションということもあり、書き進める上で苦労をしたと語る佐藤優。


    『米英東亜侵略史』の全文が、細かな脚注と共に引用されているため、取り上げられている作品をこの一冊で合わせて読み通すことができるという点が良い。大川周明の名前(そして東京裁判で東条英機の頭を叩いたこと)は知っていても、その歴史観や思想についてはほとんど無知だったのですが、今日に読んでも生々しく感じる帝国主義に対する批判的見方、世界がいくつかの小宇宙で成り立っているという見方を、1941年の時点で既に実証的に示していた点には驚かされました。

    〜筆者から見て、大川の言説で最も評価できるのはそのリアリズムだ。〜

    佐藤氏の筆力は相変わらずスゴい☆5つ

  • 大川は言う、
    「大東亜戦は、実に東洋の最高なる精神的価値及び文化的価値のための戦いである」
    と。
    本書は、大川の著書である「米英東亜侵略史」の全文を掲載しつつ、佐藤による解説がなされている。
    大川と言えば、東京裁判の法廷で東條元首相の禿頭を叩いた人物であることしか知らなかったが、その意外なほどの冷静かつ論理的な世界情勢の分析は、流石に当代随一の思想家であった事を感じさせる。精神状態の回復後も、その思想的影響力の大きさから、法廷に戻さなかった連合軍側の意図が見て取れる。
    また 、更に佐藤の元外交官僚ならではの、冷徹なまでの洞察力・分析力は、読んでいても同意しまくりだ。
    日清・日露戦争以後の世界を読み解くには必携の一冊である。

  • 大川周明の”米英東亜侵略史”の解説をしながら、現在との類似性をたどり、日本の針路への提言をしている作品。変貌したアメリカという帝国の普遍主義と最終的には、対立せざるを得なかった日本の宿命と大東亜共栄圏構想の道義的な矛盾と妥当性が、淡々と描かれています。最後の第4章では、著者の持論が展開されています。性悪説の必要性と、東アジア共同体構想の持つ幻想と危険性が、的確に指摘されている。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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