出星前夜 (小学館文庫 い 25-6)

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  • Amazon.co.jp ・本 (714ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094087963

感想・レビュー・書評

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  • 706ページの大作は、繰り返しの多い筋運びも相まって、読み切るのに骨が折れた。
    歴史の教科書では数行で終わる「島原の乱」が、これほど凄惨なものだったとは。大作の過半が戦い以前に割かれ、為政者の出鱈目な圧政に虐げられた民衆の苦しみが限界に達していく様が描かれる。閾値を超えた民衆の苦しみは支配への抵抗へと向かうが、もたらされるのは救いでも解放でもなく、殺戮合戦による膨大な屍だった。
    それは私の受け取りであって、彼らにとって戦いの果の死は、救いや解放を意味するのだろうか。

  • 初めて作者の作品を読んだが、躍動感を感じられなかったことと、討伐軍・蜂起軍双方に感情移入できなかったことから、メインの島原の乱の攻防シーンが遅々として読み進まなかった。

    序盤の村での蜂起の場面までは同情し怒りを共感し没入できたが、寿安や鬼塚監物が暴徒化を自覚した段階で同時に熱が冷めてしまった。作者は蜂起側寄り(というより客観的な歴史分析として幕府の非を糾弾する意図だと思うが。)だったが私個人は松倉家以外の大名・家来にも同情を禁じ得ず、勿論根底には劣悪な環境改善の訴えがあるとはいえ、信仰を盾にして人を殺していく蜂起勢への身勝手さに怒りを覚えるほどだった。鬼塚監物はまだ理性的な人物として描かれているが本当の理性を持った人ならば頃合いを見て主犯の首と引き換えに女・子供の助命を条件とした講和をすべきではないか。

  • 島原の乱が起こった背景を丁寧に描く時代小説。乱の首謀者といわれている天草四郎を主とするのではなく、生活苦に悩む人々に焦点を当てて、物語は進んでいく。

    これを読むとキリスト教というより、悪政に苦しんだ結果、蜂起がおこったというのが正しい見方なのかも知れない。キリスト教を禁止するための名目にこの反乱が利用されたのだろう。

    本作は悲劇的な話だが、政治に翻弄される人民、反乱そのものを政治利用する政府(幕府)、騙される人民という構図は今も変わっていないのだろうと思う。

  • な、ながかった。。。。面白いんだけど、だんだん最後の方は流し読みになってしまった。とはいえ、色々なことを考えさせれられる1冊だった。

    島原の乱をベースに描かれた時代小説。
    松倉家への苛政に対する武装発起を様々な角度から描かれている。英雄が現れて、民衆とともに立ち上がる!というようなものではなく、そこにいる一人ひとりが主役になっている。

    解説より↓
    「殉教という響きに陶酔する危うさ。戦の寒々しい熱狂の後にやってくる虚無感。上を前にした時に現れる人間の本性。カリスマを崇める心の弱さ。統率を失った時、いとも簡単に崩れる個人の意思と自制。善の陰に潜む醜さ。特定の人間を崇めることなく、また特定の宗門や立場を支持するわけでもなく、ただ淡々と徹底的に、著者は個人に寄り添う。そして二万七千という数字が一人ひとりの顔を持った個人となって浮かび上がり、その生が限りなくいとおしいものだと気づかされる」

  • 島原の乱をテーマに描かれた作品。
    発端となったのは飢餓からくる伝染病で、藩の悪政に対抗してやがてキリシタンが立ち上がり武装蜂起となっていく。
    しかしこの作品の主人公は天草四郎ではなく、争いをなるべく止め、民を助けようとする青年寿安や庄屋の甚右衛門や医者の恵舟である。
    島原・長崎の男気あふれる人物たちの物語は読んでいてすがすがしい。
    ハッピーエンドとはならないが、心意気の強さは伝わる。

  • 寡作の人、飯島和一。漸く文庫化なったこの本、満を持して読み始める。
    しかし700頁余になる大部を一冊にされると寝っ転がって読んだり通勤で持ち運ぶのはちょっと大変。加えて仕事が忙しく読む時間が殆ど取れず、且つ重厚濃密丹念な文章はサクサク読み進めることは能わず、ひと月掛かって読了。
    「黄金旅風」の時から少し歳月が経ち、末次平左衛門が大政商として治める長崎から少し離れたところで起こった「島原の乱」の一部始終が、いつもながらの語り口で描かれていく。
    私の田舎は西彼杵のほうで長崎からはまた島原とは違う方角なのだけど、ここもまた遠藤周作が「沈黙」で描いたように隠れキリシタンの里であって、本書に描かれる地味に乏しい土地で過酷な労働に耐え信仰だけを支えに生きる人々の暮らし振りには、今でも残るそうした風情に何となく似たような風景を想像させられる。
    小学校の修学旅行では島原へも巡り、その事前勉強で「島原の乱」や原城のことも出てきた記憶があるのだけれど、覚えている天草四郎や乱のイメージとは全く異なる姿を、作者は淡々と提示する。
    文章の確かさ、戦の場面の精緻さ、サイドストーリーにも手抜きの無い語られ方は相変わらず期待通りも、誰にフォーカスを当てているのかも分り難く、何より殆ど救いの無いお話で、最後の寿安の話が星が出る前の希望の話になったのか、鬼塚監物や蜂起勢の名もなき人たちの死に様を見た時には、聊かの違和感を思う。

著者プロフィール

小説家。1952年山形県生まれ。1983年「プロミスト・ランド」で小説現代新人賞を受賞しデビュー。88年「汝ふたたび故郷へ帰れず」で文藝賞受賞。(上記の二作は小学館文庫版『汝ふたたび故郷へ帰れず』に収録)2008年に刊行した単行本『出星前夜』は、同年のキノベス1位と、第35回大佛次郎賞を受賞している。この他、94年『雷電本紀』、97年『神無き月十番目の夜』、2000年『始祖鳥記』、04年『黄金旅風』(いずれも小学館文庫)がある。寡作で知られるが、傑作揃いの作家として評価はきわめて高い。

「2013年 『STORY BOX 44』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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