小説・震災後 (小学館文庫 ふ 18-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094087048

作品紹介・あらすじ

二〇一一年三月十一日、東日本大震災発生。多くの日本人がそうであるように、東京に住む平凡なサラリーマン・野田圭介の人生もまた一変した。原発事故、錯綜するデマ、希望を失い心の闇に囚われてゆく子供たち。そして、世間を震撼させる「ある事件」が、震災後の日本に総括を迫るかのごとく野田一家に降りかかる。傷ついた魂たちに再生の道はあるか。祖父・父・息子の三世代が紡ぐ「未来」についての物語-。『亡国のイージス』『終戦のローレライ』の人気作家が描く3・11後の人間賛歌。すべての日本人に捧げる必涙の現代長編。

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;福井氏は小説家。映画好きで、映画用シナリオを書いていたのが小説執筆の契機。大学中退後、働きながら小説を書き始めました。「川の深さは」が話題となる。「Twelve Y.O.」で江戸川乱歩賞、「終戦のローレライ」で吉川英治文学新人賞、「亡国のイージス」で大薮春彦賞などを受賞。「福井氏は、究極の状況を作り出し、そこにおける“人間”のあり方を浮かび上がらせるという手法を多く用いてきた作家」と言われています。
    2.本書;東日本大震災(マグニチュード9.0・最大震度7・死者15,900人という戦後最大の大地震)での大津波と福島第一原発の事故をモデルに書かれた作品。震災後の日本人の狼狽と不安を描き、未来に向けた問題・課題を提起。主人公である野田と父親の言葉の重み、息子の未来への期待が心に浸透します。福井氏は「今まで自分が書いた作品の中で、一番読んでもらいたい大事な本」と言っています。
    3.個別感想(心に残った記述を3点に絞り込み、私の感想と共に記述);
    (1)「日本は現場力(前線・会議等の広い意味)の国だ。何としても危機を乗り切れ、法整備も含めて必要なものはすべて用意する。トップがそう言ってくれれば、現場は命に替えても不可能を可能にする。資源も信用もない敗戦国が、経済大国の仲間入りを出来たのも現場力のお陰だ。・・安定した社会では上の方から現場意識が失われてゆく。規定のルールに頼り、自己判断の責任を回避して、想定外の事態に対して腹を括るという事ができなくなってしまう。プロ意識の欠如だ」
    ●感想⇒組織は大きくなればなるほど、規則やルールを重んじます。人を一枚岩に束ねないと職務遂行出来ないと考えているからです。確かに、それは一理あります。しかし、ルールで対処困難な場合には現場の知恵が極めて重要です。上司も部下も、ルール通りに仕事をしていれば、楽に決まっています。人の上に立つ者は、いざという場合に、解決策を見出せない時は、現場を知り尽くしている者に任せ、責任はとるという度量が必要です。私は色々な上司に仕えてきました。事なかれ主義で責任を部下や同僚に転嫁する輩が多かった気がします。そうした中で、「事実を隠さずに説明してくれ。責任は俺がとる」という上司もいました。彼からは、組織人としての多くの知恵を学びました。
    (2)「日本に取り憑いた“闇”は、すでに次の局面に入っている。忘却だ。心に傷を負った事、その前後に感じた事を丸ごと忘れ去り、縮こまった精神を復元させようとする。回復に向けた重要なステップであるが、突きつけられた問題(地震大国で原発を運用するのはリスクが大きすぎる)も忘れてしまっては・・。犠牲から何も学ばなかった復興など無意味だ。もう一度、失われた未来を取り戻す為に」
    ●感想⇒嫌な事が起きると、“時が解決”とばかりに、問題の要因を突き詰めて、対策しようとしない人がいます。確かに、嫌な事は忘れる事も必要でしょう。“人の噂も七十五日”とばかりに、忘れ去り、また同じ過ちを犯す事もしばしばです。以前某社(製造業)を見学する機会がりました。正門を入ってすぐに品質棟という建屋があり、見せて貰いました。中は、“失敗に学ぶ”事例で埋め尽くされていました。製品品質の保証は、重要課題との事。震災に関しても、“個人への啓発と共に、後世まで語り継ぐ”取組みは、大変良い事です。忘却の一言で済ましては決してならないと思います。
    (3)「問題は、社会の仕組みが依然として成長を求め続けているという事です。・・経済成長する代わりに失業者が増え、一人一人の負担が大きくなり、格差が拡がるというのでは本末転倒もいいところです。幸福と繁栄という人類共通の目的に対して、今の仕組みはもはや最適とは言えない。・・仕組みを変えずにそこにこだわったら、日本は世界の中で置き去りになってしまう。・・それは未来じゃない。停滞の果てに訪れる黄昏、緩やかな自殺にも等しい」
    ●感想⇒社会は、どの分野でも成長する事を目標にしがちです。豊かな生活を目指しているからでしょう。企業は活動や決算数値・・など、前年・前回より向上したいと考え、切磋琢磨します。それを周囲が良否の判断基準としているので、止むを得ない面もあります。しかし、現在は地球温暖化や食糧危機等で、将来に疑問を投げ掛けられています。成長指向はある部分は認めざるを得ないと思うものの、行過ぎは子々孫々にまで、大きな負担(環境・借金等)を背負わせるのは自明の理です。先ずは幸福とは何かを考え直す事です。物心のバランスはいかに。それには、個々人の意識改革、良識・実行力のある政党・政治家選び等が重要でしょう。
    4.まとめ;「関東でマグニチュード7級地震が起こる確率は70%、東海に至っては80%以上。地震大国で、原発を運用するのはリスクが大きすぎる。今回の震災で得た、それが最大の教訓だ」とあります。東京電力の“福島第一原発廃炉への中長期ロードマップ”では、40年ですべての工程を終える事になっています。しかし、「40年廃炉は無理。100年、200年という長いスパンで考えるべきだ」 という専門家もいます。大量の放射性廃棄物の後始末は先送りされたまま。震災から11年経ちました。原発のあり方のさらなる検討と対策を願ってやみません。また、震災に向けては「なるようになる」ではなく、個人は出来る事(防災対策・避難訓練参加など)を確実にやるのが最低限の責務です。絶対神話はありません。本書の解説を書いた、石破茂氏の言葉「“人間は歴史に学ぶ”というのは嘘で、“人間は歴史に学ばない”というのが歴史の最大の教訓」は納得出来る名言。(以上)

  •  2011.3.11に発生し、未曾有の事態となった東日本大震災。本書は、同年6月から「週刊ポスト」で連載され、同10月に刊行された単行本「震災後」の文庫化とのこと。解説が、あの石破茂さんというのも凄いですね。

     読みながら、著者のリアルタイムでの正確な知識と状況把握に驚きながら、発災直後のことを思い起こしました。内容がとてもリアルで、敢えて「小説」と付けたタイトルの意味を考えてしまいます。重いイメージと共に、どんな伏線が仕込まれているのか等、想像力を掻き立てられました。

     東京で暮らす野田一家、特に祖父・父の姿と言葉を借りて発する、著者の熱いメッセージ性が強く、時間が経過した今となっては、くどい或いは説教くさいなどと揶揄されるかもしれません。
     しかし、震災直後の収拾のつかない混乱ぶり、政府・マスコミ・国民が右往左往し疑心暗鬼になり、相手に対する配慮の欠如が誤解を生み、誤解が嘘を招くという負のスパイラルが起きる描写は、生々しく色褪せずに甦ります。
     今振り返っても、人間の弱さ・愚かさを感じ、ここ3年ほどのコロナ禍にも教訓は生かされていないなと、つくづく感じます。

     被災地のボランティア経験は、野田の息子に自己有用感と共に、高揚感の反動としてボランティア・シンドロームの引き金になり、事件につながってしまうのでした。
     個人的には、特に野田家と被災者との関わりの場面には涙を誘われました。こうした、人との関わりの中で、進むべき道を見出そうとする物語に比重がもっと置かれていたら、より共感できたのかなと思います。
     それでも、祖父から父へ、そして父から息子へ、希望をつなぎ未来を示そうと、その方法を模索し伝えようとする姿勢そのものが、明日への道筋と受け止めました。

  • 読んでいるうちに、あの時の気持ちがよみがえる。
    やっぱり苦しくなる…。

    子供たちの未来と将来について、とても考えさせられた。
    親父と妻は芯が強くて、主人公のダメっぷりが際立つが、
    これが私自身も含めて、大多数なのかもしれない。

  • 小説に名を借りた「未来」へのメッセージ

    久々に福井さんの小説を読みました。
    「亡国のイージス」以来、福井作品はよく読んでいましたが、この作品にも、やっぱり脇役ながら出てくるんですね。市ヶ谷とか...そして、おじいちゃんがまた格好いい(笑)

    震災から3年たって、改めて、本作品で震災後を振り返ることができました。震災後、原発事故後の日本での行動の総括と、その後の未来を語る作品となっています。
    自分の子供、さらにはほかの子供たちにどんな「未来」を残せるのかを考えさせられました。

    主人公は平凡なサラリーマン。震災後の原発事故を含むさまざまな出来事がすべての人の希望を失わせていきます。そんなさなか、息子が起こしたネット上の事件。
    震災後の家族の不安、そして未来への不安の中、なぜか、主人公の父親がそっち系の重要人物だったりして、とてもミステリアス(笑)そんな格好いい父親との交流を通して、主人公が一歩踏み出し、そして、息子と向き合い、メッセージを託す、そんな感じの物語。
    エネルギー問題をどう解決するかも、本書の中では語られていますが、その解決策がどうこうというよりも、未来を見据えて、まずは、一歩を踏み出そうっというメッセージを強く感じました。

    「将来は放っておいても必ずその人のものになるけど、未来は必ずやってくるとは限らない。見よう、見せようとしなければ見れないし、手にも入らないもの…それが未来です」

    私たちは子供たちの未来に何を見せてあげらるのでしょうか?

  • うーん。説教臭い。


    とにかく主人公のセリフを借りて、著者のあつーーーーい思いが述べられていて、ちょっと疲れる。
    問題になった、「闇」っていうのにも、あんまり共感できなかった。
    だって仕方ないじゃない。それでも生きていくんだから。
    そうおもう私は、やっぱり「女」なのかなー。
    だからか、小説の根幹になる、問題に共感できず。
    家族間のトラブルにも共感できず。
    震災の話題はちょっとフレッシュすぎて、痛い。

  • 震災から1年経った今、是非読んでもらいたい作品。

    文章の中には、戦後社会の歴史と現状に対する深い洞察に溢れている。
    それを全肯定、というわけではないんだけど、全体としては鋭い洞察であると思うし、読者としても心に留めるべきだと思う。


    「『未来』の対になる言葉は、おそらく『将来』」。本文中のこういった言葉が、非常に印象に残った。

    最後に示されるものの具体的な内容は陳腐といえば陳腐だろうけど、現在の社会を深く分析し、「未来」を示すことの重要性も提示しているこの作品は、なるべく多くの人に読んで欲しいし、特に僕達若い世代には強く勧めたい。



    福井さん、文章が少し柔らかくなった?

    • hitomiさん
      とっても共感できる感想です。
      恐らくこの作品は、万人受けすることを前提に作られているため、
      福井さんとしては平易な文章なのでは、と私は思いま...
      とっても共感できる感想です。
      恐らくこの作品は、万人受けすることを前提に作られているため、
      福井さんとしては平易な文章なのでは、と私は思いました。
      もちろん「op.ローズダスト」などは非常に練られた文章になっていて、
      以前よりだいぶ読みやすくなったと感じましたけどね。
      2012/09/06
    • kさん
      >瞳さん
      コメントありがとうございます。遅くなってしまってすみません。

      素敵な感想をいただけて大変嬉しいです。あの文章、確かにそんな理由も...
      >瞳さん
      コメントありがとうございます。遅くなってしまってすみません。

      素敵な感想をいただけて大変嬉しいです。あの文章、確かにそんな理由もありそうですね。
      2012/10/03
  • 福井晴敏が描く震災後の小説。
    著者の作品は『動』が多いが、この作品は『静』の中に強く訴えるものがある。
    強い未来を演説する主人公には共感。

  • 東京に住む家族の話。違う時代を生きた息子父親祖父の三世代がそれぞれの苦悩が印象的。ただ、息子の悲劇の主人公感がちょっと痛い。当時の政府の対応、原発、放射能等の問題で不信感を与えたのは確かだが、、、

  • エンタテイメントではない。
    血沸き肉躍るような興奮も無ければ、スカッとする結末が待つわけでもない。

    “家族小説”と銘打たれてはいるが、これはむしろ……福井晴敏の思想表明本、とでも位置付けるのが正しいだろうな。

    彼の、いくつかの代表作すべてに共通する筆者からのメッセージが、本書はより強く感じられるから……。

    決して楽しく読めたわけではないし、筆者の主張に全面賛成なわけでもないけれど、読んで損はない一冊かと。

    ★4つ、7ポイント半。
    2015.04.08.古。

    “渥美”は、明らかに記憶にある“あの人物”だとして……、主人公の父も、設定的には(現役を退いて10年?)、例の代表作に登場していたのかしら??

  • 人類資金を書くに至った作品ではないだろうか?
    後世に何を残すのか?

    そんな難しく考えることはなくとも、我が子には幸せな世界を残したいという気持ちを持つのが普通の親ですね。

    私もその一人だと自負しますが、東日本大震災のあと、原発問題がさかんに議論されても電力不足で現在の生活レベルを下げることは無理だと諦めの境地に立ったのを思い出します。
    そんな中、自分一人の力ではどうすることもできないじゃないか?と簡単に割りきり喉元過ぎればという感じで、普通の生活に戻ってしまってる自分を戒めるきっかけとなりました。

    ちょうど娘が高校進学、息子が中学進学というタイミングで、この作品に出会えたのはきっともう少しちゃんと考えろと言われているような気もします。

    何ができるかはわからないが、きっと何かできる。そう信じて自分に出来る精一杯をやっていこうと思います。

  • 小説という場で自分の言いたいことを言っているので最後のほうはひたすら聞いているだけになるが、その主張の中で「未来と将来は違う。未来を考えるべき」というのには共感。世の中は成熟しきっていて、この15年ぐらいの激しい進歩は一般人レベルでは想像することができなくなってしまっているため、現状の負の面ばかりに焦点を当てげんなりさせることしか大人はしていない。プラスの面はなにひとつなく、高齢化や原発などシビアな局面をどうやって乗り切っていくか、ということしか語られない。そんなことばかりを聞かされながら大人になっていく今の子ども達はこの先をどうやって生きていくのだろうか。
    震災がきっかけではあるが、今まで考えたこともかいような、そんなことを考えさせられる。

  •  二〇一一年三月十一日、東日本大震災発生。多くの日本人がそうであるように、東京に住む平凡なサラリーマン・野田圭介の人生もまた一変した。原発事故、錯綜するデマ、希望を失い心の闇に囚われてゆく子供たち。そして、世間を震撼させる「ある事件」が、震災後の日本に総括を迫るかのごとく野田一家に降りかかる。傷ついた魂たちに再生の道はあるか。祖父・父・息子の三世代が紡ぐ「未来」についての物語―。『亡国のイージス』『終戦のローレライ』の人気作家が描く3・11後の人間賛歌。すべての日本人に捧げる必涙の現代長編。

  •  福井晴敏 著「小説・震災後」を読みました。

     東日本大震災後、東京に住む平凡なサラリーマンの家庭が舞台。原発事故を経て、希望を失い心の闇にとらわれてしまう息子。その息子に希望を取り戻すためにあがいていく家族。そして、祖父・父・息子の三世代が紡ぐ「未来の物語」が語られていく。

     フィクションでありつつも、そこに描かれている世界はまさに現実の世界、現実の家族であり、自分の家族や子供たちのことを考えずには読めませんでした。

     あの震災後、どの家庭でも今の生活のあり方やこれからのことをそれまで以上に考えずにはいられなかったと思います。

     そこに、未来や希望を見つけることは大変なことでした。

     しかし、作者が描くように、これからの世代の子供たちに前に進むべき未来を見せていくことが、今社会を支えている私たちには必要なのだと強く感じました。

     この小説で知った明るい未来を感じさせる新技術が現実のものとなることを一人の大人として期待したいです。

     自分の子供たちにもこれからの未来が思い描けるように自分自身の生き方を見つめていこうと思います。

     作者福井晴敏の熱い思いが描かれた小説でした。

  • 不勉強なものでこの小説に書かれていることがどこまでが現実なのかはわからない。
    しかし、ページを進ませるエネルギーは半端なかった。
    野田の最後の演説は福井さんの作品だなーと思わさせられるが読み切らせるだけの力があったように思う。

    あと、いつものことながら福井さんの作品は親父がかっこいい。
    そして女が強い。

    震災から少し時間がたち少しずつ忘れかけていた3.11あたりの記憶がよみがえった。
    また、時間がたったら読みたいとおもえる小説であった。
    次は自分の子が生まれたときにでも。

  • 出版社が違うからと油断していたら、ダイスシリーズとちょっとリンクしていたー!とても嬉しい。

    小説の中の震災の話がいまいち実感できなかった。
    地震当日は情報がほとんど入ってこない状況で徹夜で仕事していたし、原発の話も理解しようとしないまま毎日過ごしていたから。
    小説を読んで、非常事態だったんだと驚いた。

    息子に未来を示す主人公。
    それに共感できないのは自分がまだお子様の立場でしか物を考えられないからだろう。

  • 福井さんの小説は好きなので、ほとんど読んでいる。震災を題材にした小説という事で気合を入れて読み始めた。
    この本をこの時期に読んでおいて良かったと思う。
    早めに購入して置いてあったので、もう少し早く読めば良かったかもしれない。

    福井さんの作品だといつも舞台はどこか自分たちとは少しかけ離れた感じの事が多かったけれど、今回はごく普通の家庭のお父さん、野田が主人公だ。自分の父の仕事が元防衛省だったのが少し特殊ではあるけれど、しっかり者の妻と難しい年頃の息子、娘が登場する。

    自分が震災後どうだったか?そんな事を省みながら読み進めた。とても辛くなるような場面もある。
    読みながら、野田の家庭の動きを追いながら、自分はどう考えているんだろうと整理できる一冊でもあった。

    福井さんの小説には父と子についての事がたくさん出てくると思う。
    今回も仕事一筋に生き、野田に語り・託す父。
    そして野田がこれから息子へ見せたい未来。

    自然と人間の関わり、未来への思いなんかについてはこの本の前に読んだガンダムUCでも描かれていたのに繋がりそうだ。

    なんにせよ、野田の父はとてつもなく格好良かった。

    それと、亡国のイージスに出てくる人物がこの作品にも登場する。
    嬉しかった。もしや!と思いながら読んでいたけど、名刺もらう場面で思わずニヤついた。

  • 最初にハードカバーでこの本を見たとき、胸が震えた。
    文庫本になって、美しい装丁を手にしたとき、充分な重みを感じた。
    でも読み終えたいま、その短さが心惜しい。
    文庫本295ページの小説が、決して短いわけはないのだが、
    従来の福井作品と比べると短編のようにすら感じる。

    (短編集の「6ステイン」と比べたら長いはずなんだけど。
    ・・・とりあえず、今度また「6ステイン」も読もう 笑)

    短編に感じるほど、この作品は大変読みやすい。
    多くの人が関心を持たざるを得ないテーマをかかげ、
    多くの人の心に伝わる正確な言葉で、
    多くの人に共感を得やすいストーリーを語り、
    多くの人へ向けたメッセージでラストシーンは埋め尽くされる。

    正統的な小説だと思う。
    解説の言葉を借りれば、
    「世代間の断絶と理解」「公と私のあり方」「個と社会のあり方」がテーマ。
    まさしく、福井作品の特徴的なテーマが並ぶが、
    決して、使い回しの表現を感じさせない点にも、驚く。

    唯一、「男とは・・・」の語りは、おなじみの話。
    「生きること、働くこと、死ぬこと……。
    なんにでも意味を見つけ出さなきゃ気が済まない。
    見つからなきゃ、自分で作ってでもなにかに自分を賭けようとする。
    その点、女は自然体だよな」
    わたしは女で、確かにいろんな意味付けはしないわね、と思う。
    でも、すべてに意味を見出そうとするサガに惚れるのは、
    わたしが女だからなのかしら、と考え、
    ま、意味なんてどうでもいいわね、とただ文字を見つめてみる。

    『他人が他人に示せる善意には限度があり、
    それを踏み越えた先には個人生活の破綻が待っている。
    まだ社会のなんたるかを知らない少年には、
    そんな不文律も大人の欺瞞としか聞こえず、
    世界をまるごと救おうと突っ走ってしまうものなのか』

    これは中学生の息子を語った、父の言葉。
    福井氏が描く、若者と中年男性の関係性は見事なバランスと形だといつも思うが、
    今回は息子と父、そして祖父の三世代である。

    如月行、フリッツ、一功と朋希・・・
    いわゆる女性読者が惚れるスター(笑)の役割が、今回はこの息子かと思いきや、
    さすがにそこは中学生。
    もっとたくさん動いてくれればいいのに、と思ったりもしたが、
    もし彼が歴代のスター並みにかっこよくて、
    わたしが惚れちゃったりしたら、それはもう年齢差から言って、
    犯罪になりかねない 笑

    もちろん、中学生の息子によって、このストーリーは動き出したこと、
    未来の象徴として、重要な人物であることは明らか。
    さらりと、若者の特徴を香らせているところも、いい。
    惚れはしなかったけど、彼のことをとても好ましく思った。

    福井作品ファンとして、祖父には、いろんな人物の面影が重なる。
    あの小説のあの人の老後は、こんな感じかしら、と
    こんな感じだといいな、と願う。

    「日本人を日本人たらしめる感性は失われ、
    欧米的な合理精神のみが人を動かすようになる。
    それはつまり、わしのようなつまらん人間が増えるということだ。
    いつでも最善の対処方法を考え、切り捨てたものには見向きもしない。
    そうしなければ生き残れないという理屈で自分を正当化して、
    誰もが孤独の穴に落ちてゆく……」

    「これを最後の任務と思っとったが、結局なにもできなかった」

    ファンにとっては、しびれる台詞。
    この言葉だけで、いろんな背景をイメージできる。

    この作品だけを読む人間には、どんなふうに映るのか想像もつかないが、
    きっと深い人間性は、誰の目にも読み取れることだろう。

    そして無辜の民の代表である父。
    リアリティあふれる無辜の民が、
    自然で驚きの変貌をする点もすばらしい。
    成長物語ともいえる作品です。

  • あっという間の文庫化に、衝動買い。
    私的にガンダムucで、イマイチな評価になった福井晴敏評が復活!というぐらいに良かった。
    震災後の2011年を舞台に、日本人が持っている地震以降の不安の原因が、この著作に表現されている。
    あの日の日本政府のバタバタ感を冷静にインテリジェンスとして分析し表現されている。フィクションとは言えないぐらいに限りなくノンフィクションに近い。

    見どころは、
    ・家族でボランティアで気仙沼に行くシーン
    ・最後の主人公の演説シーン

  • 震災とその後を実体験した者の文章には思えないほどつまらんかった。
    今の自分には何を言いたいのか理解不明。
    もう暫くしたら、読みなおしてみよう。

  • 120509

  • 3.11の震災後の家族の闇と再生を描いたファミリィ小説。
    あの日から5年で,ちょうどよい日だったので読んでみた。
    若干の押し付けがましさがあるが,未来とは,将来とはを考えさせられる話。

  • 先の震災を題材にある家族を通して、人が生きることの意味を描いた小説。細かい部分では青臭く聞こえてしまう部分もあるけれど、描いているテーマはローレライと同じ。それは私自身、若かりし日に仕事の方向を決める時に考えたことと通じるものがあり、すんなりと受け入れられる。

  • 息子にどんな未来を残すのか、残してあげられるのか、そんなことを少し考えてみたいと思った一冊。取り扱っているテーマをみて何気無く手に取った一冊だったがなかなか良い本でした。

  • うーん、微妙。面白いテーマではないので、しょうがないけど、あまりに真正面過ぎる。でも、泣ける。

  • 小説の形を借りたメッセージっていう色合いが強い作品だった。

  • 為になった。社会や国において今後の個人の在り方など考えるきっかけになった。

  • 期待感バリバリで読み進めた前半・・・そして、いっきに失速した後半orz
    もっと丁寧に読めば響くものもあったのかもしれないけど、
    それを言えば、丁寧に読ませるだけのモノがなかったということで、演説を聴いていた子供達もそうなんじゃないかな?

    渥美さんが出て来た!ってところだけ興奮したわ。

  • 未曾有の被害をもたらした東日本大震災。

    あの日を境に、日本中を包んだ「闇」。
    主人公である野田の息子の心に巣食った闇を中心に話が進む。

    息子、父、祖父、それぞれの思い。葛藤。
    いろいろな気持ちを抱え、どうやって「震災後」を生きていくか。
    忘れてはいけない大惨事。でも、若い世代はこの「震災後」を生きていかなくてはならない。

    主人公野田が、息子に、子供達に話しかける。
    「こんなときだけど、そろそろ未来の話をしようか」

    前を向いて生きていくことの大切さを再認識しました。

  • 書いてることは否定しないけど、青くさく、説教くさい。セリフが全部説明ってどうよ。小説じゃなくてよし。

  • 311直後の疑心暗鬼な気持ちを想起させた一冊

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著者プロフィール

1968年東京都墨田区生まれ。98年『Twelve Y.O.』で第44回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。99年刊行の2作目『亡国のイージス』で第2回大藪春彦賞、第18回日本冒険小説協会大賞、第53回日本推理作家協会賞長編部門を受賞。2003年『終戦のローレライ』で第24回吉川英治文学新人賞、第21回日本冒険小説協会大賞を受賞。05年には原作を手がけた映画『ローレライ(原作:終戦のローレライ)』『戦国自衛隊1549(原案:半村良氏)』 『亡国のイージス』が相次いで公開され話題になる。他著に『川の深さは』『小説・震災後』『Op.ローズダスト』『機動戦士ガンダムUC』などがある。

「2015年 『人類資金(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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